10 アルツェイトの首都へ
追っ手の機体を全て撃破し、一路は海上軍事基地へ。少し一息付いたものの、数日後には首都へ向かうことに。
追手からも逃れ、メールコンへと到着した僕達は、そこから荷物の輸送を装い、大型トラックへと乗り換え、今度は陸路を進む。
僕達の機体も一緒に運んでいるけれど、それを荷物だとしているんだ。組み立て中の新型ビースト・ユニットと、その開発用の部品やらパーツって事でね。
戦闘で破損した部分もあったから、それを取り外したりしたら、より信憑性が増したから、怪我の功名というか、あの場の戦闘も無駄ではなかったと思う。
それから、アルツェイトの国境へと入り、水上軍事基地近くの街で、ミラルド氏は変装を解いて普段の格好にされた。
スーツ姿にスラッとした体躯、顔は凛々しく整い、黒髪はオールバックに。その目は自分のやるべき事をしっかりと見据え、キリッとしていた。さっきと全然違うよ。
「ここまで来たら、もう大丈夫だろうからね。さて、あと一息。よろしく頼むよ」
そう僕達に言うと、ミラルド氏は僕の方へとやって来た。
「ところで、先程率先して大きな機体と戦っていたのは、君かな?」
「あ、はい。そうです。もう大丈夫なの? えっと、コノエ=イーリアです。改めて、よろしく」
「おぉ、そうか! 別の女性かと思ったよ! 豪快でガッシリとしたのとか! 君だったとは!! しかし助かったよ!」
「あばばばば……」
肩を掴んでガクンガクンと揺らさないでくれますか?! 結構アグレッシブだな、この人!
「私の国では、あまり戦闘をしないようにはしているが、それでも防衛力は必要だ。勇敢な方には、それなりの地位や評価を約束している。どうかな、君さえ良ければーー」
「んっん! そこまでにしていただけますか? ミラルド氏」
「おっと、これは失礼」
何か普通にヘッドハントされそうだったけれど、レイラ隊長が後ろからわざとらしく咳払いして、それを止めてくれました。
ただなんだろう。こういう事は初めてだから、顔がにやけそうになる。
「コノエ。あまり調子には乗るなよ。英雄だとかちやほやされている奴ほど、努力を忘れて実力を落としてしまう。良いな、常に新兵の様気持ちでいろ」
そんな無茶な……と思うけれど、レイラ隊長の言うことにも一理ある。気を付けないといけないね。だけど、褒め言葉は素直に受け取っておきたいな。
「あと、お前の活躍はちゃんと私達が見ているし、本国に着いたら報告して、それなりの報酬は用意して貰うつもりだ。いいな? 浮わつくなよ」
「あ、はい」
そりゃそうだろうね。それでもミラルド氏は、隙あらばまた勧誘しようとしているのか、僕の方をチラチラと見ていました。
◇ ◇ ◇ ◇
それから、水上軍事基地に無事辿り着いた僕達は、一旦本国へその事を報告する事になった。
一応まだ、ジ・アークは本国へ入る事を許されていない。ミラルド氏を、このままジ・アークで連れて行くのか、それとも別の輸送船で行くのかで、動きが変わってくる。
レイドルド中将は、ジ・アークはここにいて欲しいと言っていたけれど、それを決めるのは本国のお偉いさん達だからね。
とりあえず、僕達は休息を取りながら、いつでも出発出来るように準備をしていた。
「本国に行けるなら、ようやくって所ね~コノエは本国の状況を知らないのでしょう? どうせなら、私達が案内しましょうか。私、ちょっとだけなら滞在したことあるの」
「知らなくて良いこともあるわよ」
コルクに対して、チャオの方は何か言い淀んでいた。何があるっていうんだろう? まぁ、戦争をしている国なんだ、何かあるのは間違いない。
ただそれは、ミルディアも一緒だ。
そんな時、僕達が喋っている談話スペースに、アルフィングが入って来た。
「おっ、ここにいたか。君達も、この基地を出発する準備をしておいて欲しい」
「え? ということは?」
「あぁ、ミラルド氏の亡命成功の結果を得て、本国首都への帰還を許可された」
やっと。ようやく、アルツェイトの首都へと入れる。時間がかかったよ……。
今までは、アルツェイトの同盟国ばかりだったし、訓練施設も首都からは結構離れた所だった。領土ではあったけれど、間に同盟国を挟んでいたから、手続きとかも必要だったんだ。
