12 離脱
クーデターにより、アルツェイトの軍はバラバラになってしまった。パーツ大臣は死ぬことなく、王家の生き残りであるアルフィングを捕らえようとし、更にはコノエを殺そうとしてくる。
そしてコノエは……。
脱出した僕はシナプスに乗り、一旦アルフの後に着いていき、ジ・アークの所まで向かった。
後ろからは、さっきの飛行艇からパーツ大臣の声がスピーカーから発せられる。
『アルツェイト軍、ルーグ派の奴等がクーデターを起こした! 私は無事だったか、何人か犠牲となった! 首謀者のルーグは撃ち取ったが、その友人であるアルフィングはまだ生きている! 逆賊を許すな! 平穏と和平を望む我等に、このような恐怖を与える奴等を、決して許すな!!』
う~ん。そう言うなら、沢山出撃させたその機体も、戦争という恐怖を引き寄せる物になるんだけどね。
アルフ達が乗っている機体とは違い、パーツ大臣の乗る飛行艇から出てきた機体は、どれもゴツくて太い。当然飛べないから、そのまま地面に着地してホバーで迫ってきている。
ただ、両肩にあるバズーカー砲がかなり大きい。あれは凄い威力がありそうだよ。
「とっ……!!」
何て言っていたら、スッゴいスピードで砲弾が飛んできて、僕の目の前に落ちて大爆発を起こした。
ここ、一応まだ市街地だよ。街の人達はスピルナーの襲撃で外に逃げているけれど、建物は出来るだけ壊さない方が復興しやすいでしょうに。
「わぁ、しかもこれナパーム弾ですか。爆発と炎上を同時に起こすなんて、どんな改良をしているの」
何とか距離を取ろうと思ったら、目の前が火の海だった。全く、厄介だな。あれは。
そんな時、上空からジ・アークがやって来て、アルフを回収した。いや、よく見たら何かおかしい。ナイト・ユニットが鎖でグルグル巻きにされてる!
「アルフ!!」
『おっと。抵抗はそこまでにして、大人しく投降しろ。危険な逆賊が』
そして、ジ・アークからジュイル艦長の声が響く。まさか……ジュイル艦長はアルフを王として、王権を復活させようとしていたんじゃないの? それこそ、ルーグと同じ立場かと……。
『おぉ、ジュイル中将。流石だ。そのまま、あの逆賊も打ち取れ』
『分かりました。ですが、このアルフィングは私めにお任せを。何せ、立場上は私が上官となりますので。それに、彼はルーグの友人というだけであり、クーデターに加担はされていないでしょう?』
『……いいや、危険分子は排除しなければな』
『そうですか。それでは、処遇は私にお任せを』
『いいだろう』
「…………」
あぁ、何となく分かった。
そうか、ジュイル。君はルーグ派じゃない。だけど、パーツ派でもない。君は君のやり方で、アルフを王にしたてようとしているんだね。
どっちにしても、この状況だと僕は完全に用済みじゃないかな。
『さて。あれも回収しよう。パイロットは危険過ぎる。あんなシステムを独自で組み込むとは考えられない。何者かの意図を感じる。ジュイル中将。パイロットを殺し、シナプスを奪還せよ』
『了解しました』
「……それなら、僕はこのままさようならさせて貰うよ。このシナプスを、君達に使わせる訳にはいかないからね」
もう心は決めていた。
アルツェイトには協力出来ない。今のジ・アークにもいられない。それなら僕は、このまま抜けさせて貰う。もちろん、そう簡単ではないだろうね。
『コノエ!! 貴様、私達の敵になるのか?!』
ジ・アークからレイラ隊長が出て来て、ケモノ型の状態で走り出し、僕の横から突撃してくる。
大きなブレードで脚を狙っているか。シナプスは回収となっているから、落とす訳にはいかないだろうね。そこを突けば、ここから逃げる事は出来そうだけど。
「おっと」
レイラ隊長のヴォルヴォの動きは鋭いし早い。オルグと張り合っているほどなんだからね。
身を低くしてブレードは避けたけれど、後ろ足の蹴りは避けられないね。受けるけれど、ダメージは最小限に、後ろに跳んで距離を開ける。炎に突っ込まないようにもしないと。
『コノエ、答えろ!! お前は私達の敵にーー』
