表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 5
64/105

1 談合

 アングラーの襲撃で、様々なものが失われた。それでもコノエは、ただ戦うしかない。そう言い聞かせながら、シナプスでジ・アークを守る。


 一方、ある街ではギルムが誰かと待ち合わせをしていた。

 どれぐらいの時間が経ったのか、その男はゆっくりと目を覚ました。


「おぅ、大将。大丈夫か?」


「…………グランツ君。私は、まだ生きているか」


「おぉ、生きてるぞ。まぁ、一昔前なら死んでたか、植物人間ってやつになってたろうな。医学の進歩には、改めて感謝しかねぇ」


「そう……だな」


 ぼうっとする頭を叩き起こすようにしながら、オルグは自分の居るところを確認していく。

 軍の病院だろう。その病室の一室だ。横には、虎のケモナーグランツが座っている。彼だけだ。そう、彼だけだった。


「……してやられた私には、見舞いも来ないか」


「…………あ~いや、ん~なんつったら良いのか」


「何があった?」


 何か言い淀むようなグランツの言葉に、オルグは食い気味で話しかける。


「私の寝ている間に、何がーー」


「アングラーが解放された。やらかしたのは、アルツェイトだ。海上軍事基地。あそこの基地長が手引きしたと報告には記されているが、どこまで本当かはわかんねぇ」


「ちょっと待て、そこは……」


「あぁ、ジ・アークが停泊していたな。諜報員が出港を確認している。ただ、基地は燃えたがな」


「そう、か……」


 そうなると、彼女も無事だろう。とは言え、何かしら考えの変化も起こっているかもしれない。


 味方の裏切り程、堪えるものはない。


「ギルムと話をしたいが」


「おぉ、とりあえず監視はねぇが、発言は気を付けろよ、大将」


「分かっているさ。少し、確認をね」


 そう答えたオルグに、グランツはガリガリと頭を掻きながらため息を突く。


「俺は、あんたに付いていく。あんたの言葉だけが全てだ。余計な事なんて考えねぇよ」


「そうか。それはすまない、意地悪だった。時々こうして確認しておかないと、不安になるのでね」


「だから、隊の仲間達も案ずる。裏切りをされないように、信用という楔を打ち込む。ただ、あんたは俺以外をあまり信じていないから、奴等にとっては可哀想な話だ」


 そう言ったグランツに、オルグは少しだけ口角を上げ、満足そうな顔をした。そして、彼は話を戻す。


「それで、ギルム()は?」


「出掛けてるよ。旧友に会うんだとよ」


「旧友? はて……いったい誰だ?」


「さぁな。とりあえず、今はまだ寝てな。命に別状無いとは言え、数日は寝てたんだ。無茶して起きたら、また倒れっぞ」


「やれやれ。分かったよ。動くのは、もうしばらくかかるか」


 そう言って、再び目を閉じたオルグを見て、グランツは少し気まずそうな表情をした。あの事を話すのは、まだ早いという感じの顔だ。


 例の大型機体と、そのパイロット3名の行方不明の事は。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 とある街の、バーの様な設えの飲食店で、ギルムは難しい顔をしながらフォークで料理を突っついている。


