3 ミルディア優勢
イナンナの大将ゲルシドは、何か重大な事を知っているようなのだが、それでもミルディアとイナンナの全面戦闘は始まった。
ミルディアの首都近辺にて、ミルディアとイナンアの戦闘は始まり、様々な宙域で爆発が起こり、地上でも歩兵や機体が隊列を組んで攻撃を始めている。
その中で、一際多くの敵機を倒している機体がある。
『くそっ! オルグだ! 黒い凶星の!』
『か、敵わないとしても、少しは消耗をーーう、うわぁぁ!!!!』
『隊長!! おの……ぎゃぁぁ!!』
「感情的になる前に動いたらどうだ?」
隊長クラスの機体を落とされ、バラバラに攻撃をしてくる相手機を、ばっさばっさと斬り伏せていき、遠くの敵にはレーザーライフルで撃ち抜く。
この機体には死角がないのかと思う程に、後ろからの敵の攻撃にも反応し、直ぐに体勢を立て直して反撃をする。無駄が一切なく、洗練された動きに、少しばかりかじった程度の戦闘スキルを持つゲリラでは、全く太刀打ちが出来ていなかった。
『ひゅぅ~大将、飛ばすね~』
そこから少し離れた右手側では、グランツがヒト型のラフ・ティガーを駆り、敵の機体を見るも無惨な姿に変えている。
「新しい武器の調子はどうだ? グランツ君」
『まぁ、ボチボチだな。リーチはあるが、隙が出来やすいぜ。が、俺のラフ・ティガーのスピードを持ってすれば、これくらいならカバー出来る。慣らすにはこの戦闘が丁度良いな~』
そのラフ・ティガーは、大きな薙刀を携えていた。
くるくると回しながら敵の攻撃を交わし、返す勢いで相手機の胴を真っ二つに切り裂く。
『ちっくしょ……次世代機のギアシリーズが……ラぜル・ギアが……なんで、こんな簡単に……あぁぁぁ!!!!』
大きな翼の様な形をした両腕に、平べったい頭部、そして厚めの胴をした相手機は、一撃一撃が広範囲で威力も高いカノン砲と、連射力の高いビームマシンガンを備えているが、黒いハコ機と虎のビースト・ユニットによって、圧倒されてしまっていた。
『大将。上の戦艦はどうする?』
「あぁ。ここまでの戦艦を、ゲリラが用意出来るとは思わなかったな。あのレベルの戦艦がようやく配備されるようになったのは、我が国でも数十年前からだからな」
『同時に飛行能力を持つ機体も開発が始まったが、大きいのから小さくするのは難しいんだよな~流石にゲリラは持ってねぇな』
だいたいが戦艦の本体か両翼に、数機の機体が張り付いていて、そこから銃撃をしている。故に、戦艦を落とすと芋づる式に、相手の機体も何機か落とせる事になる。もちろん、直ぐに脱する術はあるが、そこも一緒に封じてしまえばあっという間である。
ということで、2人は揃って戦艦の方へと狙いを付けた。
『あそこまでどう行こうかねぇ』
「ふむ。高い崖もない、ビル等はもう少し中心の方。となると、これしかないか」
『了解。合わせるぜ、大将』
お互いにそう言うと、先にオルクが腕の四角い一部から、細くて頑丈に作られている特殊なワイヤーを飛ばす。その先には、壁等に打ち込めるように、鋭い小さな槍が付いている。
それを、上空を飛ぶ戦艦の底へと打ち付けると、ワイヤーを巻き取り、自身の機体を浮かして戦艦へと突撃する。その後を、物凄い脚力で跳び上がったラフ・ティガーが続く。
『なっ! お、落とせ! 落とせぇ!!』
当然、戦艦の艦長がそれに気付かないわけはなく、迫ってくるオルグの機体を撃つよう指示を出す。
同時に、オルグに向かって次々とレーザーライフルが放たれ、彼の機体へと迫るがーー
『それをさせない為に俺がいるんだよ!』
先程よりも早い速度で薙刀を回し、まるで扇風機の様な早さで、飛んできたレーザーを弾き飛ばしている。それから、オルグは機体の腕の部分から、大きなビームサーベルを出現させ、それを前に突き出して突撃する。
『ひっ……!!!!』
それはあっという間の出来事で、物凄い速度で、敵戦艦の底面から突き刺して貫通させ、一筋の黒い星のようになってオルグの機体は敵戦艦を撃墜させた。
その戦艦に乗っていた機体は、半数は何とか脱出しているが、残りは爆発に巻き込まれた。
『く、くそ! あいつを止めろ! 戦艦何隻かで挑めば落とせるはずだ!』
その様子を見ていた他の戦艦の艦長が叫ぶ。
あの機体を落とさねば、イナンアの勝ちはない。だからこそ、率先してオルグを狙ってくる。それは彼も分かっている。だからこそ、単機でここまでの動きが出来るよう、常人では扱えないレベルの改良を、このハコ機に施している。
その行動に合わせられる者は、殆どいない。虎のビースト・ユニットを駆る、彼以外には。
