13 血の繋がり
何か情報はないかと、1人バッゲイア諸島に来たものの、予想以上の厳戒態勢に見つかりそうになってしまう。その時、彼女を救ったのはオルグだった。
結局料理が来るまでは、何か変な沈黙のまま過ぎてしまったんだけど。しまったな……出来るだけ多くの情報が欲しいのに。まぁ、この人だけじゃなく、他の場所にも行って情報を集めるのもありだけれど、あんまり時間をかけるわけにもいかないのに、PNDの部隊に見つかっているので時間がかかる。
だから結局、この人からある程度情報が欲しいところなんだ。ただ、軍人さんだからね。話せない事の方が多いだろう。昇級もしているだろうし、今はそれこそ、軍の重要な仕事をしている可能性だってある。
「お待たせいたしました〜ビッグチキンピラフです〜」
んで、どデカい鶏肉丸ごとがどっかりと乗った、少し赤っぽいピラフが僕の目の前に置かれた。
すいません、お腹空いてました。
「ふふ。ここまでの苦労が伺える」
「う、ぐ……」
目の前の人の事を考えず、メニュー見た瞬間に頼んじゃった。いや、まさかこんなデカい鶏肉が乗ってるとは思わなかった。食べるけどさ。
因みにオルグの方は、これまた以前よりも量の多いメニューで、スープと大きめのステーキが目の前に置かれている。
「そういう私も、ここ最近は頭ばかり使うからか、妙に空腹になりやすい。いや、朝が忙しいから抜いているのもあるが」
「朝は食べないと」
「その通りだな。全く。君はいい奥さんになれそうだな」
「んぐっ! 僕は男ですよ」
「あぁ、そうだった。どうも忘れがちになる。それほど、君が女性らしい仕草をするからだな」
「そうかなぁ?」
自分ではそうは思わないし、何なら女性ならこんなメニュー頼まないよ。クレナイなら頼みそうだけど。
何て、ちょっと会話がいい感じで弾みだした所で、オルグが本題を話し出す。
「それで、現状確認をしたい。君が答えられる所でいい。君は今、アルツェイトと関係があるか?」
何だか尋問みたいな気もするけれど、そういう事で聞いているのじゃないのは分かる。彼は気を使っているんだ。あまり余計な事を言わずに答えられるように、頷きと首を振るだけで回答出来るようにしている。
とりあえず今はアルツェイトとは関係ないので、首を振る。
それだけで、彼は安堵のため息をし、少し表情が明るくなった。
「では、今は何処かの国に身を寄せているか?」
それも首を振る。今度はちょっと表情曇ったな。
「何処かの部隊、もしくは団体等に所属しているのか?」
彼の中で、それがどの範囲までを指しているかにもよるんだよな。
傭兵とか、そういった所ではないけれど、漁り屋として動いてはいるし、顔も広くはないけれど、多少なりと認知されている集団ではある。
だから、ここは頷く。
「ふむ。PNDとの交戦は……」
そこは速攻で首を振った。
「なるほど。だいたい理解した。思ったほど、戦闘行為には関わっていないようで安心したよ」
「それは、PNDの部隊がアルツェイトに攻撃された事で?」
「あぁ。何せ君は、アルツェイトの軍でシナプスを狩り、様々な場所で戦闘をしている。つまり相手からすればシナプスも、アルツェイトの機体になる」
「あ〜そっか。もしかして、僕がPNDの部隊を攻撃したとでも思ってたの?」
「可能性としては、高くはないがあったな。だが、今の君の答えで、それは無いことが分かった」
それから、オルグはスープを何口か飲み、ステーキを一口食べると、次の話に入る。僕もその間に何口か食べたけれど、ちょっとこれ辛すぎたかも。水で口の中を冷まさないと……。
「君は今、何の為に単独で動いている? 危険だと思わなかったのか?」
「ん〜情報がね。不足してて。今世話になっている所は、孤児が多くてさ。戦争孤児ね。だから、きな臭い場所には居られないんだ。で、先の事件があるからさ、僕の存在で危険が来るかも知れないのと、アルツェイトの真意が知りたかったんだ」
「そうか。君は相変わらずか」
相変わらずというのも何だけれど、そうだね。僕は多分あんまり変わっていない。ただ、もう無闇に戦闘には参加しないし、戦争からも離れたい。