「……ちっ。もう少し動きがあると思ったんだがなぁ。いや、まぁ、想定通りではあるが。ガンマ社も好調なんだが、何か嫌な予感がするな。早めに言った通りにするか」


 自身の思惑通りが半分、思惑通りにいっていない事が半分、そんな感じの呟きをしながら溜め息を吐いた。


 すると、その店に1人の男性が入り、ギルムの傍へとやって来た。


「おぉ、やっと来たか。悪いな、考え事ばかりで腹が減っちまってよ」


「構わないさ。ただギルム、この街に呼ぶのはどうかと……」


「なんだ? ラリ国でもレビューも悪くない名店だ。不満か?」


「ゴタゴタしているラリ国というのがどうかと言うんだ。国連もいるし、INOもいる」


 男性は席につくと、早速ギルムに文句を言い出した。どうやらそれだけの仲らしい。


「だからだろうが。お前と俺が面揃えてるなんて、向こうからしたら良いニュースだろうが」


「……やれやれ。君のそういった所は気に入っている。ただ、やはり少しは考えて欲しいな。例の件、然りな」


「ん~まぁ、あれだけやらねぇと、出ねぇだろう?」


「やっても出なかったようだが? むしろ、余計なものが出てないか?」


「そりゃそっちもだろう? ん? アングラーなんか引っかけやがって。どう対処すりゃ良いんだっつ~の」


 そう言った後、店員が新たに入ってきた男性へ注文を取りに来た。そのとたん、2人はピタリと会話を止め、無難な会話に切り替えた。


「そういえば、この間のドラマは見たか?」


「あぁ、傑作だなありゃ。あの男、普通振るか?」


「幼馴染みとの約束を覚えているんだ、仕方ないさ。あぁ、私は黒大海老のトマトソースパスタで」


 店員が注文を取った後は、無難な会話を交えながら、お互いの情報交換をし始めた。


「核……か。本当にやる気か?」


「場合によってはな。ただ、俺の立場もある。そこは分かってるさ」


「それなら良い。しかし、ミラルド氏のは焦ったぞ」


「けっ。お前がそっちの灰汁を取り除くって言うから、盛大にかかってやったんだ。下手な演技は怪しまれるだろう。それに、あいつらも用済みだったからな、丁度良かった。それよりも、灰汁どころか煮凝りの様な奴等が出てきたぞ。その辺りの対処は出来てんだろうな?」


「ふむ。彼等の登場は、10%程の確率だったが、頭にはあった。しかし、出て来て欲しくはなかったというのが本音だな。お陰で、大事な駒を失ったよ」


「こっちも失いかけたわ」


「お互いに、上手くいかないものだね」


 しばらくそう話していると、店員が男性への注文の品を持ってきた。


「お待たせしました」


「ありがとう」


「お前、ほんと好きだな。それ」


「ここのは絶品だからな。特に、この海老なんか良い味出してるからね。尚更だ」


「へいへい。んで、イナンアはどうする? 予定通りとは言え、ゲルシドも俺達の事を勘づいているぞ」


 その問いかけに、パスタを一口食べた男性が答える。


「そうだな。ゲルシドも厄介だし、その側近達も中々だ。と言っても、君に戦力提供をお願いしているし、その繋がりがある以上は、向こうも私達の事を突っつきはしないだろう」


「確率的には?」


「60%程かな」


「ひっくいなぁ、おい。大丈夫かよ」


「なに、その為の釘は打ってある。鎖も準備万端だ。アレを手にしたら、ゲルシドの夢が一気に近付く。おいそれと、私達に手を出したりはしないさ」


「アレ、横流しするのか。くっくっ、良いのかよ? そっちがピンチにならないか?」


「そうなったらそうなっただ。なに、こちらの状況は更に進んでいる。今更ゲルシドに一手取られた所で、計画になんら影響はないさ」


「そうか。それなら、俺も変更なく動くとする」


「あぁ、よろしく頼むよ。ギルム」


「あぁ、○○○○。お前のような奴、あいつ以来だぜ」


 そう言いながら、2人はしっかりと握手をする。ニヤリと笑うギルムに対し、男性の方は眉ひとつ動かさない。ギルムですら、そこまで信用していないといった所だろう。それでも、フッと口角を上げている所を見ると、あながち悪い目では見ていないようだ。


「君の側近だった奴か。惜しい人だったな」


「んん。あいつだけは、俺を見ていてくれていたからな」


 そういうギルムだが、そこまで悲しそうにはしていなかった。それを見た男性は、何かを悟ったようだ。


「まぁ、ほどほどにな。それと、ここの会計はーー」


「あぁ、ガンマ社が買い取ってるから大丈夫だ。ここ、売り上げ不振で潰れそうだったからな。お前の大好物を消すわけにはいかねぇだろう」


「それはまた、大恩を与えられてしまったな。はは」


 そう笑った男性は、さっきのパスタのおかわりを注文した。当然、ギルムは苦笑いをしていた。


 それでも、この男性が自分を裏切る事はないだろうと、ギルムは心のどこかで確信をしていた。


「あぁ……お前の夢には、俺の協力が無ければ達成出来ないもんな。お前は、俺から離れられない。逆に俺もだな……」


 ポツリと小さく呟いたギルムの言葉は、男性までは届いていなかった。

 ギルムと何者かの思惑は、戦争の中で色濃く渦巻いていく。コノエがそれに巻き込まれるかどうかは、彼女の今後の動き次第かもしれない。


 そしてコノエは、アルツェイトへと向かう。


次回 「2 朝焼けの出港」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