表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 5
73/105

10 限定的な生物兵器

 アルツェイトに惨劇が巻き起こる。その中で、チャオが命を落とす。ケモナーはその特性上、もう1度の施術は出来ない。甦らせる事は出来ない。チャオの死を前に、コノエは頭痛が続き、あることを思い出していた。

 シナプスに乗った僕は、いつも通りに起動する。プラグが尻尾に包まれ、全身の感覚が広がっていく。


「……シナプス。君はレプリカだけれど、根っこの部分は同じはず。あのシステムが組み込まれているんだから、きっと……」


 ゆっくりと深呼吸をして、シナプスを立ち上がらせると、通信を繋いだ。


 通信からは、レイラ隊長の叫ぶ声と、アルフの声も聞こえてくる。ツグミは、ちゃんとチャオを安置室に置いてくれているはずだから、発進のオーダーは……いや、レイラ隊長で良いか。


「レイラ隊長。僕です」


『ん? コノエか?! コート女医の所はどうした?』


「途中でこの有り様です。あと、チャオが僕を庇って死んだ」


『そうか。今は緊急時だ。シナプスを動かせるのはお前だけだからな。泣き言の前にーー』


「えぇ。分かっています。あいつらを蹴散らすので、出撃許可を」


『……コノエ? お前、本当にコノエか?』


「え? 何か? 僕ですけど。えっと、識別コード……」


『あぁ、いや、いい。声で分かるが、何というか、落ち着き過ぎていないか?』


 そうかな? 僕はいつも通りにしているつもりだけれど、確かに周りから見たらおかしいのかもしれない。


『分かった。出撃してくれ。今押されている。流石に相手が空中では分が悪い。ジ・アークを発進させ、それを中心に部隊を展開し、蹴散らす予定だ。我々はーー』


「あ、はい。大丈夫です。蹴散らします」


 とりあえずここまではスムーズにいけた、けれど……。


『待て。現場の最終決定権は艦長である私だ、勝手に進めて貰っては困る。キッチリと指示にしたがっていただかないとね』


 ジュイル艦長が間に入ってきて、当然のようにそう話してきた。確かにそれはそうだった。


「ジュイル艦長」


『格納庫での話は聞いている。サーリャから言われたからな。君の実力とやらを、一度見ておく必要はあったな。実戦の方が良さそうであるし、存分にやってみろ』


 なんか口調からして、そのままやられて死んで貰っても構わないって感じだったね。仕方ない。シナプスがいなければ、僕はお荷物だからね。


 そんな時、コクピットのモニターが淡く光る。


「あぁ、ごめんごめんシナプス。大丈夫だよ。君の能力、存分に発揮して上げる」


 話しかけてきたような、そんな感覚に陥る。この状態は、それこそ機体と一体化するようなもの。


 深く、深く、もっと深く。そして、昇る。


「コノエ=イーリア。シナプス、発進します」


 格納庫から出撃用のカタパルトに移動した後、いつもの手順で発進準備をすると、そのまま勢いよく出撃する。


「さてと」


 そして地面に着地し、早速それを起動させた。


「DEEP起動。行くよ、シナプス」


『おい、待て。いきなり使うやつがーー』


 更に深く。もっと深く。深く、深く。


 機体に血液が巡るように、ビリビリと身体中が痺れていく。


 頭もまだ痛い。誰かの叫び声、自分の叫び声。その中で目覚めさせた力。


『なん……まて、おい。シナプスが……コノエ! 何をしている、シナプスの形が!!』


 そうだろうね。それがシナプスの本当の姿だよ。


『……赤いラインに、まるで機体が解き放たれたように、開いて……』


 本当に開いている訳じゃないけれど、そう見えちゃうよね。

 流線型のボディに赤いラインが入って、そこから赤い光を放って、脚部や腕部、胴体に至るまで、隙間が出来てそこから形が変わっていって、機体が厳つくなっていく。その後にまた隙間が収まって、シナプスはしなやかで綺麗な姿から、厳つくて威厳のある風貌へと変化した。


「深く、より深く、そして昇華する。これが、ケモナーの真価。DEEP ASCENSION。通称D・Aシステムだよ」


『…………』


『…………』


 皆黙っちゃった。そう、ケモナーなら皆DEEPを扱える可能性があるんだ。だけど、それはほんの一握りだけで、それを更にここまでの力に持っていけたのは、恐らく僕だけだ。

 しかも男の時、ケモナーじゃなかったのにだ。それが何でなのかは、全く分からない。異常だとは思う。ただコート女医が、僕達姉弟に何か特別な事をしたのは確かだろうね。


「さぁ、行こうか」


 獣型のままで、僕はシナプスの身を低く屈め、脚に力を溜めて、目一杯飛び上がる。


『なっ!? なんて脚力だ!』


 当たり前だよ。狐の能力を備えたのが、このシナプスだ。だから、より獣の力を引き出せるこの状態なら、こんな事は余裕で出来るよ。


「スピルナー。封じたはずの存在なのにね。それとーー」


『ビ、ビ、ビ、ビー、ビー、ビー、ビ、ビ、ビ』


「モールス信号による、SOS発信。助けを求めているのは分かった。だけど、君はもう……助からない。寄生虫に寄生されているんだからね。だから、苦しまずに終わらせて上げる」


