2 打ち捨てられた機体
ジャンク・ルックアレードに身を寄せて2年。すっかりと仲間として受け入れられたコノエは、その一員として活動をしていた。違法に機体を所持しているものには鉄槌を下し、使われなくなった機体は回収し、使えるようにして売り飛ばす。戦争が残した爪痕は、未だ消えていない。
ジャンク屋とも連絡が取れたので、一旦僕達の本来の目的地へと向かう。
さっきのは、完全にこっちが強盗みたいなものだったけれど、残党兵の機体を調べていたら、やっぱりどこにも登録をしていない違法機体だった。
こういう機体は、作るにしても所持するにしても、国の正式な認定を受けた企業から、所持の許可とか認定を貰わないといけないんだ。それを受けている機体には、ちゃんとその認定番号とマークがあるはずだけれど、さっきの奴等から回収した機体には、そういうものがなかった。つまり違法で作り、違法で所持していたんだ。
この時点でアウトなんだけれど、残党兵達はそれで悪さをしているんだから、同情の余地も無いよ。だから、こういう機体はばらしてジャンク屋に売り飛ばすのが適切だったりする。
『ん~あの辺だね~コノエ、辺りに反応は?』
「あ、ちょっと待って。えっと、無いね」
目的地付近に近付いてきたから、またレーダーで反応を見るけれど、今のところは何も反応がない。多分大丈夫だとは思うけれど、こういう所は割りと潜んで襲撃をかけてくる野盗もいる。警戒しながら近付かないといけない。
『ど、んなお宝かな~♪』
「お宝とは限らないけど」
『まぁまぁ、エネルギー装置1個でもあれば大儲けだし、お宝に違いないじゃん~』
「ん~ちゃんと扱わないと危ないから、そう単純な物じゃ……いや、まぁ結構な額にはなるから、その判断でも間違ってはいないけど」
『さっきのデコワンのは旧式だし、コノエのシナプスに使われているエネルギー装置とは別物なんだもん~』
「まぁね。だからこそ、取り合いも激しいんだけど。今はほら、和平団が……」
『あ~!! そっか! 需要減っているから、レート下がってる?! おっちゃん調べといて!』
さっきまでは嬉しそうだったけれど、今の現状を思い出して貰ったら、ちょっとショックを受けていたね。そこまでは考えていなかったか。それでも高値ではあるんだけれど、やっぱりそこはね、必要である時の方が更に高値になるから。
そうこうしている内に、沢山のガラクタの様な機体の残骸が、山みたいに積まれている場所が見えてきた。
『うっそ! なにあそこ!? あんな所、まだあったんだ!』
あのように山積みになっているのは、戦争によって撃墜された機体が多い。流石に遺体とかは無いけれど、血痕は残っている事が多いからキツイんだよね。あと噂では、こういう場所で夜中に動かないはずの機体が動いたり、誰かが機体を直そうと動いている影を見たりするそうだ。
そのほとんどは、今の僕達みたいな漁り屋の仕業だけどね。
『腕がなるな~早速探るよ!』
下手したらお宝の山になりかねないけれど、パッと見た限りでは、今回のはそうはならないかも。
一足先に残骸の山に近付いたクレナイが、僕が思った通りの事を叫んだ。
『あ~!! とっくに漁られてる~!!』
そりゃ、漁り屋はクレナイ達だけじゃない。他にも何グループかある。だから、その内の1つがとっくに見つけていて、縄張りみたいにして漁りまくったんだと思う。
その瓦礫の山の周りは、沢山のタイヤの跡とか、機体の動いた跡が残っていたんだ。
『ちぇ~くっそ~! 仕方ないなぁ、ルールもあるし。さっきの残党兵達の機体で我慢するか~』
とっくに別のグループが拠点にしていたら、他のグループは介入しないことって、何か独自のルールがあるんだよね。
それはそうと。
「クレナイ。僕、ちょっとあっち調べてくる」
『え? はいはい~』
この場所に来る時、ちょっと離れた場所に何かが見えたから、ちょっと気になって向かうことにした。
この辺りって、割りとミルディアが戦闘を行っていた事が多いし、更にこの周辺とか確か、新型機体の実働試験を行っていたりするから、何かしらの残骸があるのかも知れない。
「え? あ、これって……!」
さっきから何かの欠片が辺りに散らばっていて、何かがここであったことを示しているんだけれど、更に進んでいくと凄いのが打ち捨てられていた。
「ビースト・ユニット……の残骸か」
ほとんど原型をとどめていないけれど、動物の尻尾を模した様なものが付いていたから、多分間違いないと思う。
