7 戦艦「ジ・アーク」
自身の謎の能力で、何とか敵を撃退したコノエ。戦争とはどういうものか、身に染みていた。
僕は今、自分の置かれた状況に、少し困惑していた。
「さて、今回の事は軍法会議ものだが、状況が状況だ。それに、あの機体に同期してしまった以上、初期化をするのも無理だ。あの機体は、それだけ特別だ」
艦長室の様な広い部屋で、軍帽を被った厳つい男性が、目の前の大きな机の高級そうな椅子に座り、その横でレイラ教官が立ち、僕を睨んでいる。
始末書は書かないとな~って思っていたら、こんな展開になるなんて聞いていない。いや、そもそもなんだけど……この艦なに? 突然上空に大きな戦艦が現れたと思ったら、僕達を回収して飛び立ったんだけど。
あの場所は、生き残った整備の人達の何人かが、軍に報告して対処すると言っていたけれど、何で僕達だけはこの艦で行かないといけなかったのだろう? あまりにも急な事過ぎて、脳がついていけない。
「あの……えっと。なんで僕はここに」
「レイラ少尉。事情の説明は?」
「すみません、バーモント艦長。状況が状況でしたので、まだ……」
レイラ教官の言葉に「ふむ……」と言葉を漏らし、ご自慢なのか立派な髭を触りながら、椅子に深くかけ直した。それにしても、お腹の空いてくる名前だ。お腹も出ているし、名は体を表す……なのかな。
なんだか考えを見透かされたのか、その艦長まで僕を睨んできた。とりあえず、僕は出来るだけ縮こまるしか出来ないんだけど。
「君が乗った機体。あれは、銀河創生期に使われた、特別な4機の機体の内の一体を模し、量産改良型に作られた機体だ。本体に近い量産型では、何故か同期時に精神に異常をきたすものが多く、見送れたものから、かなりスペックダウンされて改良されたものだ」
やっぱり、だいぶ特別なやつだった。それを勝手に乗って使ったとなると、だいぶ重たい罪になってしまうか……だけど、あの時はそれしか方法が無かったし、下手をすれば僕が……。
「それでも、今日まで誰も同期が出来なかったのだ。それを、君が……」
「す、すみません」
とりあえず平謝りしかない。こっちは十分に反省しているという姿勢で、ひたすら謝る。本来なら、然るべき手続きをして使わないといけないような、そんな機体だったんだろう。
「そう謝るな。確かに、法に抵触はしているが、緊急事態だったのだ。君の行動で、あの機体を敵国に奪われずに済んだ。あそこなら、隠し通せると思ったが。内通者がいたとは……」
「その者は、襲撃で亡くなっています。最初からそのつもりだったのでしょう。卑劣な」
「仲間を売った罪は重い。が……その者にも事情があり、私達はそれに気が付かなった。弔いは、してやらんとな」
艦長は帽子を取ると、それで顔を隠した。一体どんな表情をしているのか……大の大人が泣く姿は、見せられない、か。
「さて、君の処遇だが。一旦私達が預かる。このままオーディルへと向かい、そこで判断をして貰う」
確かその場所は、軍の本部があったはず。海を一個超えないとダメだけど。しかも、この惑星は地球よりも広いから、海も広くて大きい。何百キロもある海を越えるのは、少し時間がかかるんだ。となると、それまでは僕もこの艦の船員ということになるのかな? 更に堅苦しい生活になりそうだ。
「あの機体も、君が同期した以上、君の物だ。あの機体の初期化は難しすぎる。時間も労力も半端ない。よって、このまま君に使って貰うのだが……レイラ少尉、この子の成績は?」
「筆記はなんとか及第点。実技は、今回が初めてでした」
「なんと!? 映像を見させて貰ったが、初めてであの動きは出来んだろう!」
「えぇ、この子には何かある。よって、主治医にも来てもらった。軍医としてですが」
