12 黒い凶星の由来
新型機のパイロットの異常さに驚くコノエだが、相手機は既にその一体が、かなりのダメージをおっている。そして、追撃によるコノエのジュナクトも命中。これで完全に合体することが出来なくなった。ここから反撃になるか?!
僕のジュナクトが命中し、空中を飛ぶジェッターとも合体出来なくなった。これでもう、簡単に飛んで逃げられない。もう1体とは合体出来るけれど、どうするかだね。
『良くやった、コノエ! さ~て、今度こそ。そちらに手痛い完敗とやらを味わって貰おう!』
気が付くと、チャオの機雷がオルグの周りを囲っている。これでこいつも、そう簡単には動けなくなった。
『困るね。この私が、2度も3度も』
『もう終わりだ。流石のお前でも』
『そうだな。流石の私でも、全力で行かねばならぬようだ!!』
その瞬間、オルグの機体の姿が消え、黒い筋だけが宙を舞い、チャオの機体が貫かれた。
「チャオ~!!!!」
『落ち着けコノエ! 脱出している!』
確かに良く見ると、貫かれる直前に、チャオは緊急脱出をしていて、コクピット部が丸ごと飛び出て、近くに落下していた。いや、それにしても秒での判断を、あそこで良くできたね。
『消えた瞬間、嫌な予感がして脱出したか。あれが、黒い凶星の全身全霊をかけた、全力全開の動き』
また黒い筋が走り、機雷から抜けた所で止まった。それは確かにオルグの機体だけれど、何かが違う。ブースターからは異常とも言えるような音が響き、アイサイトは赤く輝いている。
オルグも、DEEPのような特殊な能力でも持っているのか?
『あれで普通の人間だって言うから、恐れ入る』
「嘘だろう!」
あんなの普通の人間の動きじゃないだろう。絶対に何かしている。
『流石の私も、3度退けられ、4度目に敗れるのは、名が傷付く所ではない。悪いが、落とさせて貰うよ!』
すると、またオルグの機体が動き、黒い筋が走る。今度は僕。だけど、こっちはDEEPがある。
「くっ!!」
『ほぉ、避けるか!』
「このっ!!」
『遅い!!』
ダメだ。ちょっとだけDEEPを使っているんじゃ勝てない。オルグのサーベルの攻撃を、何とかギリギリで避けたけれど、こっちの尻尾での攻撃は軽く躱されたよ。
また黒い筋が走り、稲妻のようにギザギザに走っていく。そうやって、場所を特定させないように、飛んでもないスピードで動いているんだ。
あれを捉えるなら、DEEPを全開にして、オーバーブーストするしかない。
「ごめん、アルフ。機体が動かなくなったら、回収お願い」
『なに?』
一応アルフにも、この機体のオーバーブーストの事は話しているけれど、やっぱりレイラ隊長と同じことを言われたよ。戦場では、あまり多用できない。ただ、こればっかりは訳が違う。
やらなければ、やられる。
『DEEP確認。オーバーブースト起動。性能向上設定開始。強制停止まで、10分』
「よし、10分で終わらせる」
向こうも、何かしらの事をしているんだ。だから、きっとそう長くは持たない。ここからは、時間との勝負。
「いっくぞぉ!!!!」
『ぬぅっ! あの時のか!?』
僕の動きに、アルフも気付いたらしく、若干ため息をつきながら言ってきた。
『仕方ない。お姫様抱っこで回収して上げよう』
それは止めてほしいけれど、文句を言える立場でも状態でもないね。
オルグは僕の突撃からの、尻尾を使った斬り付けを避け、強力なバズーカ砲を放ってきた。それを僕も避け、ジュナクトを準備する。その前に、レーザーライフルで牽制しておく。
『ふっ、そのモードは長くは続かないだろう? 私のは素だ。タイムリミットはない! それを起動した時点で君の負けだ!』
「それはどうかな? ジュナクト、リミテッドバースト!!」
『なにっ!?』
敵がライフルを避けた瞬間、僕はシナプスをヒト型に変型させ、腰にあてがわれたジュナクトを、オーバーブーストの力で更に勢いを付けて放った。
その速度はもう、目で追えるものではなくなっている。普通の人なら、胴を貫かれて終わりだけれど、オルグは避けた。
「何で避けられたの?」
『避けたように見えるのか?』
そうだね。肩を貫通させて、バズーカ砲を1つ落とした。
『流石にやる。だがその状態では、伸びて突き刺さった槍と、そのワイヤーで身動きが、うん? ワイヤー? しまった!!』
「やっ~と、気付いたの? これ別に、飛ばして終わりじゃないから!」
飛ばした先の地面に突き刺し、巻き取りながら一気にオルグに詰める。同時に腕のブレードを展開し、それでオルグの機体を斬り付けてやる。
