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GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 4
51/105

2 僕の母さん

 ミルディア御曹司、ギルムの会見で色々な事が分かったコノエ。その中で、1つの疑惑が浮上する。確認の為、コートの女医のもとへと向かった。

 頭痛は収まった。とにかく今は、コート先生に話を聞かないと。


「コート先生、居ますか?」


 医務室に着いた僕は、早速その扉をノックし、コート先生が居るかを確認した。ただ、返事はなく無音だった。


 居ないのかな? それならそれで時間を改めるしかないけれど、閉まっていないなら中で待っていよう。すれ違いになると面倒くさいし。


「失礼、します」


 誰も居ないかも知れないけれど、どうしてもこういう声掛けはしちゃうよね。

 ソッと扉を開けて中を伺うと、ベットで誰か寝ているのが見えた。患者さんを寝かすベットだから、患者さんかな? と思っていたら、服を乱雑にした着崩したコート先生が寝ていた。


 足なんか大っぴらに開けちゃって……だらしなさMAXだよ。とは言え、う~ん。寝ているのを起こすのもなんだよね。この人、いつも眠たそうだし。居ない時はこんな風に、ずっと寝ているのかも。


「…………」


 そこでふと。その医務室の机を目にすると、色んな書類もそこら辺に乱雑に置かれていた。

 足元にもいっぱい落ちてるし、大丈夫なのかな……これ。何かの研究資料のようなーー


《ケモナー因子。獣化細胞による、たんぱく質と酵素変異実験の失敗例》


《アングラー因子。魚化細胞による、肺胞変異失敗例》


《スピルナー因子。虫化細胞による、ウイルス活性化の失敗例》


「こ、これ……って」


 確実に、ケモナーやアングラー、スピルナーの提唱者による実験の記録じゃ……いや、何で床に散らばってるの。こんな重要書類を無造作になんて……それじゃあ、机の上はーー


《試験者、Ⅰ。スズハラ=コウタ。凍結保存中検体。慎重に扱うべし。所長の息子。この状態による、心臓移植の可能性についてーー》


「…………僕?」


 心臓移植ってどう言うこと?


 僕は、事故死か何かだった気がするんだけど、もしかして違うの? いや、そんな訳はない。男性の時、働いていた記憶はある。


 だけど最近は、何かの部隊を率いて戦っていた記憶まで出てきた。僕は何者なの……。


 そう思いながら、机の上の別の書類に目をやると、今度は更に衝撃的な事が書かれていた。


《被験者、Ⅱ。スズハラ=ハンナ。最重要且つ、最優先蘇生予定体。所長の娘。コウタの姉。凍結保存中にて、機能不全の内臓組織の全移植と蘇生の可能性を、速やかに提唱し、実行すべし》


「あ、姉……僕に姉? そ、そんな……記憶。いや、頭の片隅に追いやっていた。思い出した。家族は皆、姉の方を可愛がり、大事にしていたんだ」


【幸太は良いね。色々実験をされなくて】


【どういう意味だよ。姉さん】


【あ、ごめん。悪い意味じゃなくて。あなただけは、普通の人生を歩めて、普通の幸せを手に入れられる。そうしろって事で、お母さんもあなたに、その名前を付けたのでしょ?】


【名前の由来なんてどうでも良いよ。子供の時、必要としていた時に、親は僕を蔑ろにした。それはずっと引きずるよ】


【研究者って、どうしてもそうなっちゃう。ましてうちの両親は、国家プロジェクトのーー】


【もう良いよ、その話は。姉さんも、もういい加減身体が……】


【うん。もう、寿命かも。お母さんもお父さんも必死よ。私を何としても生かす為に。研究の中で、唯一適合した私を、失いたくない為に。やっちゃいけない事をしている。結局私だって、ただのーー】


 あぁ……思い出した。薬品臭い部屋の中で、そうやっていつも泣いていた姉。気丈に振る舞っていても、僕を前にしたらいつでも最後は、嗚咽しながら泣いていた。


 両親は、ただのマッドサイエンティストだった。研究の事しか頭にない。子育てのノウハウなんか有りはしないのに。ある実験の為に、子供を作った。


 ケモナーの誕生。その為に、母は自分の子供に獣の要素を取り入れようと、遺伝子操作をした。

 お腹に、姉や僕が居る状態で……正気じゃない。心底正気じゃなかった。それを聞いた時に、僕は吐き気どころじゃなかったよ。両親への嫌悪感で、ひたすらに避けていた。


 自分の身体に、なんて事を……生命の冒涜も大概にしろって、両親にどれだけ叫んだか分からない。


 結局、僕達2人はそんな要素は現れる事なく、実験は失敗……したかに見えた。姉に、爬虫類の様な尻尾と目が出現するまでは。


 両親は歓喜したけれど、同時に姉は虚弱体質になり、臓器が色々とダメになっていった。そりゃそうだよな。


 あぁ、机の上の他の資料は、僕達以外の人に、同じ様な施術をした事例がいっぱい書いてあった。どれもこれも副反応的な、飛んでもないレベルの症状が出ていたよ。命を落としている者もいる。


