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GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE 3
46/105

7 僕の出来る贖罪

強敵との戦闘中、逃げ遅れた母娘を誤って潰し殺してしまった。ショックで上手く戦えなくなったが、レイラ隊長とアルフィングのカバーで、敵機は撃破出来た。しかし、コノエはまだ自分のしてしまった事に、その罪の重さに押し潰されそうになっていた。

 あれから、兵器工場は何とかゲリラから奪還。町での戦闘は終わった。

 町は瓦礫で埋め尽くされていて、朝になり次第、町民達が後片付けを始めていた。


 銃弾の跡、ハコ機の残骸、壊れた戦車や兵器が無造作に遺棄されていて、平和だった町が一転し、廃墟同然と化していた。


 僕は一旦水上基地に戻り、シナプスを整備班に渡した後、またこの町に来た。


 何か、僕に出来る事はないかと思ったんだけれど、足は勝手に動いて、()()()()へ向かっていた。


「……」


 別に今更、何か出来る訳でもない。あの人達が生き返る訳でもない。だけど、この罪悪感を何とかしたかった。罪滅ぼしをしたかったんだ。


 人がざわめいている中、僕はその場所に着いた。

 僕が、瓦礫に挟まった女性と、その子供である女の子を潰してしまった場所。


 そこに、1人の男性が座り込み、何かを掻き出すようにして探していた。


 まさか……。


「あの……」


 また心臓が変に高鳴る。嫌な汗も出る。僕は今ここで、恨みを晴らされて殺されるかも知れない。それでも、話しかけずにはいられなかったんだ。


「……」


「もしかして、ここの……」


「……君は?」


「ご、ごめんなさい。僕は、ここの瓦礫に挟まっていた女性と、女の子を潰してしまった、ビースト・ユニットのパイロットです」


 その瞬間男性はこちらを振り向き、物凄い形相でこちらを見た。だけど、僕の姿を見た瞬間にハッとなり、唇を震わせながら続けた。


「……こんな、子供が……」


「あ、ごめんなさい。僕はケモナーなので、歳は……」


「あぁ、そうか。いや、それでもだ。そうか、君か」


「直接的ではないにしても、僕の不注意で、2人を……ごめんなさい! 謝って済む問題じゃない。だから、気の済むまでーー」


 だけど、男性は僕が言い切る前に、残酷な真実を言ってきた。


「そんな事をしても、妻と子供は帰って来ない」


 そう……そうだよね。僕をどうこうした所で、喪った者は帰らない。


「この町は、兵器を売って発展した。俺達も、戦争で食わせて貰っていた。それが無ければ、俺達はとっくに野垂れ死んでいたさ。こんな風に、家族を持つことも無かっただろう。だけど……」


 どれだけ綺麗事を並べても、やっぱりこんな残酷な事が起こることが戦争なのだろうし、僕も罪悪感が消えることはない。やるせない気持ちも溢れてくる。


 何なら、汚い言葉で罵ってくれた方が、数倍マシだった。


「戦争が、全てを奪っていった……俺達が間違っていたとは思わない。それでも、俺達の作った兵器で、俺達のような事が、他の町でも起こっている。分かっている、分かっていた……覚悟していたはずなのに……」


 ただ僕は、彼の言葉を聞いていた。こうやって吐き出してくれた方が、少しでも気持ちが楽になるかも知れない。それはそれで良いと思ったけれど、僕にも何か出来る事はないかって思ってしまう。


 だけど、僕が出来る事はーー


「頼む。贖罪だと言うなら、こんな戦争、もう終わらせてくれ」


 ーー戦う事だけだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 水上基地に帰って来た僕を待っていたのは、まだ怪我が治っていないはずのレイラ隊長だった。


「……何か満足のいく答えは貰えたか?」


「いえ……」


 怒っているような呆れているような、そんな感じのレイラ隊長は、僕の思っている事が分かっているみたいだった。


「もう長い間ミルディアとの戦争が続いている。その間に犠牲になった民間人は多数いる。その1人1人に謝罪していてもキリがない。忘れろとは言わないが、乗り越えろ」


 人を殺める覚悟。戦争に参加する資格……か。


 あぁ、僕は何で、この戦争に参加したのだっけ? シナプスを動かせるのは僕だけだから? 僕にしか出来ない事だから? 生前必要とされなかったから、必要とされるのが嬉しかった? どれもこれも薄いな、僕の戦う意思って。


 だけど、どれも説明が付かない。そう言い繕っているだけで、本当は胸の内から何かが沸いているんだ。


 この戦争を止めないといけない。


 勝たないといけない。負けることは許されない。自分は、自分にしかない使命の為に戦っている。


 その使命って……なに? あの時、何かが頭を過った事と何か関係がある?