『ひゅぅ~病み上がりとは思えねぇな~さっすがだぜぇ! っとぉ! そこだな!』
そんなグランツも、周りを敵機に囲まれ、次々と射撃されているが、それを交わしながらグルリと身を捩るようにすると、そのまま勢いを付けて薙刀を横に大きく振り払う。
『なっ……ぎゃぁ!?』
『ぐああぁぁ!!』
『ひぃっ!! た、助け……!』
『こいつもバケモノだぁ!!!!』
たったそれだけで、周りを囲んでいた敵機を全て切り裂きあっという間に撃墜させた。パイロットが脱出する隙も与えず、確実に敵の戦力を削っていた。
「グランツ君、次の戦艦だ。ゲルシドの乗る戦艦近く、あの辺りをこじ開けるぞ」
『了解~道さえ出来れば、後は何とかなるからな。俺達は、その道を作るだけだな』
「いや、出来たら私達でゲルシドを倒す」
『おぉ、そうか。分かったぜぇ。それなら、俺も全力で行くぜ!』
そうグランツが答えると、彼の機体は先程よりも更に動きのキレが良くなり、攻撃の威力も格段に羽根上がった。
『DEEP起動。強制終了まで、アト40分』
「おぉ、そこまで性能が向上したのか」
『おうよ。日々技術者は改良してくれるからな。それでも、ここまで伸ばせたのは俺が初らしいぜ。まぁそんな訳だからよ、俺の事は気にせずに突っ込め、大将!』
「あぁ、そうさせて貰おう!!」
そして、黒い機体と獰猛な虎の姿をした2機の機体は、敵部隊を次々と壊滅させていく。
◇ ◇ ◇ ◇
グェンヤーガ総督の乗る大型艦では、戦況が逐一報告されていく。現状ではこちらが押している。
所詮はゲリラ。寄せ集めでしかなく、訓練をさせていたとしても、装備にかけられる金銭面の差や、整備が出来る環境の少なさ等、正規軍に比べたら圧倒的に劣る部分が多い。
それにも関わらず、ゲルシドは正面から戦闘を仕掛けてきた。ということは、確実にミルディアに味方がいる、スパイがいるということにもなるが、それは自分の息子であることは分かっていた。
ただ、決定的な証拠はなく、何とでも言いくるめる事が出来る状況だった。だからこそ、逃げ場を無くして打って出るしかない状況にしたのだが……。
「バカ息子は動かんのか」
「はっ。首都の軍施設から、一歩も出ていないそうです」
「ふ~む。ゲルシドを失っても問題ないということか。いったい何を考えているのやら。いや、そもそもイナンアから先に仕掛けて来るとは思わなかった。どんな取引をしたのだ」
自分の息子ながらに、考えても答えは出なかった。自分はこの国を納めることに忙しく、子育ては全て母親か乳母、後は執事やメイド、教育係の者に任せていた。父と子としての時間を過ごした記憶はない。だから、読めないのだ。
「……もう少しばかり、父として接する時間を増やすべきだったか」
「はい?」
「何でもない。少し、首都の方にも圧をかけろ。無理矢理でも出撃させれば、ゲルシドと繋がっているか分かる。やはり、現行犯でなければな」
ポツリと、らしくない事を呟いてしまい、側近に聞かれぬ様に誤魔化した総督は、オルグの方と通信を繋いだ。
「どうだ、そっちは。ゲルシドは動くか?」
『はっ。こちらも、未だに動きは……もうだいぶ戦艦を沈めました。戦力は確実に減らされているはずですが、まだゲルシドの大型艦は動いていません。我々はこのまま、ゲルシドの大型艦にーー』
「いや、戻れ。オルグ、グランツは私の防衛に回れ」
『は、しかし……』
「急げ。何やら嫌な予感がする。的中してしまえば、私の命はないぞ」
『分かりました。グランツと共に、総督の大型艦防衛に回ります』
通信を終えると、グェンヤーガ総督は背面に深くもたれかかり、大きくため息をつく。
「杞憂なら良いのだが。これも全て、バカ息子の思いどおりになっているのかも知れん。それだけは、何としても避けねばな」
言い知れぬ不安を拭いきれない総督は、1度攻めを緩めて見ることにしたのだ。その代わり、守りを鉄壁に、完璧な状態にして。
それでゲルシドがどう動くか、ギルムがどう動くのかを見極めてから、隠している別動隊に奇襲を仕掛けるつもりでいた。
その別動隊の動きを悟られていなければ、自分の勝ちは間違いないはずだ。グェンヤーガは、目の前の自分の机に目を落とし、ある場所をグルリと円で囲んだ。
「さて……このまま終わるのか? ゲルシドよ」
圧倒的な戦力差から、既に決着が着きそうな状態へと向かう。スピード決着かと思われた所で、総督グェンヤーガは自身の防備を固めさせた。
果たして、それが吉と出るか凶と出るか。
次回 「4 ディア・イフリート起動」




