1 荒野の漁り屋
シンティア皇国が国連と協力し、ミルディアとアルツェイトの戦争を強制的に停戦させてから2年。
ジ・アークから去ったコノエは、ある場所に身を寄せていた。
砂が舞い散る中、ジープの横を並走しながら、シナプスを走らせる。
今日はちょっと遠出をするらしい。
『コノエ。レーダーは?』
「ん。今の所は無しだよ」
チューっとボトルに入った飲み物を飲み、通信に返答をすると、再度辺りを見渡す。
一面の荒野。ここはリリア大陸にある小国で、ミルディアとはちょっと離れている。
殆どが荒れ地の荒野で、農作物は育たない過酷な環境下で、その国は懸命に人々の暮らしを支えている。と言っても、いくつもの無法地帯があるから、あんまり国としての体裁もないようなものだけれど、それでも人々は依代を作り、何とか自分達の生活を守っている。
『今日のお宝は何だろうな~♪』
「ご機嫌だね」
『そりゃそうさ~戦いのあった後みたいな場所を見つけたんだから、テンションも上がるさ~』
通信機から聞こえてくる女性の声は、ジープに乗っている人だ。運転席の隣に乗ってる、褐色肌の女性。その隣でジープを運転しているのが仲間の男性で、彼はかなり大きな体型で、まるで熊みたいな感じです。
この人達は、荒野の漁り屋「ジャンク・ルックアレード」と言って、荒野に打ち捨てられた機体の部品を回収し、修理や修繕をしてキャラバン隊等に売り付けている集団だ。
もちろん無断でだけれど、もう誰も使わずに回収もされずにある機体の部品を、また使えるようにしているんだから、一部の人達からしたらありがたい存在らしい。
僕がこの人達の元に転がり込み、お世話になることになってから2年。
もうしっかりとこの人達の仲間として、周りからも信頼されるようになってきた。もちろん、シナプスあっての事だけど、最初は驚かれたよ。
ケモナー自体も、この国ではあんまり見かけないらしく、珍しがられた。それも慣れてきたらしく、こうやって色々とお供をされている。
それと、停戦の事も僕の耳には入ってきている。
まさかあの直後に、国連が新たな組織を作って、その組織が積極的に動くなんてね。
つかの間の平和。つかの間の穏やかな日々……とはいかない。
『……煙が上がってる。目的地の前にドンパチありそうだなぁ。コノエ、いける?』
「うん。ジャンク屋さん達が丁寧にメンテナンスしてくれているからね。常に絶好調だよ、この子」
メンテナンスというか、愛しい女性を磨き上げるような、そんな熱意と眼差しだったよ。何かもう、この人達変な事は絶対にしないなって、無条件で信じ込んでしまうほどだった。
「……居る。ゲリラの残党兵」
そして、さっきまで無反応だったレーダーに、いくつもの点が表示され、大きな熱エネルギーも感知出来た。間違いなく機体に乗った兵達だ。識別コードも無し。つまりはゲリラ。
『先手しちゃおっか♪ よいしょっ……と』
「え、いや。そうだとしても、こっちからーー」
『どっせ~い! ジャンク屋、ルックアレード様のお通りだ~!!』
「またこのパターン!! もう!!」
いつもいつもこの人はこうだ。防塵ゴーグルと特殊なサーチライト付けてるからって、バズーカ砲を肩に担いで、いきなり撃ち込むんだもん。向こうが気付いていないなら、シナプスで先手取った方が安全だし、あっという間に制圧出来るのに、血の気が多いんだから……自慢の肩までのポニーテールを靡かせているけれど、短パンとランニングシャツだけだから、完全に戦闘向きの格好じゃないのに。あと、大きく揺れる胸がちょっとね……嫉妬とかはないけれど、何かちょっとね。
『なんだなんだ!?』
『例の組織か?!』
『いや、違う! 荒野の漁り屋だ!』
それでも突然の攻撃に、相手は慌てふためいている。ただやっぱり、ジープと機体とじゃ雲泥の差があるよ。小回りはきくから、それで翻弄は出来るだろうけどね。
『おい、ちょっと待て。後ろからビースト・ユニットが!』
『なに?! それは流石にーーぎゃっ!!』
「はい、ちょっとごめんね」
肩に取り付けたミサイルランチャーで、僕は次々と相手機体の脚を狙う。
