4 正式なパイロット
首都の様子は別段変わった様子はなかったが、ジ・アーク数名は思うところがある感じだった。そんな中、コノエはルーグ次官の所に向かう。
それから、本当にささやかなパーティを催され、ジ・アークの人達を労ってくれた。あんまり怪しみたくはないけれど、あのパーツ大臣の態度がね……それと、彼が一応の国のトップということになっている。国王がいないから、国民が決めた代表が大臣となって、国政を取りまとめるそうだ。
そうなると、カッパーリグンドに近い気はする。と言っても、どちらも何かの隠していそうな雰囲気だけど。
「ふぅ。食べた食べた。コノエは、今日もこっち?」
パーティもつつがなく終わり、用意された部屋へ向かう途中、コルクがお腹を擦りながら聞いてきた。
家がある人はそこに帰っているみたいで、アルフとレイラ隊長、チャオもその家に帰っている。コルクの家は別の街らしくて、ここでは僕と一緒に軍の施設で寝泊まりしている。
「うん。僕には家がないからね」
「あっ、そっか。ごめんなさい」
「いや、いいよ。それと、ルーグ次官にも呼ばれているから、ちょっと行ってくる」
「あらそう。それじゃまた明日ね」
「うん、また明日」
そうコルクに伝え、僕はルーグ次官の部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
教えられたルーグ次官の部屋の前に着いた僕は、少し緊張しながら扉をノックする。
「どうぞ」
「あ、失礼します。えっと、コノエです」
「やぁ、お疲れ様」
そこには、ちょっと大きめの机の前に立つルーグ次官と、もう一人女性の姿があった。
僕と同じ狐の尻尾と耳をしている。違うのは、毛色が薄いブルーだ。髪の毛もまつげも、それに合わせて薄いブルーになっている。しかも凄く綺麗なロングヘアーで、空が靡いているみたいに見える。ただ、胸が全くない平らだ。そこはあんまり見ない方がいいね。透き通るような水色の瞳がこっちをギッと見ているよ。
「紹介するよ。本来のシナプスのパイロット、サーリャ=リグラー。君がシナプスを護送してくれたお陰で、無事に本来のパイロットに渡せる。君に紹介したかったのと、シナプスの引き継ぎをお願いしたいんだ」
「あ……」
そっか。いや、そりゃ当然だよ。正式に任命された訳じゃないんだもん。緊急的な対応として、一時的に僕が使っていたんだ。
「あなた。もしかして、シナプスが自分の物だと勘違いしていましたか?」
「うっ」
「そんな訳ないでしょう。あなたの様な、訓練兵上がりが。思い上がらないで欲しいわね」
ちょっと、この人かなり口調がキツイんだけど。いや、そりゃ軍の規則としては当たり前の事だし、仕方ないんだけど……何だかなぁ。
「サーリャ。君はパイロットの腕は良いけれど、そのコミュニケーション力の無さは何とかした方が良いと言ったんだけどな……」
「ルーグ次官。本当の事でしょう?」
「コノエ君は、ここまでの戦歴がある。何より、あの黒い凶星からシナプスを守ったり、ミルディアの猛虎と対等に戦った。更にはこの前、ミルディアの新型巨大機も撃墜している」
「…………」
「君の戦歴次第では、またコノエ君にシナプスを任せる事になる」
「なっ……!!」
「それはそうだろう。彼女は結果を出している。今の君以上にね」
それ以上はちょっと……ほどほどにしておいた方が……めちゃくちゃ睨んでいるんだよ。サーリャさんが。その目はもう「こんな訓練兵上がりが?」って言いたそうだもん。
「私はね、君に期待している。だから、ちゃんと結果を見せて欲しい」
「はっ! 分かりました! 必ずや」
ルーグ次官からそう言われ、彼女はビシッと敬礼し、自身に活を入れていた。その後またこっちを睨み付けてきたけどね。
「あなた、早くシナプスの所に案内してくれませんか?」
「え? 今から? もう、夜も遅くーー」
「私はあなたを越えないといけないのですよ」
「あ、はい……」
この人、レイラ隊長と似た空気を感じるよ。こう、色々と厳しいというか、自分に厳しいなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇
それから、暗い夜道を歩いて、ジ・アークにやって来た僕達は、当直の人に事情を話して、艦の中に入れてもらった。
「ふ~ん。ここがジ・アークね」
「あ、閉鎖されている所もあるから、あんまりウロウロはしないで」
「分かったわ」
その後はただ黙ったまま、格納庫に着いてしまった。何か喋りたかったけれど、空気がね……そんな和気あいあいとするような空気じゃなくて、ちょっと話しかけづらかったよ。
「これが……シナプス」
シナプスに前に来た彼女は、機体を見上げてまじまじと見ている。動かし方は彼女の方が熟知していそうだし、今の武装とかを教えておいた方がいいかな。
今度からは、彼女がこれに乗るんだからね。そうなると、僕は何に乗る事になるんだろう? いや、それよりも、ジ・アークにいられないかも。正式に命じられた訳じゃないからね。
「……あの腕に付いているのは? ロールアウト時の機体情報には無いけど」
「あ、あれはジュナクトで。海上基地のおっさん達が……あっ」
そういえば、あの人達も結局は……僕達にあんなに好意的だったのに。それも、嘘だったのか?