『甘い!!』
「ぐっ!!」
そりゃ、その位置でずっと居てくれるわけはないよな。ちょっと身を剃らして、サーベルを横に構えてきた。つまり、カウンター狙いで僕を斬り付けて来た。
だけど、それは僕も予測していたから、ちょっとだけ身を捩って直撃を避け、相手に斬り付けた。
お互いにカウンター狙いをしたから、切っ先を掠めた程度では終わったけれど、次の動きをしないと、もうオルグは動いている。
『カウンターに対抗してくるとはね。少し、精度が良くなっているか。君は脅威になり得るな』
「それはどうも!」
また黒い筋のようになって移動して、僕の背後に着けようとしてきたから、足のホバーブーストを使って横に飛び退き、地面に繋がったままのジュナクトの遠心力で、グルッと半円を描くようにしながら、オルグの機体に迫った。
『全く。奇っ怪な動きをする! 訓練された兵ではない者が、こうも厄介になるとはな!』
「型に囚われない、柔軟な思考って言ってくれるかな!」
『地球の日本にある、型破りという言葉か。しかし、型破りというのは、しっかりと型を学んでおかないと出来ないものだ。このようにな』
「へっ?」
そう言うと、オルグはビームサーベルを構え直し、刃を上に垂直に立てて構えてきた。その構えは完全に、日本刀で両断する構えだ。
「ちょっ! ヤバッ!!」
『流石に分かるか。地球の、日本から来た者よ!! こう言うのだろう? 一刀両断!!』
「うぎっ!! ぐぅっ!!」
遠心力が付いていたから、逆噴射で急ブレーキしても、止まり切れなかった。
ジュナクトを固定していた右側が、飛んできた黒いビームの刃で、全部斬り落とされた。
「うわぁっ!!」
そして、まだ勢いが余っていたから、ワイヤーから離れた衝撃で、そのまま後ろに転がるように吹き飛んでしまった。
「うぐっ、つぅ。くっそ、ヤバい。機体の半分が!」
コクピットは何とか避けられたけれど、壊れた機体の火花の音が、それなりのダメージを受けていると告げているよ。
『勝負ありかな? おっと! 君もいたね』
『コノエ! 大丈夫か?!』
恐らく、ずっと追撃するチャンスを見ていたんだと思う。ただ、速すぎて逆に介入出来ず、隙を伺っていたアルフが、オルグに向かって斬り付けたけれど、当然あっさりと避けられた。
『君は邪魔だ』
『ぐぉっ!!』
しかも、その後に蹴り飛ばされ、あっさりと遠くの方へと飛ばされてしまった。
これが、オルグの本気。黒い凶星が恐れられた、本当の意味。
量産型のハコ機を改良した程度で、ビースト・ユニットや新型機にまで対抗出来る。そのパイロットの異常な腕。これが素なら、確かに恐ろしいものだよ。
だからって、ここで負けるわけにはいかないんだ。
『隊長。俺達もまだ戦えるぞ』
『いや、君達はもう十分だろう。戦闘データが取れているなら、一旦離脱しろ』
『しかし!』
『既に1人戦えないだろう? 離脱するんだ』
そんな時、ボロボロのレダークと合体し、何とか動かしているレジェンダーがやって来て、僕に標準を合わせてきた。と言っても、ライフルは片方だけ。それは僕でも避けられる。上空では、ジェッターが離脱の経路を探っている。
そんな時、突然僕達の周りを、ビースドットの兵が囲んだ。
『なるほど。ここでか』
ビースドットはラリ国の同盟国。つまり、ここで僕達を全て撃てば、ラリ国とイナンアでここを占拠し続けられる。
だけど、ビースドットの兵達は、黒いライオンのビースト・ユニットの機体を回収し、そこから立ち去ろうとしていた。
『待て! お前等! どこに行こうとしているんだ!!』
それを見て、心穏やかじゃないのは、ラリ国の国軍カッツァー大佐だった。
確かに、同盟国ならここで協力してくるはずが、何で立ち去ろうとしているんだろう。いったい何を考えているんだ。
そんな状態だから、オルグも一旦止まり、その様子を見ていた。ただ僕は、早くオルグと決着を着けたい。
だって、オーバーブーストが終了するまで、あと5分程なんだから。のんびりはしていられない。例え片側が壊されても、動けるなら動いてやる。
黒い凶星オルグは、まだ全力を見せてはいなかった。彼がそう呼ばれた由来は、一筋の黒い光となり、相手の命を瞬時に刈り取っていたからだった。
戦場は既にミルディアが制し、ビースドットも予定外の動きを見せ始める。そんな時、ラリ国のカッツァー大佐が現れた。
次回 「13 オルグの謎の行動」




