表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 1
8/105

1 総督とその息子

 ある基地内にて、オルグは不服そうな顔で椅子に座り、机の上の資料に目を落としていた。

 その机の上にはもう一つ、白い仮面が置いてある。暗がりの中、彼の顔は良く分からないが、年若そうな雰囲気ながらも、尖った気迫さもある。それが不機嫌そうに、机の上の資料を睨んでいる。


「よもや、この私が……片腕を落とされるとは。あの機体に乗っていたパイロット……訓練兵とは思えん。アルツェイト国の隠し玉か? いやいや、それにしては……」


 今まで、敵兵から生存されたのは、レイラ少尉1人。それが1人増えてしまったのだから、心は穏やかではない。オルグは、今現在分かっている情報を集め、次の対策を立てていた。


 そんな時、部屋に誰かが入ってくる。


「少佐。総督からですが」


 どうやら、オルグ宛の通信のようで、それを部下が報告に来たようだった。

 嫌味のようなお小言を言われるだろう。そう思いながら、オルグは椅子から腰を上げ、机に置いてある仮面を取り、顔の上だけに取り付けた。この仮面は、目元だけを隠す仮面であり、身分を隠すには打ってつけの物であった。


「分かった。行こう」


 そして、黒い軍服を整え、出入口へと向かう。

 正直、あまりいい話にはなりそうにないが、それでも行かねばならないのが、兵士の辛いところ。何とか挽回の手を考えねば……と、部屋から出たオルグは、廊下を歩きながらそう考えていた。


 ◇ ◇ ◇


「してやられたな、オルグよ。黒い凶星の異名は、名ばかりか?」


 たった1回のミスくらいで、この総督は非常に立腹していた。

 通信機から見える顔は、如何にも不服そうだ。ただ、こちらは軍人。逆らう事は許されない。自分の立場からしたら、尚更だ。


 歳を重ねた総督は、もうかつての栄光にしがみつくだけの、厄介な重鎮へと変わっている。

 軍帽に付いた紋章も、軍服の襟に付いた煌びやかな勲章も、ただ付いているだけであり、痩せて恰幅の良い身体は見る影も無くなっていた。

 ただそれでも、威厳だけは当時のままだ。疲れの見える顔も、自分達がしっかりと成果を出さなかったせいとも言える。


「申し訳ありません」


 その横には、総督の息子が立っており、嫌味たらしい笑みを浮かべている。


「あの機体は、アルツェイト国にあってはいけない。あの国は、四皇機の再現を企てておる。何としても、奪うのだ」


「……はっ。その為に、再度作戦の練り直しをーー」


 オルグが膝を突き、頭を下げながらそう言おうとした時、総督の息子が声を上げた。


「作戦作戦ってね~こちらとしても、タダで戦ってるわけじゃないんだぁ。分かるぅ? ん~? もっと効果的な作戦の立案と、計画書の提示をお願いしたいものだねぇ~」


 金色の髪を後ろに流し整え、高そうな服に身を包んだ総督の息子は、本当に意地悪そうな笑みと言葉で、オルグを責め立てている。

 それをオルグは、眉一つ動かす事なく、黙って聞いている。


「ギルムよ。あまり噛み付くな。それだから、未だお主に総督の座は譲れんのだ。実力でなら、オルグの方が上だぞ」


「はいはい。わぁかってますよ~」


 総督の息子のギラついた青い目が、オルグを睨む。

 彼はその地位に甘んじ、好き勝手しているのが目に見えていた。


 それでも、オルグは何ら怒りを覚えることもなく、淡々と話す。


「ギルム様の言う事もごもっともです、総督。ですから、いくつか作戦を立て、計画書をお送りします。宜しいですか?」


 実は以前からそういうことはしているのだが、オルグは分かっていた。この息子が、その計画書に目を通していないことに。

 それなのにそんな事を言い出すものだから、返答をどうしたものかと考えたが、言い返すのではなく、ただ言われた通りの事を返答するだけで良かった。


 要らぬ反論は反感を買う。


 オルグの心には、静かな青い炎が燃えていた。


 ◇ ◇ ◇


 会議室から出たオルグは、早速今書き終えている作戦案を数枚、本部の方へと転送した。が、これも無駄な事だと分かっていた。動くのは現場。本部に送った所で、何ら意味はない。