 コート先生なら、何か分かるのかな。


「ありがとうございます、レイラ隊長。ちょっと、休みますね」


 そう言って僕は、レイラ隊長の横を抜け、基地の廊下を歩き出す。ただ行き先は、コート先生の診察室だ。


 男だった時の自分の事が、ハッキリと分からない。記憶がぼんやりとしているんだ。何をしていたかは覚えているのに、自分の事になると、途端にボヤけてしまうんだ。

 色々と他の人にも聞いたけれど、ケモナー施術でそういう事になった事は、一度も無かったそうだ。


 と言うことは、僕だけが記憶があやふやな事になっている。つまり、あのコート先生が何かしたんだ。知られたらまずいことなのか、とても悲惨な事が僕の身に起こっていて、コート先生が気遣って、その一部の記憶を消したのか。そういうこと、可能なのかな?


 そんな事を考えていると、コート先生の居る医務室に着いた。


 一応、あの町の怪我人をこっちで数人収容しているから、処置で忙しいと思うけれど、それでも早めに確認しておかないといけないって、そう思ったんだ。


「失礼します。コート先生? 居ます?」


 扉をノックし、一応邪魔にならないような感じで自動の扉を開け、中に入って行く。


「どうした? 私は怪我人の処置をしないといけない。要件なら手短にだ」


 何か世話しなく動いていて、包帯を作ったり消毒薬を用意したりと、色々と大変そうだ。そんな時にとは思うけれど、この感覚を忘れてしまわない内に、聞くだけ聞いてスッキリしておきたい。


「僕の記憶……弄りました?」


「……何か思い出したのか?」


 そう言われた僕は、コクりと頷いた。


「施術は問題なく成功しているよ。しかし、君の元の身体の脳の一部、海馬のほんの小さな部分だけが、まるでショートしたかのようになっていてね。可能な限りその部分を修復し、記憶神経をデータ化したのだが……やはり人の脳は複雑だ。思い出すことは無いと思っていたけれど、あの時の事を思い出したのか?」


「いや、何か……部分的で、良く分からないんです。その言い方、コート先生は何か知ってーー」


 すると、コート先生は手を止め、僕の方を振り向き、とても優しい顔をしながら言ってきた。


「知らなくても良い事もあるだろう? 君の場合、思い出そうとしているそれは、君の今の人格を破壊する程のものだ。せっかく可愛い狐娘美少女に生まれ変わったんだ。新たな自分を堪能したまえ」


「うぐ……」


 色々あって忘れかけていた事を、また綺麗に掘り返してくれたよ。抗議の意味を込めて睨んでみたけれど、優しい表情で頭を撫でられたら、それ以上何か言う事が出来なくなったよ。


 そうだね。とりあえず、今回の戦争とかにはあんまり関係無さそうだし、無理に思い出す必要も無いんだろうね。


 今はただ、自分の戦う意味を、この戦争を終わらせる方法を考えないといけない。皆、戦うことしか頭にない。オルグとも約束したんだ。


 戦う意外でも、何とか出来る方法を探さないとね。


「しばらくはこの水上基地でゆっくりする事になるらしい。最近は戦い続きだ。しっかりと休養を取ることも仕事だよ」


「ん……分かりました」


 まだ頭を撫でながら、コート先生はそう言ってくる。やっぱりこの人からは、母親に似たような安心感を覚えてしまう。


 何で……何でなんだろう。それも知りたいけれど、多分教えてはくれないだろうね。


 いつか話してくれたら良いんだけど。

何故戦争に参加するのか、何故戦うのか。その思いを新たに、コノエは前へと進む。


その頃、ミルディアの方でも動きが。


次回 「8 内戦の兆し」

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