6 最凶最悪の追っ手
亡命希望者と合流する為、色々と準備をしたコノエ達は、いよいよその本人と出会う。
諜報員と合流してからは、非常にスムーズに進んでいき、リリア大陸へと入った僕達は、カッパーリグンドの2つ隣の国、ギザイアへと入った。
何でちょっと離れているのかと言うと、カッパーリグンドはその成り立ちから、非常に厄介な状況になっている。隣国のリメリア合衆国が少し大きな国で、ミルディアに次ぐリリア大陸第2の国家になっている。そことミルディアもあんまり仲が良くないから、小競り合いはちょくちょくと起きている。
カッパーリグンドはミルディアから独立したから、その2国に挟まるようになっていた。
そんな国に、例え潜入とは言え無断で入ろうと言うのは、流石に危険すぎるんだ。だからその隣の国で、僕達は待機となった。
後は、レイラ隊長達が無事にこの国まで来られるかどうかだけれど、リメリアの一部州が、ミラルド氏の亡命を援助すると言ってきたから、その州を通れば比較的安全に進む事が出来たはず。
だから、僕達がこの国に来て僅か2日で、ミラルド氏とレイラ隊長を乗せた輸送船がやって来たのは、順調に事が運べているという事の、何よりの証明だった。
「良かった……ボロボロになっているのかと思ったよ」
「流石にその状態でここに入国するわけないでしょう」
僕が安堵の溜め息をついていると、コルクからピシャリと言われてしまった。
そうだね。まだ任務は達成していないし、この先からも気を引き締めないといけない。ただ、降りて来たレイラ隊長と一緒に、護衛の人達の遺体と、ミルディアの紋章を付けた人達の遺体が下ろされた時は、一瞬何かもバレてしまって、プランBに移行しているのかと思ってしまった。
「コノエ、コルク。2人は機体に乗って、いつでも迎撃出来るようにしろ。ミルディアにはバレているが、まだこちらのルートは把握されていない。このままで問題はない。チャオは、アルフと一緒にミラルド氏の護衛についてくれ。場合によっては機体に乗って貰うから、準備だけはしておくんだ」
そうレイラ隊長から言われた僕達は、急いで着替えを終え、輸送船に並走する為の、もう一機の輸送船に乗り込んだ。
並走とは言うけれど、ピッタリと並ぶ訳ではなく、少し距離を取って気付かれないようにする。それと、カモフラージュ様の電磁シートも用意している。相手のレーダーからは、何も映らなくなるはずだから、一機だけで飛んでいる様に見えるはず。
補給を終えると直ぐに出発になるから、僕も少し気が引き締まって来た。
「やぁ。君達がレイラ隊長から言われていた、同じジ・アークの艦員か?」
そんな時、補給船から降りて来た人物が、僕達に話しかけてきた。
小太りだけど、顔はシュッとスリムで……って、この人変装してる? まさか……。
「護衛対象の?」
「おっと、名前は止めておこう。バレる訳にはいかない」
「それだったら、降りない方がーー」
「ここはギザイアだぞ。かの有名な映画『アフタヌーン・デイ』の聖地だぞ。各賞を総なめした、知る人等いない映画だ。君、もしかして……」
うん。知らんがな、そんな映画。熱く語られた所で、僕にはちんぷんかんぷんだよ。
「護衛任務だろうと関係ない。視聴するように」
そう言われてポンとデータROMを渡されてしまった。いや、知らんよ。本当に……任務中だから、余計ダメでしょう。そんなに押さなくてもーー
「…………」
「…………」
全員から憐れむような視線を送られてる!! そんなに名映画なの?! これ!
「えと……時間のある時に、見させて頂きます」
そう答えたら皆「ウンウン」と頷いていた。何だろう、余計な課題を押し付けられたような気分……。
◇ ◇ ◇
それから補給を終え、ミラルド氏の乗った輸送船が発進し、空へと上がっていくのを見送った後に、僕達も自分達の機体の乗った、輸送船にカモフラージュした飛行船に乗る。
この飛行船には武装は付けていない。というか、付いていたら怪しまれちゃうからね。だからこそ、僕達の機体でしか迎撃が出来ない事になる。
『バレないかしら』
「バレるバレないと言うか、とっくに相手には日取りまでバレていたからなぁ……」
『そうよね。来るわよね』
「間違いなく」
コクピットで最終チェックをしながら、コルクの通信に答える。秘匿回線だから、盗聴の恐れは無いけれど、用心した事に越した事はない。
その後、僕達の飛行船もゆっくりと飛び立ち、コルクとチャオと僕は、そのままコクピット内で戦闘態勢で待機となった。
このまま無事に着ければ御の字だけれど、来るよね。恐らく、オルグも。
『恋仲になりそうな相手とは戦えない~』
「コルク、ちょっと黙ってて」
『なに? 我という者がいるというのに、他の人にまで求婚されているのか?』
「チャオまで乗らないで……」
緊張し過ぎるのは良くないけれど、それでも任務中だってのに……あんまり羽目を外さないようにしないと。
「まぁ、気にはなるけれど、そう毎回毎回戦場で会うとは思えないよ」
2人とも、それもそうだと言いたげな様子で口ごもったけれど、出て来たら出て来たで戦うだけ。僕にも立場はあるし、オルグにもある。だから、彼がどういう風に僕のアプローチするつもりなのか、その辺りは気になるね。
