2 あなたは女の子
先日のダメージで、そう直ぐには次の出撃が出来ないオルグは、上からの圧力に少し疲れていた。そして、ある街へと出向く。
一方その頃、コノエ達の方も彼女をどうするか悩んでいて……。
あれから僕は、コート先生の医務室で、自分の身体の事を聞いた。
結論から言うと、僕の身体をケモナーにした時、今は使ってはいけない技術を使われていた。
当然、レイラ教官から詰め寄られたが、コート先生は平然としながら「適応したのだから仕方ない。使ってはいけないというのは、軍の勝手な決め事だろう?」と、眠たそうにしながら答えた。
レイラ教官の反応から、どうやらそれは本当のようで、厳密には戦場でとんでもない影響を与えてしまい、戦闘にすらならないから、その技術を使っての戦争は止めましょう。という各国同士による、暗黙の了解のような、そんな曖昧な決め事だった。
それならちゃんと、国際法とかで縛っておいたら良かったのに……と思っても後の祭りか。既に俺にその技術を使われたんだし。
それは「DEEP」というもので、あの機体のディスプレイに表示されたものもそうだった。
潜在的な獣の力を一気に引き出し、身体能力を飛躍させる。それがDEEPだった。そしてあの機体は、その力を持つ者じゃないと、同期が出来ない。ちなみに、僕が訓練用のを同期出来なかったのも、同じ理由だった。禁止された能力を持っていたんだから、そりゃ同期させないようにするよな。
「つまり君は、あの機体を動かす為だけに、その技術を使われたんだ」
「はぁ……」
「全く……そりゃ、あの機体を動かせたら、戦線が大きく変わってくる。こっそりとバレずにやれば、大きな戦果にはなるが……上にはどう報告しろと」
医務室から出た僕は、レイラ教官の不服そうな表情を見ながら、これからどうしたものかと考えていた。
恐らく、戦闘には出ない方が良いだろう。僕のこの能力は、戦線を大きく変えてしまい、犠牲者も沢山出してしまうんだろう。そんなのは嫌だ。だから、戦わない方が良い。
そうやって廊下を歩いていると、遠くの方からコルクがやって来た。
「あら? また会ったわね。何なの? あなた私のストーカー?」
そういう冗談も、今は通じないよ。というか、単純に休む部屋が同じ所にあるから、必然的にまた会うだろうに、何でわざわざ突っかかるんだろう。
「ん? あ~そうだな、丁度良い。コノエ、コルクと一緒に気分転換して来い。お前の事は、少し予想外だった。私も考える時間が欲しい」
「えっ?」
「はぁ?」
そう言われても、こいつとーー
「別に良いわよ」
と思っていたら、コルクはまさかの快諾をしてきた。
一体なんで……と思ったけれど、意地悪な笑みを見た瞬間、全てを察しました。
こいつ、僕を弄る気だ。
◇ ◇ ◇
それから2週間後。
戦艦が立ちよったニューオーグという街で、僕達は色々と見て回っていた。ここの街並みとか、露店に並ぶ商品とかね。
ここは割りと海に近く、潮風の匂いが何だか懐かしい気分にさせる。
そして漁港もあって、演劇等をやっている舞台もあるそうだ。漁港の近くでは、こうやって露店が並んでいて、沢山の魚介物とかが並んでいる。
割りと大きな街で、沢山の人で賑わっているな。確かに、気分転換にはもってこいだよ。
「ふふん。さ~て、先ずはあなたの格好をーー」
この子がいなければね。
フリルの付いたミニのワンピースを着ていて、更にはニーハイって、ちょっとそのファッションセンスはどうかと思う。ちゃんと着こなしてはいるだろけれど、一部のマニアしか喜びそうにないよ。
それと、僕の格好って……確かに、僕は今男っぽい格好をしているよ。それは、元々男だったし、女の子の服なんか着れるわけないからなんだ。
「そんなTシャツと短パンだなんて、女っ気のない服装。視界に入るだけでも不愉快よ」
「勘弁してくれ……僕は男だったんだよ。聞かされただろ?」
「それがなに? ケモナーになって、今は女の子でしょうが。女の子の格好しなさい!」
「嫌だ!」
「観念しなさいよ! どうせ戻れないんだし、なりきっちゃいなさい!」
「何か嫌なんだよ! 男してのプライドが!」
