2 朝焼けの出港
ジ・アークを何とか出港させた一向は、首都へと向かうために発進する。
その甲板では、アルフィング達が亡くなった者達を弔っている。
海上基地からジ・アークと共に飛び立ち、何とか脱出成功した僕達は、追撃してくるアングラー達を撃墜しながら逃げる。ただ、その逃げる直前に、アルフィングが指示を出した。
「貫通ブラスター弾を落とせ。あと、基地は気化爆弾とナパームを合わせて完全に焼き払え」
「えっ?」
「アルフ。流石にそこまでーー」
「確かに、バーモント艦長は使わなかったし、この状況でもあまり使おうとしないだろう。よほどの緊急じゃなければな。だが、向こうは完全にあの基地を拠点にする気だ。放置するわけにはいかない。今の内だ。パーツ大臣から責められるだろうが、理由も十分過ぎる」
アルフィングの目は本気だ。そこまで、放置するのは危ないと判断したのか。戦闘知識では言えば、バーモント艦長よりもアルフィングの方が上なのかも知れない。
ちなみに貫通ブラスター弾は、地中貫通弾と燃料気化爆弾を組み合わせたような物で、燃料は高濃度圧縮エネルギーを絞り出した後の、液体エネルギー残物で作られた、とても効率の高い燃料だ。ペットボトル1本で、一般家庭なら約10年は生活出来るという代物だ。
兵器としてなら、あっという間に燃え広がり、焦土と化す。使用するにも、許可がいる物になるんだけれど……アルフィングは許可を取る前に使うつもりだ。どうなっても知らないよ……。
つまり軍地基地も合わせ、アングラー達が侵入してきている水路も一緒に破壊し、中にいるアングラー達もついでに、って事か。
本当に、どれだけの責めを受ける事になるのだろう。それくらいの事だ。だけど、アルフィングは容赦なくその爆弾を投下した。
一気に爆破炎上していく海上軍地基地を背に、ジ・アークは進んでいく。
◇ ◇ ◇ ◇
朝日が昇り、その日がジ・アークを照らしている。甲板に集まった僕達は、今回の件で亡くなった人達を弔う為に、ささやかな葬儀を行っていた。
葬儀と言っても、遺体があるのはバーモント艦長だけで、他の人達はあの基地だ。燃やしてしまったけれど、骨は残っているとは思う。後で回収することも出来るけれど、どれだけ先になるか分からない。だからここで、一緒にという事だ。
真正面に立派な棺桶。その左右に木の棒を立て、タグをぶら下げている。それは、亡くなった者達の名前が刻まれた物。
本来は、戦場で遺体が残らないような状態になった時、このタグだけでも残るようにと用意されている物で、かなり頑丈だ。ただ今回は、新たなタグを用意して、そこに1人1人名前を刻んだ。戻らなかった者達の名前をね。
そう。もしかしたら、まだ生きて基地で戦っていたかも知れない。ただ、あれから基地を出発するまで1時間程は応戦していたし、そこから出発した後も、脱出経路確保の為、しばらく上空を旋回しつつ、敵を迎撃していた。
その時、僕達を襲って来た隊の人達も、基地から全て出て来ていたから、アルフィングの隊の人達はきっと……それとレイラ隊長からも、僕達と一緒に基地に居た艦員達は、皆殺されていたと聞かされていた。
つまり、あの基地にはもう、僕達の仲間だったジ・アークの人達、アルフィングの隊の人達は、誰1人として生きていないという事になる。だから、アルフィングはあれを落とした。
それと、瀕死で生きていたとしても、構わず落とせと、あいつらならそう言うだろうって、アルフィングは俯いて言っていた。
アルフィングは、自分を許してはいない。不甲斐なく、敵の手によって仲間を失ったんだ。そりゃ、自分に怒るなっていう方が無理だよ。
「バーモント艦長。この先、この艦がどうなるかは分かりません。ただ、あなたの願いはきっと叶える。ジ・アークはそれまで、落とさせやしない。ここに誓います」
そう言ってから、アルフィングは手にした瓶の蓋を開ける。
「夢が叶った時に飲むと、そう言ってずっと残していた、年代物のワインです。こんな形で飲むことになるとは、思わなかったでしょうね」
トプトプと、棺桶にコップ一杯程をかけると、残りを別のグラスに注いでいく。つまり、皆で飲むという事か。この身体だし、ふりでもいいかな?
