9 思い切りやる
相手パイロットに同情はしない。自分に嫉妬みたいな感情をぶつけられても困る。コノエはただ、3人を人として見て、人として接する。
そして、全力でぶつかる。
あの大型新型機のパイロット3人に、そんな過去があったのには驚いたよ。
しかも、やっと活躍出来ると思ったのに、次々と新型を出されてしまい、その大型の機体ももて余されている。パイロットと言い機体と言い、ミルディアのやり方はどうも好かないなぁ。
「えぇい!!」
そう思いながら、僕は相手機の間接部を狙うけれど、流石に前回と同じ戦法は通じないよね。背中から取り出した大型のビームブレードで弾いて来た。というか、その様相はもう正にスーパーロボットだよ。
こんなのを作れるようになるまで、人類は発展したんだ。それなら、もっと発展していてもいいはずなんだけれど、色々とこの惑星でも問題を起こしているから、まだこの段階なんだろう。
「おっとと、とぉ!」
『ん~もぉ!! 中々当たらない! ちょっとルド! しっかりと安定させてよ!』
『無茶言うな! 地上にいるのとは訳が違う。機体を安定させながら飛ぶってのは相当技術がいるんだ! それと、重力で中々浮上も出来ないのに、超高濃度エネルギーガスタービンで無理やりぶっ飛んでんだよ。ミリ単位の制御は期待すんな!』
『落ち着け2人とも、それは向こうも同じだ』
確かにその通りなんだ。
実際僕のフライトユニットも、スリムなナイト・ユニット用だったから、ビースト・ユニットを飛ばすには力不足だった。そこを向こうと同じ、エネルギーガスのタービンによる高出力化で無理やり飛ばしているんだ。
当然、僕達の周りはやたらとうるさい音を響かせながら、ビームライフルやレーザーライフルの撃ち合う音と、レーザーソードのぶつかり合う音が鳴り響いている。近所迷惑だけど、ここは海の上だし、周りの大陸までも遠い。国境も、今のところは大丈夫だから、遠慮なくーー
『コノエさん。エネルギー残量が僅かですよ!』
「うっそ!! ちょっと食いすぎじゃない?!」
タービンだからしょうがないんだけれど、燃費悪いなぁ、これ。ただそれは、向こうも同じだろうけどね。
早めに決着を着けないと、このまま海に落下していたら、ミラルドさんの護衛どころじゃなくなるよ。
「くっそ。悪いけれど、一気に終わらせるよ!」
『それは望むところだよ~こっちも帰りがヤバイし、そろそろ落ちて貰うよ。狐ちゃん~♪』
そう言って、僕はDEEPを起動させ、機体の性能を更に上げ、尻尾にもエネルギーを回していく。
そして、相手機が大きなビームライフルを構えた瞬間を狙い、腕に向かって突撃する。
『ん? それは分かっていた事だ。ルド!』
『わぁ~てるよ。ジェド!! おっらぁぁ! 最高火力で、向こうよりも上に上がるぞ!』
うん。上から狙い撃つ気だ。それは読めてた。ただ、こっちがそれよりも上に行くのには、少し燃料が足りないな。それならーー
「テール・レーザーショットガン!」
『うん? おいおい、どこ狙ってーーいや、しまった!!』
そう、そっちの機体の足なんだけど、その足でもホバーさせているから、バランスとか割りとそこで取ってないかな~と思ってね。
早めに気付かれたけれど、何とか命中させられた。片足を掠めただけになっちゃったけれど、その片足のホバー部分から小さな爆発が起こった。多分、そっちは使えない。となると……。
『何やってんの、ルド!! もっと飛んでれば……!』
『うるせぇよ。分かっていたけれど、やっぱ無理がある。もう少し欲しいぞ』
『ちっ、バランスが……この状態では、更にエネルギーを使ってしまうな』
少しグラグラと不安定になった相手機は、僕から距離を取り始めた。これは、チャンスだね。
「もらったよ!」
『甘いな』
ただ、相手も余力は残している。僕が追撃にと、尻尾の表面にビームコーティングをして、腕を斬りつけようとしたら、腰部に付いているミサイルパッドから大量のミサイルを発射され、こっちも距離を取らされてしまった。
「くっ、やっぱり兵装の数は向こうが多い。しかも、今のでこっちのエネルギーが……」
多量のミサイルを避けまくっていたら、だいぶエネルギーが減ったしまったよ。やっぱり、ビースト・ユニット用のフライトユニットが欲しいね。今はこれでやるしかないけど。
『あ~もう。アーチャー・ギアの方は!?』
『基本的には、あいつらと連携してだろう! ジェド、どうなってる!』
『……やられてる』
『えっ!?』
