16 アルツェイト国の内情
戦争とは、平和とは。
様々国の、様々な思いが駆け巡る中、コノエはアルツェイトへ向かおうと決意した。
一方その頃、アルツェイトの方では……。
少し広めの部屋。執務室のような部屋で、誰かが通信をしている。
「あぁ、分かった。メールコンは結局、元通りか。外交官の君には、今回の事で多忙をさせた。ゆっくりと休みたまえ」
その通信が終わると、今度はその部屋にある者が入って来た。
「失礼します」
茶髪のオールバックで、メガネをかけた、少し賢そうなイメージのある中年男性だ。
「ルーグ次官か。君には今回、色々と聞きたいことがある」
高級な椅子に座る、少し小太りの老年男性が、その入ってきた男性を睨んだ。同じようにメガネをしているが、そのメガネは金色で高級そうだ。身に付けているのも高級なものに見える。髪は薄く、残った髪を前に集めているのは、少しでも良く見せようとする為か。
「こちらも、伺いたい事があったのです。パーツ国家大臣」
アルツェイト国は民主的な国であり、選挙によって国民に政治を担う者を選んで貰う。地球の日本よりな国策が行われていた。
その政治のトップを担っているのが、このパーツ国家大臣である。
「今回のメールコン事変。ラリ国がイナンアに共謀したとして、制裁が加えられたのですよ。我が国にも、制裁を科すべきとの声があります。戦場に居たのを見られています。何故、あんな決定をしたのですか!」
「そこは現場の判断としている。私が言いたいのは、何故ラリ国を助けなかったのかだが? 聞けば、機体は3機のみ。他は海の方で待機をしていたと」
「それも、ミルディアの猛虎の襲撃に対応しています」
どうやらあの時、海上ではミルディアの猛虎が暴れていたようで、戦艦の方とその部隊は、グランツ対応をしていた。
ある程度の被害は出たが、オルグが海に落ちたと連絡を受け、その場から去って行き、全滅は免れた。
「そのせいで、ラリ国の味方をしたとして、国際中立組織から制裁案が出ています。どう答えるのですか!」
「そこは、君が言いくるめてくれるのだろう?」
「えぇ、そうせざるを得ないですからね。ですがその前に、私はあなたから聞きたいのですよ。あの指示の意図をね」
「意図?」
そう聞かれたパーツ大臣は、ニヤリと口角を上げ、頬を緩ませた。何なら、このまま退陣しても構わない。後ははあるのだと、そう言わんばかりである。
「そんなのは、儲かるからに決まっているだろう。ミルディアにバッゲイア、中立の立場からの意見。そんな奴等の言葉など、あの国の言葉からに比べたら、雲泥の差があるわ。あの国にある、超合金の材料になりかねない、特殊な鉱山の魅力に比べたらな!」
「やはりっ! 利権か! 協力すれば、その鉱山の利用を!」
「あぁそうだ! 関税を撤廃し、優先して我が国に超合金を譲ってくれると、そう約束したのだ」
「そんな口約束! しかもその鉱山、公害を出しているとして、国際的にも問題視されているのですよ!」
「それがどうした!! 国民の豊かな生活の為だ! 発展の為だ! 何と言おうと、我が国は全ての国に対して、利益を獲得し、利益を渡している! Win-Winの関係を続けていくのだ! それこそ、国民の総意だ!!」
「くっ……!!」
その為に、どれだけの軍の人達が苦労をしているのか。他国と相対している者達が、どれだけ神経を尖らせているのか、知るよしもないのだろう。
自分の利益の為だが、それは結局国民の為になる。そう信じて止まないパーツ大臣は、それを台無しにしようとしているルーグに詰め寄った。
「で。お前は何故、言う通りにラリ国を助けなかった? 強い指示を出さなかったのだ?」
「ラリ国には、我が軍の部隊もやられています。それなのに味方をしろと言うのは、我が国を甘く見られてーー」
「それの、どこに、問題がある?」
パーツ大臣の言葉に、ルーグは押し黙ってしまった。あまりの圧と、聞く耳持たないその態度に、これ以上は無駄だと悟ってしまった。
