8 なり損ないの者達
レイラ隊長から出撃指示が出て出撃したコノエは、新たなフライトユニットの操作に苦戦しながら、相手の巨大機体に立ち向かう。
ミルディアの新型から撃たれるビーム攻撃は、何とかチャオの機雷で防げている。コルクがその隙に攻撃をしているけれど、相手のアーチャー・ギアという機体は、装甲を捨てているのか、ホッソリとした細長い機体になっている。その方が飛ばせ易いんだろうな。
そもそも、この惑星で機体を飛ばすと言う事に、こんなにも時間がかかっていたのは、ひとえに重力の問題があったからなんだ。
この星は、地球よりも重力があるんだ。
僕はもう、それに適応したこの身体にされていたから、直ぐには分からなかったし、皆も当たり前の常識になっていたから、教えてくれなかったよ。
純粋な疑問で聞いたら、そう答えられてビックリしたよ。
「……だから、こんな大きな機体に飛行能力を付けるなんて、相当な技術が無ければ無理なはず!」
『だよね~私達も詳しくは知らないけれど、何か新たなエネルギーとか、何とかが使われてるって? ん~分かんないけど、飛んでるなら良いじゃん~』
相手の機体からそんな答えが返ってきて、ちょっと拍子抜けしてしまったよ。
「尚更、あなた達は止めないとね!」
『それは、や~! これでも食らえ~』
「おぉっと!!」
思い切り拳でぶん殴ろうとしてきたね。それは何とか後退して避け、カウンター気味にこっちからのレーザーライフルで攻撃するが……。
『効かねぇっての!』
背中の翼になっている部分が展開し、強固なエネルギーシールドを張られて防がれた。
「くっそ!! やっぱり、生半可な攻撃じゃびくともしないか。というか、僕一機で立ち向かえるレベルじゃないってば……」
このZ・O・Xは、これだけで街を壊滅させる程の力を持っているんだ。たった一機のビースト・ユニットじゃ太刀打ち出来ないのは、誰が見ても明らかなのに、それなのに……何でだろう。何とかなりそうな気がする。
「……あ~そっか。なるほど」
さっきまでの何回かの攻撃で分かったけれど、この3人は心が未熟だ。
隊長クラスの誰かの指揮が無ければ、的確な判断が出来ないんじゃないのか? 今だって、僕が警戒しているとは言え、ミラルド氏を乗せた輸送船を攻撃出来るのに、それをしないでこっちに狙いを付けている。
以前は、隊長であるオルグが居たから、あの機体が脅威となったけれど、そうじゃなかったら、ただのお荷物なのか? いや、それなら何であの3人を……? うん。多分、理由はあるんだろうね。メールコンの時、あの女性は致命傷を負っていたのに、死んでいなかった。
何か、あるね。
『もう~! ちょこまかと動かないでよ! 狙えないじゃん!』
「いや、そりゃ狙わせないよ。レイラ隊長。今のうちに、こいつから距離を」
『分かっている』
向こうのアーチャ・ギアと言うのも、確かに厄介な動きはするけれど、コルクとチャオで何とかなっている。
おかしいぞ。
「君達の隊長はいないの? オルグは?」
『はぁ~? あんな人居なくても、私達の力があれば余裕だもんね~!』
「今、居ないんだね」
どう言うことか分からないけれど、彼女達は今、オルグから指示を受けて行動をした訳ではない様だ。それなら、いったい誰の指示? 独断か?
『……オルグ隊長なら、今重傷を負っていて治療中だ』
「えっ?」
『黒い凶星の名が霞みますね。新型ばかりでしたから、流石にハコ機では何とも出来ないですよ』
オルグが重傷? 何があったんだ。
『隙ありですね。リム、狙え』
『了解~♪』
そう思っていたら、思い切り大口径のキャノン砲で貫かれる所でした。肩に何かバカデカイのがあるなと思ったら、向こうも新たな武装を追加していたね。
「あっぶない……」
スレスレで機体の足を掠めただけで、何とか直撃は免れた。ただ、向こうの輸送船にも当たりそうになっていた。意外と冷静に計算していたね。
恐らく、3人の中でも一番冷静で状況把握をしているのが、さっきオルグが重傷だって言った男性かな。
『オルグ隊長とは何やらありそうだったからな。そこを突いてみたが、まさか当たりとはな』
「…………」
オルグの事は、今は気にしない。目の前に集中だ。
『ちょっとジェド~もしかして、あの狐娘ちゃん、オルグ隊長に? キャ~ヤダァ~コイバナじゃん~! ねぇねぇ、オルグ隊長のどこにーー』
「そっちの女性、ちょっと黙らせてくれませんか?」
いきなり何か変なテンションになって、そんな事を言ってきたから、思わず素で返しちゃったよ。
『リム。相手は敵だ、殺るぞ』
『えぇ~その前にコイバナしたい~したいったらした~い!』
『駄々こねんな! 俺達は与えられた任務をこなせばいいだけなんだよ! 私情を挟むなよ!』
『ルドはときめきがないなぁ~すぐに枯れるよ~』
何か、もう……戦場に居るって雰囲気じゃないぞ、この3人は。命のやり取りしているって感覚すら無い。
「ふざけていると、本当に死ぬよ」
警告のつもりで、僕はそう言った。こうやって会話している間も、レイラ隊長達は順調にこいつらから離れているからね。
アーチャー・ギアの方は、コルク達が何とかしてくれているとは言え、何体かは輸送船に張り付いているね。気は抜けない。
だから、目の前の人達から返って来た言葉の意味に、僕はしばらく考え込んでしまった。
『あ、私達もう死んでるし~♪』
「…………」
どう言うことだ?
