12 偶然の遭遇
偵察へと勇んでいたコノエだったが、予想以上の警戒態勢の前に苦戦してしまう。情報どころか正体までバレてしまいそうな時、今はあまり会いたくなかった人物と遭遇する。
賑わう雑踏の中、僕はフード付きのポンチョの様な物を羽織り、人混みを掻き分けて行く。ただ、少し速歩き気味だけど。
「ヤバいヤバい。検問の事忘れてた」
アルツェイトに居た時は何度か通っているけれど、それはレイラ隊長とかが手続きを全部やっていたのであって、僕自身やったこと無いから分からなかった。
しどろもどろになっていたら怪しまれるし、そもそも僕自身が指名手配されている可能性もある。だから、申し訳ないけれどコッソリと通過しようとしたんだ。
秒でバレました。
いや、こっちもそれなりに訓練しているし、何なら亡命の手助けもしていたから、それなりに突破法は持っていたよ。それを思い出しながらコッソリと動いたんだだけどね。1人じゃ厳しかった。だから、サポートで動いてくれていた人達の凄さを、改めて実感しました。
とは言え、今は1人で何とかしないといけない。
いやさ、かなり広範囲のセンサーゲートを新設しているとは思わなかったよ。やってくれますね。
とにかく超スピードで飛ばして、追手を一旦振り切って、シナプスをひと目の付かない所に隠して、ダミーの逃走跡を残してから、この街へやって来たんだ。
シナプスに乗ったままだと、きっといつか追いつかれて戦闘になる。極力それは避けたいから、しばらくこうやって身を潜めておかないと。
「う〜ん。情報収集どころじゃなくなっちゃったな」
ここは検問も近かったから、例のPNDの部隊がこの街の警戒レベルを上げている。だからこそ、こんな所に潜む訳ないだろう。という思い込みを利用するのさ。
とまぁ、そこまでは良かったんだけれど、思った以上に警戒レベルを上げていたんだよ。そこまでする? ってレベルで、至る所にPNDの兵達が居たんだ。
狐のケモナーという特徴は伝えられているから、たったそれだけでまた怪しまれてしまった。
何でここまで……。
「あっぶな!」
何て思っていたら、目の前に例の部隊の兵達が3人程ツカツカと歩いてきていた。咄嗟にUターンしたけれど、その先にも居た。
「バレませんように……」
こうなると、もう出来るだけ顔を隠して俯きながら通り過ぎるしかない。それと、人の陰に隠れながらね。
そうやって、そこは何とかクリア出来たけれど、合流した兵達が何か話している。流石に気になるから、ちょっ〜とだけ聞き耳をーー
「お疲れ。やっぱいねぇな」
「いやまぁ、報告では猛スピードで駆け抜けて行ったって言っていたんだ。こんな所に寄らないだろう。もうとっくに何処かの国に逃げ込んでいるんじゃないか?」
「それでも、シャイン中将は近くに居るって言っているんだよ。その勘は良く当たる。それと、手は抜くなよ。後で怒られるのは私達だ」
「分かっています。となると、やっぱり……」
「さっきのフードの人物。声かけるべきだな」
「あぁ、いたな。そうだな。念の為探っとくか」
ここまで聞いて、僕はまた急いで速歩きになってその場から去ろうとする。だけど、横から誰かの手が伸びてきて、僕はそっちに引っ張り込まれてしまった。
「あわわわわ!! 違います違います、僕は! んぐっ!?」
別でPNDの兵が居たのか。これはマズイ。口も塞がれてしまった。
武装……というか、武器はそこまで持っていない。護身用に銃と短刀はあるけれど、それで切り抜けられるかどうか。ここは勘違いしてもらうしかーー
「静かに。私だ」
「ムグッ?!」
頭の中で何個もの対応を考えていると、僕の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は……と思って恐る恐る声の方を見ると、サングラスをかけたオルグだった。
初めて会った時の格好をしているということは、オフなのかな? それでわざわざこの街に? まさか、僕を探して……。
ある意味、ここではまだ会いたくなかった。彼の状況がどうかは分からないけれど、PNDと敵対はしていない。僕の身柄を渡せば、ミルディアとしても……。
「怯えなくて良い。私は、PNDに君を渡すことはしない」
「…………」
「何で? と言った目つきだな。私は今日はオフだし、報告の義務はない。それと私個人としても、今の君の状況、思っている事などを君の口から聞きたい」
嘘は無さそうだ。それなら、警戒はしておくけれど、各国の状況とかも含めて、この人に聞くのも……って、流石に細かくは教えてくれないだろう。僕はミルディア側でもないし、ましてや敵国に居たんだ。まだ繋がっていると見られているだろうね。
「…………」
とりあえず黙ったまま、僕の口を押さえているオルグの手を指差す。別にもう叫びはしないので。って意味を込めた目線もつけてね。
「あっ、すまない。密着し過ぎたな」
「へ?」
気にするところそこ? というか、何故顔を赤らめて……って、待って下さいよオルグさん?! あなたそこまでシャイでしたか?! 最初普通にナンパしてきたよね?