何なんだこのやり取りは……嫌がる僕を、コルクが無理やり引きずっていくんだけど。
しかも、ことさら嬉しそうな表情で、いいおもちゃが残ってくれて良かったって思ってるんだろうな……。
「あ~もう、そんなに嫌がっちゃって。女の子の服着させたら、どんな顔するのかしら?」
「うわぁぁあ! もう猫じゃない! 悪魔だ!」
「小悪魔と言ってくれるかしら?!」
「開き直っている上に、自覚済み!?」
もうダメだぁ……せめて、ちょっとは男っぽい感じの服に出来たら良いけど……。
◇ ◇ ◇
仕立て屋兼洋服屋から出て来た僕は、今人生史上一番辱しめを受けている。
「私達ケモナーは尻尾があるからね~いい感じに出したり、工夫して隠していたり、何なら服のファッションの一部にしたり、とまぁそういうことをするにも、仕立て屋を介さないといけないのよね~ここは大きな街で、仕立て屋があって良かったわ~」
自分の買えたようで何よりだよ。そして、そんな事情があるから、あんな店もあるんだな。
「で、何をモジモジしているのよ。似合っているんだから、シャキっとしなさい!」
「うぅ……そう言われても……」
結局、僕も折れはしなかったから、コルクも妥協して、スカートは止めてくれた。
だけど、ホットパンツに近いような、そんな短めの短パンに、ヘソ出しルックスのシャツと、ジャケットだなんて……どこのヤンチャな女子だよって感じだ。
「あんたのその切れ長の目と、シャープな顔つきじゃ、変に可愛い子ぶるような服装は無理だったわね。ま、妥協した割には中々にいい感じじゃない?」
「もうちょっと粘るんだった」
「その場合、ロングブーツとタイツを追加よ」
「止めてくれ……」
今もブーツなんだけれど、これより更に長いのと、脚全体を包むようにする、あのタイツだと……? 脚が更に女の子っぽくなっちゃうじゃないか。
それで良いんだろうけれどさ、何だか嫌なんだよ。自分はまだ男だって思っているのに、こんな……こんな。
「……ん?」
トボトボとコルクの後を着いていると、何だか変な視線を感じたから、ふと後ろを確認してみた。
「どうしたのよ?」
「いや、何だか誰かに見られているような……」
「気のせい……じゃないわね。あのグラサンの男?」
「かなぁ……」
店の壁の陰から、グラサンをかけたいかにも怪しそうな男性が、僕達の方を見ていた。
髪の毛はうっすらと赤みがかった、オレンジっぽいような、そんな感じの色だけど、量が多いのか、纏まった髪型をしている。
アジア圏で流行っていたツートップの髪型ではないけれど、う~ん……こっちのファッションセンスは良く分かんないや。
「……気付かれたかも知れないわね。見すぎよ」
「しまった……ごめん」
「全く。一応、ここは非戦闘地域だけど、何があるかは分からないわ。治安は良いし、そんな迂闊な事は出来ないだろうけれど、銃はいつでも構えられるようにね」
そうだった。護身用にと、お互いに銃を渡されていた。太ももに付けたホルスターに入れているけれど、思った以上に重い。
これは、人の命を奪う物。そう思うと、余計に重く感じる。
とにかく、僕達は予定どおりの動きをして、腹ごしらえに昼食を取るため、レストランの並ぶ通りの方へと歩いて行く。
もちろん、後ろからはサングラスの男性が着いてくる。服装は……まぁ、無難にスーツ姿か。タイはないけれど、オレンジっぽい髪の色に、そんな真っ黒のスーツは目立つと思う。
何考えてるんだろう……この男性は。
「あんまり見ない。でも、相手にバレてるわね。私達が気付いているのも、警戒しているのも。それなのに着いて来るなんて……何かしてくるわね」
「うぅ、艦に連絡は?」
「入れてるけど……そうね、多分私達の周りに配置して、様子を伺うくらいね。どっちにしても、私達の行動次第ではって事」
「い、胃が……」
急にピリついた空気になってしまって、変な緊張から胃がキリキリと痛みだしてしまった。厄介な事になってしまったよ。
女の子としての格好をされ、自分が本当に女の子なんだと思わされてしまっている時、謎の男から後を付けられていた。
2人は適当な店に入り、様子を伺っていたがーー
次回「3 邂逅」