9 ミルディアの新機体
ラリ国とイナンアからの申し出により、一旦ミルディア皇国撃退に協力する事にしたコノエ達だが、両国への警戒は解かずに対応する事にした。
話し合いが終わった後、僕達は軍艦に戻り、ラリ国から指示された場所で、ミルディアを迎え撃つ準備をした。
アルフはナイトの機体で、僕とチャオはビースト・ユニットに乗り、海橋の端へとやって来た。
こっちはリリア大陸側で、砂漠を越えた先、大きな川を渡った所に、ミルディア皇国があるらしい。
丘陵と荒野の広がる場所で、一際大きな都市が現れるらしく、夜に煌々と輝く街の姿は、その都市がどれだけ栄えているかが分かるらしい。もちろん、ミルディアの都市の1つで、首都はもっと緑豊かだとか。
それにしても。
「ゲリラ兵と並んでいるというのが、どうにも落ち着かないんだけど」
『そう言うな。ミルディアの部隊を追い払ったら、直ぐに基地へと戻る。それまでの辛抱だ。帰ったら、ちゃんと私の熱いハグをーー』
「とりあえず戦闘前なので、ふざけないようにしましょう」
『はい』
あなた一応隊長だからね、全く。流石のチャオも呆れているかと思ったけれど、案外そうじゃなかった。いつものアルフの口説きなのが分かっていて、ちゃんと僕を守ろうとして、引っ付いてくれている。けれど、ちょっと引っ付き過ぎ。こっちもこっちで……。
ゲリラ兵達もニタニタしたような感じで、僕達に話しかけてくるし。
『よぉ~ケモナー様よ。今回は味方っぽいが、味方ならちゃ~んと人様のケアもしろよ~』
『ペットらしく、キャンキャン言って尻尾振って慰めろよ~』
『そりゃ犬だろう~! それでも、夜にちゃぁんとご奉仕して、人間様を癒せよな~!』
『そうだそうだ! それがケモナーの仕事だろう~!』
『尻尾がなんだつ~んだよ。フリフリ振って、従順さを示すためだろうが!』
もうゲス過ぎて話す気にもならないや。こんなのがあちこちで暴れているんだから、そりゃ住んでいる人からしたら怖いよな。
しかも、こんな奴等でも大義があるようで、信仰している神様の手前、同じ人種の人達は同志として敬うが、僕達みたいな外の国の者達には、異端者として扱い、こうやって人では無いという扱いをしてくる。
『2人とも、言ったように俺から離れるなよ。戦闘中、どんな言い訳ややり口を使って、君達2人を捕縛してくるか分からない。そうなったら、どんな扱いをされるか』
「分かった」
『当然じゃな。今回は共通の敵が来るだけで、それを退けるのみ。ただ、その後は知らんがのぉ』
チャオは女帝モードで、ちょっとたくましいな。こういう時は頼れる。
さて、そんなゲリラ兵の部隊が、僕達の前に展開していて、先に突撃していくそうだ。血の気が多いからという理由らしい。
僕達はそれを見て、各個撃破していく。ただし、敵は新型を投入してくる可能性があるから、油断はしないようにと、カッツァー大佐が言っていた。
そして、作戦を確認し終え、しばらく時間が経った後、ゲスい事を言ってくるゲリラ兵達が、突然騒ぎだした。
『来た、来たぞぉ!!』
同時に、リリア大陸の方から戦闘音が聞こえ始める。始まったか。
僕達は今回、念のためにと、他の部隊を軍艦に置いて来た。これは、アルフの指示だ。ラリ国とイナンアのゲリラがこっちに銃を向けてきた時、直ぐに対抗し、戦えるようにするため。
つまり、ここでこうやって戦いに参加するのは、僕とアルフとチャオだけだ。だから、3人で1つに動き、絶対に離れない。離れたら最期だと思わないと。
『やれやれ。やはりそう来たか』
そんな中、黒いハコ機がゲリラ兵達の機体を次々となぎ倒し、僕達の前へと現れた。
『お出ましか。黒い凶星オルグ。っとぉ、既に目の前のゲリラ兵は全滅かい』
オルグは挨拶代わりに、アルフに向かってビームサーベルを振り下ろし、アルフはそれを盾で受け止めた。
『所詮寄せ集めだ。訓練もされず、ただ銃を渡された子供と同じさ。そして君達は、本国からの指示で、そちらについたようだな。だがしかし、背中には気を付けないといけないから、その3機のみか。よくラリ国が了承したものだ』
『言ってないからな』
『ほぉ。そちらも、なかなかの策士のようで』
『お褒めの言葉、ありがとよ!』
話し合いがら撃ち合って、サーベルで切り合ってる。なにあの2人は。
それより、こっちも撃たないと。