「こっちに、顔馴染みの店がある。そこへ行こうか。フードは被ったままで」
「…………」
いや、あの。こっちまで何か、顔が火照って来た。ヤバいです、これ。
「むむむむ」
「警戒するのは仕方ないが……」
「そっちじゃない」
「え? あ、そうか。すまない。いや、これは何度目だ? いかんな……」
うん。なんだこの空気……。
◇ ◇ ◇ ◇
そこから少し入り組んだ道に入り、大通りよりも細いけれど、ちょっと広めの道に出た後、料理屋さんの様な店に付き、オルグはそこに入っていく。
僕も後に続いて、急いでお店の中に入っていく。何だかんだで、あれから年月が経ってしまった。次がいつになるかは分からなかったし、決めてはいなかったから、それはしょうがないんだけれど、どこかぎこちなくなってしまうのは何故でしょう? 僕は男なのに。
「いらっしゃいませ〜あ、オルグさん!」
「やぁ、突然ですまない。野暮用でね。奥の席は空いているかな?」
「はいはい〜もう〜言って下さいよ〜! そうしたら、旬の食材をいっぱい用意したのに〜」
本当に顔馴染みのお店みたい。料理を運んでいる若い女性がオルグに反応して話してくる。しかも楽しげだ。いや、うん。一回命を助けられただけで、惚れやしないってば。嫉妬とか、そんなの僕がするわけないでしょ。
なんて言い訳を考えている時点でおかしい。
とにかく、女性に案内されるまま、奥の席へと向かう。
そこまで流行っているお店じゃないけれど、昔からある居心地の良いお店って感じなのだろうね。何人かお客さんが入っていて、皆気さくに話している。もちろん、案内している女性の人にも。
席まで向かっている間も、オルグとその女性は近況を話し合っている。本当に他愛ない会話だ。
「だけど、オルグさんも大変でしょ? この辺りの人達も噂してるよ。例の天使の部隊」
「ん、あぁ。市民には迷惑かけないようにと言っているが、少しいき過ぎている部分がある。私の目の届く範囲なら何とかするが、それ以外となると……」
「大丈夫ですよ。皆分かってます。だけど、いつか我慢の限界が来るかも。そうなると、暴動とかも……あ、いっけない。お連れの人が居たんだ。ごめんなさい」
「構わないさ。彼女も私と同じ立場の人だ」
「あ、そうなんですね。ふふ、フィアンセかと思っちゃった」
うん、そうだとしたらこんな汚い格好はしないよ。
さっきの会話から、どうもきな臭い事が起きているみたいだ。その辺りも詳しく聞きたいんだけれど、これ以上は難しそうだな。
席に付いた後、僕達は対面で座り、案内した女性の人もにこやかな笑顔で離れていく。
「さて。今の君の現状を聞いておきたい。もちろん、話せるまででいい。君が何処かに所属していて、そこに迷惑をかけるというのなら、伏せてくれても構わないさ。ただ、出来たら話して欲しい。そこが安全かどうかも、客観的な意見があって損はないからな」
それはオルグの言う通り。とは言え、ガイナバさんとも約束しているんだ。あの集落にいる子供達を巻き込む様な事はしない。
そして、僕はフードを取り、真剣な気持ちでオルグを見た。
一先ず先の不安は無くなった。
それでも、話す内容によっては危険になるかも知れない。だが、情報得られるかも知れない。コノエは真剣な表情で、オルグと向き合う。
次回 「12 偶然の遭遇」




