11 ベイザルムールのクーデター
今回の出来事に心当たりがあると言うアルフィングに着いていき、議事堂へと潜入するコノエ達は、この混乱に乗じてあることを行おうとする者を見つける。
議事堂に着いた僕とアルフは、機体から降りてその中へと入っていく。シナプスはいつもの状態に戻している。あのシステムは、中途半端なDEEPと違って、エネルギー切れで動かなくなることはないからね。
それから、長い廊下を小銃を抱えて走り抜ける。何人か政治家の人達が倒れていて、血を流して死んでいる所を見ると、この中でも何かが起きたんだ。しかも銃創。撃たれた? 誰に? いや、僕でもおおよその予想は出来る。
廊下の先の、広くて大きな扉を開けると、そこには案の定な光景が広がっていた。
長い机と椅子が並び、その前方中央にある大きな机と椅子に座っているパーツ大臣に向けて、ルーグ軍事次官が銃を突き付けている。
「……こんな事が許されると? ルーグ次官」
「それはそうでしょう。軍を甘く見すぎですよ。いや、甘くは見ていないか。厄介だと思っているから、弱体化させているのですからね」
他にも、数人の軍人達が銃を構え、パーツ大臣に向けている。もちろん、パーツ大臣の側近達も銃を向けているけれど、拳銃と小銃だと性能差がある。それでも逃げずにいるのは、側近としてのプライドなのか忠誠心なのか……。
「ルーグ。強行策は駄目だと、あれほど……」
「やぁ、アルフ。いや、アルフィング様と言った方がいいか?」
「止めろ。お前にそういうことを言われるのは、違和感しかない」
「ふふ。そうだろうな。君はそういう人だ。民を第一に考える。それは良いが、そのせいで君の周りの人達はどうなっている?」
「……国民が望んだ事だ。腐った王制より、民主的な方法を望んだのだからな」
「これのどこが民主的だ? 粛清なんてものをして、元王族を苦しめて。ん? どうなんだ、アルフ。心は痛まないのか?」
「…………」
「私はね、君にチャンスを上げたいのさ。君が王となり、再びアルツェイトの王制を復活させる。その方がマシだったんだと、国民に思わせればいい。君なら、過去の過ちはしないだろう? 何故、君は王になろうとしない」
このルーグって人も、ジュイル艦長と同じか。アルフに王家を復活させて欲しいんだ。そうした方が、彼等には利益があるんだろう
「何かと思えば、王家の亡霊か。ほうほう、なるほど。アルフィング、貴様は王家の生き残りだったか。あの粛清の中、どう生きられたのだ?」
「ルーグ……」
「大丈夫だ、アルフ。こいつはもう死ぬ。事実を知ろうと関係ない。あとはいくらでも誤魔化せるだろう」
そんなルーグの言葉に、パーツ大臣は何故か口角を上げて愉快そうな表情をする。
「ふふ。ふふ、ふふはははは!! そう上手くいくと思うか? 国民は王家を嫌っている。悪政を行っていた王家をな!! それを復活させるなど、国民が許すと思うか!」
「平和だ対話だ交渉だと、無駄な犠牲と血を流すのが、善政だとでも言うのか?」
「あぁ、言い方が悪かったか。政に良いも悪いもないわ。結局の所、国を動かす者の思い次第だからね。人によっては正となり、人によっては誤となる。そういうものなんだよ。それを力ずくで変えようとしても、良い結果にはーーがっ?!」
「ペラペラと高説な政治理念をありがとう。ただ、お前はもう退場だ」
「ルーグ!!!!」
撃ったね。パーツ大臣の額に向けて、綺麗に一発で撃ち抜いた。その後、周りの軍人達も側近達を撃ち殺し、この場が一瞬で静かになった。血の臭いが充満しているけどね。吐きそう。
「さぁ、アルフ。始めようか。王権復活へ向けて。これは、そののろしだ」
「…………」
アルフはルーグに向けて、何とも言えない目を向けた。困惑、怒り、戸惑い。そういったのがごちゃ混ぜになっていそうな表情だよ。
とにかく、この国の事にこれ以上首を突っ込むのもだし、僕は僕で確認しないといけない。
「あの。これがクーデターなら、スピルナーも?」
「あぁ。あれは完全にイレギュラーだ。私じゃない」
「え? それじゃあ、あの寄生虫は? 生物兵器は?!」
「生物兵器? ほぅ……あれは、生物兵器なのか? スピルナーが?」
「あ、いや。スピルナーに寄生しているんだ。彼等の意思を奪い、攻撃行動だけをさせるように仕向けられているんだ」
「……ほぉ。それは知らなかった。だから、私ではない。結果的にクーデターをしやすくしてくれたが、あれを仕向けたのは私ではない」
