4 廃墟の子供達
ジャンク屋からそれなりの金額を受け取り、更にケモナーへのなり損ないであり、機械の腕も付けているクレナイにとっては嬉しいガソリンまで頂けた。更にコノエ達は、道中でキャラバン隊にも遭遇し、生活に必要な物を買い足した。あとは無事、帰るだけである。
商店に様々なパーツを売り付け、沢山の物品を貰った僕達は、帰りに運良くキャラバン隊にも遭遇し、生活品等も交換することが出来た。
とりわけ、水を沢山確保できたのが良かった。この辺りは水がとても大切なんだ。降雨量が少ない為、水は貴重なもの。かなりの額で取引されるけれど、幸いさっきの商店で硬貨も沢山貰ったので、相当量の水を買うことが出来た。
以前は、これを運ぶのもジープ一台だけで、月に何回か買いに行かないといけなかったけれど、僕が来てからはその回数は激減した。シナプスで大量に運べるからね。
『いや~ラッキーラッキー♪ いつも贔屓にして貰っているキャラバン隊で良かった~運が良いな~♪ コノエが来てから助かってるよ~』
「これくらいなら、いくらでも手伝うよ」
スピーカーから聞こえてくるクレナイの声は、凄く嬉しそうだ。まぁ、こっちはシナプスの背にタンク何個か背負って、中に入っている大量の水を運んでますからね。なんでこんなに要るのかは、後で分かります。
それからしばらく走り、僕達が住み処にしている廃墟が見えてきた。
『皆お利口さんに待ってるかな~?』
「エレナさんが居るから、その辺りは大丈夫だろうけれど、ジャン君の様子にもよるし。アレックさんが何とか抑えてくれてるのかな……」
『ん~ジャン君はいい子だよ』
そんな事を話している内に、廃墟に到着した。
クレナイとガイナバさんがジープから降り、荷物を降ろしている間に、僕もシナプスをしゃがませて機体から降りる。その瞬間、廃墟の建物から、沢山の子供達が出てきてこっちに走って来た。
「「「クレナイ、お帰りなさい!!」」」
「は~い♪ ただいま~! 今日は大漁だよ~皆いい子にしてたか~?!」
この子達は、全員戦争遺児だ。
戦争によって親や兄弟、姉妹を失った子供達が、ここに流れ着いた。もしくは、ガイナバさんが拾ってきたりとかした結果、こんな風に沢山の子達がここで生活するようになった。
皆、お互いがお互いをカバーしあって、支えながら生きている。それがこの場所で、僕がお世話になっている荒野の漁り屋『ジャンク・ルックアレード』だ。
◇ ◇ ◇ ◇
沢山の荷物を降ろし終え、僕もタンクの水等を運び終えた所で、子供達がわんさかと僕の元に集まってきた。
「コノエ、コノエ~今日はどんな奴と戦ったの~!?」
「一撃でドカーンってやったんでしょ?!」
僕が来てからというもの、シナプスが何故か大人気。というかほぼ英雄扱いだよ。毎回戦闘している訳ではないって言っているけれど、毎回帰ってきたらこれなんだよね。土産話ってやつだね。
ただそんな時、決まって子供達を制するのが、ガイナバさんだ。
「んん!」
彼がそう咳払いのような事をしただけで、子供達は突然ハッとなってわらわらと散っていった。
少しくらいは良いんだけれど、彼は彼なりに子供達の未来を案じている。もうあんまり、戦争に関わって欲しくないんだろう。
そういう事なんだろうなって、何となく僕が思っているだけで、本当は違うのかも知れない。
ただ、ガイナバさんは絶対に戦争の事なんか話さないし、戦い方も教えない。
そんな中で1人だけ、シナプスを見上げている少年がいる。
「ジャン君。やっぱり気になる?」
「……うん」
僕はそっと近付き、彼にそう声をかける。
短髪とセミロングの中間みたいな髪の長さで、目の辺りにまで前髪がかっていて、その瞳が良く見えないけれど、いつかこういう機体に乗って、両親の仇を取るんだという、決意の炎がこの子には宿っている。
それはガイナバさんも分かっていて、この子だけは強く止められないでいた。
「コノエ姉ちゃんは、ケモナーになりたいからなったわけじゃないのに、なんでこうやって戦えて、しかもこんな強い機体も手に入れているの」
「ん~僕も、ケモナーになった理由は分からない。望んだかどうかも分からない。僕にはどうも、消されたのか忘れられてしまった記憶があるみたいだから。戦えたのも、正直その辺りの記憶にあるのかも。ただ、戦った理由は正直つまらないものだよ。必要とされたから、それしかやることがなかったから」