「そうだよ。僕は、あなた達の敵だ!」
『……っ、そうか。言ったはずだぞ。敵になるというなら、容赦はしないと!』
「……」
レイラ隊長の威圧が物凄いのは分かっている。敵として認識した時、それが更に大きくなるなんて。
『ふっ!!』
そして、僕の視界から消えたレイラ隊長は、一瞬で僕の後ろに回り込み、両手で押さえ付けようとしてくる。厄介だよね、こんなにも強くてブレない人は。
「ごめん。レイラ隊長。だけど、僕の心が、君達を許さないんだ」
そんなレイラ隊長の動きが見えているんだ。避けるのは容易いよ。後ろ足の跳躍だけで飛び上がり、僕は目の前の炎を飛び越える。
『なにっ!? そんな跳躍力、今まで見せた事……いや、またそのシステムか』
対峙した時は起動していなかったけれど、後ろに回り込まれる前にD・Aシステムを起動していたんだよ。こうなると、レイラ隊長でも僕を捕まえられない。
「今までの恩がある。君達を倒したくはない。殺したくもない。邪魔しないで。僕は僕の方法で、この戦争を終わらせるから。君達の邪魔もしない」
『黙れ』
そうだろうね。そんなので納得しないだろう。だけど、僕の精一杯の誠意を伝えるしかない。そうしないと、皆は僕を殺しに来る。パーツ大臣の言いなりになってね。
ジュイル艦長がどう動くか分からないけれど、彼もしばらくはパーツ大臣の言う通りに動くだろう。
ジ・アークからは、他の皆の声も聞こえる。何とかして僕を制止しようとする声が。
『コノエ! あんた嘘でしょう! 何であんたそんな……そんなの、弱虫のあんたには出来ないでしょう! 戻ってきなさい!』
『コノエさん! 駄目です! チャオさんに続いて、あなたまで居なくなるなんて、そんなの駄目です!!』
コルク、ツグミ。皆もそれぞれ叫んでいる。皆そこまで、僕の事を気に入ってくれていたの?
「皆、ごめん。だけど、僕は行くよ。このままアルツェイトに居ては駄目だから。大丈夫、ミルディアに行く気もないから」
『そういう問題じゃないのよ!!』
コルクが泣きそうになりながら、必死に僕を留めようとしてくる。だけど、駄目だよ。
それに、出来たら君もそこから降りて欲しい。でも、君には君の事情があるからね。無理強いは出来ない。
「さようなら」
レイラ隊長も炎を回り込んでやって来る。このまま戦い続けると、今度はパーツ大臣の部隊がやって来る。1人でアレをやるのは流石に骨が折れるし、消耗してしまうとこっちが捕まる。だから、最速でここを離れる。
『なっ……!!』
背中のブーストを大きく広げ、最大威力で一気に加速。大きく跳び上がった僕は、市街地の半分を跳び越え、更にもう一回の跳躍で街の入り口の塀と門を跳び越えた。
そこからホバーを使い、ブーストの加速で一気にベイザルムールを離れた。
通信ももう途絶え、何も聞こえない。
さて。ここから何処へ向かおうか。スピルナーもだけれど、アングラーの動きも気になる。それと、僕の記憶だ。まだ男の時の記憶は完全には甦っていない。その戦い方だけが、頭の中に浮かんだ。
調べないといけないね。色々と、分からないことを。戦争を止めるのは、それからにしないといけないかな。そうじゃないと、ブレてしまいそうだ。
今、ジ・アークから離れる時も、心苦しくはあったよ。そこまで、情というのが戦争に大きく関わってくるなんてね。
祖国の想い、恩返し、裏切り、憎しみ。様々な情の中で、戦場は様変わりしていく。
自分をしっかりと持たないといけない。ここからはもう、流されちゃいけないんだ。
「行こう、シナプス。君のオリジナルを見つけるまで、僕の手脚になってね」
アルツェイトから出る為、森の中を駆けながら、僕はシナプスにそう呟いた。
ここから、長くなりそうだ。
皆が止める中、コノエはジ・アークから離れる事を伝え、ベイザルムールから離れた。1人、この戦争を止める決意を固める為、まだ甦っていない、男性だった時の記憶の手がかりを探すことにした。その手がかりの1つ、シナプスのオリジナルであるシナプス・オメガを見つけるために。
次回 新章 「1 大きな戦いの前兆」