「それは、どういう……?」
『リム。俺達の事を言うな』
『え~? でもでもぉ~それが人類の罪だし、私達だけ知っているのも、なぁ~んか癪に触るわけぇ~だぁかぁらぁ。狐娘ちゃんにも知って貰わないとねぇ~♪』
つまりこいつらは、僕と同じケモナーって事? だけど、ビースト・ユニットじゃない。何で、ケモナーなのにビースト・ユニットに乗ってないんだ?
『ちっ。リムの言いたい事も分かるぜ。俺達は、散々おもちゃにされ、弄くられたからな。ケモナーやアングラー、スピルナーとか言った奴等を生み出す為の、ただの実験道具としてな』
『ふぅ。お前もか、ルド。まぁ、仕方ない。私達はそれだけ、人類にもケモナーにも、ビーストマンにも恨みがある。私達は「フランケンシュタインの怪物」だからだ』
「…………」
今度は思考停止してしまった。
何だって? フランケンシュタインの怪物? え? つまりこいつらは、死体の寄せ集めで作られたって事なのか?
『正確にはぁ~私達3兄妹は死んだ後に、色々と身体を弄くられ、強化されてから甦らされたんだぁ~ケモナーとやらを生み出す為の、前段階としてね~』
『そこで、ケモナーになり損ねてしまった者が、私達と言うことだ。失敗作と言われ、使い捨ての兵の様に扱われている。それが、私達だ!』
一番冷静そうな男性がそう言うと、いきなり僕の機体に向かって突撃してきた。
『だからぁ~羨ましいまであるのぉ。君はケモナーになれたから。成功したんだからねぇ~』
「くっ!!」
何とか相手の拳から回避し、上空へと上がって距離を取った僕は、胃がムカムカして吐き気を催してしまった。
「うぐっ……ふぅ、ふぅ。も、もし、僕も失敗していたら、君達みたいに?」
『昔程ではないが、数%程は、失敗する確率はあっただろうな』
『そりゃ人を甦らせ、新たな力を与えるっていうんだ。正に神の所業だ。そんなものを、人類が100%こなせると思うか!? 昔はそれこそ、成功は1割以下だった! 俺達は、使い捨ての道具の様にされ、今もそんな扱いを受けているんだ! せめて、ケモナーよりも勝っているんだって事を証明しねぇと、俺達に存在意義はねぇんだよ!!』
そう言いながら、僕に向かって次々とビームキャノン砲を撃って来て、確実に落とそうとしてくる。
ケモナーの事、失敗の確率。知りたいことが山ほどある。だから、今ここで僕が死ぬわけにはいかない。
「悪い。君達を差し置いて……何て、こっちだって望んだ訳じゃないし、身に覚えもないもので恨まれても、気分が悪いよ。だからここは、僕が勝つ」
『やってみなよ~狐娘ちゃん~』
「僕は、コノエ=イーリア!! 君達は?!」
体勢を立て直すと、真っ直ぐに僕へと突っ込んでくる機体に向かい、そう大声で言った。それに反応するようにして、向こうも声を上げてきた。
『私はリム=シークレイド』
『俺はルド=シークレイド』
『私はジェドル=シークレイド。悪いが、私達3人、全力でお前を潰す! 私達の方が優れているからだ!』
そして僕達は、お互いに本気の一撃を打ち込む為、一切の会話を止め、激しい空中戦を繰り広げた。
巨大機体のパイロットの3人の秘密。昔ではあり得なかった事が、この遥か未来で実現されていた。その事にショックを受けるも、今は護衛の任務を全うするだけ。そして、コノエは彼等と全力で向き合う。
次回「9 思い切りやる」