「そこ!」
『おっと、甘いのぉ!』
真横から迫っていた、ミルディアのハコ機を肩のレーザーライフルで撃ち、その足を破壊すると、僕は次の機体目掛けて、内蔵された大口径バルカンを撃つ。
チャオの方は、鉄球で相手機体を潰し、パイロットごと爆破させていた。やっぱりこの子も。
『なんでやらんのじゃ?』
「それは、その。まだ覚悟が」
『そんなのは今せい!』
分かっている。ただ、相手にも家族がいると思うと、やっぱりどうしても。
「おっと!!」
相手のハコ機が迫ってきて、僕に攻撃をしてくるけれど、それは直ぐに避け、腕のブレードで両足を切り裂いてダウンさせた。
『甘いのぉ。それはいつか、後悔することになるぞ!』
「確かにね。命の取り合いだもん。アルフだってチャオだって真剣だ。だから、僕もやらないとって思うけど!」
そんな時、ゲリラ兵達が負けじと突っ込んで行く中、更に大きな爆発が起き、僕達の周りにいたゲリラ兵の機体は残らず爆破された。
「なっ!!」
『なんじゃなんじゃ!! というか、ミルディアの味方機も巻き込まれているぞ! なんの爆発じゃ!』
『いくらミルディアでも、あれだけの数のゲリラを倒すのは、骨が折れるはず。あんな一瞬では!』
よく見たら確かに、味方であるはずのミルディアのハコ機まで巻き込まれ、結構な数を失っていた。どういうことだろう。
『何をしているんだい? 味方まで盛大に巻き込んでいるぞ』
『え~? だって、チョ~邪魔だも~ん♪』
なんか、僕が聞いた事あるような、そんな言葉遣いが聞こえたんだけど。一番苦手なギャルって人種。こんな世界でもいるのかよ。
そう思って、爆発した先を見てみると、ビースト・ユニットやハコ機よりも大きな、正に戦闘用ロボットみたいな、大きな機体が現れた。
『あれが、ミルディアの新たな機体か?! いやいや、どうなっているんだ。あの大きさは!』
アルフが驚いた声を出すと、今度はオルグの方がそれに返答をしてきた。
『我が国自慢の、ガンマ社の新機体だ。今見えている、戦車みたいな機体が、X・レダーク。空を飛ぶのがO・ジェッター。そして、後ろの非変形ヒト型の機体が、Z・レジェンダーだ』
とりあえず、僕としてはなんと言うか、正義の戦隊ヒーローものの、最後に出て来て巨大怪獣と戦う、あの戦闘ロボットそのものな気がして仕方がないんだけど。機体の格好も、そのまんまそれ。
「あっちが敵だよな。な~んで、正義の味方みたいなのが。いや、乗っている奴は普通じゃなさそうだけど」
『テンションアゲアゲ最高潮~!! 私をキュン出来る奴っているのぉ?! もうマジ乙なんだけど~!?』
「なんか古いんだよな! 使ってるギャル語が!」
しかも、足は確かに戦車みたいなキャタピラーなんだけど、上はヒト型の機体で、色んな武装が付いているから、どこのタンクだって思っちゃうよ。問題は上を飛んでいる奴からの攻撃と、その後ろの奴だ。
「うぉっと!! くそ! チャオ! あいつらヤバい!」
『言われなくても分かっとるわ!』
レダークとかいう方は、とりあえずロングレンジ砲でお構い無く撃って、足のキャタピラーからもミサイルがバンバン飛んでくる、重火力だ。
そして空のジェッターの方は、大きなジャット機のような姿をして、対地ミサイルを降り落としてくる。背中の大きな翼は、以前岩礁を突破する時に見た、あの不思議な機体にそっくりだけど、こっちの方がより効果的になっていて、背中にピッタリと翼が付いている。
更にヤバかったのがレジェンダーの方で、両腕を伸ばした瞬間、その腕から変な可視光線みたいなものが発射され、次々と機体を蒸発させていってしまった。
あれは、特にヤバい兵器を使っている。嘘だろう。
「アルフ。撤退した方がいい気がする。これ、ミルディアの方が押してる」
『そのようだな。こいつが逃がしてくれたら、だけどな』
そんなアルフの前では、黒い凶星のオルグが立ち塞がっている。確かにこれでは、八方塞がりだ。
もう既に、ラリ国とイナンアのゲリラ部隊の3分の1は、あの奇っ怪な3体の機体にやられていて、辺りもとっくに炎に包まれていた。
ミルディアの飛んでもない新機体により、戦場はあっという間に火の海と化した。
大量の敵機を相手に、苦戦を強いられるコノエ達。何とか突破口を見出だそうとするが……。
次回 「10 変形合体!!」