そっちはコルク達の方が上手だったみたいだね。コルクの狙撃と、チャオの機雷と鉄球系の武器を組み合わせた攻めで、新型のアーチャー・ギアは全て撃墜されている。だから、残るはこの一機って状況になっていたんだ。
『……退くぞ。流石にもう、こちらの方が分が悪い』
『ジェド……!!』
『言うことを聞け。リム、ルド。俺達は、使いっぱしりになるわけにはいかない。あいつらに、目にもの見せないとダメだろう。この機体で無理なら、次の新型を使えるように、更に訓練をーー』
「残念だけど、次は無いよ!!」
僕は一気にフライトユニットをフル回転させ、ブースターを合わせて相手機の至近距離に入り込んだ。
『速い!!』
『うっそ……!!』
『くそ!! ジェド、防御をーー』
『間に合わん!!』
これで、この人達が死ぬとは思わない。だからごめんね。
思い切りやるよ。
「やぁぁああ!!」
そして僕は、腕に取り付けている小型のジュナクトを使って、パイルバンカーの様にして相手機の懐を撃ち貫いた。
『ぐっ……貴様、エネルギーは……!!』
「あ~そこはまぁ、ナイト様にね」
輸送機の方は、僕達のもう一つの護送船と並走して飛んでいる。つまり、レイラ隊長とアルフも機体に乗り込んでいるはずなんだ。そして、フライトユニットはなにも、これ1つだけじゃない。
『コノエ君!』
予備のフライトユニットを付けたナイト・ユニットが飛んできて、海へと落下していく僕の機体を掴んでくれた。
『全く。なんという賭けをするんだ。予備があったから良かったものの、それが間に合わなかったり、新型からの攻撃を予想していたのか?!』
「それはね。コルク達がやってくれたから、後はこいつらだけだった。だから、持てるもの全て動員して、海に落とさないとって思った」
バチバチと火花を放ちながら、相手の大型機体は海へと落ちていく。本来なら、パイロットも致命傷を負って、そのまま……ってことになるけれど、彼等の話が本当なら、多分死なないのだろうね。海で溺れたらどうなるかは知らないけれど、それはそれで、もう眠ってくれた方が、彼等の救いになる様な気がするよ。
人殺しを正当化しようとしているだけだけど。そうしないと、あんな人達でも……って思っちゃうんだ。
『良いだろう。追手は何とかなった。あとは最高速で抜けて、メールコンへ向かう』
「了解」
完全にエネルギーが切れた機体内で、僕はこの無意味な戦争の終わらせ方かを考えてしまっていた。
こればかりは考えても仕方い。だけど、それでも何とかしたい。そうしないと、また彼等みたいな人達が生まれるかも知れない。
「……あとで、コート女医にもこの事を聞かないと」
『フランケンシュタインの怪物か……古い映像記録で見たことはあるが、何ともはや。科学の進歩は、昔の人達の創作でしかなかったものも、実現させてしまうんだな』
「させたらダメなんだけどね」
生死のコントロールなんて、そんなの人間がやって良いのかな。う~ん……哲学のレベルになっちゃうので止めよう。
今は任務中だ。無事に終わることだけを考えよう。
『さてと。君達の方の船に帰還したら、急いで補給だ。といっても、これ以上の戦闘は無理だろうからね、敵に見つからない事を祈るしかない』
運べる分の燃料だけだからね。さっきと同じ戦闘は、ちょっと厳しい。というか、出来るだけ戦闘はしないと想定していたのにね。
今回の任務、評価を付けられたら、あんまり良い評価にはならなさそう。
「……レイラ隊長に怒られるかな?」
『当然だ。護衛対象者は無事だったが、あんなドンパチは危険極まりない』
聞こえていらしたようです。
相手側にバレていたのが一番の問題だったような気がするよ。
『しかしそもそも今回は、相手側にバレていたんだ。この強襲は仕方ない。ですからミラルド氏。もう少し注意して欲しかったですね』
『いや、すまない。まさか、全て筒抜けだったとは。スパイ等の事も考えて対応はしていたが、ここまで綺麗に筒抜けとなると……』
『ふむ。こちら側にもスパイがいる……か。信じたくはないが、それしかないだろうな』
そうレイラ隊長が話すと、そのまま全員押し黙ってしまった。
何この空気。
とりあえず何とかなったのに、何かあんまり良い空気じゃない。更に重くなっちゃったよ。
スパイ……か。もしかして……。
間一髪のギリギリだった。それでも勝ち勝ち。一部ギャンブルだったが、何とか巨大機体を撃墜。コノエ達は、アルツェイトの国境を越え、無事海上軍事基地へと戻ってきた。そしてようやく、首都への帰還を許された。
次回「10 アルツェイトの首都へ」