いや、別に好きだからとか、気があるからとかじゃなくて……純粋な疑問でね、うん。
『お喋りはそこまでよ。来たわ』
「ん。コルク、狙える?」
『任せて』
アラートは鳴っていない。いや、鳴らさないようしている。こっちでアラートが鳴っちゃったら、これは輸送船じゃないんじゃないかって、一瞬でも疑われそうになる。
相手にはあくまで、こっちは輸送船一機のみで、他にはいないと言うことを、ギリギリまで思い込んで貰う必要がある。レイラ隊長の案だけどね。というのも、ある程度盗聴されている事を考慮しての事なんだ。
だって、亡命が完全に筒抜けだったから、スパイか盗聴は確実にあると思った方がいい。それを踏まえた上での作戦さ。失敗は許されない。
それでも、何で敵が来たのかが分かるのかというと、コルクの猫の様な視力の良さを頼りに、肉眼で発見したんだ。
因みに、相手は戦闘機だ。主力のハコ機はまだ、飛行能力を得ていないから、空での戦いは戦闘機がメインだ。その辺りは、アルツェイトの新型の方が進んでいるな。ホバーで浮かせるくらいだけど。
『ビットシステムを展開するわ。辺りに電磁ネットも展開しといて』
『分かっとるわ』
コルクが言うとチャオがそう答え、チャオの機体からいくつかの丸い小さなパーツの様な物が射出された。
それが左右の部分が突起の様に開くと、そこから微弱な電磁波が流れ出した。敵には気付かれにくい、チャオ専用の特殊な電磁ネットだから、異常を検知されることはない。更に設定で、こちらの機体にも武器にも影響はない。これで、コルクのビットシステムを相手機から気付かれないように出来る。
コルクも、機体の尻尾から小型の機械を打ち出し、それを複数展開していく。
『そこっ!!』
その後、開いたハッチの先から、スナイパーライフルの銃口だけ出したコルクは、空中に浮遊するビットシステムに向かって、強力なレーザー弾を射出、それはその場所でグインと曲がり、遠くに居る相手機の死角から、見事に操縦席付近を貫いた。
「コルクの新装備はえげつないなぁ。あのビットは10個あるから、四方八方から遠距離射撃出来るもんな。連射機能も搭載出来れば、ほぼ無敵じゃない?」
『技術面でまだ不可能だから、一発ずつよ』
これで相手さんに気付かれると思うだろうけれど、僕達の居る所とは大きく逸れた場所からの射撃にしたから、相手部隊は慌てている。
楽に輸送船を墜落出来ると思っていたようで、完全に油断もしていた。ただ、ここからは時間との勝負。相手機を撤退させる訳にはいかない。
向こうの戦闘機は四方に散らばり、どこからの狙撃なのかを調べる動きをしている。ただ、それはコルクの前では無意味だな。
『そこ、そことそこ!』
ビットシステムが至るところに散らばっていて、その全てがカモフラージュされ、肉眼でも見にくい上に、レーダーでも感知出来なくなってる。
旗から見たら、蛇の様にグネグネと曲がるレーザー弾が、相手機体を貫いている状態だ。しかも、相手が咄嗟に狙撃場所を確認しようとしても、何個ものビットシステムを経由するから、この辺りだと目星を付けるにも時間がかかる。その間にーー
『あと2機ね。なぁんだ、余裕じゃん。というか、相手が油断し過ぎ?』
あっという間に敵戦闘機は海へと落ちて行き、残るは2機のみとなった。
慌てている所悪いけれど、直ぐに終わらせないと。何だか嫌な予感がする。
ミルディアの追手が、これだけのはずがないでしょ。
『よしっ! お~わり~!』
「コルク。まだそのままで様子を見ておいて。このまま終わるとは思えない」
最後の2機を撃墜したコルクが、気持ち良さそうにそう言ったけれど、ごめん……まだ勝ちどきを上げるのは早いんだ。
『何よ……って、嘘? 何あれ?!』
「そっか。コルクはメールコンの時居なかったから、これが初対面か。あれが、Z・O・X。ミルディア唯一の、空中戦が出来る巨大機体だ!」
『資料で見たけれど、実物はこんなにデカイの?!』
遥か水平線の先から、巨大な翼を有した機体が、こちらに迫っているのが見えた。
こんな時に、最悪の機体を投下して来たね。どうやらミルディアは、ミラルド氏を完全に消す気だ。
その手段も問わないし、アルツェイトが絡んでいると分かれば、このままアルツェイトへ責任追求が出来るという訳だ。
その為の、Z・O・X。あれを防ぐには、僕達も出るしかないって事だ。だけどそうしたら、アルツェイトが関わっている事への決定的な証拠になってしまう。
アルツェイトが関わっていなくても、あの機体なら一瞬で消し飛ばせる。関わっていたら、ミラルド氏を守るために、機体を出さざるを得ない。コルクの狙撃だけで、アレを落とすのは無理だろうからね。
どうする。いったいどうしたら……。
アルフィング、レイラ隊長と合流し、アルツェイトへと出発したのはいいものの、新たに現れた追っ手は最悪の相手だった。この戦力だけで対抗出来そうにないが、対抗しなければ護衛者の乗る飛行船は木っ端微塵になる。どう対処するのか、レイラ隊長達の判断は……。
次回「7 追っ手から逃げろ」




