14 今はただ戦う
ジ・アークにとって大きな痛手となる。バーモント艦長の死は、艦内の人達の士気を下げるには十分だった。それでも皆、折れてたまるかの一心で動いていた。
ジ・アーク内は、重苦しい空気になっていた。
バーモント艦長が亡くなって、後任にとアルフィングを指名したが、そもそも彼自身が心の準備が出来ていない状態だったから、これからどうしたら良いのかが分からないでいた。と言っても、直前までの任務がまだ継続中だから、目下それを最優先する事になるのは、誰でも分かる。
アルツェイトの首都へと向かう事。
ただ、その先どうなるかは分からない。皆、バラバラになってしまうかもしれない。
バーモント艦長の亡骸を前に、皆黙ったままだけれど、そもそも敵に襲撃されている最中なんだよ。
「アルフィング……艦長さん。あの、基地前方海中から、機体反応。アングラーのものかと。何か、通路の様なものから来ているようです」
皆、無意識に自分の仕事をしていると、高性能多機能レーダーを見ていたツグミがそう報告をしてきた。
「……そうか。海中ということは、あの水門や壁は破壊されていない。水路を作り、そこからこの基地内に直接侵入してきたか」
「そんなの、他の国や組織に気付かれーーいや、そうか。レイドルド中将がアングラーを手下にしていたのなら、向こうからではなく、こちら側から水路を作り繋げていたのか……よくもまぁ、私達にバレずにそんな事を」
なるほど。それがいつから行われていたかは分からないけれど、だいぶ時間をかけていたのは確かじゃないかな。バレないよう慎重にとなると、それなりの時間がかかるだろう。
「彼の意図は最早分からない。死をも辞さない覚悟だったのなら、この基地の奴等全員がそうだろう。国連からの依頼とはいえ、断る事も出来た。だけど、レイドルド中将達の意図も聞かずに承諾したのが、反旗を翻す直接の原因だったのかもな。正直かなりの痛手だが、この基地は廃棄する」
「アルフィング。それは流石に、パーツ大臣がーー」
「分かっている。分かっているさ。ただ、今の皆の士気と、敵側の士気を比べてみろ。圧倒的だろう。これ以上、いたずらに死者を増やす訳にもいかない。ジ・アークを失うわけにもいかない。そして何より……」
「私が殺される訳にもいかない。皆、すまない。私のせいで、このような事に」
そうアルフィングが話していると、ミラルド氏が操舵室に入ってきた。確かにその通りだけれど、こういう事は皆、覚悟の上だったと思う。ただ、身内に裏切られたのが一番効いている。
「ところで、私は釣りが好きでね。獲物が大きいほど、より困難になる。それなら、良質の餌を用意しないと、向こうもかかってくれない」
「……なんの話だ?」
本当に、突然何の話なんだと思うことを話してきたね。良く分からないんだけど。
「いや、なに。そちらの軍に、ルーグという方がいるだろう? 彼とは既知でね、アルツェイトについて良くない事を耳に挟んだのだよ。その事を亡命の意思と共に懸念点として話すと、こちらに亡命するのは良いが、アルツェイトも一枚岩じゃない。そっちが手に入れた情報通りの事になっている。危険ではある。それならいっそ、餌になってくれないか……と」
「…………おい、まさか。あいつ、何を考えて……!!」
さっきの釣りの話って、そういうことか。
ミラルド氏は、良質の餌。竿はおおかた、このジ・アークか。
ミルディアじゃない、一番の敵が身内にいることを、そのルーグって人は知っていたんだ。だから、ミラルド氏が亡命したいというのなら、いっその事餌になって貰って、そいつらをつり上げて引きずり出そうとしたのか。
引きずり出す所か、大当たりの大ヒットで、とんでもない騒動を起こされたけど、ルーグって人からすれば、これで思う存分叩く事が出来るって訳だ。ついでにアングラーの方も。いや、こっちも予測していたかは知らないけれど、とんでもない大物が釣れたのにはかわりない。