 目の前にいるスピルナーは、ある特殊な寄生虫に寄生されている。虫の世界では割りとある話だよ。

 だから、虫の性能を持たされた彼等は、寄生虫の餌食になりやすい。そこまで科学者も考えてはいなかったから、こんな悲劇が起きてしまったんだ。


 だからーー


『ビ、ビ、ビ、ビー……ビッ!?』


「もう、おやすみ」


 赤く長く鋭く伸ばしたエネルギー体による爪で、スピルナーの機体を縦に切り裂き爆破させた。

 その後、尻尾からも赤いエネルギーを纏わせ、鋭く斬れるようにすると、後ろの2機を横に一閃し、綺麗に斬り裂いた。


 その2機の爆発の後、スピルナーの機体が一気にこちらを向き、襲って来た。それと、地上の方では新たなスピルナーの機体も現れた。


 あれは、カマキリとクワガタかな? その虫の特徴があるね。仕方ない。空を先に片付けて、その後に地上だね。それまでは、レイラ隊長に任せないと。


「レイラ隊長。新たに出てきたバグ・ユニット、ちょっと足止めしておいて下さい。空を片付けたら、直ぐにそっちも片付けます」


『う、ぉ? あ、あぁ。わ、わかった』


 何でちょっと戸惑ってるの? 皆も驚いて無言になってるままだし。だけど、レイラ隊長は直ぐに動き出して、他の皆を鼓舞して指示を出し始めた。


「さてと。ちょっと一回着地して、もう一回」


 その後に、地面に一度着地した僕は、ターゲットを再確認し、再び飛び上がる。今度は、肩の中口径ビームバルカンで牽制しつつ、一気に距離を詰めてから、爪で切り裂く。それから隣のやつもね。


 そうやって僕は、次々とバグ・ユニットを落としていく。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 空を飛ぶ、トンボのような機体のバグ・ユニット大半を落とした僕は、次に地上のバグ・ユニットに標的を絞り、機体をヒト型に変形させて、ビーム型のサーベルで目の前の1機を先ず切り裂いた。


「ギ、ギ、ギ、ギィー、ギィー、ギィー、ギ、ギ、ギ」


「君達もか。SOSを出されても、それはもう助からないんだよ」


 濃い紫色の液体のようの物が、血管みたいに全身に広がっている。


 あれは、スピルナー限定の生物兵器。


 様々な戦争を経て開発された、この惑星の人々の、大きな罪の証。


「ここにきて「バグルス」が。あれを、また使った人がいるってわけだ。あれも封じられていたし、国際条約で禁止もされているはずなのに。いったい、誰が……」


 自分の意図とは関係なく、ひたすらに攻撃行動を行う。そうするようにされてしまう。

 なまじ虫の機能なんか宿すから、そこを利用されてしまったんだ。


「ギギッ!?」


「君達に罪はないのかもしれないけれど、それでも止めるには、これしかない。特効薬も駆除薬も存在しないんだから……だって、人間には無害な寄生虫なんだから、スピルナーだけなんだから」


 また1機潰し、次の1機も潰す。

 彼等はただ攻撃行動しかしない。だから、単調な動きになる。それでも驚異なのは、虫のとんでもない身体機能を有しているのと、それに合わせた武器の威力なんだ。


「おっと!!」


 カマキリのような機体が、その腕の肘辺りに付いているレーザーブレードを振り抜くと、空気の刃のようなものが飛んできて、僕を斬り裂こうとしてきた。それを避けると、後ろの高い建物が2~3棟綺麗に横に真っ二つになった。


 相変わらずふざけているね、この切れ味。そして……。


「建物ごと持ち上げるなんてね……」


 クワガタのような機体が、その驚異の力で、建物を挟んで持ち上げ、僕に向かって放り投げてきた。


「くっ!! 甘いよ!」


 それを避け、瓦礫にも当たらないように交わすと、瓦礫の隙間からレーザーライフルを放ち、クワガタのバグ・ユニットのコクピットを貫いた。


 トンボのやつも、その視界が凄い広いから、死角がほぼないんだけれど、逆に素早い動きにはあまり対応出来ないのか、一気に距離を詰めたら倒せるんだ。

 ただ、地上の奴等は純粋な力だけだから、かなり厄介なんだ。弱点もほぼないし。


「……ん? アルフ?」


 そんな中で、アルフのナイト・ユニットが突破口を見つけたのか、バグ・ユニット達の隙間を縫って、その先の政務議事堂へと向かっていく。


「アルフ。どこに?」


『すまない、コノエ。助かった。この騒動、俺には心当たりがある。ちょいとそいつの所へ行ってくる』


「え? ちょっと待って、僕も行くよ。こいつらに寄生虫を仕掛けたのも、そいつかも知れないし」


『マジか。ったく、何考えているんだ。あいつは!』


 とりあえずジ・アークは発進して、レイラ隊長を中心に迎撃を続け、だいぶ押し返している。これなら、残りのバグ・ユニットも何とかなりそうだ。


 だから、僕もアルフの後を追った。


 アルフの言う、心当たりのある人物に、何故こんなことをしたのか。何故禁止された生物兵器を使ったのか、それを問いたださないといけない。


 その結果次第では、アルツェイトの方が危険な国家だと認識しないといけなくなるよ。

 深く、そして昇華させる。新たなDEEPの力を発動させたコノエは、スピルナーのユニットを次々と撃墜していく。地上でも新たなスピルナーのバグ・ユニットが現れ、戦火にのまれていく。


次回 「11 ベイザルムールのクーデター」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