4 モノノフ
突然現れたサムライのような機体に乗った敵パイロットは、自分の事を武士とかモノノフと言い始める。武器も刀と太刀だが、その雰囲気は普通ではない。コノエは今一度気を引き締め直していた。
侍の様な機体から、声高らかに叫んだその女性は、腰に携えた刀の方を抜き、こちらに突き付けてきた。
『賊どもが。我々の崇高な使命の前に立ちはだかるか!』
『人類発祥の星、地球のニホンという島国に、遥か太古の時代に存在していた、ブシというやつに、そこまで思い入れするとはね』
『うるさい。あの人々の生き様は、私の心を穿ったんだ。私もあのように生きる! 主を守りし最強のブシ、モノノフにな!』
何か向こうの2人で言い合っているね。男性の方は雇われた人かな? あんまり関係は良好じゃなさそう。
それと確か、地球の資料はだいぶ限られていて、武士が存在していた時代の書物は、殆どが失われているって聞いた。
ただ、ごく僅かには残っているから、それをどこかで読んだのだろうね。ヒノモトにはそういう資料がいっぱいあるらしいけど……そこに行ったのかな?
それとーー
「武士と武士って一緒なんだよなぁ」
言い方が違うだけで、同じ意味だからね。その辺りの資料は失われているみたいだから、武士が更にランクアップして、モノノフって呼ばれるようになるのかもとか、そういう考えに至ったのかも。
『そこの狐の奴。お前、モノノフの事を知っているのか?』
ヤッバい。住民の避難をさせるために、オープンチャンネルとスピーカーにして呼び掛けていたんだった。独り言が全部向こうに筒抜けじゃん。
「あ~まぁ、地球出身なので。ただ、僕が居た時代にはもう居なかったから、残された資料と推察による武士像しか知らないよ」
『……なるほど。それで、ブシとモノノフは一緒なのか?』
「あ、うん。呼び方が違うだけです」
な~んか丁寧語になっちゃうな。相手は敵だし、この街をこんな風にした張本人なのに。だからつい、こんな言葉が出てきたんだろうな。
「それと、武士には武士道っていう精神論も持っているからね。こんな風に、女子供も容赦なく殺して、街を奪うなんて事はしなかったと思うよ。それをしたら武士じゃない。ただの武士崩れの盗賊だよ」
『なっ……! きっ、さ、ま……!!』
これもしまっただよ。場合によってはそういう事をする武士も居たとは思うけれど、それも必ずある条件があったはず。この女性にもそれがあるかは分からないけれど、とにかく強ければいいってものでもない。
『いい感じに煽ったなぁ。まぁ、工場の様子を見るためには、そいつを引き付けておいてくれないとだが、勝てるか? コノエ』
「勝てるかというか、完全に僕をターゲットにしてるよね、あの人! 言い過ぎちゃったよ……!!」
お陰で余計な戦闘をしないといけないかも。
ただその時、僕に向かって突進して来ようとする、そのサムライの機体目掛けて、銃弾が放たれた。コルクか?!
『くっ!? スナイパーを潜ませているか、だが浅いぞ。しかも、今ので場所を知らせたな。街を一望出来るあの丘か。何体か向かってスナイパーを落とせ。邪魔だ』
『『はっ!!』』
あっちゃぁ……僕が狙われたから、コルクが焦っちゃったか。確実に仕留められる瞬間を狙って欲しかったけれど、確かにコルクはまだスナイパーとしては日が浅い。新たな武装がスナイパーよりだったし、コルクは射撃の技術が抜け出ていたんだ。だから、スナイパーもやれるのでは? と抜擢されたけれど、やっぱりまだまだ練習が必要だったみたいだ。
『仕方ない。コルク、こちらに合流だ。チャオ、コルクの援護に向かってくれ』
『わ、分かったわ。ごめんなさい』
ちなみに、チャオの機体はとっくに丘に向かっていたよ。敵に狙撃手の場所がバレたと分かった瞬間動いていたから、多分間に合うね。
さて、それじゃあこっちはーー
『覚悟ぉお!!!!』
「おっと!!」
このサムライ女性を何とかしないと。
背中と腰部に付いている大きなブースターユニットを噴出させて、こちらの間合いに一気に入り込んできたよ。それで刀で斬り付けて来たけれど、刀での攻撃のバリエーションはだいたい分かっているから、間合いから離れるように後ずさって、相手の攻撃を避けた。
『それなら、私はこちらの2人を片付けておきますか』
その後、後ろのハコ機が動き出し、レイラ隊長とアルフィングの元に向かう。