「ルーグへ問い詰めるのは、向こうに着いてからだな。今はとにかく、この基地から出港する。総員配置に。各々思うことはあるだろうが、今は軍人として動いてくれ」
そうアルフィングが言うと、皆持ち場へとついた。その後、アルフィングは僕へと話しかけてくる。
「コノエ君。君にはジ・アーク発進まで、この艦を守ってくれ。コルク、チャオもな」
「了解です」
僕がそういって敬礼すると、後の2人もそれに続いた。
「助かるよ。君のその姿勢に、皆もしっかりしないとって思っただろう」
「……僕は、皆ほどバーモント艦長との思い出はないし、付き合いも短い。だからって、何も感じていない訳じゃないけれど、託されたなら、動かないと」
「そうだな」
するとアルフィングは、艦長席の机に置いてあった、バーモント艦長の被っていた帽子を取ると、それを目深に被る。
「総員。発進準備。出来るだけ早くしろよ。敵は待ってはくれないからな。コノエ達が粘る時間は、お前達の働き次第だ。動け!!」
そして艦長席にある、艦内全体に声を伝える装置に向かって、アルフィングは大きな声でそう言った。
その後から、ちょっとだけ艦内が賑やかになった。皆、折れてたまるかの一新で動いている。
それを見た僕は、急いで格納庫へと向かった。
◇ ◇ ◇
戦闘用のボディスーツに着替え、格納庫に着くと、もう皆色々と手際よく動いていて、シナプスと他2機も、いつでも起動出来るようにされていた。いつも以上に仕事が早いな。
それに乗り込んだ僕達も、手際よく発進準備をする。
『聞こえますか、コノエさん』
「うん。大丈夫だよ、ツグミ。それじゃあ、行こうか」
『はい。お願いします。コノエさん達は、水中から襲撃してくるアングラーの撃退及び、この基地内の隊で、こちらへ攻撃してくる人達の撃退です。ジ・アーク発進まで守って下さい』
「了解。コルクもチャオも良い? というか、チャオは大丈夫? 基地の人達はーー」
『あいつらはもう敵じゃ。やってやる』
あぁ、いつもの女帝モードか。無理矢理感もあるけれど、彼女も軍の在籍は長い。それなら、僕からあれこれ言うのは野暮だよね。
「分かった。コノエ=イーリア。出ます!」
そして、僕が一番最初に出撃し、ジ・アークの格納されている巨大な格納庫から飛び出した。
その目の前に広がっていたのは、アングラー達の魚のような形をした機体の、そのヒレの部分からミサイルの様なものが発射し、海上基地を攻撃している光景だった。
『レイドルドとの約定はここまでだ! 奴が死ぬまでだからな! ここからは、我々が海上を支配する! 海を行く陸上の獣や人は排除する!!』
う~わ。やっぱりこうなった。
レイドルド中将は、それも折り込み済みだったのかな? だから、自分が死ぬまでの間という約束を作ったのか。そうすれば、こいつらはきっと自由に暴れだす。
更に戦火は広がり、最早民主化とか言っていられなくなる。
「いたずらに戦火を広げて。それで泣くのは、いつでも国民の人達だ。なんでこんな事ばかり、人は続けるんだよ。もういい加減にしろよ。今の僕は、ちょっと怒っているよ」
そう言って、僕は目の前のアングラーの機体に中口径のレーザーライフルを向け、機体中央に向けて撃ち、その機体を貫いた。そして、その機体は爆発して大破した。
直前に脱出しているのは見えた。
そうか、こんな時にようやく分かったんだけれど、パイロットや機体の動力部を狙わなければ、脱出する事は出来るんだった。そうしない人達もいるだろうけれど、その時はその時でまた考えたらいいか。
今はとにかく、ジ・アークの発進まで守らないと!
「アングラーとか、そんなの関係ないよ。僕は僕で、僕の正義を貫かせて貰う!!」
そう大声で言って、僕はアングラーの機体へと突撃する。
これ以上相手の思うがままにはさせないために。
このまま思いどおりにはさせない。コノエは、自分の出来ることをする為、ただビースト・ユニットに乗って戦う。
一方ある場所で、密かに話し合う2人が居た。
次回 新章「1 談合」




