2 一歩遅かった
バカンスを楽しんでいたコノエ達に、1本の通信が入った。コノエ達は、急いで出撃準備をし、その場所へと向かった。
翌日。
僕達はそれぞれの機体に乗り込んで、海岸沿いを走っている。
アルフィングからの通信は基地からで、このルールシーグの街の近くに、イナンアの隠れ家を発見したというものだった。せっかくの休暇だったけれど、そういう事なら仕方ない。
メンバーは僕の他に、レイラ隊長にアルフィング。そしてコルクだ。
相手の隠れ家を探ると言うことなので、少数で隠密行動ということなんだけれど、ちょっと不安にはなるよ。例の、イナンアのトップが居たらどうするんだ。あいつはちょっと、異常だったよ。野心が燃えたぎっているというか、自分の信じるものの為なら人殺しも平気で行う。そんな奴だった。
「あいつが居たらどうしよう……」
そんな事考えていたらつい口に出ちゃったよ。他の3人に聞かれちゃった。
『コノエ。ゲルシドに関してなら、今はあまり考えるな。確かにあいつは異常ではあるが、阿呆ではない』
『確かにね。こんなあからさまに、相手側にバレるような隠れ家に居るとは思えない』
そう2人に言われたけれども、それも作戦だったらどうするんだ? と、変に考えすぎるのも良くないのかもね。
コルクも僕と同じように、ちょっと緊張していて口数が少ないんだよ。緊張し過ぎると、かえってミスをしてしまうから。
「コルク。とりあえず僕達は、レイラ隊長とアルフの言う通りに動こう」
『あ。う、うん。分かってるわよ。ところで、コノエ。背中のデカい槍は?』
「あぁ。あれも故障したから、取り外してちょっと改良をね」
流石に背中にデカデカと背負うのもどうかと思ってきたから、ちょっと開発部のおっちゃんに頼んで、色々と改良して貰っている所だ。お陰で隠密も出来るようにはなりました。
レイラとコルクのも、改良されて新しい武装があるらしけれど、外見はあんまり変わってないから分からないね。
それにしても……隠れ家とか言っておきながら、堂々と傭兵用のハコ機で警戒するとか、ちょっとバカなんじゃないか? 仮にも、あのゲルシドから色々と指南されているはずだろうに。
『住民からは、大きな機械で脅されているとか。何かをする為に、色んな材料を集めているようだ』
そろそろ隠れ家に着きそうだから、レイラ隊長が僕達に静止を促し、止まったところでそう言ってきた。
ルールシーグの街は、一応アルツェイト国とラリ国の共同管理になっている。ただまぁ、ラリ国がメールコンでやらかしたので、今はアルツェイト国だけで管理をしている。だから住民達は、アルツェイトに救援を出して来た訳なんだ。
『さて。こちらはパトロール中に出くわした事にする。隠れて様子を見る』
そう言ってレイラ隊長は、僕達に迷彩シートを使うように指示を出した。
使いきりでコスパが悪いんだけれど、大きな機体等を隠して奇襲するための物として、アルツェイト国では量産されているようだ。何か変な利権がどうのこうのって話もあるけれど……性能は確かなんだ。
そうやって僕達が隠れていると、何機かのハコ機がのこのことやって来た。
それを察知した街の人達は、慌てて避難をしているようだけれど……。
『待て、お前等!! 今日も純鉄や剛鉄を出しやがれ!!』
ちなみに、ここは地球ではないので、地球とは違う鉄が取れる。純鉄は純度100%って事で、剛鉄は混ざり物って事らしい。コート先生に言われたけれど、中の成分まではちんぷんかんぷんだったよ。良く分からない単語だったし。
見た感じ、剛鉄の方が固そうだった。そういう特性のある鉄らしい。
ただこの2つは、主に機体を作る時に使うんだけれど、時々兵器なんかにも使われたりする。
そんな物を寄越せって言うことは、何かを作っているっていうのが丸バレなんだよ。それだけ焦っているのか場所が無いのか、はたまたこうでもしないと集められないのか……だね。
何て考えていたらレイラ隊長が飛び出して行ったよ。後に続かないと。
『貴様等何をしている!! ゲリラか?!』
