4 黒い凶星
実技の訓練も終わり、コノエに対し、同期出来なかった理由を言おうとした時、突然敵国の機体がコノエのいる施設に攻撃を開始した。
目的は何なのか……それも分からぬまま、教官に言われるまま逃げようとしたコノエだったが、爆撃により、シェルターへの道を閉ざされてしまう。別の場所に逃げたコノエは、見たことないビースト・ユニットを見つける。
一方、迎撃に出たレイラはーー
残った整備の者達が、慌ただしく格納庫を動く。
残っているのはこの1機のみ。他は、点検中等で直ぐには動かせない。
「レイラ少尉。これには本当に、僅かな兵装しかーー」
「構わないと言っている。動かせて撃てるものがあれば、何だって構わん!」
訓練用の狐型のビースト・ユニットに乗り込み、コクピット内計器類、スイッチ、レバーの可動等を確認し、彼女はそれを起動した。
「自分とは違うタイプとはいえ、同じ犬科だ。何とかなるだろう」
ケモナーは基本、自分の素体となった獣と同じタイプのユニットの方が、より柔軟で軽快に動かせる。全く動かせないわけではないが、同調するのにかなりの遅れは出る。
「……よし」
それでも、レイラは迷うことなく、何の不具合もないように、訓練用のユニットと同期した。
そして、目の前の大きなモニターに景色が映り、手元の小さなモニターには起動完了の文字と、エネルギー残量、機体の駆動状況等が示された。
「良いか。私が出たら、訓練兵達の避難をーー」
そうレイラが言いかけた瞬間、一番聞きたくなかった言葉を言われる。
「それが……訓練兵も、何人か……いや、半数以上がーー」
「……もういい。分かった。あいつらもまた、兵である。だから、こうなるのは覚悟の上だろう……上だろうがーー」
それでも許されないものは許されない。
レイラの中に、ふつふつと怒りが沸いてくる。
狙いは分かっている。“あの機体”を狙っているはずだ。それは、シェルターとは逆の場所に保管されている。
そこにも数名、敵兵が向かっていったのは見えていた。つまり、隠し場所すらバレている。それが意味するのはーー
「リークされたか……スパイ……いや、単純に買収か?」
そのついでに、敵国の戦力を少しでも削る為、ここの訓練兵も狙った。
「あぁ、許せるか!! ……許せるものか!!」
全ての機器も、機体も異常がない事を確認したレイラは、格納庫の扉を肩のレーザライフルで撃ち破り、グラウンドへと飛び出した。
「貴様等ぁぁあ!!!!」
「うわっ! なんだ! ビースト・ユニットが!」
「落ち着け! ただの訓練用だ! 武装はほぼ無い!」
四角い姿をしたヒト型の相手機、どれも一般兵なのだが、指揮している者は必ずいる。そうでなければ、こうもスムーズにシェルター付近と、例の機体のある保管庫付近を狙えるものか。
「訓練用のそれで何が出来る! とっとと落ちろ!」
「ふっ、訓練用、か」
相手機が、手に持った中口径レーザーライフルを、レイラに向けて撃ってくる……が、レイラはそれを軽く躱し、手足に付いたターボエンジンを軽く噴出、推進力を得て、軽く浮上した状態で、まるでスケートで滑るかのような動きで相手機に接近した。
「訓練用だろうと、乗っている者によっては、驚異になりえる。覚えておくがいい、若造」
「ひっ、なっ!? うわぁぁあ!!」
そして、腕に取り付けられているダガーナイフで、相手機の胸元、コクピット部分を貫いた。
その瞬間、中に乗っているパイロットが悲鳴を上げ、レイラが離れた瞬間に、その機体はくず折れた。
「くっそ……!!」
「遅い!」
次いでもう1機が、手の甲に取り付けられたバルカンを撃ってくるも、それもレイラは難なく躱し、相手の背後に回り込むと、肩に付いたレーザーライフルで後ろから撃ち貫く。
その1機は大きな爆発を起こし、上体が全て吹き飛び倒れた。
「……まだ数機いる。隊長機はーーっ!?」
近くに居た敵は倒した。
次は……というよりも、さっさと隊長機を狙おうと、レイラが辺りを確認しようとした瞬間、背中からえもいわれぬような嫌な汗をかき、悪寒を感じた。その瞬間、レイラはその場から離れた。
「ーーーー!?」
しかし、次にレイラを襲ったのは、強い衝撃と、激しい爆発音だった。機体は激しく揺れ、体勢を立て直さねばならない。