だけど、何だろう……ただのハコ機のはずが、物凄い不穏な様子を漂わせている。乗っているパイロットかな? ちょっと普通じゃない。
『ふんっ!!』
「くっ!!」
こっちはこっちで、敵意も殺意も剥き出しで突っ込んで来ているけどね。思い切り刀で突き刺してきたし、もう1つの野太刀で避けた僕に向かって追撃してきているよ。
ただね、僕だってずっと何もしていない訳ではないんだよ。
『なにっ!? この武器の振り抜きを受け止めるか?!』
ビームコートを纏った尻尾で、相手の野太刀を受け止めておいた。ついでに、ショットガンでこちらも攻撃しておこう。多分当たらないだろうけど。
「それっ!」
『うおっ!? 至近距離からとは……なるほど、お前も近接タイプか』
「近接も出来るってだけ。それにしても、やたらと武士に拘るね~」
『当たり前だ。戦場でのあの強さ。そして、主君に対する絶対的な忠誠の姿勢。正に完璧な騎士! 古代の騎士だ!』
「あ、それは分かってるんだ」
武士道の基本は主への忠誠だけど、そこは何というか、曖昧というか、時代と人によって色々と変わっていたりする。基本的には、武士としての志なんだよね。
だから、主君には絶対だから、主君がやれと言えば、こういう事もーーいや、分かんないね。それも僕達の決めつけかも知れない。
ただ、このサムライの女性は、強ければそれで良いと思っている。強くて、主君を裏切らない。それこそがモノノフであり、あの人の武士道……なのかな?
そうだとしても、無抵抗な街の人達を殺すのは違うでしょう。
「武士たるもの、弱者をいたぶらない。強者との戦いの中でこそ、彼等は己の道を貫くんだよ。だから、あなたは違う。もののふとか武士とか、そんな者にあなたはなれないよ」
『言うな。狐の小娘。それなら私を倒してみろ!!』
「分かってるよ」
相手の攻撃の軌道は何とか読める。少しだけDEEPを解放して、能力を向上しているからね。機体も、それに耐えられるようにと、強度を増して貰っている。ジュナクトは無いけれど、それに見合う秘密兵器ならある。
相手の懐に飛び込めるかって所だけれどーー
『ふんっ!!』
「っ!! やっぱり、詰めるのはそっちの方が圧倒的か」
背中の大型ブースターでこっちに突進して来て、片方の刀で突き刺した後、右手だけで野太刀を振り抜いて斬り付けて来るもんだから、あんまり隙が無いーー
「あっ、そこか」
ーー訳でもなかったかも。
野太刀での攻撃の後、体勢を立て直すのに数秒程隙があった。僅か数秒でも、肩のレーザーライフルでそこを突けば、更に攻撃チャンスが作れるかも。
『ちっ……! 狐のようにすばしっこい!』
「……更に攻撃出来ると思ったのに、その甲冑で防ぎますか……」
甲冑の肩の部分の甲でしっかりと防がれたよ。その後、相手は後退してまた刀を構え直している。だいたい攻撃パターンは一緒なのかな?
それと、ライフル等の遠距離武器での攻撃をしてこないということは、そういうのは装備していない。刀だけって事ですか。拘っているなぁ……。
『……ふぅ。落ち着け。心を乱すと、刀も乱れる。そこ!!』
「……はっ?! おわっ……!? とぉ!!」
すると、相手が刀の柄に手のひらを当て、何か精神集中しているなと思ったら、相手の機体がいきなり目の前に現れて、刀を抜くと同時に斬り付けて来た。
これは所謂「居合い」ってやつだ。構えで気が付いたから、慌ててその場から飛び退いたけれど、バランスを崩してしまったよ。急いで体勢を立て直したけれど、他の敵機体からの攻撃が無くて良かったよ。だいたい倒したけどさ。
それにしても、居合いなんて何処で学んだんだろう? 日本の文化なんて、殆ど残っていないのに。
『これを避けるか』
「日本人を舐めないで下さい! というか、その居合い何処で習ったの!」
『ほう。これはイアイと言うのか。いや、なに。博物館に保存されている、古い日本の映像記録に、こういうのがあってな。周りを敵が囲んでいるのに次々と倒したり、このような動きで敵を倒したりしていて、格好良かったのでな。記憶に刻み付けて、真似してみた』
「真似で再現しないで下さい」
それと、あなたが見たのは恐らく「時代劇」の映画か何かだと思う。それを、実在した武士だと思っている節もあるね。
だから、型もちょっと違うし、居合いにしてはブレてるなって思ったよ。本家なら、僕はとっくに斬り捨てられているよ。
実力拮抗の中から活路を見いだすコノエ。相手機を撃墜出来るのか?!
次回 「5 殺しの美学」




