7 本国からの指示は
イナンアとラリ国の間に、ビースドットという国が関わり始めたが、思惑は分からず、ただ従順にラリ国に仕えていた。
思惑と思惑が飛び交う中、コノエ達はどのようにしてメールコンを奪還するのか。
僕は今、メールコン大海橋に向かうため、基地から軍艦に乗って移動中だ。アークは修理中だから仕方ないけれど、橋までは割と時間がかかるそうだ。よって、あれから5日程海を進み、ようやくその橋が見えてきた。
「おぉ~あれが、メールコン大海橋……って、えぇぇぇ!? あれが橋?! 橋の上に、街が!」
遠くからでも分かるくらいとても大きな橋が見えたきたけれど、よくよく見たらその橋の上に建物とかが建っていたんだ。当然いくつもの家とかもあって人が住んでいそうな感じだった。
そんな所が占拠されたとなると、街の人達も大変な目にあっているのかも。そう考えた時、ニューオーグであった虐殺の光景を思い出してしまって、僕は1人で身震いしてしまった。
「とりあえず、俺達は海からといきたいが、当然敵さんも海にも防衛は張っている。さてどうしたものか……ミルディアと協力戦線が敷けるかといわれても」
「無理だなぁ」
向こうは向こうで、こっちを宿敵のように捉えているし、何ならこれを機に物流を押さえようとしているからな。
波に揺られながら、作戦を考え、相手の出方を見るしかないのか。この先に大量の軍艦も見えるし、このまま突っ込んだ所で、か。
「アナスプ大陸側の陸路から、挟撃をしたいものだがな~」
「そっちに、アルツェイトの軍事基地ってあるの?」
「いや、軍を派遣しているぐらいだ。だがまぁ、そいつらにこっちに来て貰い、挟撃をすることは可能だろうが、派遣だからな~武装はそんなにはないと思うべきだろう」
アルフが頭を抱えながら、どう奪還をしようかと悩んでいた時、僕達と同じ隊の人が通信機を持ってこっちにやって来た。
「アルフィングさん。その……本国からです」
「本国? いったい何の用でーー」
「メールコンでは、ラリ国とイナンアに協力するように、との指示です」
「あぁ?」
それはいったいどういう事なんだ? と考える前に、ラリ国が関係している時点で僕達はその展開を読んでいた。
ラリ国とアルツェイトは友好関係で、良好な貿易を行っている。今回の事態ではラリ国が関わるから、この件に関しては手を出すなと、釘を刺されるのは目に見えていた。
「……ふぅん。で? 俺達はどうしろと?」
「向こうとは話がついているらしくて、合流してミルディアを迎え撃つようにと。その後はラリ国とアルツェイトで、メールコンを統制する、と」
正直、あんまりいい気分ではない。
こちらの軍の人達も、メールコンで防衛をしていて、その隊は壊滅させられているんだろう?
その落とし前も付けずに協力しろと言うなんて、ふてぶてしい奴等だよ。協力なんて、普通は出来ない。それなのに、アルツェイトのトップの人は何を考えているんだ。
「あそこの隊を壊滅させられて、その落とし前も付けずにか?」
それは、アルフも同じように思っていたらしく、そう聞いてきた。
「あの……一応、繋がっています。ルーグ軍事次官と」
あ。その持ってきた通信機は、その人とずっと繋がっているのか。アルフはそれが分かっていて言っているのかも。
『アルフィング。不満は分かる。パーツ大臣は分かっていない。私達の気持ちの事をな』
「ルーグ。君は良くやってくれている。俺への説得に君を使ってくる事もな。同期のよしみだ。君の顔も立てたいがーー」
『ふっ。分かっているさ。尻拭いは出来るだけ私がやる。ただ、一回だけ話し合いの席に付いてくれないか? そうせずに攻撃をしかけるなら、断交処置をすると言っている』
「子供のわがままか! 仕掛けたのはそちらだと言うのに。そんなのがまかり通ると思われたら、国としても舐められるぞ!」
『そうだ。トップは何も分かっていない。前線の状況等、何もな。金と権力しか見えていない。あとは対話での平和をと、有権者に耳障りの良い言葉を言うだけだ』
アルツェイトって、大丈夫かよ。
僕が生きていた時と似たような政治を行っているような、そんな臭いがするな。5000万年経っても、そこは一切変わっていないのか。
落とし前を付ける必要というのは確かにある。一方的に奪っておいて攻撃してきたら断交するって、そんな国とは断交しても問題なさそうだけど、そのラリ国には何があるというんだろう?
