13 オルグの謎の行動
オルグの全力に、コノエも全力で立ち向かう。互角に見えたものの、やはり経験値ではオルグが圧倒した。機体の半分をやられたが、それでもオーバーブーストが切れる前にと、動こうとしていたコノエだったが、そこにラリ国のカッツァー大佐が現れた。
ラリ国の国軍、カッツァー大佐の乗る機体は、そっちの国のオリジナルなのか、尖った部分の多い、スタイリッシュな機体だった。
その機体がビームライフルを持ち、ビースドットの兵達に向けている。
『そもそも貴様等も貴様等だ!! 3機とはどういうことだ! 他の機体と隊はどこだ!!』
当然彼の怒りの矛先は、こっちにも来た。
というか大佐なんだから、他の人達が彼を守っていてもおかしくないのに。他の機体が見当たらない。
『ふぅ、ふぅ。全滅だなんて、そんなのは考えていないぞ。予定外だ。ミルディアの新たな機体。なんだその化け物は! が、まぁ。ある程度のダメージはあるか。ビースドット!! やれ! 恩義はどうした!! 貴様等の国の食料難を救ったのは、いったいどこの国だ!? 恩義を返せ!』
なるほど。それがあったから、ビースドットはラリ国に。と言っても、何で今はこんなにもギスギスした空気に? とりあえず、僕はオルグの方を狙わないと。
『オーバーブーストは切るが良い。ここでの戦いは一旦終わりだ』
「え? だけど、あなたとは!」
『決着を着けたいなら構わない。チェックメイトなのには変わらん』
「あっ!」
オルグが言った瞬間、僕の前にバズーカ砲が着弾して、僕はそのまま後ろに飛ばされてしまった。いつ、バズーカ砲を上に?
『コノエ!』
それにアルフが気付き、僕に近付こうとして来たけれど、今度はもっとあり得ない事が起きた。
『悪いな、ラリ国の大佐よ。今本国から報告が入った。今回の食料難、原因はラリ国だと。無理やり押し付けてきた恩義には、十分に報いさせて貰った。我々は今後、ラリ国には関わらん』
白熊のようなビースト・ユニットからその声が聞こえた瞬間、カッツァー大佐がどこからか大きなカノン砲を持ち出し、それをビースドットの兵に向けた。
『ぐぅ。この私をここまでバカにしやがって。それなら貴様等ごと、この戦場を焼き払ってや……がっ!?』
そのバズーカ砲を撃とうとした瞬間、カッツァー大佐の機体が貫かれた。コクピットごとね。
戦車を改良したようなそんな機体に、大きなドリルが付いていて、それがカッツァー大佐を貫いたんだけど、そもそもバズーカ砲を放っていて、熱線が銃口から放たれてるんだってば。
『くっくっくっくっ。カッツァーよ、やはり貴様は役不足だ。ここで退場だよ』
『ゲルシド……貴様ぁぁああ!!!! ぎゃぁあああ!!!!』
ドリルが回転すると同時に、カッツァー大佐の絶命の叫び声が響く。けれど、ちょっと待って。機体がバラバラになって、ビームバズーカ砲の銃口がこっちに!!
「ちょっ!!」
熱線がこっちに来た!
動こうとしたけれど、ダメだ。残った足が、さっきのバズーカ砲の着弾でやられている。動かせない!
『コノエ!!』
「アルフ!!」
叫びながら飛んでくるアルフの機体に手を伸ばすけれど、ダメだ。これも遠すぎる。バズーカ砲で吹き飛ばされ過ぎた。
そんな時、僕の前に黒い影が現れる。
「えっ?」
それは、オルグの黒い機体だった。
『ぐぅ!!』
何で? どうして? 何であなたが、僕を守ろうとするんだよ。
腰に付いていた重厚なシールドを構えて、熱線を防いでいるけれど、無理だ。シールドが溶けていっている。
「何でだよ! 僕の事を殺そうとしておいて! なんで!!」
『知らん。身体が勝手に動いた。とにかく、そこから早く。いや、動けないのか。アルフィングとやら! 早くこの子を!』
それでも、僕達は熱線に押されてしまい、橋の際まで追い込まれてしまった。
そして熱線は、最後に物凄い勢いで、僕達の機体を焼こうとしてきた。
『ぐっ!! 制御機能ごと破壊されたか。あり得ない威力だ! うぉぉおお!!!!』
「わぁぁああ!! やだ、アルフ! 誰か! 助け……!!」
僕が恐怖のあまりに叫んだ瞬間、オルグの機体の一部が爆発し、僕達を後ろへと吹き飛ばし、橋の下へと落とされてしまった。
その下は海。
僕の機体は、海中対策をあまりされていない。ホバーで海面を浮くくらいだ。多少は移動出来るけれど、機体の半分をやられ、足もやられている。このままだと、海に沈んだまま上がれない!
