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GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 3
47/105

8 内戦の兆し

コノエは戦う理由を新たに、この戦争を止める為に前へと進む。


一方オルグの方も、何やら雲行きが怪しくなっていた。

 とあるミルディアの軍事基地にて。


 格納庫内で、ミルディアの整備士達が慌ただしく動く中、白い仮面と黒を基調とした軍服を着たオルグの姿があった。


「新型機は、まだ直らないのか?」


「はっ。何せ、かなり特殊なものでして……しかも巨大ときたものですから、ここまで壊れるとちょっと……」


 あの3機の新型機は、ここで修理をされていたが、思った以上に時間がかかってしまっていた。

 それは薄々感づいてはいたが、やはり最前線に出すのは、状況と作戦によっては考えた方が良さそうだと、彼は考えていた。


「パイロットの3人はアレだが、機体がこうではな……」


 オルグは何とも言えない表情で格納庫から出て、本国へと定期連絡する為、通信室へと向かった。

 例の総督の息子、ギルムに言いたい事はあるものの、一介の兵士である自分の言葉では、そう簡単に聞き入れてくれそうにはない。


 そんな時。


「オルグ少佐、ギルム様から通信です」


 向こうから通信をしてきたのだ。願ってもいない事でもあり、オルグは直ぐさまその兵士に伝える。


「分かった。直ぐに行く」


 そしてオルグは、少し早歩きがちになり、その通信室へと向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 通信室へと着いたオルグは、宙に浮くようにして映し出された映像を見て、唖然となっていた。


『あぁ、オルグ。メールコンでは散々だったな。身体は大丈夫なのか?』


 何故か上機嫌なギルムとーー


『あれだけで、我がゲリラ部隊に負けられても困るがな』


 ゲリラ部隊「イナンア」を纏めるゲルシドが、別々の画面とは言え、まるで同盟を組んだかのように、親しげに話していた。


「これはいったい……どういう……」


『どうもこうも、我がガンマ社は、イナンアに機体の提供をする事になった。既に何機か実戦投入している』


 ゲリラ部隊に機体を提供していた等、国家的にも重要な事をさらりと言ってしまうのも恐ろしいが、ゲルシドのニヤリと笑う表情も恐ろしいものだと、オルグは感じていた。何かしらの策があって、こちらに接触したのは間違いない。


「それを、総督はご存じで?」


『いんや。これは、私の会社の話だ。軍は関係ない』


 その言い訳が通用するか疑問だが、そもそもガンマ社の機体はお世辞にもろくなものがない。総督にこの事が報告されても、恐らく問題無いと一蹴されそうなもの。


『ガンマ社の新型“ギア・シリーズ”。これは素晴らしいものだ。上手く開発が進めば、普通の兵でもケモナー並みに戦えるようになる。それほどのシステムを、彼は開発したのだ』


