3 クレナイの身体
奇妙な機体を見つけ、それを解体するクレナイを見守りつつ、コノエとガイナバはある部隊と遭遇する。
クレナイはまだビースト・ユニットの部品を取り外している。だいぶ使える部分があるみたいだ。あれだけ破損していて、装甲とかは無理でも、中のは案外大丈夫だったりするのだろう。
それで、こっちに近づいて来ている人達は、いったい何者だろうと、モニターを凝視していると、見慣れた機体が列をなしてやって来た。
「うっわ、最悪。ハコ機だ。ということはミルディアか……」
『コノエ。君は、ミルディアと戦っていたか?』
「バリバリ戦ってます。敵として。シナプスが敵機として登録されていたら終わりだね。いや、されてるか……」
『そうか』
ガイナバさんから言われ、正直にそう答えた。誤魔化してもどうせ直ぐに分かっちゃうだろうからね。しかも、ガイナバさんは元々ミルディアの軍人だ。戦闘は避けたいだろうね。
それから砂煙と共に、相手の姿がハッキリと見えるところまで近付かれた。
『そこの者達、その辺りに落ちている物に触ったか?』
それで、いきなり向こうから通信が飛んできた。焦ってはいなさそうだけど、それでも臨戦態勢になっている。そりゃ怪しむというか、例の捨てられたビースト・ユニットに触られていたら、重要な情報なんか取られているかも知れないと、そう判断するのが普通だ。
だから、僕も臨戦態勢を取って、いつでも2人を回収して逃げられる算段を整えておく。
『貴殿等の所属は?』
その時、ガイナバさんが相手に向かって通信でそう言った。所属を聞いてどうするんだろう?
『ん? 我々はレベット隊、第2小隊。周辺の哨戒を行い、また連絡の途絶えた機体の捜査も担当している』
『なるほど。レベット坊がそこまでになったか』
なんだ、その会話は。ちょっと待って、その流れは明らかに、ガイナバさんの元部下とかにならない? それはそれでヤバイような……。
『な?! 隊長をその呼び名で呼べるのは、更に上の者。あ、あなたはまさか……』
『あぁ、そうだ。私はガイナバ=モールドッチ、元大佐だ。今は確かに軍には所属していないが、まだパイプは持っている。隠密にしたい事だろうから、ここは私に任せてくれないか?』
『は、はは!! 分かりました! レベット様にはそのように伝えます!』
『そうしてくれ。後で連絡する』
『はっ!!』
何か纏まっちゃったよ。だけど、そんな人が敵側に居たシナプスと一緒にいるというのは、怪しまないのかな? いや、まだ見えてないのかも。
『あ、いや。しかし、その後ろの機体は……シ、シナプス!! ガイナバさん、何でその機体と!?』
『あぁ、落ちてた。で、知り合いに使わせてる。まずかったか?』
『あ、そ、そうだったんですか。それならそれで報告しておきます。ミルディアは全力で、そのシナプスとそれを操縦していたパイロットを探していたので。しかし、パイロットが乗り捨てて逃げたなら、話しは変わってきます。とにかく、我々は報告に戻りますので、その先にある機体の回収と、シナプスの処分……いや、譲渡の方を』
『ん。やっておこう』
『ありがとうございます。これで安心です。それでは』
そう言って、やって来たミルディアの人達はそのままUターンして去っていった。
『すまんな。咄嗟に嘘をついたが、まずかったか?』
「まるで口癖みたいに言うね。大丈夫。下っ端の下っ端くらいの報告なら、上までいくには時間がかかるだろうし、いっても身内からということなら信用されやすい。追撃も少し緩むかな。ありがとう」
思わぬところで助けられたよ。
しかし、また僕と一緒にいる所を見られたら流石に追及されそうだけど、それでも何故か彼は「大丈夫だ」と言わんばかりの顔をしている。何か他にも手を打ちそう。
『ごっめ~ん! 終わったよ~そっちは?!』
そんな時、ようやくクレナイが作業を終わらせ、こっちの様子を見にやってきた。
その途端、また彼は寡黙になり、首だけを横に振って問題ないことを伝えた。
『ありがとね~コノエ! 君が来てから捗るよ~♪ さっ、早くジャンク屋に持ってこ。幾つか高値が付きそうなのもあったしね~』
そうウキウキしながら、クレナイは大量の部品を積んだカーゴを引っ張ってきた。かなりの力持ち何だよね、彼女。理由はちゃんとあるけれど、今はちょっと省くよ。
◇ ◇ ◇ ◇
それから僕達は、さっきのルートとは違うルートで、ある街へとやって来た。
ここにミルディア軍はいない。どちらかと言うと、ミルディアに反している反乱軍というのがいるけれど、無理やり休戦というか、終戦させられたから、ここの反乱軍も動けなくなった。
何せ、戦争みたいな大規模な戦闘行為なんてしようものなら、天使の様な機体が飛んで来て、両部隊を滅多打ちにされるんだ。
