シーン8-1/ドルフ村の後日談
クマモノとの死闘から数日が経過した。
クルトを守り、無事に薬草の採取も完了させた俺達は、村人さん達から多大な感謝を受けた。村医者さんによる治療もあって、クマモノから受けた怪我もすっかり完治している。
「……それにしても、大変な事件だったな……」
「そうねぇ。でもさ、終わってみれば、楽しい冒険だったと思わない?」
「んー、まあ、それは否定しない。ディーチェの出目芸人っぷりも極まってたしな」
「出目芸人じゃないもん、ダイスの女神だもん! 支援役の私よりダメージ低かったくせに何よ! そっちこそ出目芸人なんじゃないですかー!?」
「ででで出目芸人ちゃうわ!」
程度の低い口喧嘩を続けながら、冒険の荷物を確認していく。もう間もなく、俺達は青の王都に向けてドルフ村を発つ予定だ。恩人として村への定住も提案されたが、それは丁重にお断りしている。
「それにしても……チュートリアル山賊団にあんな過去があったなんてな」
「ええ。出会い方はまあ最悪だったけど、いい人達だったわね。今ならそう思うわ」
「……クルト、大丈夫かな」
「きっと大丈夫。クルトはもうエキストラじゃないんだし、魔物に立ち向かう勇気もあるんだもの」
「……そうだな」
背負い袋を担ぎ上げ、借りていた空き家を後にする俺とディーチェ。
旅立ちの前に村長さんの家に挨拶に向かえば、その庭先からは聞き覚えのある声が響いている。
「さんじゅうしち……さんじゅうはち……さんじゅうきゅう……よんじゅうっ!
や、やっと終わった……疲れたぁぁぁ……!」
上体起こしを終えて地面に倒れ込むのは、村長の孫、クルト・ドルフ・カーチス。
そして、汗だくで荒い息を繰り返す彼を見守りつつ、次の鍛錬メニューを話し合うゴツい男達が3人。
「ヘッヘッヘ。クルト、一旦休憩だ。水飲んで、しっかり汗を拭いておけよ。あまり身体を冷やしちゃならん」
「ヒッヒッヒ。流石はお頭さん。斥候騎士団の教官候補は伊達じゃないねぇ」
「フッフッフ。昔から教え上手のお頭さんだったもんなぁ」
「ヘッヘッヘ。よせやい、照れるじゃねぇか」
相変わらず仲の良い会話を繰り広げながら、クルトの鍛錬を監督する3人のゴツい男――チュートリアル山賊団のお頭さんと、手下さん達。
戦闘不能状態で気を失ったお頭さんは、帰りの遅い俺達を心配し駆けつけた若い衆によってドルフ村まで運ばれ、治療を受けてすっかりピンピンしている。
俺達と同じくクルトの命の恩人としてドルフ村への定住を提案された山賊団の3人はこれを快諾。今では自警団として、冒険者を志すクルトの師匠として、すっかり村に馴染んでいる。
「へへっ、わかったよ師匠! ……あ、ゼノの兄ちゃん、ディーチェの姉ちゃん!」
健康的な汗を拭いながら、猫耳をぴこぴこさせてクルトが近付いてくる。その後ろにはチュートリアル自警団の面々も一緒だ。
「よ、クルト。自警団の3人も。旅立つ前に、村長さんに挨拶しとこうと思ってな」
「随分と熱心に鍛えてるじゃない。根を詰め過ぎないように気を付けるのよ?」
「へへっ、大丈夫だよ! 無茶しても良い結果は付いてこないって、この間の事件で勉強したからさ!」
「ヘッヘッヘ。ま、そういうこった。ちゃんと俺達が監督しとくから、安心してくれよなぁ」
「へへっ、頼りにしてます師匠! でもそっか、いよいよ出発しちゃうのか……」
寂しそうな声で口にするクルトだが、その表情はすぐに明るい笑顔に変わる。
「……じゃあ兄ちゃん達の方が、冒険者の先輩になるんだな! 待っててくれよ。俺も立派な冒険者になって、きっと恩返しして見せるからさ」
「ふふっ、楽しみに待ってるわね!」
「ああ。お互い、絶対に立派な冒険者になろうな、クルト。自警団さん達も、どうか元気で」
「ヒッヒッヒ! おうさ!」
「フッフッフ! おうとも!」
「ヘッヘッヘ! おうともさ!」
「へへっ! おう!」
冒険の中で絆を結んだ彼らと交わす、握手と約束。また1つ、旅の理由が増えた。
そうして村長さんへの挨拶を済ませた俺とディーチェは、ドルフ村から新たな冒険へと出発したのだ。