『そう褒めるな、ゲルシド。それと、タイミングも良かった』


「タイミング?」


 いったい何の事なのかと、オルグが首を傾げると、ギルムが画面にあるニュースを表示させた。


『これは、ヒノモトにしか流れていないが、私はしっかりとあの国にも目を光らせていたさ。とても、素晴らしい事が起こっている』


「なっ……これは『花鏡社がロマノフ社を技術盗用の疑いで訴訟』だと?」


 この戦争のおよそ8割を占める、機体の提供先の2社が、ここに来て争い始めたのだ。これにより、権利云々の手続きが取れなくなり、機体の製造が遅れる事になる。


 それはつまり、ミルディアの機体配備が不十分になる事を意味していた。そうなると、自国で何とかしなければならない。白羽の矢がたったのがーー


『我がガンマ社の時代ということだ』


「……」


 恐らく、総督から相当な資金提供をされたのだろう。新たな新型ギア・シリーズがどれ程のものかは不明だが、今までの微妙な機体とは一線を画すだろう。


『既にサムライ・ギアはゲルシドの将に。完成したデス・ギアは?』


『襲撃に見回れたが、何とか完成し無事だ。こちらとミルディアの共同部隊に配備しよう』


『上々。あとは、こちらで作っているもう1機のギア・シリーズ。アサシン・ギアは、あと数日程で完成する。オルグ、君の部隊に配備する』


「……分かりました」


 こうなると、もう後戻りは出来ない。ゲルシドが何を企んでいるのか警戒しつつ、戦線を広げる事になるだろう。

 今回の、ヒノモトでの2社の争いは、恐らくアルツェイトにとっても痛手だろう。武装等は、あそこの2社から買っていただろう。


 2人から話を聞いたオルグは、その後退席をし、格納庫へと向かった。


「こうなると、あの合体する機体をどうするか……だ。まだ成果も出していない。下手をすれば、廃棄処分と言うこともあるか?」


 そうやってブツブツと呟きながら廊下を歩くオルグの前に、虎のケモナーであるグランツがやって来た。


「おう、大将どうした? 難しい顔をして」


「グランツ君か。いや、何。私達兵は、トップのいいように扱われる駒なんだなと、改めて思い知らされたさ」


「はっはっはっ!! 今更か?」


 トレーニングの後らしく、タオルを肩に掛け、少し汗ばんで火照った体を冷ましていた。


「グランツ君は、新型機とかに興味はないよな?」


「んん? 俺には相棒が居るからな。ずっと一緒にいる、あいつがな」


「そうだった。すまない、不粋だった」


「つ~事は、また新型か? あのでけぇのはどうするんだ?」


「そう。正にそれさ」


 うんざりとした様子でオルグが言うと、グランツは迷い無く返事をしてきた。


「どれだけ新型の性能が良くても、それを扱う兵の実力次第だろ? どれだけ古くても、どれだけおかしな形をしていても、それを駆る兵に迷いが無ければ、どんなものでも最強の機体になるだろう。あんたとケプラーの様にな」


「……ふっ、はは。あぁ、そうだ。そうだったな。新型新型と次々に出してくるギルム様に、ちょっと面食らってしまったよ。私とした事が」


 そう言うと、オルグは首を横に振り、力強い目で真っ直ぐに前を見る。


「私は私のやり方で、この戦争を終結させて見せるさ」


「その粋だぜ、大将。俺はあんたに全て託してんだ。しっかりしてくれよ」


「はは。失礼した」


 そう2人で確めあった後、ふとグランツが呟いた。


「そういや、さっき格納庫見てきたけど、結構な数の機体や兵器が用意されていたぜ。何か作戦でもあるのか?」


「いや、私は何も……」


 そう言った後、2人の後ろから男性兵がやって来て、声をかけてきた。何やら神妙な面持ちだが、2人はまた、ギルム関係で総督が怒っているのだろうと、そう思ってしまった。


「お二人とも、こちらでしたか。総督が視察に来られ、お二人をお呼びです。ギルム様には内密に、イナンアの基地をいくつか襲撃する。と言うことです。作戦を伝えるらしく、直ぐに来るようにと。あ、もちろん。ギルム様には気付かれないように」


「……」


「……」


 これはいったいどうしたものかと、2人はただ顔を合わせるしかなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 総督の居る部屋へと通された2人は、彼の鋭い眼光を浴びていた。先ずは叱責をされると覚悟はしていたが、最初に軽く窘められた程度だった。


「息子の不始末は、私の責任でもある。これ以上、2人を責めても仕方ない。しかし、イナンアに機体提供する事を見過ごす事は、ミルディアに危機をもたらす事と同義だ。ここで、息子には失脚して貰うしかあるまい」


「その為の、イナンアの基地への攻撃……ですか?」


 もうとっくに総督には、ギルムがイナンアに機体提供している事がバレていた。ただ、あのギルムの態度から、バレるのも想定内ではないのかと、オルグは薄々感じている。


 そうなると、完全に親子喧嘩に巻き込まれる事になる。戦争というよりも、これは完全に身内同士の内戦に近いものになってくる。


 その隙に、他国が攻めてくる可能性だってある。


「お言葉ですが。今、イナンアの基地を狙うより、ギルム様を拘束する方が……」


「どうせ奴は、私にバレる事も想定内だろう。となると、打つ手は想定外のものにしなければならん。その為に、こうやって私は視察を続けているのだ」


 老いた体にムチ打ち、こうやって基地の視察を続けるのは、不出来な息子が暴走した時の対策も兼ねていた。


「どうせ書類を送ろうが、通信で伝えようが、ギルムに筒抜けになるだろう。それなら、こうして直接口頭で伝えるのが安全だ」


「その為に視察を続けているのは流石です。しかし、流石にそろそろお身体が……」


「分かっている。だからこそ、今ここで息子に引導を渡す。もし、これをギルムが突破した場合、逆に私が失脚するだろう。だが、事態はそれだけ緊迫していると言うことだ」


 その言葉に重みを感じたオルグは、総督の覚悟も相当なものだと感じていた。

 どんな態度を取っていても、どんな言葉を投げ掛けていても、血の通った息子には違いない。ミルディアに被害が出ない範囲の事なら、ある程度は好きにさせていた。自分を越えようとするなら、それも良しだった。しかし……。


「ここに来て、ギルムがミスを犯したのだ。ミルディアの国益を損なうこと等、しないと思っていたのだが……歳のせいか、盲目になったのか……こうなっては、責任を取らねばならん。考え直してくれるなら、それも良し。歯向かうなら、それも良し。全ては己の信条の強さで決まる」


 そう言った総督の顔は、父親のそれでもあり、国を背負うトップの顔でもあった。

完全に父親へと反旗を翻す勢いのギルム。それに気付いていたミルディアの総督は、息子に引導を渡す事に。しかし、ギルムは飛んでもない行動へと打って出てきた。


次回「9 ユグドルの悲劇」

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