「…………くっ!!」
何とか踏ん張り、転倒は防いだものの、目の前にはあり得ない機体が立っていた。
「黒い……ハコ機。その厳つい武装の数々は……黒い凶星、オルグか」
「いやはや。ただの訓練用の機体で、こちらの隊の2人もやらないで頂きたいものだ。一般兵とは言え、ただ乗せているだけではないのだぞ」
「訓練が足りんのではないのか? 呆気ないぞ」
「困ったものだ。レイラ少尉。君が相手では、大隊を組んでも勝てやしない」
「だから、お前が来た。私が居ることを知っている。つまり、こちらの情報は完全に漏れているわけだ」
「時代は情報だからね」
先ほど着弾し、爆発したであろうその場所で、悠々と立つその姿は、レイラが相手でも引けを取らない。
相手の隊長機は、敵国の主力とも言うべく人物が乗っていたからだ。
「幾度、交えたかね。レイラ少尉。そろそろご退場願いたい」
「ふざけるな。それはこちらの台詞だ! その黒いハコ機。その姿の通り、お前の棺桶にしてやるよ」
「勘弁してくれ。それと、この機体は『ケプラー』だ。そんな名で呼んでくれるな」
すると、黒い相手の機体が、本来のデコ機には取り付けられていない、背中から突き出た超強力なブーストユニットで加速し、レイラの機体へと突撃する。手に黒と赤の混じった光を放つ、ビームサーベルを振りかざして。
「ふんっ!」
それを、レイラは尻尾で受け止めた。
「受け止めないで貰いたい。最新のビームサーベルだぞ」
「芯があれば、どんな物でも受け止められる! そらよ!」
「ぬうっ!!」
その後、相手の黒い機体を吹き飛ばし、今度はレイラがレーザーライフルを撃ちはなった。
「ふむ。やはり強い。訓練用でそこまで動けるのか」
だがそれは、相手機の手の甲にあるシールドで払われた。
「そりゃここまで出来なければ、教えることなんて出来ないだろう」
そして、レイラは両手に握ったレバーの左側、そこにあったもう一つのレバーを引き、コクピットを縦に動かしていく。
それは外から見ると、4足のビースト・ユニットが、細身のヒト型の機体へと変形していた。
「訓練用で獣型では分が悪い。さすがにこちらでいかなければな」
「やれやれ。もう勝つつもりか? 止めて貰おうか、その自慢気な態度は」
「そうかい。私からも言わせて貰うよ。気取った感じで、鼻につくんだよ」
そしてお互いにサーベルを構え、その後は何も言わずに刃を交えた。次いで、相手機はライフル銃で、レイラは肩のレーザーライフルで相手を撃つ。
それを同時に下がって避けた後、また前に出てサーベルを交える。
激しい火花と銃撃が続き、お互いの実力が拮抗しているのは、誰が見ても明らかだった。
「ちっ!! その少しの武装で、良くこの私と対等に……!」
「おいおい、こんなので拮抗するなよ。私の本来の機体じゃ、お前はもう終わっているぞ」
レイラが言った瞬間、相手機の背中からバズーカ砲が出てきて、その肩に備え付けられると、そこからビームバズーカ砲が打ち出された。
「……っ!!」
「実はエネルギーを貯めていたのだが……それも避けるだろう。そこをーー」
レイラがその攻撃を何とか避け、よろけてバランスが崩れた所を、相手機が狙う。がーー
「ぁぁあああ!!!! そんな……! 隊長! すみません!」
「ん?」
新たな爆発と共に、敵部隊の1人が叫んだ。
その先には、厳重に保管し、隠されているであろう、あの機体のある方向だ。
レイラも、そして相手機もそちらを向く。するとーー
「なにっ!? 誰だ! アレを動かしたバカは!」
「あれは……! 間違いない、起動している?!」
煙の中から、白を基調に赤いラインの入った、狐型のビースト・ユニットが起動し、敵部隊のハコ機を足蹴にしていた。
敵エース級パイロット、オルグと拮抗しながら戦うレイラ。実力は互角に見え、どちらもまだ探り合っているような状態。そんな時、どこからかビースト・ユニットが飛んできて、相手を足蹴にしていた。それは、レイラにとってはあり得ない事だった。
一方、敵兵から逃げていたコノエは、保管されていたビースト・ユニットに乗り、何とか逃げようと起動をさせる。同期が出来るか不安だったが、なんとーー
次回「5 シナプス起動」