 ただ、補給物資等を要求する場合は、作戦書も同時に提出すれば、早くに許可が下り、補給物資が送られる事がある。


「さて……どうなることやら」


 実際、先の戦闘でいくつか機体をやられている。修理するにも、部品がいくつか足りない。あの体たらくの息子を立て、尚且つ補給物資の要求も出来るのだから、一石二鳥ではあった。


「お疲れさまです、少佐。しかし、良くギルム様の発言を我慢出来ますね」


「我慢しているのではない。子供の戯言と聞き流しているのだ」


「それはそれは」


 一仕事終えたオルグに、部下が話しかけてくる。総督の息子、という地位だけで、やはり多くの軍人には認められてはいなさそうだ。


「それと、先日の作戦での敵機のデータですが。例の『シナプス』に乗っていたパイロットのデータも、戦闘記録から出ました。結論から言うと、訓練兵ではないと出ました。少佐相当、もしくはそれ以上……と」


「ふ~む。それなら尚更おかしい。あの時確かに、私はあのパイロットに若さを感じた。熟練の兵士という感じでは無かったぞ」


 コツコツと、長い廊下を歩きながら、オルグと部下は話していく。


 先日の戦闘から、自分の勘だとしても、明らかに戦闘慣れをしている様子はなかった。

 それならば、何故あのような動きが出来たのか? そう考えた時、オルグは一つだけ、嫌な可能性があることを思い出した。


「まさか……あの技術か? とうに失われ、久しいというのに……誰かが文献から再現したのか? そうだとしたら、新たにそれを持つ者が沢山現れる」


 顎に手を当てながら、その嫌な可能性を一つ一つ思慮していく。


「あの技術を……となると、ケモナー発祥の地、東の果ての島国『ヒノモト』が関係しているのか? いやいや、あそこの国内は既に腐敗している。傭兵産業でしか成り立っていない。あり得ないな……」


「少佐?」


「あぁ、失礼。君、後日補給物資が来るかも知れないから、準備の方を」


「はっ! 少佐も、少しは休まれてください。では」


 オルグの言葉の後、部下は敬礼をし、そう言い残してその場を後にした。


「休み……か。そうだな、たまには買い物や外食等、するべきだろうが……ふむ」


 流石に自分でも、根を詰めすぎていたのは分かっている。それなら丁度良い。どうせ次の作戦を開始するには、補給物資が届いてからではないと無理だ。

 オルグは天井を見上げ、ふぅっと1つため息を突き、ボソリと呟いた。


「ニア。君が生きていたら、不甲斐ない私を叱るだろうな。いや、叱って欲しいものだ。らしくない、この私を……な」


 亡き恋人の名を告げ、オルグは再び戦士の顔になる。

 例えどれだけ理想を並べようと、呆気なく潰されるものなのだ。今の自分はただの戦士であり、軍に所属する1兵士だ。淡い想いも期待も、とうに捨てた。


 ただどうしても、時々こうして思い出してしまう。あの時の平和な日々。そして、燃える業火の苦しい記憶。


 顔を少ししかめたオルグは、またため息を突き、額に手を当てた。


「……あぁ、いけないな、これは。そうだな、1兵士として、傷を癒しておくとしよう。兵士と言えど、休息は必要だ。部下に言っておきながら、私が実践しなければ示しがつかん。さて……丁度見たい劇場があったな。明日あたり、ニューオーグの街へと向かうか」


 そう言うと、オルグは自分の部屋へと帰っていく。頭に先日のパイロットの声を響かせながら。


「しかし、似ていたな……あの声。ニアに」


 嫌な予感がもう1つ増えたオルグは、これ以上は何も考えないでおこうと、そう決めてゆっくりと歩いていった。

報告を済ませ、気の重くなる中、オルグは気分転換へと出掛けた。


一方その頃、コノエ達は本部へ向かうため、順調に航行していたが、こちらもまた、コノエの対処に悩んでいた。


次回「2 あなたは女の子」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 総督の息子って赤いスーツを上下に着てベルトの色は黒、目元だけを隠す白い仮面をつけて白いヘルメットを被っているのでは? (シヤ(←小文字)ア・アス゛ナブルの格好)
2021/12/16 17:01 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