問答無用の力任せ。どの国でも、こういう所に住む人達の不満は溜まっている。皆、目が鋭いよ。
「ん~また一段と険しいな~♪」
「クレナイ。あんまり焚き付けないようにね」
「分かってる分かってる~♪」
僕も、シナプスは街から離れた洞穴の様な所に隠している。クレナイ達の仲間が居て、ちゃんと見張ってくれているし大丈夫だけど、やっぱり余計な争い事は避けないといけない。
その街を抜けないと行けない場所、街の外れに、目的の場所がある。
ボロボロの布切れを何枚も重ねて、崩れそうな家屋を隠している。ただ、何かの機械のパーツみたいなのがはみ出ているから、ここが普通の家じゃないのは、外見からでも丸分かりなんだよね。
その方がかえって避けてくれる。何て家主は言うけれど、厄介事を避けたいから避けてるって感じだよ。
「やっほ~♪ 今日も取れたてピチピチなのが入りましたぜ~旦那~」
「…………」
中に入るや否や、そんな事を言い放つクレナイに、中のガラクタに全身埋もれる様にして作業している、背中の曲がった小汚ないおじいさんが睨み付けてきた。
完全に滑ってるよ、クレナイさん。いっつもこれをしないと気が済まないんだから。
「……ふぅ。よっこらせ。全く、こんなご時世でもガラクタ持ってくるのはお前らくらいだよ」
これもまたお決まりの台詞。
2人の合言葉みたいなもので、周りからも変に怪しまれないようにする為みたいだけれど、逆に怪しくない? それ。
とにかく、そんな会話の後に、そのおじいさんが僕達の持ってきたパーツを覗き込みながら、ガチャガチャと探り、値踏みでもしてやろうかと言わんばかりの目をした。だけど、何個かパーツを見た瞬間目の色が変わった。
「お前ら……これは」
「ふっふ~ん♪ だから、今回のは取れたてピチピチですって」
「……ビースト・ユニットのか。何て物を……こんな物、年に数回転がり込んでくるかこないかのレベルだ。ふぅむ、しかもまだどれも新品同然だと」
「そ・れ・と。コノエ、あれも~」
「はいはい」
クレナイに言われ、僕は厳重に封をし、丁重に保管をしていた対濃縮エネルギー用の軽微振動多重ケースをゆっくりと出し、その中のを見せた。
「んなっ!? 超圧縮高濃度エネルギー?! しかも、ほぼ満タンか?!」
「どれくらいの額になりますかね~? 旦那~」
「……お前ら、納得しなかったら何処に持って行く気だ?」
「そりゃぁ、もう1つの方のジャンク屋に」
「ベベッドの所じゃないよな?」
「あ、正解~♪」
「ちっ、ふざけるな! あそこは反乱軍と絡んでる。こんな即戦力になるような物、渡せるか! ちょっと待っとれ!」
そう言って、じいさんは建物の奥へと行くと、直ぐに戻ってきた。そして、かなりの大金の入った袋をドサっと置くと、更にもう1個あるものを机の上に置いた。
「お前なら、これはあるだけあれば嬉しいだろう?」
「おっ、ビースト・ユニットが出来る前の、スチームエンジンの燃料用ガソリンじゃん~♪ こんな使用禁止の物、良く持ってるね~」
「ふん。何なら裏ルートでまだ採掘しとる。この星は、潤沢な化石燃料があるからな。我々人類がこの星に来た時、ビーストマン達は化石燃料を見つけられていなかった。故に、また沢山取れるぞと意気込んだものの、既に別のエネルギー理念が確定されていたからな」
そうそう。資料で読んだけれど、やはりガソリン等の化石燃料は枯渇の問題とか、環境汚染の問題もある。まだ環境汚染されていないこの星を、そのままで残しておきたい。その為に、早くに化石燃料は使用禁止となった。
まぁ、さっき言っていたスチームエンジンとやらに使われた時期はあったし、まだヒノモトの一部で使われてるって噂もある。
で、何故彼女がそれを欲しがるかと言うと。
「ただ、お前の様な『半機半人』達にとっては、この燃料は沢山必要だろう」
「と言っても、私はこの右腕だけだよ~」
彼女がそう言うと、ピッという操作音が鳴り、人口皮膚で隠れていた部分に線が入り、そこから機械のパーツが軽快な音と共に外に露出する。
ブースターの様な物で、彼女はそれでパンチの速度を上げて攻撃をしている。
「ふん。今は燃料切れで使えんのだろう? ほれ、ここにタップリとある。これで、約どれくらいだ?」
「ん~っと、上手く使えば3年かな~妥当だね♪ それじゃ、交渉成立~♪」
どうやら、ここに売るのを決めたらしい。
あと、彼女にはもう1つ秘密があって。そもそも右腕が機械になっている原因でもある。
クレナイは、ケモナー施術に失敗した「成り損ない」だ。
ジャンク屋にパーツを売り、帰路へと着くコノエ達。ジャンク・ルックアレードの隠れ家には、そんな彼女達を待っている者達が居た。
次回 「4 廃墟の子供達」
 




