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GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 5
72/105

9 不変の惨劇

 新たな艦長が就任し、以前とは全く違うジ・アークの活用法を行う新艦長に、皆戸惑いを隠せないでいた。更に、アルフィングの正体まで明かされ、コノエの方も戸惑っていた。

 翌日、アルツェイトの首都から出るため、僕はこっそりと荷造りをし、準備をしていた。

 ちなみに、昨日から僕の様子がおかしいと思ったみたいで、チャオから問い詰められてしまったよ。仕方ないから、コート女医の事は伏せて、首都から出ることを伝えると、着いていくと言ってきた。ここに来る前に言っていたから、こうなるのは分かっていたよ。


 コート女医の指定した街までは、最新のリニアで行けるみたいで、そんなに時間がかからないみたい。


「さてと……」


 ジ・アークの人達には、シナプスを本来のパイロットに渡すため、コート女医を連れてくると伝えている。これは軍でも決定事項になっているから、誰も不信には思わない。


 そして、そのまま首都にもジ・アークにも戻らない。

 本音は、ここまで面倒を見てくれた恩を返したい。だけど、今のジ・アークは危ない。戦争を更に激化させる方向になっている。


 そんなの、僕は望んでいない。


「コノエ」


「お待たせ、チャオ」


 準備を終え、軍の施設の入り口に向かうと、既にチャオが待っていた。これも、自分1人では危ないかも知れないから、護衛としてチャオを連れていくことを申請し、ちゃんと許可が降りている。だから、誰も怪しまない。


「コノエです。例の件で、外出を。護衛には、チャオを」


「はい。良いですよ」


 入り口の守衛に声をかけ、僕達は問題なく外へ出た。そのままリニアの駅まで向かう。


「…………」


「…………」


 その間、ずっと無言というのも気まずいんだけど。何か話題ないかな……。


「コート女医の所に長居する気もないんでしょ? 他に行くあてあるの?」


「……あ~いや、ないです」


「仕方ないわね。あなた、まだこの星の事分かってないんでしょ? 他の国を巡ったりしてブラブラしましょ」


「ん、ありがとう」


「あとでマオ=グオワンを輸送しないとね。護衛として」


 チャオの方から話をふってくれて助かったよ。そんな感じで、この星の他の国の事とかを話したりして、リニア駅が目の前というところで、けたたましい警報音が鳴り響いた。


「なに?!」


「この警報は、敵襲?! 嘘でしょう! ここ首都よ!」


 首都に直接?! 何て思っていたら、空から何かの飛行音が聞こえてきて、僕達の周囲が突然爆発した。


「あっ!!」


 衝撃で僕は吹き飛ばされたけれど、そんな僕を庇うように、チャオが僕を抱き抱えてきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 いったいどれくらいの時間が経ったのだろう。周りの人達の悲鳴、逃げ惑う雑踏やら、何かが壊れる音、瓦礫の音、色んな音が僕の耳に飛び込んでくる。


「逃げないと……チャオ? チャオ!?」


 近くにいるであろうチャオに声をかけ、横を見てみると、うつ伏せで倒れ、背中や色んな所から出血するチャオの姿があった。


 嘘だ……さっきの爆発で、僕を庇って?


「ひ、ひどい怪我……病院!」


 ただ、周りを見て僕は更に絶望した。辺り一面が火の海で、空には巨大なトンボのような物が飛んでいる。いや、あれは機体? 見たことないものだ。


「チャオ、チャオ……しっかりして。起きれる? ねぇ、チャオ」


 僕の声かけにも何も反応しない。

 まずい、これ本当にまずい。チャオが死んじゃう。何とかしないと。


「くっ……!!」


 僕自身も怪我をしているけれど、とりあえず動ける。痛みは我慢だ。チャオを助けないと。

 チャオを背中に背負って立ち上がり、僕は急いで軍の施設へと引き返す。治療するにしても、ここから病院は遠い。それなら、軍の施設の方がいい。軍医がいるから、応急措置処置はできるはず。


