2 全面衝突
様々な者達の思惑により、事態は新たな戦いへと進んでいく。
ミルディア首都の周りは、現総督グェンヤーガが労いに周り、殆どが総督への忠誠を確かにしている。
外堀を埋め、逃げ場を無くしてから、ギルムを追い詰めるつもりだ。
ギルムが現状を突破するには、この方法しかないという所まで追い詰めていく。
それは、ゲリラ部隊イナンアを差し向け、総督の背後から攻め入り挟撃する事。
「さて……そう上手く、ギルム様が尻尾を出すのか」
「あのサムライの機体に乗っていた嬢ちゃんが言うには『ゲルシド様は信念を持って、総督へ戦いを挑む』って事だったが、ギルムと繋がっているなんて言うかねぇ?」
「結局、上手くあしらわれてしまったな。ロケットへの攻撃も、何かのカモフラージュなのだとすれば、スピルナーの襲撃を押し止める必要があったのか。来ると分かっていても、やらなければならないこと……か」
首都から離れたある街の軍施設では、戦闘準備が行われており、いつでも発進出来るように皆慌ただしく動いている。
その中で、会議室の椅子に座り、目の前の机に広げた資料を見つめ、コーヒーを片手に現状分析をするオルグと、ココアを手にして情報を伝えるグランツの姿があった。
「問題が、スピルナーの差し金が誰なのかだが、イナンアでもなかったな。それじゃあ、スピルナーが来ると分かった理由はなんだろうね。誰からの情報だ?」
「そうだな、そこは教えずに立ち去ったな。当然、私達の追手を妨害する煙幕と、電波妨害セットでな」
総督とぶつかるという手前、あんな所で兵を削る訳にもいかなかったのか。それでも、あそこでオルグを落としておけば、勝ちは近付く。
勝てないと踏んでの撤退か、別の目的の為の撤退か。ゲリラ部隊イナンアにしては、読めない行動だった。
「ふぅ……イナンア突破の鍵。もしかしたら、そこにあるのかもな」
「サムライの嬢ちゃんが来なければ……」
「別の目的があると見た方がいい」
「それ、総督へ伝えるか?」
「そうだな。ただそうだとしても、やることは変わらないだろう。イナンアを潰すというものに、変わりはない。残党として潰す事になるだろうから、何も変わりはないのだが……」
どうにも引っ掛かる。
それでも、今は一兵士として戦わないといけない。何かの罠だとしても、力で突破するしかない。証拠も、証明も出来ない。誰かしら何かしらの情報を持って来てくれれば、それを持って総督へ進言が出来るが、現状では難しい。
「全て、私の憶測でしかない」
「……結局、俺達は戦うだけか」
その数時間後、グェンヤーガ総督が会見をし、全国民へのメッセージを伝えた。
◇ ◇ ◇ ◇
『戦乱の中、いち早く戦いを終えてくれと望む国民の為、我々は苦渋の決断と、決死の攻勢に打って出る事にした。先ずは愚息の行った、自国を売ると同意の行為を罰する為、首都にある軍施設を包囲した。この状況下にて、ある事が起これば、愚息を処刑せざるを得ないだろう。私は、そうであって欲しくないと願う』
総督の会見により、国民達はざわつく。
確かに、総督とその息子の不仲は国民も知るところだが、ここまでの事になっているとは予想だにしていなかった。だからこそ、バカ息子も慌ててイナンアに協力を要請するかと思っていたが。
「……ふむ。どうやら、そこまで愚息という訳でもなかったか。全く動きがないとはな」
イナンアとの繋がりは確実であり、技術提供の証拠はあるものの、ガンマ社の社長がギルムだということを国民は知らない。いや、知られていなかった。というより、社長は別の人間が名乗っているからだ。
つまり、ガンマ社が技術提供をしていた証拠はあれど、ギルムと直結させる事が難しかったのだ。
故の強行策。あまりにも強行過ぎるのは分かっていたが、イナンアの恐怖は日々国民の不安を募らせていた。いい加減に何とかしなければならない。