「あっ!?」
と思っている内に、僕は機体ごと海の中に落ちてしまい、大量の海水がコクピット内に入ってきた。
どこかに隙間まで出来ていたのか。ダメだ、このままだと溺れる。一瞬で海水が顔にまできた。
脱出を、コクピットの緊急脱出を!
「ん~!!」
こういう時人って、本当に何も分からなくなる。
緊急脱出のスイッチは何処だっけ!? 慌てるな、冷静に。と思えば思うほど焦る! 焦るな! いや、焦っている。これはマズイ。突然の事だから、息もそんなに持たない。
「んんんん!!!!」
しばらくコクピット内を探った後、最後にはガンガンと足でコクピット内を蹴って、機体を壊してとりあえず出ようとしているよ。
あぁ、でもやらかした。これは悪手だ。余計に酸素を使ってしまって、一気に苦しくなってきた。息が出来ない。
「がぼっ……!」
意識も朦朧としていき、遂には海水を飲み込んでしまった。苦しいやら何やらなのと、何か走馬灯のようなものが見えてきた。
僕は終わるのか。
確かケモナーになった後は、死んでも蘇生出来ないって言っていた。それだけ、細胞をいじり倒したから、これ以上の負担は細胞が壊れるみたいだ。
小さい頃、お母さんとお父さんに手を引かれ、沢山の機械が並ぶ、研究所みたいな所に連れられた光景が浮かぶ。
そんな時、誰かが僕の機体のコクピットを破り、その中に入り、僕の身体を引っ張ってきた。
うっすらと見えるのは、男性っぽい人で、軍服を着ていて。アルフかな?
口が動いている。何か言っているな。「死ぬな」かな。あぁ、死にたくないけれど、息が。と思っていたら、その男性の顔が近付いてきて、その人の口と僕の唇が触れ、息が吹き込まれてきた。
苦しさが少しマシになったけれど、いったい誰が。すると今度は、その誰かがベルトを外し、僕の身体を引っ張り、海から引き上げようとしてきた。
あぁ、それならこのまま任せたら良いか。
きっとアルフだろうけれど、緊急なんだからしょうがない。これはファーストキスにはならない。
何だか少し安心したところで、視界が真っ暗になり、僕は意識を失ってしまった。
◇ ◇ ◇
ぼんやりとだけど、背中に何かが当たる。いや、土の感触だから、寝かされているのか。
助かった、のかな?
「んっ……」
ゆっくりと目を開け、岩の天井を見上げた。
岩の天井? どこかの洞窟か。ということは、助けられて戦艦に戻された訳じゃないのか。それじゃあ、ここはどこだ?
「つっ……」
「起きたか」
すると、暖かい空気の当たる方から、男性の声が聞こえた。パチパチと木の爆ぜる音から、焚き火をしているのも分かった。思わず僕はそっちを向き、声を上げようとした。
「アル……っ!?」
だけど、途中で引っ込んじゃった。というのも、そこに座っていたのはアルフじゃなかった。
顔の上半分にだけ仮面を付け、上半身は裸になっていて、その筋肉質な身体を見せつけてくる、オルグ=バージアスの姿があった。
「アルフィングじゃなくて悪かったね」
「なんで、あなたが!?」
ということは、僕を助けたのはこいつって事になる。本当にどういう事だよ。
僕を殺そうとして、殺し合いの戦いをしたのに、何でこんな真似をしてくるんだ。
「あぁ、済まない。しっかりとそれを羽織ってるんだ」
「へっ? えっ、ぎゃぁぁあ!! 何で僕、裸に?! いや、下着はあるけれど、ほぼ裸!」
「濡れた服のままでは風邪を引く。そのまま肺炎になり、死ぬこともあるぞ。乾かさないといけない。あぁ、その綺麗な身体には何もしていないから大丈夫だ」
「していたら蹴り飛ばしてたよ」
と軍服の上着を肩にかけられていたから、それで隠してくれてはいたのか。起き上がったらはだけちゃった。その上着で胸を隠して、僕はオルグを睨んだ。
「そう敵意を向けるな。今はお互いに救援を待つ身。そこにいても風邪を引くぞ、こちらで暖まるんだ」
「結構だ……はっ、へっくち!」
気が付いたら、日も傾いて夜だったよ。どうりで寒いはずだ。まだ身体も乾ききっていない。
しょうがない。向こうも武器は無さそうだし、とりあえず暖まらないと。
そして警戒しながら、僕は焚き火の近くに寄った。
二転三転する戦場で、コノエの機体もやられてしまう。カノン砲にもやられ、その勢いで海へと落ちてしまったコノエだが、誰かに助けられ、何とか命は助かった。しかし助けてきたのは、意外な人物オルグだった。その彼の口から身の内を話され……。
次回 「14 四皇機について」