『げっ!? ビースト・ユニットって事は、アルツェイトか! 畜生! 誰か報告しやがったな、舐めやがって!』
僕達の姿を見た瞬間、敵は慌て出し、直ぐに大口径のビームライフルを出し、構えてきた。
『街の奴等め、報告や通報はするなって言っただろうが。報告や通報をしたらどうなるか、分かってんだろうなぁ!!』
不味い。このままでは街を襲われる。そう僕が思って行動した時、レイラ隊長も同じように動いていた。
『ふんっ!!』
『ぐえっ!?』
敵の腕に、肩付近から射出した大型のブレードを突き刺し、その後また射出したブレードを口に咥え、敵の懐に飛び込んだ。
あれが、レイラ隊長の新たな兵装。大型のブレードを射出するんだけれど、当然限界はあるんだ。今のところ、5枚まで。
『うぉ……ちくしょぉ!!!!』
『遅い!!』
そのまま、敵機体のコクピット辺りをグサリと貫いた。当然パイロットごと。
それから、建物から離すようにしながら蹴り飛ばし、相手機体はその先で爆発大破した。
『くっそ!! あれはレイラ=バルクウッドだ!』
『嘘だろ! アルツェイトの戦狼かよ!』
レイラ隊長の2つ名はそれですか……あるだろうなとは思っていたけれど、あんまりこっちからは聞けなかった。だってそれは、敵がその戦果から付ける名なんだから、こっちとしてはあんまり名誉じゃない時もある。
『コルクは新たな武装で援護、コノエは共に来い!』
「あ、はい!」
このまま相手を撃退して、隠れ家まで押し込む気なのかな? それとも、隊長も何か嫌な予感がするから、さっさと戦力を減らそうとしているのかも。
何だか、変な空気がこの辺りを漂っているんだ。
殺気……と言うか、粘り付いたような、視線に似た何かって感じ。良く分からない。だけど、嫌な予感がする。
◇ ◇ ◇
『ぎゃぁぁっ!!』
『ちっ……くしょぉ!!』
相手ゲリラの機体を難なく倒した僕達は、1体だけ残していた機体に近付き、そのパイロットに質問をする。
1体だけ残していたというか、相変わらず僕が爆破しないように、パイロットも殺さないようにしたんだけどね。だから「まだまだ甘い」って感じでレイラ隊長に睨まれました。
『さてと。君達ゲリラの住処は何処だ? こんな機体、野営等では隠せまい』
『くっ、誰が言うかよ』
こっちはとっくに目星は付いているのに、言わないその姿勢は流石だよ。街の人達からの報告で、崖近くのコテージに怪しい人達が出入りしてるって、そう聞いているんだよ。流石はリゾート地。そういうのがあるんだよね。
そんな時、残していたもう1体のハコ機が、何かに串刺しされるようにして貫かれた。
『が……え? おぁ……っ』
『ちっ!!』
当然、その後爆発して大破した。何だ、あの槍みたいなやつは。
レイラ隊長が離れた後、後ろからその機体らしきものが蠢いたけれど、どういう訳かそのまま消えていった。迷彩機能付き? どっちにしても厄介過ぎるぞ。
『コルク!』
『ごめんなさい。スコープで見ていたけれど、本当に溶けるようにして消えた!』
『どんな奴だ!』
『何て言うか……死神? みたいな』
『死神? ゲリラの新機体か? もう起動出来る段階ということか!』
相手からしたら、情報源を潰したことになるんだろうが、既にこっちは目処が立っているんだ。
だけど、レイラ隊長は悔しそうに舌打ちをしている。その理由は、住民からの報告であったコテージに着いてから分かったよ。
そこは、もぬけの殻だった。
今日、いつも通り街に向かわせたのは、僕達の事を嗅ぎ付けたから、逃げる時間を稼がせていたという事になる。
一応、警戒しながら中を調べたけれど、慌てて夜逃げしたような、そんな感じだった。相手の方が一歩上手か……何だか悔しいな。
ただ、その後のジ・アークからの連絡で、僕達はまた走らされる事になる。
ルールシーグから少し離れた街が、ゲリラの様な部隊に襲われている、と。
ゲリラ達に逃げられてしまい、意気消沈していたのも束の間、今度は兵器工場の街が襲われていると通信が入る。急いで向かうコノエ達だったが、そこは既に戦火にまみれていた。
次回「3 戦火に巻き込まれた街」




