12 飛び交う思惑
首都へ向かう準備をしている最中、同じ軍の人達から襲撃されたコノエ達。急いで基地から脱出する為、銃を握り締め歩き出す。
時は少しだけ遡り、コノエ達が襲われる数十分前の事。
「ここでしたか、バーモント艦長」
「……レイドルドか。こんな夜更けに何か用か?」
薄暗いジ・アークの操舵室、艦長席のあるその場所で、敢えて操舵席に座るバーモント艦長の背後から、レイドルド中将が話しかける。
「えぇ、少し思い出話をと。昔を思い出しているのですか?」
「時々な。朝には出るが、色々と準備はしておく必要がある」
「その為に、こんな時間まで?」
「この艦は特殊だ。出港の準備が手間取る事もある。この手の艦は初だからな、皆慣れてない部分もある」
「この銀河に人類がやって来た時、更に他の銀河を捜索する為として、この艦が造られたのですよね」
「こいつはそのレプリカだが、それでもかつての航行能力は再現されている」
淡々と話す2人は、お互いにしか見えていない、それぞれの思惑というものも、頭に浮かんでいただろう。2人とも、あまり口角を上げる事もなく、感情を出すこともなかった。
「あなたは昔から、国同士のいざこざに辟易していましたよね。そんなあなただからこそ……でしょうか? パーツ大臣も上手く考えるものだ」
「それでも尚、戦火からは逃れられん。この艦本来の使い方はされていない」
「そうでしょうね。だからこそ、この艦も改良する必要があるでしょう。より、戦闘に特化するように」
「私は、違うがな。こんな争い等は終わらせ、早くこの銀河系外を調べてみたい」
冒険家のような発言と、少年のように輝かせるその目は、バーモント艦長が本来やりたかったことを、この命が尽きるまでにと、望んで止まない姿を現した。
しかし、後ろで聞いている男は、それが許せなかった。
「そんな願い、戦時中以外でして欲しいものです。あなたは生まれる時代を間違えた」
「かもしれんな。が、これでも軍人としての責務はある。思いどおりにはさせんよ……レイドルド」
そうバーモント艦長が言った瞬間、ガチリと撃鉄を引く音がする。
「さぁて、思いどおりにならないのは、どちらでしょうね。バーモント艦長」
「それは、そちらだよ。事を急いだな、レイドルド」
だが、そんなバーモント艦長は全く焦る様子も無く、右手を反対の左脇に遠し、そこから背後のレイドルド中将に銃を向けていた。
「軍の中で私は中将、あなたは少将あたりでしょうかね。これは、上官への反逆にもなりますね」
「上等な席は要らんと、その辺りの階級を申し出たが……ふむ、そちらと同じくらいにしておくべきだったか」
「あなたは本来、軍のトップにいてもおかしくないレベルでしょうに。全く……」
こんな状況化でも、そんな話が出る程に、2人ともやけに落ち着いている。ただ、お互い引き金に指はかかっているので、どちらかが仕掛けたら容赦なく急所を撃つ。どちらもそんな殺気を放っていた。
そして当然、お互いにもう引く気は無かった。
「元部下とはいえ、落ちたものだな、レイドルド」
「そちらもです。あんな大臣の言いなりになり、ミラルド氏の亡命を助けるなんて、正気の沙汰ではない。ミルディアとの戦火を広げるとは、衰えたものですよ、バーモント」
「長い目で見れば、あの国が消えるのは良くない事だ。パーツ大臣とはいえ、その辺りの目は持っている」
「弱体化の民主化ですか。それこそ戦火がーー」
「逆だ。民主化こそ、平和の礎だ」
その後、お互い無言になり、永遠かと思われる程の短い静寂が辺りを包み、そして銃声が響いた。
◇ ◇ ◇
ーー時を戻し、コノエ側ーー
部屋から出発した僕達は、レイラ隊長の言われ通りの陣形で歩き、ジ・アークを目指していた。
出来るなら、見つかりたくはない。戦闘なんかしたくない。笑いあって、同じご飯を食べた同士で、何で殺し合いなんか……いや、切り替えないと。こういう事は、良くあることなんだろう。レイラ隊長なんて、全く動揺することなく、テキパキと動いている。