「良いか。他国がどう思おうが、我が国をどれだけ甘く見ようが、大国としての力がある。資本がある。それに部隊の被害等、演出上仕方のないことだ。必要な犠牲というもの」
そんな彼の言葉に、ルーグはある最悪の事が頭に浮かんだ。
「まさか……! 我が軍の部隊ごとやっても良いと。そう、言われたので?」
「だから、些細な犠牲だ。些細な。彼等の命ごときで、莫大な富を諦めよと? むしろその悲劇あってこそ、話題は尽きぬというもの! いくらでも報道するが良い! その都度、我が軍の勇猛さと、和平の志を見せつけてやれ!」
「こ、の……!」
非道という言葉が出かかったが、喉元でその言葉を止め、グッと堪えて飲み込んだ。
「まぁ、だが。やってしまったものは仕方ない。何とか言い訳を考え、公表しろ。あの鉱山の事で、こちらが不利になるような事を言われたとか、何でもな。どちらにしても、ラリ国は終わりだ。あの鉱山の開発も、頓挫するだろうな」
ルーグが握りしめた拳には、血が滲んでいる。それでも、今はまだ耐えないといけない。ここで怒りに任せて殴っても、何の意味もない。むしろ自分の首が飛び、アルフィング達がやりづらくなる。だから、耐える。ルーグはただひたすらに、パーツ大臣の言葉に耐えた。
「さぁ、早く行け。もし、またやらかすことがあれば、次はないぞ。国民の人気はあるからな、貴様は。だから私も、出来たらその首、飛ばしたくはない」
「……分かりました、失礼します」
そう言って、ルーグは頭を下げ、その部屋を後にする。
そして廊下を歩きながら、通信機を取り出し、そこから透明なディスプレイを浮き出させた。
「私だ。アルフィングは?」
するとしばらくして、そこからアルフィングの声が聞こえてきた。
『よう、ルーグ。どうした?』
「今回に関しては、本当に助かったよ。あとは、私が尻拭いをする。が、しばらくアークは本国に入らない方が良い」
『……それは、何故だ?』
「パーツ大臣が大層ご立腹だ」
『あのハゲだるま』
「そう言うな。メールコンの事で、納得がいっていない。ラリ国にある、あの鉱山の資源が欲しかったようだ」
『……バリバシ鉱山か。公害あったろ? 何だっけ? 皮膚がバリバリになる、バリバリ病か。あんな所の資源が欲しかったのか』
「あれで、超合金が作れるかも知れなかったからな」
『政治家どもは、利益しか見ていないのか』
コツコツと1人廊下を歩きながら、ルーグはキョロキョロと辺りを見渡す。誰かを探しているようだが、どうやら見つからないようだ。
「実は1人、そちらに送ろうと思う子がいる。メキメキと腕を上げていてな、君の部隊に入れてくれて上げないだろうか? 今紹介したかったが、どこにいったかな。あとで連絡させるよ」
『そうか。それは助かる。何せ、こちらも被害がな。しばらくは出動出来そうにない』
そう聞いたルーグは、今度は地図をディスプレイに表示させた。
「そこからなら、海上基地に戻るより、アルツェイトの本国の近く、ルールシーグという国の方が良さそうだな。そこは、アルツェイトの同盟国だし」
『艦長も、そのつもりで動いている。だが、各地でイナンアが暴れている。そこもヤバそうだ』
「そのようだな。情報が錯綜していて、正しい情報がまだ纏まっていない。纏まり次第、そちらにも報告する。とにかく、アルツェイト国もイナンアのテロ攻撃で被害を受けている。正義の翼となる、ジ・アークが鍵だ。頼んだぞ」
『あぁ、分かった』
その後通信を切り、ルーグは廊下の天井を見上げた。
「いったいこの事態は、誰が望んだのだ? 神だとしたら、何とも物好きな神様もいたものだ。試練ばかりを与えてくれる。が、私にも野望はある。完全平和の為、この手を血に染めるのも辞さないぞ!」
そしてキッと前を向いたその目には、決意の炎が宿っていた。
アルツェイト本国でも、戦争による黒い思惑があった。どれが正しくどれが間違い、どれが悪でどれが正義なのか。その答えを、コノエは出すことが出来るのだろうか。
次回 新章 「1 リゾートタイム」