「…………母さん。あんたは、いったい何をーー」


「恒久の命を求めるのは、研究者も科学者も、一様に持つ夢だ。私のも、それさ」


「……っ!?」


 しまった。書類に夢中になってしまって、コート先生が起きたのに気が付かなかった。後ろまで近付かれていた。向こうが気付かせないように、音を立てなかったのもあるけど。


 コート先生……いやーー


「母……さん」


「……かなり強い刺激を受けたようだね。そこまで記憶が戻るなんて。海馬を弄ったのに、人間の再生力は本当に恐ろしいな。本来あり得ないはずなのに、それがあり得てしまうからな」


 いつもの眠たそうな声じゃない。ハキハキした声でそう喋ってくる。否定しないってことは、その通りって事か。


「あなたは、僕の母さんなんだね」


「あぁ、そうさ。感動の再会といくかい?」


「冗談。僕があなたを嫌っていたのを知っていただろう。それなのに、何であんなにーー」


「姉の絆奈(はんな)よりも、お前の方が更に適正があったからだ。間違っていた。お前は失敗だと思っていたが、違った」


「どういう……」


「DEEPに適合した。これは正直驚いたよ。しかし、人の身ではどうにもそれを使う事は出来ないようでね。更に未来に託し、獣と人の混合、ケモナーが作れる様になるまで、君を凍結保存しようと決めた。ただ、交通事故に合うとは思わなかった。それだけ社会が大変だったのだな」


 それで、心臓移植の資料があったわけか。僕の心臓はもう、使いものにならなくなったんだ。交通事故の影響でそうなるかは分からないけれど、変な遺伝子操作をされていたから、単純に死んでから心臓疾患が見つかった感じかな。


「……それで、それを知って君はどうするんだ?」


「え?」


「知った所で、今の現状で何か変わる事があるか?」


「えっ……と。姉は? 僕の姉はいったい……」


「気になるか?」


 そりゃ、気になるよ。そう思いながら僕が頷くと、母さんは僕からゆっくりと離れた。


「絆奈はまだ、凍結保存中だ。アルツェイト国の国境近くの街に眠らせている」


「……そっか」


 色々と聞きたい事はあるけれど、膨大になりそうだし、聞いた所で現状に大きな変化は無さそうだ。

 単純に、コート先生がお母さんって分かっただけ。特に悪いことをしているとか、そういうのもまだ分からない。


 もし悪い事をしているなら、全力で止めるよ。本当、生命への冒涜とか普通にする人だからね。まだ、危ない研究をしている可能性があるからね。だから結局、何も変わらないって事になる。まぁーー


「そうか。そういう事だったのか、コート女医」


「な~んか、黒幕臭がプンプンするわねぇ」


 この基地の人達からしたらそうではなさそうだけど。気が付いたら、皆この部屋の前にいて、僕達の話を聞いていたよ。因みに、僕達が沈黙した瞬間に口を開いたのは、レイラ隊長とコルクだった。


 レイラ隊長なんて、眉間にシワを寄せて、険しい表情をしているよ。やっぱり、自分達がこの身体になった原因を作った人だし、思う所があるんだろう。


 ただ、敵対しようとしたり、歪みあったりするのはまだ早い。


 だってここ、水上軍事基地だし、内部でゴタゴタなんか起こしたら、その隙に敵国に狙われるかも知れない。この話は、もっと落ち着いた時に、しっかりと詳細を聞こう。


「レイラ隊長。とりあえず、母さーーコート女医に敵対意思があるかどうかだけ確認して、あとはもっと落ち着いてから聞きましょう」


「……分かった。良いのか? コノエ」


「良いも何も。記憶が完全に戻っていないから、ピンと来ないです」


 人格も何もかも、既にこの身体に引っ張られつつあるからね。何と言うか、誰かの見た夢を聞いているような、そんな感覚がする。


 だから、特にこれと言った感情が沸かなかったのには、疑問すら持たなかった。

 コート女医の正体、そして姉が居たことに困惑するコノエだったが、あっさりとしたコート女医の反応に、それ以上問い詰める事は出来なかった。


 そんな中、形骸化した国連から、ある依頼が舞い込んでくる。


次回 「3 亡命希望者」

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