「オルグよ。イナンアの動きは」
『はっ。未だに姿はありません。各地でゲリラ活動はしていますが……いや、これは!』
通信機からオルクがそう言うが、直ぐに何かを捉えたようで、声を荒げている。
『大型戦艦多数接近。どれも我が軍の大型戦艦、グリンド級戦艦です』
「ほぅ。来たか。機体は?」
『機体展開はまだです。如何します?』
「総員、第一種戦闘配備で待機せよ。向こうの奴と話をしてみようか」
この時点でミルディアの国境に侵入している。つまり、国境に展開した隊は全滅させられた。もしくは、ギルムの手引きで別から侵入したかだ。
よって、この時点で有無を言わさずに攻撃を開始してもいいもの。しかし、グェンヤーガには何としても、イナンアとギルムの直接的な繋がりを、その決定的なものを手にしておきたかったか。
それを使い、息子を2度と逆らわせないようにも出来る。追放も出来る。いかようにも出来るのだ。弱味を握るというのは、それだけの強みがある。
しかしそれも、こちらに甚大な被害が出ない程度にしないといけない。
既に首都や首都近辺、そして戦闘になり得るであろう地域の人々には、ミルディアの国の端の方まで避難させている。
ここが、ミルディアの転換点。
「そちらの大将は?」
『私だ、グェンヤーガ』
「ほぅ。ゲルシド。貴様自身が来るとはな」
『ラリ国のあの街での戦闘、ミディット街事変以来だな』
「あの時はまだ小佐だったな。偉くなったものよ。が、それも最早過去のものだな。ゲリラの大将とはなぁ」
既に2人は顔見知りであり、どう動くかの予測はお互いに立てていたようで、慌てる様子もなく淡々と話している。
「一応聞いておこうか。貴様らゲリラが侵入出来ないよう、国境近くに艦隊と部隊を用意していたが。どう突破した?」
『教えんよ』
「そうか。そうだろうな。さて……そうなるともう、戦闘で語るしかないが」
『その前に、1つ答えろ。グェンヤーガ』
「なんだ?」
グェンヤーガが先に仕掛けようとした時、今度はゲルシドが彼に問いかけてきた。戦力差は圧倒的、故に向こうの質問も1つくらいは答えてやろうと、彼はそう思っていた。
しかし、ゲルシドから飛んできた質問は、グェンヤーガが首を傾げる程に奇っ怪な質問だった。
『貴様は、この銀河の役割を知っているか?』
「…………」
はてさて、いったい何の事なのか。グェンヤーガにはサッパリと分からない質問だった。
「神話の話でもするのか? そうだとしたら、相手を間違えておるぞ。酒場の女を口説く時に使うんだな」
『……知らない。という事でいいか?』
まさかの真剣さに、グェンヤーガはため息をつく。
「やれやれ、見損なったよ。君程の男が、銀河創世の話をするのか? そんな大昔の事にかまけている程、私も暇ではない。そんな話をしたいのなら、あの世でするがいい!」
『……良いだろう。それならば、予定どおりにさせて貰おう。所詮お前も、奴等に踊らされているということだ。この銀河の役割を知っていれば、この星の人間同士で争う等と、そんな無意味な事はやらないのだがな』
「貴様も仕掛けている側だというのを忘れているのか? どうした? 戦いばかりで呆けたか?」
『違う。我々は、解放するのだ。支配され、囚われているこの星の人々を、ここから解放するために戦っているのだ!!』
「何のことだか分からぬな。戦いばかりを仕掛けるものに、思想等もありはしない。ここをお前達の終点とさせて貰おう」
『ミルディアは、ここで終わりだ』
「総員出撃せよ!!」
『全隊、出撃!! ミルディアを、グェンヤーガを葬り去る!!』
2人の男が叫び、同時に艦隊から多数の部隊が出撃し、互いに撃ち合い、戦闘音が鳴り響き出した。
二つの勢力の決着となる戦いが、今巻き起こった。
戦いは避けられない。2つの勢力が激突し、存亡をかけた戦闘が行われる。
次回 「3 ミルディア優勢」




