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GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 5
68/105

5 スラムの惨状

 シナプスに正式なパイロットがやって来て、コノエは突然暇になってしまった。そこで、街の様子を見るためにブラブラと歩くことに。

 翌日。レイラ隊長とアルフィングに呼ばれて、僕の処遇を伝えられた。2人からの斡旋もあり、正式にジ・アークに所属することになった。それは良いけれど、僕が使える機体がない。

 サーリャはジ・アークには乗らない。シナプスも、ジ・アークに乗せるつもりはなかったようで、オーディルに配置される。サーリャもそこに配属になった。


 そういう訳で、僕の機体をどうするか、話し合いを昨日の夜からしていたらしい。

 まだ決まっていないけれど、コート女医の助言を受けながら、新たな機体を選出するか、製造をする事になった。


 それで、しばらく休暇というか、今までの労いも込めて、数ヶ月ここに滞在する事になった。寝泊まりはジ・アークだけどね。


 コート女医には連絡したけれど、繋がらなかった。メッセージも送ったけれど、返事はない。これはしばらく待つしかないな。


 そんな訳で、一旦街を見て回る事にしたんだけれど……。


「わぁ、賑わってるなぁ」


 一番賑やかな所に来たんだけれど、かなりの人で賑わっていて、色んなお店もあって、道行く人達も皆楽しそう。スラムがあるなんて思えないくらいだ。


 ちなみに、今は1人だ。


 コルクは、レイラ隊長やアルフィングと一緒にルーグ次官に呼ばれていて、街を案内してくれるのはまた今度になった。

 チャオは……うん、結局どこに行っているのか分からない。スラムの方なのかな。

 ツグミは、実家の方に帰っていて、家族との団らんを楽しむって言っていたよ。


 というわけで、1人でブラブラしているわけだけれど、何と偶然にもチャオの姿を見つけたよ。


 商店の立ち並ぶ道から外れ、細い道の方に走っていったけれど、何か急ぎなのかな? コッソリと後をつけるのも悪いし、声をかけたいんだけれど……ちょっと距離があるな。

 急いでチャオを追いかけて、声が届きそうかなという距離まで来てから声をかけた。


「お~い、チャオ!」


「……コノエ?! 何してるの?」


「いやぁ、暇になったから、街を見ているんだ。元々、アルツェイトがどういう国か見たかったからね」


「あぁ、そうね。そうだったわ」


「それよりごめん、何か急いでた? チャオがどこに住んでいるのかも気になるし、スラムがあるなら、そこも見てみたい」


 すると、チャオの顔がちょっと曇り、少し困ったような表情でこっちを見た。


「やっぱり、見ない方が良いわよ。今も、粛清が始まって。私はそれを止めに行こうとしてたの」


「えぇ?!」


 何だそれ。粛清ってのは、政治的な事で使われる言葉じゃん。そんなヤバい状況になってるの?!


「それなら尚更、見ておかないと」


「……そう。好きにしなさい。後悔してもいいならね。私は、できたら見て欲しくないわ」


「そうやって見ないふりしていたら、僕はいつまでもこの世界の事が分からないままなんだ。それは嫌だよ。流されるままなんてね」


「……こっちよ」


 僕の決意を聞いたチャオは、観念したように僕を案内してきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 賑わっている大通りや、綺麗な住宅街の間を縫うように、細い路地裏と、下へと続くいくつもの階段を降りていき、遂に僕はその場所にやって来た。


 鼻を突くような嫌な臭いが最初に襲ってきて、その後目に飛び込んできたのは、生ゴミや機械の残骸の様なガラクタの山で、その隙間に建物に入れるような煤けた扉があった。あとは、テントのような物を張って、中で人が生活していたり、布の敷物を敷いただけの所で座り込んでいる人も居る。