「あなたの夢なら、私がしっかりと引き継ぎます。生きている間に出来るかは分かりませんがね」
そう言いながら、アルフィングはワインを注いだグラスを1人1人に配っていく。
赤ワインで年代物物だからなのか、鼻を近付けなくても豊潤な香りが突き抜けてくる。よっぽどの名ワインなんだろうな。男のままだったら飲めたのに。
「この星で、新たな銀河を夢見た勇壮な男、バーモント=シューベルに乾杯」
そう言った後、全員無言でグラスをバーモント艦長の棺に向けた。
朝焼けがジ・アークの甲板を照らし、皆の表情は良く分からなかったけれど、アルフィングだけは泣きそうなのを堪えているのが分かったよ。
◇ ◇ ◇ ◇
それからは、皆ただ静かに黙々と作業をしていた。とにかく、一路首都へと向けて飛んでいる所だけど、皆思うことがあるみたいだ。
僕はというと、気になる事があったから、コート女医を訪ねている。
この人、バーモント艦長の葬儀に出なかったからね。流石にどうなのかと思っちゃったから、一応理由だけでも思って。答えはだいたい読めてるけどさ。
「いちいち人が死ぬ度に泣いていたら、きりがないだろう」
そうだと思ったよ。この人、どれだけ生きていたのだろう? 当然、半凍結眠を実施していた時期もあるだろうけれど、それでもここまですりきれるのかな? そこは、元からの性格というのもあるだろうし、何というか……人としての感情や感覚が薄いんだろう。
それをどうこう言うのも、僕の母なら直してくれというのも、もう遅すぎるんだろうね。
それなら、もう1つ気になる事を聞いておこう。
「バーモント艦長に、ケモナー施術はしないの?」
「本人が望んでいない。それと、年齢の事もある。身体の強化手術である程度若返らせる事も可能だが、あの歳では相応の負担が伴う。ケモナー施術の適齢年齢は、ギリギリで見積もっても50歳までだ」
「そっか……」
そういう事情があるなら仕方がないか。
とにかく、机に座って何かを書きまくっているコート女医に、これ以上聞くことも無いから、ありがとうと一言言って出ようとした時ーー
「そう言えば、この艦はアルツェイトの首都、ベイザルムールに行くんだったな?」
まさかの行き先を聞かれてしまった。言った気がするけれど、あの時も作業中だったしな。聞いてなかったんだね。
「そうだよ。軍本部のあるオーディルは、その隣街だったかな? 本当はそこに向かう予定だったけれど、ミラルド氏を連れて行かないといけないから、先ずはそこにだね」
「そうか……」
そうコート女医は呟き、手にしていたペンを置いた。
「一応、聞いておくか。オーディルだったらまだ良かったが、首都となると事情が変わる。私と、この艦を降りないか?」
「……へ? 今、なんて?」
あまりに突然の提案に、僕は信じられないものを聞いたような気がして、もう一回聞いてしまった。
「だから、私とこの艦を降りないか? と言っている。時間の無駄だ、一発で答えてくれないか」
「ご、ごめんなさい。でも、まだちょっと分からない。僕は、アルツェイトの事をーー」
「私もジ・アークに乗っていながらなんだが、この国は腐っている。首都は特に、その傾向がキツいぞ。見たいというなら止めないが、見ない方がいい」
チャオと同じ事を。
という事は、アルツェイトというのは、それ程にまでダメな国って事になるんだけど……。
それでも僕は。
「このジ・アークの人達に助けられた。まだ、信じたい気持ちもある。だから、実際に見に行く。ジ・アークの人達だけが違うというなら、その方が良いけれど、もし同じなら……」
その時は流石に、ジ・アークから降りるよ。
一応、言われた事はやって来た。シナプスを、軍の本部のある街まで守るって任務は、達成出来ると思うから。
「そうか。分かった。私は、ハンナを連れて先にこの国の国境近くに移動しておく。場所はここだ。もし、アルツェイトから離れるというなら、ここまで来て欲しい」
「……分かったよ」
コート女医から渡された、そこまでの簡単な道順のメモを貰い、僕はコート女医の部屋から出た。
この人の所に行くかどうかも決めてはいない。出来たら行きたくはないんだけど、他に頼る所が無ければ仕方ない。
コート女医から誘われるも、まだ首都を見ていないコノエは、ジ・アークに拾われた恩の為にと、首都を見ることを決意する。しかしやはり、コート女医からも止めた方がいいと言われる。いったい、首都には何があるのだろうか。
次回 「3 首都 ベイザルムール」




