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ファンブル転生 ~未来の悪役、破滅回避を目指してTRPG世界を冒険する~  作者: イズミユキ
第2話/転生1年目、4の月(光の裏月)上旬/泣く子も笑う山賊団
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シーン3-1/この世界

 山道を抜けて歩く事、しばらく。進行方向の先に、いかにもファンタジーゲームのそれといった雰囲気の村が見えてきた。


「あれが目指してた村よね。名前はなんていうのかしら」

「ああ、地図の通りに進めたみたいだ。チュートリアル山賊団の話だと、"ドルフ村"っていうらしい」

「ふむふむ、ドルフ村ね。できれば早いとこ腰を落ち着けたいわ……転生直後から色々あったものねー」

「そうだな……とはいえ、村に泊めてもらうには交渉が必要かもしれない。

 旅先の村で、滞在させてもらう代わりに雑用を手伝うのがファンタジー系TRPGの定番だけど……交渉が発生するなら【知力】か【精神】辺りの判定か」

「公式が用意するサンプルシナリオとかにありそうよね。村のお手伝いシナリオ」


 そんな事を話しているうちに、ドルフ村の入口に辿り着く。取り敢えず村人に案内を頼んで、村長さんとお泊まり交渉の流れだろうか。

 そんな事を考えていると、少し離れた位置から俺達に声がかけられた。


「あ! もしかして、旅人さんかな?」


 声の方向に視線を向けると、1人の少年――10代半ばくらいの年齢だろうか――が小走りで駆け寄ってくるのが映る。その頭には猫っぽい獣耳が生えており、おそらくは見ての通り、猫の獣人族(じゅうじんぞく)だろう。

 正面に立った彼は、俺達の様子を確認し、小さく頷いてから話しかけてきた。


「やっぱり旅人さんだ。ようこそドルフ村へ!」


 少年の言葉を聞いて、小さく安堵の息を吐く。どうやらよそ者に厳しい雰囲気の村ではないようだ。いきなり白い目で見られるのは、セッションならともかく生身ではしんどいからな……。


「これはこれはご丁寧に。私はディーチェよ。ダイスの――じゃないや。星の曜神の加護を受けて、旅の魔法使いをやっているの」

「俺はゼノ・オルフェンロード。同じく旅の剣士だ」


 設定に忠実なディーチェの自己紹介と、特に設定など決めていない(そもそも厳密には自分のPCですらない)(ゼノ)の自己紹介。我ながら温度差が凄い……取っ付きにくい奴とか思われてないだろうか。


「……ちょっと。せっかくの自己紹介なんだから、もうちょっと愛想よく挨拶した方がいいでしょ」

「わかったよ、わかったから肘で押すな。

 こほん……どうやら俺は、大怪我をして記憶喪失になってしまったみたいで。名前の他には自分の事を思い出せないんだ。

 そこでディーチェと出会って、まあ色々とあって……本当に色々とあって……一緒に旅をしてる」


 自分が転生した経緯を大雑把にアレンジして語る。こういう時にすんなりキャラの設定を考えられるのは、生前にTRPGを遊んでいたおかげだろう。


「曜神様の加護を受けた魔法使いと、記憶喪失の剣士……格好良い……!」


 目を輝かせて俺達の自己紹介に聞き入る少年。10代半ばって、そういうのが好きな年頃だもんな……わかるよ。


「あ、俺はクルト・ドルフ・カーチス。名前の通り村長の孫だよ」

「村長さんの……実は俺達、今日の宿を探しているところで。ドルフ村で一泊させてもらえないかと思って立ち寄ったんだ。

 村長さんと交渉したいから、よかったら案内をお願いできないかな」

「うん、わかった。それじゃあ俺に付いてきてよ」


 親切な村長の孫に付き従い、ドルフ村へと足を踏み入れる。歩きながらざっと観察したところ、村民は人族と獣人族で構成されているようだ。

 井戸端での立ち話や畑での共同作業を見るに、種族同士の対立もない至って平穏な村という印象を受ける。

 さて、このまま何事もなく宿を借りられると助かるが……。



「おお、そういった事情でしたら、村の外れに丁度いい空き家があります。滞在費に関しても、村の手伝いを条件にお安く手配できるかと思いますよ」

「わぁ、ありがとう村長さん! ゼノ、今日はこの村でお世話になりましょう!」

「あ、ああ……そうだな。ありがとうございます、お世話になります」


 二つ返事での了承に肩透かしを食らった気分になりつつ、村長に滞在費を先払いし村外れへと向かう。

 件の空き家には外壁に植物の(つる)が絡んでいる部分もあるが、しっかりとした造りで、雨漏りなども特にないという。


「…………」

「ゼノ、どうかした? さっきから口数が少ないけど」

「んー、まあ……ちょっと考え事をな。一息入れて、夕飯の後にでも話すよ。

 せっかく今日の宿が見つかったんだ、まずはゆっくり落ち着こう」

「それもそうね。あー疲れた。お邪魔しまーす!

 あ、私こっちの部屋を使わせてもらうから! お互いの部屋を尋ねる時はノックと声掛けを徹底ね。間違ってもラッキースケベなイベントなんて起こさないわよ!」

「ラッキー? ……ふっ」

「鼻で笑われた!?」

「じゃあ俺は奥の部屋を使わせてもらうな。村の手伝いは明日の午前中に頼まれてるし、夕飯時……日が暮れるまでは自由時間で」


 ファンブル芸人がラッキーを語るとは笑わせてくれる。もしかしたら、転生の疲れを心配しての小粋な女神ジョークだった可能性も……いやないな。

 そんな事を考えながら、俺は自室へと引っ込んだのだった。


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