僕達は通過したいだけで、相手の集団との全面戦争とか、そんなのは考えていない。ただ、あの残党は村や集落を襲っていると聞くから、治安の為にこうしておかないといけない。
『うぉぉ! こ、こんな所でやられたら、荒野をさ迷う事になる~!!』
「いやいや、存分にさ迷いな~荒野生活も悪くないもんだぜ~♪」
『『勘弁してくれ!!』』
砂塵に隠れて、ジープからバズーカ砲をバカスカ撃たれ、僕からはミサイルランチャーで脚を撃たれ、元々弾薬も心もとない状態だからか、あんまり反撃が出来ず、あっという間に相手の機体は戦闘不能になった。
コクピットは狙っていない。というか、殺したりでもしたら、こいつらの仲間が仕返しに来るかも知れないからね。そんな危険に繋がるような事はしない。この人達の、絶対的なルールだ。
「は~い♪ コクピットから降りてね~」
それで、サブマシンガン片手に相手のパイロットに威嚇しているんだから、漁り屋というかただの野盗なんだよね。
「ち、ちくしょぉ! 俺達が何をーー」
「3日前にある集落を襲撃して、壊滅させたよね」
「ーーいや、そりゃ。俺達だって、生きなきゃいけない。真っ当なやり方が出来ないんだから、そうでもしないと俺達の方が……!!」
「あんたらにどんな価値があるってんだい? 奪うばかりの野蛮人がさ~」
「う、うぐ……」
このゲリラのグループを纏めているのか、1人の男性が常に答えている。
同情の余地なんて無い。集落を襲って壊滅させたと言うことは、そこに住んでいた人達を殺しているね。
「そんなあんたらの命でも、大事に思っている人達がいるからさ、とりあえず機体置いてとっととどっかに行きな。そうでないと、数分後にはあんたらの額、撃たれてるかもね」
「「ひぃぃぃぃ!!」」
「わ、分かりました~!!」
そんな事を言われたから、残党の人達は慌ててコクピットから転がり出て、そのまま荒野を走り去って行きました。多分、他の仲間の居る場所は分かっているだろうし、運がよければそこまではたどり着けるのだろう。
ただ、さっきの彼女の言葉に、少し怒りが入ってた。それも仕方がない事だけど。だって、その襲撃された集落には彼女の仲間がいて、残党兵に殺されて、食料やら何やら奪われたからだ。
「全く。国連の和平団とか何だか知らないけれど、こんな小さないざこざは無視するとか、本当にいかれてやがる。そのせいで、こんな奴等が暴れているってのに」
確かに。例の組織は、戦争と名の付くものにしか興味ないのか、内戦やらでも積極的に現れるのに、こういった残党兵が暴れている事に関してはスルーだ。
いったいどんな感覚をしているのやら。
「さってと。モドのおっちゃん、牽引頼むわ」
「…………」
彼女に言われ、ジープを運転している熊の様な男性は無言で頷く。運転技術はさっきの戦闘でも披露したように、かなり荒いのにバランスは崩れず、常に彼女の標準を外さないようにしている。
彼は元々ミルディア軍にいたらしく、ガイナバ=モールドッチという。軍にいた頃は、大佐だったらしい。
そして彼女の方は、そんな彼とは全く違う所にいた。所謂、戦争孤児だ。自分の名前も知らないらしく、物心ついた時には、もう施設にいたそうだ。
だから、仲間の皆からつけて貰った呼び名が、彼女の名前。真っ赤な髪に褐色の肌が特徴的だったからか、クレナイと、皆からはそう言われている。
「ほほ~デコワンじゃん~こいつはまだまだ現役で使えたりするからな~おっしゃ! モドのおっちゃん、ジャンク屋にも連絡しといて~♪」
「…………」
また無言で彼は頷く。
彼女は色々とペタペタ触っているけれど、本来の目的地はその先だからね。
「クレナイ。先行かないの?」
そんな僕の言葉に、クレナイがコクピット内に通信してきた。
『分かってる分かってる~とりあえず、近くを通ってるジャンク屋に話つけるから、それからそれから~』
「分かった」
再度チューっとボトルに入った飲み物を飲み、コトンとボトルホルダーに置くと、外の景色に目をやった。
「……何にも変わらないなぁ」
荒野を駆ける漁り屋ジャンク・ルックアレードは、生活の為に使い捨てられた機体を漁り、生計を立てていた。
そして次に向かった先で、奇妙な機体を発見する。
次回 「2 打ち捨てられた機体」