「待ってて、チャオ」


 そのまま、まだ辺りが爆発したり炎上する中を僕は走り出す。


 その横で、見たことのない機体がやって来て、空の機体に向かって銃撃しているけれど、届いていないのか、相手の機体間近で何かにぶつかり弾かれていた。

 その後、空からその相手機が滑空してきて、尾のよう部分で、地上にいる機体のコクピットを貫いた。


「うっ……くっ!!」


 そして、尾が抜かれた瞬間に爆発。近くで爆発したから、また僕は吹き飛ばされてしまった。


 あんなシャープな機体は始めてだけれど、多分言っていた例の新型のユニットなんだろう。呆気なくやられているじゃん。


「つ……はぁはぁ。ごめん、チャオ」


 地面に転がり、膝やら肘やら、色んなところが痛みだしたけれど、それよりもチャオだよ。早くしないと。


「はぁはぁ……」


 またチャオを背負って僕は歩き出す。こんな状況、誰も想定していない。あの機体は何なんだよ。


「……きなさい」


「チャオ? 起きたの? チャオ!?」


 ふと、耳元でチャオの声が聞こえた。良かった、意識取り戻したんだ。


「私は……捨てて、置きなさいよ。早く逃げて……」


「そんな事出来ない! だってチャオは、チャオは……僕に着いていくって言ってくれたんだよ。嬉しかったんだよ。1人じゃ心細かったから、だから……!!」


「バカ……ね。あの空のやつ、あれは……スピルナーのバグ・ユニットよ……空からの急襲に、長けている」


「そんな……あれが?」


「だから、逃げなさい。あいつら、動くものを敏感に察知出来て、敵対した者を、確実に仕留めるの……だから、獲物が多い、今のうちに……ジ・アークに……」


「チャオ? チャオ!」


 だんだんチャオの息づかいが早くなってる。血も止まらないし、チャオの力も抜けていっているような……。


「ダメだよ、チャオ! 意識をしっかりと持って! ねぇ、チャオ!!」


「……ありが、とう。コノエ。私と居て、くれて……」


 ケモナー施術をした人は、もう一度は出来ない。それだけの負担なんだ。だから、もう……このままだとチャオは。


「チャオ!!」


 だけど、そんな僕の叫びもむなしく、チャオの腕はダランと下がり、呼吸も止まってしまった。


 チャオが……死んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 至るところで爆発する中、僕はチャオを抱き抱えたままジ・アークの所に到着した。ジ・アークからは既に何機か出撃していて、中でも皆慌ただしくしているだろう。


 はて、僕は何でここまですんなりと、無傷で辿り着けたのだろう。


 チャオが死んでから、突然頭が痛くなって、変な映像を思い出して、それから……爆撃がどこに来るか、その予測が出来るようになった。

 弾の落ちる音、飛行音、着弾するまでの時間から、安全なルートが見えるようになった。


 同時に、戦闘時の身体の動かし方まで思い出した。機体の操縦も、何もかも。


 だけど、僕が男だった時何者であったかは、思い出せていない。


「コノエさん! 急いで下さい!」


 ジ・アークの入り口から、ツグミが叫んでいる。とりあえず、軽く駆け足でそこまで行く。


「チャオさんを……って、え? これ、チャオさんは……」


「しっかりと埋葬して上げて」


「う、そ……あ、コノエさんどこに?!」


「シナプス。動かせる?」


「今はサーリャさんが」


「ん、分かった」


 ツグミにチャオを託し、僕は格納庫へ向かう。起動出来ずにやきもきしているだろうけれど、サーリャさんじゃシナプスは動かせないし、きっと扱えない。


 あれは、パイロットを選ぶから。まるで、意志があるかのように。


 格納庫にやって来た僕は、その中から案の定聞こえてきた声で、ちょっとイラついてしまった。


「何で動かないのよ!! この……ポンコツ!! 緊急事態だからこそ、私の手腕を見せつければ、あんな訓練兵あがりの子なんか! ジ・アークから追い出せるのよ!!」


「そういう邪な考えをしているから、その子は応えないんだよ」


「な……!! あなた、何当然のようにやって来てるのよ。まさか、乗る気? シナプスの正式なパイロットは私よ! ちゃんと認定されているからーー」


「紙の形式みたいなもので、その子のパイロットが決まると思う?」


「…………なによ。前から決まっていたのよ。私だって、私がって……!! 私が選ばれたの! この機体に、四皇機のレプリカとはいえ、エリートパイロットしか操れないだろうって言われている、この機体にね!!」


 拘るね。よっぽど君の人生に影響するのかもしれないけれど、そんなの関係ないんだよ。その子にとってはね。


「私は……私が、ならないと。シナプスのパイロットに。認められないと……また、死んじゃう。そんなの、もう嫌」


 わけありなのは分かったけれど、時間がないんだ。とりあえずコクピットまで行って、彼女に一旦降りて貰わないと。


「どっちにしても、状況を見て判断してくれる? 今、君のそのわがままで、ジ・アークまで落とされたら、シナプスのパイロットになるどころじゃなくなるよ」


「うぅ……ううぅぅ」


 ゆっくりと近づきながら話しかけ、コクピットの所までやって来た。閉まっていない所を見ると、やっぱり起動すら出来ていない。


「……君の置かれている状況は知らないけれど、このまま人々が殺されていくのを、許せるわけがないよね。僕に、任せてくれる?」


「…………もう、良いわ。見せて貰うわ。あなたの、シナプスの扱い方を。不適切だったら、作り直してでもパイロットを代わって貰うわ!」


「分かった」


 そう言って、彼女はコクピットから降りてくれた。


 さてと。レプリカでも、あの四皇機シナプス・オメガに類似したものだ。多分、やれるはず。


 これも思い出した事のひとつだけど、男の時の僕は、四皇機の内の1機である、シナプス・オメガに乗っていたんだ。

 アルツェイトから離れよう。そう決意したコノエの前に、更なる悲劇が巻き起こった。チャオを失い、自身の記憶がまた甦る。戦い方を思い出した彼女は、この惨事を抑えるべく、再びシナプスに乗り込んだ。


次回 「10 限定的な生物兵器」

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