そうさせてはくれなさそうだけれど。
「なら、今の各国の状況でも教えておこうか。なに、それくらいなら情報漏洩にはならんよ。こちらの軍事状況までは言えんが」
「ありがとう。それだけでも助かるよ」
そしてオルグは、ここ2年間の各国の動きや事件、環境の変化等を話してくれた。
1つはやっぱり、どこの国もPNDによる軍縮が押し進められている事。もう、無理やりらしい。それによる反発も、例の天使の機体で有無を言わせずに沈黙させられている。
その天使の機体リッヒ・ヴァイツァーは、謎の動力を使い、かなり強力なビーム兵器を使っている。
現存するどの国の機体、そしてどの武装よりも遥かに優れている。現状、PNDに勝てる部隊はいないはずだった。
それが攻撃された。それだけでも由々しき事態という事になるね。
「これは聞いているかも知れないが、その攻撃された機体には、アルツェイトの国旗にも使われている国印があったんだ。ただ、その機体はハコ機を改良されたもので、ミルディアにも調査をしろと言ってきた。もちろん、こっちは完全に無罪だがな」
「なるほど……」
ここ2年で、アルツェイトもハコ機を使い始めたのかな? と言っても、開発されていたユニット機体の方が性能が良い。わざわざハコ機を選ぶ理由がない。
「アルツェイト側も、これには強く抗議というか、全くの事実無根である事を言っている」
「そりゃそうだろうね。今更ハコ機を使う理由もメリットもないよ」
「同じ見解だな。そうなると……」
「誰かが二国間の緊張を高め、再び戦争へと向かわせようとしている」
それにしてはずさんでお粗末なんだよなぁ。こういう事に慣れていない者の仕業? う〜ん。
「それも同じ見解に、両国とも至っている。ただ、中将からは『それならその証拠を見つけて見せてみろ』と言ってきているのだよ。だから、今私達は躍起になって調査しているわけだ。それはアルツェイトもそうだろう」
あぁ、そうか。だからオルグは僕と接触したのか。
もちろん、僕の行動が危険だった事もある。そんな緊張状態にあるとは知らなかったよ。つまり、今は無闇にシナプスを動かして探る状況じゃなかったんだ。それこそ、カモがネギ背負ってやってきたみたいな感じだ。アルツェイトから奪取された事になっているシナプスに、僕に全部の罪を擦り付ければ、何とか疑いからは逃れられるだろうからね。
「しばらく、この街からは出ない方が良い。というか、シナプスで動くのが良くない状況だ」
「うぐ……」
しっかし、こうも戦争をしたくて堪らないんだって感じがする、今のこの状態……なんだか、身に覚えがーー
【戦争を終わらせる、ですか。それは困りますね。安易に人殺しが出来ないではないですか】
居た。1人居た。
戦争を楽しむ奴が、1人居た!
「今回の事件を引き起こしそうな人が、1人居る。僕はそいつに出会っている。飛んでもない戦闘マニアというか、殺人マニアというか、非常に危険な奴が」
「む……そう言われて、私もふと思い浮かぶ奴が居る。同一人物か?」
どうやらオルグも知っている様だ。何せ自称傭兵だ。様々な国の軍に協力しているだろうし、同じ人物かも知れない。だから、僕達はお互いにそいつの特徴を出し合った。すると、見事に全て一致した。
「かなりの危険人物だな。可能性は濃厚だ。探ってみよう」
「僕の方も、この情報だけでも十分だ。早く皆に知らせないと」
例の傭兵、名前もオルグから教えてもらった。バルドザック=ジラーク。彼はその名前に覚えがあったらしく、直ぐに調べたみたいだ。
ジラーク家。アルツェイトが王国だった時の王家の1つで、カールトン王家と繋がりもある。なんなら、アルフィングとそのバルドザックは義兄弟だそうだ。
王国崩壊時のゴタゴタで行方不明にされていたけれど、そもそもこのジラーク家は拷問を得意とする家系だったそうで、その血を濃く継いだのが、バルドザックだった。
両陣営を焚き付ける人物に、2人とも覚えがあった。こうなってはいつまた戦争が起きるか分からない。コノエは急ぎ、皆のもとに戻る事にした。
次回 「14 戦争を好む者」