そんな……それじゃあ、いったい誰が。
「たまたまだったよ。いつ行動しようかと考えていたが、あいつらが襲ってきたから、ここしかないと思ったよ。この混乱に乗じてね」
最悪のタイミングで、スピルナーが襲ってきた訳か。それなら、ルーグがそういう動きをすると分かって仕向けた可能性もある。
「……外部の共犯者は?」
「なるほど。残念ながら、それもいない」
それじゃあ、スピルナーは本当に完全にイレギュラーなのか。
「……ありがとう。アルフ、あなたがどうするかは分からないけれど、後悔のないようにね」
そう言って、その場を去ろうとした時、一発の銃声が鳴り響く。
「ルーグ!!」
「あっ、え? な、何故……?」
ルーグの後ろから、彼は胸を撃たれた。胸から血を流し、その場で膝を突き、床に倒れ伏してしまった。
軍人の人達が慌てて近付いて、彼へ応急手当をしているけれど、完全に心臓の辺りを撃ち抜かれているような。
「ふっふっ。残念だったな、ルーグ次官。国民の信頼も厚く、人気のある君を処刑しないといけないのは、心苦しい限りだよ」
「おい、嘘だろう。何で生きてるんだよ。額を撃ち抜かれて、何で!!」
あぁ、それには僕の方に心当たりがある。いや、パーツ大臣にまで施されているのは予想出来なかったけれど、あの状態はミルディアのパイロットで見ている。
「フランケンシュタインの怪物」
「なに?」
「ケモナー施術の為の、肉体の異常な改造、その失敗作みたいな状態の人達がいる。パーツ大臣も……」
非常に落ち着いて、今の現状を見ることが出来るのも、ずっと続いていた頭痛の後からだ。まるで自分が別物みたいに、色んな思考や想いが流れてくる。
それは自分のものだけれども、沢山の人の死を見てきた、沢山の命の冒涜を見てきた、だから許せない。
「残念だが、私は望んで……うん?」
「これ以上、命で遊ぶな」
「私は死なんよ。銃を突き付けても無意味だぞ、小娘」
そうだけど、何でかそうしないと気がすまなかったよ。
だけどその時、撃たれたルーグが最後の力を振り絞って、僕達2人に話しかけてきた。
「逃げろ……こうなったら、この議事堂を爆破する」
「ルーグ、お前も」
「いいや。私は、助からない。だからせめて、お前達だけは……」
そう言いながら、懐から何かのスイッチを取り出した。
この議事堂に爆弾を仕掛けていたんだ。徹底していたね。一応、小声だからパーツ大臣には聞こえてないけれど、向こうもそれくらいの予想はしていると思う。今すぐ起爆しないと、多分間に合わないだろうね。だけど……。
「あいつ、多分それでも死なないよ」
「……だろうな、まぁ意地だよ。クーデターを起こした者の責任さ」
そう言った後、ルーグ次官はアルフに何かを手渡した。
「お前なら、やれるさ。アルフ。こいつを使って、ジ・アークを、あんな奴等なんかに渡すなよ。行け!!」
ルーグ次官がそう叫んだ後、アルフは僕の肩を持ち、ここから逃げるように促してきた。
ただ、それをギロリと睨むパーツ大臣は、僕達を逃がす気は無さそうだ。だけど、ルーグ次官と一緒に来ていた軍の人達が、そのパーツ大臣に向かって小銃を撃ちまくる。
それを合図に、アルフと僕は一緒に駆け出し、議事堂の廊下をまた走り抜ける。
さて。こうなると、ジ・アークもアルツェイトにはいられない。
だけど、僕はあいつもあんまり信用出来ないんだ。新しい艦長のジュイル。彼もこの事を知っていたなら、何でジ・アークをもっと議事堂近くに待機させようとしなかったのか。
軍とはいえ、そこも一枚岩ではないって考えたら、ルーグ派とかパーツ派とか分かれていそうだ。
ジュイルはどっちだ? もしかして、彼はどちらでもなくて、自分の考えを持ち、独自で行動しているのじゃないか?
嫌な予感がする中、僕達は議事堂から脱出する。その瞬間、議事堂の色んな場所から爆発が起きたけど、議事堂の裏手から1機の大きな飛行艇が飛び立った。アルツェイトの国旗がはためいているから、お偉いさんが乗るやつだろう。つまり、パーツ大臣も脱出した。
これ、色々と最悪な状況だよ。ここでミルディアに攻められたら終わるよ。
事態は急転直下し、最低最悪の状況になってしまう。このままでは、ジ・アークの存在もクーデターの一部として考えられてしまう。新たな艦長がどう判断するにもよるが、とにかくこの場は逃げざるを得なかった。
次回 「12 離脱」