「現実逃避か、宇宙開拓の方にしか興味がないのか」
『巨大コロニーの建設か。確かにアルツェイトが率先していやっているし、政治を行っている者達は、それにしか興味はなさそうだ。そこにラリ国も乗っかっている感じで、いがみ合う利点はないぞ』
それを盾にすれば、今回の事にも落とし前は付けられそうだけどな。ややこしい国同士の策略というのは、本当にどうしたものかってなるよな。
「ただ、これ以上向こうに攻撃の意思がないのなら、落とし前を付けた後に話し合えば良いだろう」
『いや、きっと裏切るだろう。だからこそ、攻撃をされたらやり返してもいい許可は出ている。あくまで専守防衛の観点から、だがな』
「…………現場に出ている者の気持ちも知らずに、良く言うな。とりあえず最善策としては、話し合いにつくしかあるまいか」
『すまないな、アルフ。いつもいつも、お前には貧乏くじ引かせてしまって』
「まぁ、そいつは今更だぜ。俺は現場の方が動きやすかった。お前は机上の方が力を発揮できた。適材適所だ」
『助かる。とにかく、戦闘配備は解除するなよ。向こうはそれも解除しろと言っているが、いつ裏切るかも分からん奴に、丸腰で行く馬鹿はいない。現場の判断に任せるとして、私が事後処理しておくよ』
そして、2人が一言二言交わした後、通信は終わり、僕達の方に顔を向けてきた。
「悪いな。危険を伴うが、コノエとチャオは俺と来てくれないか」
「そんな重要な話し合いの場に、僕達が行っていいの?」
アルフからのとんでもない提案に、僕はそう返したが、チャオに関しては堂々としていて、むしろ当たり前の事だと言わんばかりの顔をしていたよ。
「重要だからこそ。一見、力の無さそうな者達を共に連れていれば、向こうもこちらに敵意がないと思ってくるだろう。ただ、それは賭けだがな」
「あからさまに戦意剥き出しの兵より、まだ入隊して間もないコノエの方が、相手の警戒心は薄れるかもね」
そういうことでなら、着いていくしかないとは思うけれど、そこで僕達を暗殺するなんて事も、考えられるんだよな。その時は、DEEPの能力で突破するけどさ。
「分かった。同行するよ。だけどさ、服装はここの軍服のま……ま?」
服装は軍服だから、結局の所警戒されるんじゃって思っていたら、チャオが可愛いサロペットスカートと、それに合うトップを持ってきていたよ。ちょっとボーイッシュな感じで、確かにその程度なら何とかなるだろうけれど、今それを着る必要あるかな。
「レイラ隊長とコルクからよ。こちらに戻って来るまで、せめて少しは女の子らしく、また軍人らしく振る舞えるよう、チャオに仕込んで貰え、だってさ」
あの2人は相変わらず、僕が男だと言い張るのを、何とか解消しようとしてくるな。
確かにこの身体は女の子だし、そう振る舞うのが普通だろう。ただ、死んだとはいえ、元の身体をいじられて、この姿になっているんだ。可能性はあるんだ、元の身体に戻れる可能性はね。だって、生やせるくらいなんだから。
「全くもう。この身体の時は、多少は女の子らしくしておかないとって思うけれど、そう簡単には受け入れられないのが人間ってものでさ……」
「そう言いながらも、悪くなさそうな顔をしているよね? かっわいい~!」
「んなっ!? そ、そんな事はない!!」
決して、女の子らしい服を着て、可愛いって言われるのがちょっと嬉しくなってきているとか、そんなのは一切ないからな。
本国からの命令は、想像以上のものだった。
落とし前も付けず、一方的に物言いするラリ国に、アルフィングとその同期の次官もやきもきしていた。それでも、話し合いに付かなければ一方的にこちらが責められる。理不尽な思いの中コノエは、チャオとアルフィングと共に、ラリ国の話し合いの場に赴く事に。
次回 「8 落とし前」