他の通路と繋がっている所は、レイラ隊長が前に出て確認。問題が無ければハンドシグナルで進む。
敵がいれば……気付かれていれば、そのまま射撃しつつ後退、突破出来そうなら突破する。応援を呼ばれたり、無理そうだと判断すれば、別のルートへと小走りで向かう。敵を撒ければ良いけれど、これは危険過ぎる。だけど、弾数に限りがあるから、判断が難しいところだよ。
気付かれていなければこちらが先手を取れるため、射撃して一気に倒す。
そんな事を頭の中でグルグルと考えながら、着実に進んでいく。順調過ぎて逆に怖い。
そんな時、前方のレイラ隊長がハンドシグナルを出す。これは「止まれ」の合図だね。
その場で耳をすますと、レイラ隊長が止まれと指示を出した意味が分かった。前方、左の曲がり角から足音だ。向こうも慎重に歩いている音だ。
「…………」
一瞬の沈黙の後、足音が消える。向こう側も途中で気付き、足を止めたか。そして、無言でレイラ隊長がライフルを構え、曲がり角の方へと向ける。
「待て。その歩き方、敵に見つからないようにしているということは、味方の可能性が高いな。レイラか?」
「……その声、アルフィングか」
アルフィング? 良かった。味方だ……と思ったのもつかの間、レイラ隊長が次に放った言葉で、異常事態であるという現実に戻されてしまった。
「お前は、どっち側だ?」
どっち側……そうか、アルフィングも裏切っている可能性がある。嘘だろう……。
「大丈夫だ。俺は……俺達は、後から基地に配属になった。つまり、レイドルド側ではない、そっち側だよ。レイラ」
「…………直ぐに射撃をしてこないとはいえ、まだ油断は出来ない。そちらから来い。こっちは、銃を構えておく」
「分かった。流石だね、レイラ」
そう言って、アルフィングと他数名が、ライフルを下げた状態でこちらに姿を現した。それを確認した後、レイラ隊長もライフルを下ろした。
「……ふむ。2、3……お前も入れて5人か。他は?」
「俺を逃がすため、応戦した」
「なるほど」
あぁ、遠くから聞こえた銃声はそれか。つまり、その人達はもう……それを分かっているのか、アルフィングは眉をしかめていて、少し後悔しているような感じになっている。
「……俺達は、レイドルド中将を抑える為の、予防策だったのさ。意味を成さなかったがな」
「そう言うな。これは流石に、私も予測の範囲外だ。というか、こんな強行を起こす程の戦力、この基地にはないはずだ」
「本国と内戦を起こす気だとしても、確かに圧倒的にレイドルド中将の方が部が悪い。それなのに、何故……」
「さぁな。本人に会ってみないことにはだ」
「とにかく急ごう。俺達が回りを囲う。出来るだけ向こうの隊と遭遇しないようにな」
そう言って、アルフィングの隊も加わり、僕達はまた歩き出す。
「どれだけの隊が同調した?」
「シュカーエ、リエル、グリシッド、ヤッグ、ハーフェイン、それとブライアンもだ」
「この基地の大半か……やれやれ」
ということは、最初からそのつもりでいたって事じゃん。僕達は、そんな基地に……いや、それでも危険はないってされていたはずなのに、本当に何でこんな強行を? 理解が出来ない。
そうは言っても、実際に起こっている。これが間違ったことなのか、正義であるのか、その判断は僕には出来ない。僕達の方が間違っているのか? それとも、レイドルド中将が間違っているのか……アルツェイトの国の姿が見えていない僕には、どれもこれも判断材料が無さすぎる。
だから今は、レイラ隊長とアルフィングの言うことを聞いて生き延びよう。そして、見るんだ。この国の姿をね。
これは最初から仕組まれていたのか。事態は最悪の方向へと向かい、更なる事態へと発展していく。
次回「13 アングラーの襲撃」