「今艦長は、レイドルド中将に挨拶をしにいっている。もちろん中将にも、本国からの指示は入っているはずだ。諦めて貰うしかない。ジ・アークはな」
「え? もしかして中将は、ジ・アークをこの軍事基地に配備しようとか思って?」
「いるだろうね」
「うわぁ……そりゃそうか」
だからなんか、僕達を凄く厚待遇で迎えたのか。そういうやり取りというか、軍の中でも自分の部隊こそって考える人も居るんだね。
とりあえず、出発するのがいつになるか聞かないと。
「それで、いつ出発するの?」
「そうだな。明日明後日くらいかな。補給をして、機体の整備をしていたら、それくらいだろう。今回大破した機体はないから、早くには出発出来るだろう」
そう聞いたコルク達が、何故か僕の尻尾を掴んできた。
「うわっ!? 何するの!?」
「丁度良いから、あんたの荷造り手伝って上げるわ」
「あら、面白そう。元男だったのなら、意外といかがわしい物もあったりーー」
「しません!!」
そういう事で手伝われるのは勘弁して欲しい。と言っても、尻尾掴まれちゃってどうしようも出来ないや。
「あ、それと。足りないのがあれば買い足しましょう」
「良いわね~コルク。例えば網タイツとか、網タイツとか網タイツなんかーー」
「それもう古い!!」
何でチャオがそんなボケをかますんだよ。というか、よっぽど僕に網タイツを履いて欲しいようだけど、断固拒否するよ。
「1周回って新しいと思うけどな~」
「もう、1周どころじゃないよ」
そんな和気あいあいとしている僕達を見て、レイラ隊長もアルフィングも暖かい眼差しを向けていた。
たまにはそうやってストレス解消をしなさいって事かな。確かに、連日戦い尽くしだったし、そういう意味でも適度な休息は必要なんだよね。
ミラルド氏も、この基地でゆっくりとしているし、ミルディア側からはまだ何も追及されていない。その辺り、何かしら動きはあるとは思うけれど、僕達の耳まで入らないのは、よっぽどの極秘ということだ。
僕達はただ、命令された事をやるだけ。でも、僕はこの世界の事をまだ詳しく知らない。だから、知る必要がある。
それ次第ではもしかしたら、軍から離れたくなるかも知れない。そうしたらもう、この2人とも会えなくなるかも……何て考えていたら、ちょっとしんみりしちゃったよ。
「なに? コノエ。泣きそうな顔して」
「あ、ごめん。チャオ。ん~」
今、廊下を歩いているけれど、周りには誰も居ない。言っても、大丈夫かな?
「僕、アルツェイトとミルディアの戦争の原因を知りたいんだ。それ次第では、もしかしたら……」
「軍を抜ける? そう。そしたら、私も一緒に抜けるわよ」
「……うん、ありがーーってそんな簡単に!?」
わりとあっさりと決めたね。どういう事!?
「ちょっとチャオ、あなた何言ってーー」
「コルクも知っているでしょ? アルツェイトの実態、スラム街の数」
「……あ~あんたまさか……」
「そのまさかよ。私は、首都「ベイザルムール」のスラム街出身よ」
それを聞いたコルクは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ふふ。そうよね、コルク。アルツェイト国の一般人なら、スラム出身と聞くと、あんまり良い顔をしないわね。だから黙っていたけれど、どうせこの子にアルツェイトの国を見せるなら、遅かれ早かれよ」
「ごめんなさい。ただ、そうは見えなかったから。普通だったわよ、チャオ」
「まぁね。バレる訳にはいかなかったから。でもさっき言ったように、もう首都へ向かう事は決まっている。そして、この子はその首都の街並みを見たい訳。先に知っておいた方が、親切ってものよ」
なんだ、この空気は?
何故かコルクとチャオの間に気まずい空気が流れ始めたよ。さっきまでの和気あいあいはどこに?!
というか、それだけヤバイの? アルツェイトって国は、その首都は……いったいどれだけ……。
首都へ出発するため、最後の休息を取るコノエ達。そんな中、チャオの出身が判明する。首都の中でもスラム街と呼ばれ、国民からも距離を取られるような場所で、チャオは生まれ育っていた。
それを知らされたコノエは、アルツェイトに対し、少なからず不信感が出てきていた。
そしてその夜、事態は急変する。
次回「11 銃の重さ」