 一言で言うと、かなり酷い。


 そんな場所で、人々の喚き声が聞こえてくる。


「こっちね」


 皆チラチラと、チャオの方を見てから僕を見ている。軍関係者だと思われているのかもしれない。何せ、ケモナーだからね。


「毎度毎度こんな悪どい事をして、流石にもう許されないぞ!!」


「俺達も人だ!! 貴様らの都合で叩き落とされて、どれだけの思いをしていると思っている!!」


 狭い道を進み、何度か角を曲がると、少し開けた場所に出た。

 広場のようで、そこで皆交流しているようだけれど、そこで銃を持った人達が居て、このスラム街に居る人達に、その銃口を向けていた。


「軍の人?」


「違うわ。軍服じゃないでしょ? パーツ大臣の私兵よ」


 確かに、その人達は軍服を着ていなくて、スーツのような服を着ている。その中で、一際上等そうな服を着ている男性が前に出てきた。

 それを見た瞬間、チャオがスラムの人達の元に走り出した。


「人? お前達は人だと言ったのか? 耳を疑うな。ゴミクズどもが」


 不味い。銃を持っている人の指が、引き金を引こうとしている。あのままだと、何人もの人が殺されてしまう。

 冗談なんかじゃない……マジで、こんな事を平気で……。


 僕も急いでチャオの後ろに付き、急いでその最悪の状況を防ごうとした。


「私達は慈善事業をしているのだよ。ゴミ拾い、そしてゴミの処分だ。というわけで、早く処分しろ」


「はっ」


「止めなさい!!!!」


 チャオが叫ぶ。だけど、チャオの叫び声に被るようにして、銃声が何発も鳴り響き、前にいたスラムの人達数人が倒れてしまった。


「おのれ……!! 何が国家清浄隊だ!! 人殺しの集団が!!」


「だから、人殺しじゃない。ゴミ掃除だ。面倒をかけさせるな」


 それから更に何発か銃声が聞こえ、次々と人が倒れていく。


「止めなさいって言ってるでしょう!!」


 その出来事にキレたチャオは、その隊の人達の前に飛び出た。


「チャオ、危ない!!」


 僕も急いでチャオの横に付いて、彼女の腕を持った。銃の前に立つとか危険過ぎる。介入するにしても武器がいる。無謀過ぎるよ、チャオ。それだけキレたのは分かったけれど……。


「なんだ? 君達は。私達の仕事の邪魔はしないで欲しいです。というか、身なりは違うが、このスラムのゴミと同じか? 人と同じふりをしているとは、許しがたいな」


 チャオの姿を見ても、その人達は慌てる様子もなく、淡々と作業をしようとしている。異常そのものだ。よくこんな状態で、国なんて保てたね。

 いや、こうやって臭いものに蓋して、煌びやかな部分だけで国を動かせば……それでも、これは流石に……。


 そうこうしている内に、チャオにまで銃口が向けられ、撃たれようとした瞬間ーー


「……お前は!」


 誰かが背後から、銃を持ったその人物の肩を掴み、その行為を止めていた。


「そこまでにしておいて貰おうか。私の部下だ。君達は、軍の人間全員を敵に回す気か?」


 そこに立っていたのは、アルフィングだった。ジ・アークで作業していたはずなんだけど、騒ぎを聞いて飛んできたのかも。


「ちっ!」


 流石にその人も、軍を相手にする気はないようで、舌打ちしながらも銃を下ろした。


「こんな行為、今は中止して貰おうか。念のためルーグ次官に報告し、パーツ大臣に伝えて貰う。が、まぁ……いつものように無意味だろうが」


 いつものようにって事は、前々から起こっていた事なのか。信じられない……見てみぬふりするなんて……なに考えているんだよ、あの大臣は。

 それから、粛清をしていた人達は一言二言何か言った後、足早に去っていった。


「すまない、チャオ。少し遅れた」


「別に、良いわよ。大臣に何か言われて、足止めされていたのでしょ?」


「あぁ、ルーグが残ってくれたよ。しかし、一触即発ではあるな。今回ので、また……」


 嫌な空気が流れたまま、スラム街の人達は、撃たれて殺された人達を何処かに運んで行く。これもまた日常茶飯事なら、チャオやコート女医が言った通り、相当酷い状態と言える。


 それから無言になったチャオとアルフと一緒に、僕も一旦スラムから出て、用意された軍施設の部屋に帰った。


 あの場にいても、僕は何も言えなかった。何も出来なかった。


 正確には、恐くて何も出来なかった。


 スラム街の人達の、異常なまでの怒気と殺気で、体が凍りついてしまったんだ。


 もし、僕もあの場で何か言っていたら、スラムの人達の怒りがこっちにまで向きそうだったんだよ。チャオと一緒にいたから、まだ仲間判定されていたけれど、あの場に1人だったらと思うと、ゾッとするよ……。


 うん。覚悟はしていたけれど、これは確かにすすんで見るものじゃないね。

 ベイザルムールのスラムで起こっていたのは、とんでもない行いだった。許せるはずのない現場を納めたのはアルフィングで、彼も頻繁に行われているこの出来事を知っていた。そして、もう抑えられない事も気付いていた。無言になった2人を前に、コノエは何も言えなかった。


 ただその中でも、陰で動く者達はいる。


次回 「6 2人の嘲笑」

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