え、あの女医さんまで来てるの? それなら助かるけどね。まだ女の子になって日が浅くて、色々とやらかしちゃうんだよ。いや、未だにトイレも間違うし、風呂も間違えるしで、散々だよ。だけど、僕と同じように、元男性って人もいるんだよな。当然逆も……逆はもっと大変そう。
「仕方ない。戦闘には極力出さず、少し稽古はつけてやってくれ。もしも等、起こしたくはないのだが、緊急事態には……」
「分かりました」
そして会話が終わり、僕はレイラ教官にジャスチャーされ、着いて来るようにと指示された。そのまま後ろに着いて部屋を出ると――
「おや、終わったかい?」
「コート女医。丁度いい、話を――」
「分かっている。この子の検診もある。それがてら、この子の身体データを渡すよ」
相変わらず眠たそうな顔をした、僕をこの身体にしたコート=シーウェル先生が立っていた。
あれから、定期的に僕は彼女の検診を受けているんだけど、そのついでと言って、女の子の身体の事も教えて貰っている。
艦長室前で待っていたコート先生と一緒になって、長い廊下を歩いていく。
これで戦艦の中だって言うからビックリだよ。もう、1つの街だよ街。上空に現れた時は、底しか見えなかったし、乗ったら乗ったで、3階まであることにもビックリした。
スーパーもあるし、病院だってある。娯楽施設もある。居住スペースも十分な程にある。つまりこの艦は、宇宙航行も視野に入れた戦艦なんだ。
艦首は馬鹿に長くて、その中に沢山の機体と戦闘機を収艦出来るし、もちろん発進もできる。砲台もたくさんあり、強力な主砲もあるとか。見たことのない兵装もあってし、マニアにとっては堪らないだろうな。僕には良く分からないけどね。
「あら? や~っとお小言が終わったの? ふふ、ご苦労さん」
「コルク……」
すると、そんな僕達の前から、猫のケモナ―であるコルクがやって来た。この子も無事だったらしく、瓦礫の隙間から助け出されていた。しかも、軽傷だった。猫だから、隙間も平気だったのかな? なんて考えていたら、めちゃくちゃジトーってした目で見られてる。
「あなた。何か変な事考えてない?」
「べ、別に……」
「まぁいいわ。生き残った訓練兵があなたと私だけなんて。この先が思いやられるわ」
わざとらしくため息をついて、彼女はツインテールをなびかせ去って行った。わざわざそれを言うためにこっちに来ていたのかな? それとも、単純に心配して……なわけないか。
「なんだ、お友達はもう出来ているのか」
「あれがお友達に見えますか? コート先生」
そんなおとぼけはいらないと思ったけれど、相変わらず眠たそうだし、本気で言ってるね……これは。それなら、あんな子とでもやっていける方法を教えて欲しい。
「さて、コノエ。突然色々とあって驚いたようだが、君の処遇は一旦保留だ。今回の件で、あの機体をまた別の所に隠す必要がある。それまでは、お前が守れ。分かったな?」
「は、はい……」
それより、なんで僕があの機体を操れたかは、これから調べに行くんですね。その為にコート先生を呼んだのだから。
「とりあえずはようこそ。この戦艦もまた、銀河創生期にあった戦艦を模したもの。その名も『ジ・アーク』だ」
どこまでも広がる薄い青の空が、窓の外から見える。地球の空より、少し薄い色をしている。太陽とは別の恒星だから、この惑星の大気の層とか、その辺りも多少の違いはあるけれど、ほぼ地球と同じなんだよな。
戦艦の名前を聞いた僕は、ようやく実感が湧いてきた。さっきまで、あの機体に乗って戦っていたこと。敵の存在。命の危機とか、その命の取り合いとか、色々と……なんて考えていたら、恐怖がぶり返してきちゃった。
「……初の戦闘で、とりあえず生きただけでも及第点だ。自信を持て、コノエ」
そんな僕を見てか、レイラ教官はそう言ってくれた。
コノエの処分は一旦保留にされるが、巨大戦艦に乗せられ、軍本部へと向かうことになった。
その時、敵の軍事施設では、新たな動きがーー
次回、新章「1 総督とその息子」