いいや、今またそんな事を考えていても、答えは出ているんだよ。事件として、ちゃんと……。
「シナプスって、中・遠距離じゃなかったかしら? 何で近距離武器を? ちょっと、システムも見せてくれる?」
「あ、うん。分かった」
彼女、エリートっぽいんだよな。何というか、この機体はこうじゃないとダメって感じがしなくもない。柔軟性も必要だと思うけど、とにかく中を見せないと。
そして僕は、コクピットに乗れるようにしてから、ハッチを開けた。
「…………」
それから彼女は、シートに座ってひたすらシナプスのシステムOSを調べ始めた。
「なにこれ。何でこんな古びたOSなんか……いや、それよりも。動作システム関連が、近・中距離で合わせてる。何やってるの」
「いや、訓練校にあった武装だと、そうじゃないと動作がスムーズにいかないんだよ」
「あぁ……あそこにずっと隠されていたのよね。その時のOSのままなのね。まぁ、それは仕方ないわ。あなたは悪くないわね、たかが訓練兵上りだし」
なんかその言い方は嫌味ったらしいな。ちょっとカチンときました。
「その状態で、黒い凶星も退けたし、ミルディアの猛虎も退けた。システムだけじゃないんだよ」
「そうね。だけど、適切なシステム調整をしていれば、倒すことも出来たわよ。あなたは退けただけ」
「…………」
こういうタイプって、何を言ってもダメなんだよ。もうしょうがない。
彼女の経歴を見ると、実践経験もあるんだ。それなら確かに、退けるだけじゃなく、倒すことも出来たのかもしれない。
「……うん、僕と同じ使い方をする訳じゃない。これ以上は平行線だ」
「その通りよ。もうだいたい分かったから、あとはじっくりと触らせて貰うわね。あなたはもう寝ておきなさい」
そんな感じで、まるで邪魔だと言わんばかりに言うと、そこからはもう僕を見ることは無くなった。
ただ、あることをしようとした時、直ぐに彼女は僕を呼んだ。
「ちょっと、同期出来ないわよ。あなた、何か同期ロックしてない?」
「えぇ……流石にそこまではしてないよ」
どうやら、同期してシステムを改善しようとしたみたいだけれど、上手く同期出来なかったみたいだ。
流石にあのドタバタした日々で、そこまでの事をしている暇はなかった。メンテナンスくらいだったから、あまりシステムは弄っていない。だから、さっきの彼女の発言があったんだけど。
「それと、何このシステム。DEEP? 禁じられているシステムじゃない。誰、こんなの入れたの! いや、違うわ。逆同期? 誰よ……こんな余計な事してるの」
あぁ、そうか。DEEPシステム。それが引っ掛かっているのか。それを抜くのはどうしたら良いんだろう。
詳しいのは……コート女医だ。その彼女は今、ここにはいない。
「それに詳しい人は、今ここには居ないよ。別の街に向かってるはず」
「何よそれ、話通ってなかったの? 早くその人も連れて来なさいよ。こんな危ないシステム、早く取らないと。全くもう……」
サーリャは不満そうに呟いて、そのままシナプスを降りた。ついでと言わんばかりに、何かの紙を僕に押し付けてくる。
「いい? 明日までにはその人に連絡して、ここに連れて来て」
そう言い捨てて、彼女はは格納庫から出て行った。
これは、番号かな。あぁ、連れて来たらここに連絡しろってことか。
シナプスの正式なパイロットとして、サーリャを紹介されたコノエは、1人複雑な思いでいた。
モヤモヤした中、そのまま街を巡っているとチャオと出くわす。何やら急いでいるようで、コノエは彼女に着いていくことに。
次回 「5 スラムの惨状」