岩影とか低木の位置で、うまい具合に隠れていて、多分普通に走っていたら素通りしそうな程に、見つかりにくい状態になっている。まだ誰も、探っていないんだろう。辺りには、更に武装とかも落ちている。
早速僕は、通信機でクレナイに連絡をする。
「クレナイ。破棄されたビースト・ユニット見つけたよ」
そう言った瞬間、通信機の先からスッゴい大音量で叫ばれたから、耳がキーンって……全くもう。
しばらくどころか、本当にあっという間にこっちへジープを飛ばしてきたクレナイが、目を輝かせながら破棄されたビースト・ユニットに近付いていく。
僕もシナプスから降りて、そのビースト・ユニットに近付いていく。ちょっと、気になる事があってね。
「見たことないタイプだよね?! ナニコレナニコレ、何の獣だろう~コノエ、分かる?!」
「んん~待って。これ、翼みたいなものが付いていたんじゃないかな、背中辺りに何かが捥がれたような跡があるよ」
「えぇ?! そんなビースト・ユニット聞いたことないよ!」
色んな所が削られていて、どこの国の物かも分からない。ただ、恐らく試験機だと思う。そこまでしっかりとした武装が付けられた形跡もないし、コクピット辺りも簡易的だね。というか、見たことない形している。パイロットも居ないし、血痕らしきものも無い。脱出したのかな? いや、そういう装置が付けられている形跡もないんだけど。どういう事だろう……? コクピットも、これは……なに? どうやって乗り込むの?
「ねぇねぇ、エネルギー装置はまだ取られてない?」
「あ、そっか。ちょっと待ってね」
気になる所はあるけれど、新型なら僕も分からないからね。
ただ、これもビースト・ユニットなら、訓練所で色々と触っていたから、エネルギー装置の取り外しは分かる。あとは、この機体がまだ反応してくれるかどうかなんだけど……。
「んしょっと、え~と……安全装置のオート解除して、このレバーを引いて、最終安全装置も解除……」
僕はコクピットに、上半身だけを突っ込むようにして入り、必要な所を動かしていく。
今は何とかセーフモードで動いている。当然電源部分はもう壊れているから、機体を動かすことは出来ない。修理しないとね。で、エネルギー装置がまだ入っていたら、そのエネルギーで予備電源が入れられるから、そこから必要最低限の事は出来る。コクピットの開閉、エネルギー装置の取り外しとかね。何せ、再利用出来るからね。ビースト・ユニットのエネルギー装置は。
「うん。ここまで出来るなら、だいぶエネルギーが残っていそうだね。後はこのカバーを外して……よし、エネルギー装置入ってる。そ~っとそ~っと」
もちろん爆発物と言っても過言ではない代物だから、あんまり強い衝撃を与えないようにしないといけない。
そうやって、小型のタンクの様なものを引き出した僕は、そのままコクピットから抜け出て、クレナイ達にそのエネルギー装置を見せた。
「わぁお~! 残は? それ、8割方残ってない?!」
「うん。結構残ってるね」
メーターは上部の方を指しているから、割りと残っている。これなら、例え装置のレートが低くても、このエネルギー量で加算されそうだね。
「ひゃ~! 今夜はご馳走だよ~!! さ、さ。他のパーツも他のパーツも! 使えるのはドンドン回収していこう~!」
「はいはい」
さっきまでは割りと呆然としていたのにね。今はもう、目を爛々と輝かせてはしゃぎまくっている。可愛いね。あ、いや……別に、男の精神からそう見ているんじゃなくて、同性として……って、それもそれでどうなんだろう。
何て事を考えていたら、シナプスのレーダーが何か捉えたのか、注意音を鳴らしてきた。
「なに? 何か来るの?」
「ちょっと待って。うん、何かがこっちに近付いてる。結構早い」
「うっそ。同業者? 最悪。私達が先に見つけたのに~!」
同業者ならまだ良いんだけれど、ミルディアとか他国の軍だと厄介だな。出来たら、もうここから退散したい所だけれど。
「ちょっと待って! ギリギリまで、ギリギリまで!!」
クレナイが、機体からパーツを凄い勢いで外していってるから、せめて可能な限り回収したいんだろう。こうなるとテコでも動かないんだよね。
この場合、いつも相手との交渉役をするのが、このモドのおっちゃんとクレナイからは言われている、ガイナバさんの役割だ。
奇妙な機体を見つけたコノエは、その機体に疑問も抱きつつも、解体を手伝った。しかし喜ぶクレナイを他所に、コノエ達に近付いてくる機体反応が……。
次回 「3 クレナイの身体」