そう言うと、この子はいつも凄い目で僕を見てくる。
「そんな理由で、親父と母さんを……」
「僕以上に下らない理由で町を襲う人もいる。それが、戦争なんだ」
この子の両親は、アルツェイト軍に殺されている。もちろん意図してではなく、戦火に巻き込まれてだけれど、アルツェイトのビースト・ユニットの攻撃に巻き込まれている。
アルツェイトの奴等は皆殺しにするんだ。って、僕と初めて会った時にそう叫んで襲われたよ。
ガイナバさんに助けられたけれど、今でもやっぱり僕を睨む時がある。僕が仇じゃないのは分かっているだろうし、僕も何度も確認したし、説明もした。それでも、胸に残って燻り続ける感情は消えないだろうね。
「君がどうしたいかは、君が決めるべきだけれど、決して道は間違えないようにね。僕みたいにならないようにね」
いつもそうやって濁している。しっかりと止められる立場じゃないけれど、止めて上げたい。あんな酷い所に、この子まで行く必要はない。
「…………コノエ姉ちゃんの言葉が、一番効くよ。晩御飯、もうすぐだよね。行くよ」
この子もまた、僕達が伝えたい事が分かっている。賢い子なんだ。だから、ガイナバさんにも僕にも、戦いを教えて欲しいなんて言ってこない。
願わくば、この廃墟にいる子供達が幸せになりますように。
「……あだっ!!」
「お~済まんな。あのジャリガキの相手してくれて。つ~か、何をしんみりしてるんだよ」
「アレックさん?! もう……毎回僕の後頭部を平手でパシーンってするの、止めてくれませんか?」
「悪い悪い~しばきやすいんだよ~」
「良くないです!」
せっかくしんみりしていたのに、全て台無しにするんだから。
僕の後ろに突然立っていたこの男性が、アレックさん。赤毛で乱雑に纏めた髪をしていて、ちょっと高圧的な感じだけれど、子供達が拐われたり襲われたりしないか、いつも小高い崖の上から見張ってくれている。そのついでに、良くジャン君の事も見てくれている。危ない事をしないようにね。
「後はこの尻尾とかな~」
「奥さんいるでしょうが!!」
無遠慮に触ってくるから大声で言っちゃったよ。この人はこんななりをしていて、ちゃんと奥さんがいる。その人がーー
「あら、私がどうしたの? って、アレック。またコノエちゃんの尻尾を狙って~」
このエレナさんだ。
長くて量のある薄いグリーンの髪を、先だけ結んで止めている。もうなんと言うか、スタイルもボンキュッボンだからね、母性がハンパないです。
何でそんな人とアレックさんが結婚出来たのか謎だけれど、アレックさんとエレナさんは昔、ラリ国の軍にいた。そこで知り合ったようだ。
ちなみに、この2人にはお子さんが何人かいたみたいだけれど、全員戦争で亡くしている。その罪滅ぼしなのか、この2人はここの子供達の世話を良くやってくれているんだ。
「あ~悪い。どうにも気になっちまう、死んでもそうやって蘇られるなら……」
「絶対じゃないですよ。失敗したら、クーーなんでもない。とにかく、失敗したら飛んでもないことになっちゃうんだ」
この廃墟の人達に、クレナイは自分の身体の事を話していない。
今僕は、自分の記憶がごっちゃになっているから、たまにこうやってうっかりとやらかしてしまいそうになる。ちゃんと覚えているはずなのだけれど、抜ける時がある。ぼうっとはしていないんだけどね。
それと、フランケンシュタインみたいになることを言わなかったのも、この2人にとってはそれでも生きていて欲しいからだ。でもそれは、お互いに戻れない地獄に落ちてしまいそうだから、僕はこの事も言わないようにしている。
「全くもう……ほら、そろそろ夕食だから、アレックも手伝って」
「あいよ。すまんな、またこんな事を言って。コノエちゃんも早く来いよ。ガキ共に全部取られるぞ。なんせ食い盛りだからな」
「はは、分かりました」
つまり、ここに住む人達は全員、戦争で何かを失っている人達なんだ。
廃墟の子達は、ほぼ全員が戦争孤児であり、大人達もまた、戦争で何かを失った人達だった。
それでもコノエは、自分に出来る事をと思い、シナプスの整備へ向かう。
次回 「5 いつか来る時の為に」




