5 メールコン大海橋、奪還へ!
敵対国同士、それぞれが戦争終結へ向けて戦う中、そこに茶々を入れる国が現れる。
主要貿易拠点を押さえ、その国が狙うのはいったい……。
僕達はあれからも、シミュレーションでの特訓が続き、修理と改修が終わるまでの時間を潰していた。
基地内にも娯楽はあるし、カーゴ車がちょくちょくと物資を運んでくる。アニメやドラマ、そう言ったものが保存された記録媒体も、それが持ってきてくれる。この世界のアニメとかドラマは知らないし、今から見ても何だよな。
メディアに出るような有名人は、数人程存在はしているらしい。アイドルとかは、今でも健在だとか。
僕はアイドルとかは興味ないので、必然的に暇をもて余す訳で。
「う~ん。レイラ隊長とコルクの機体も、早く改良終わって、シミュレーターに登録してくれないかなぁ?」
「私とシミュレーションするの、もう飽きたっていうの?」
「まぁ、パターンがね……」
チャオに気に入られてからは、チャオとのシミュレーションが多くなったけれど、戦法がほぼ一緒だから、対策取れるようになっちゃって、今では連戦連勝なんだよ。
「だから、パワータイプなんて!」
「いやいや。チャオの場合は、機雷と鉄球をメインの攻撃にし過ぎだよ。変えるのが難しいなら、新しい武装を作って貰ったら?」
そのコンボがハマったから、そればっかり使っているような、そんな感じなんだよ。一度攻略出来れば、その攻略方法で何とかなるもんなんだよ。そういうゲームばっかりやっていたからね。
チャオの場合、機雷で自分まで身動きが取れないのと、それを補う鉄球の戻りが遅すぎる。結局両腕と爪だけだから、それの攻略なんて、回数を重ねてしまえば何とかなってしまうんだよ。
とまぁ、食堂でそんな事を話していると、ディスプレイを見ていた基地の人達が、何かを見て突然騒ぎだした。
「マジかよ……!!」
「あそこ、物流の主要拠点だよな? 物資はどうなるんだよ」
「イナンアの奴等め……!」
いったい何事なんだと思って、僕もそっちの方を見ると、丁度ニュース番組がやっていた……が。キャスターも慌てた様子で報道している。
それほど、何か需要な施設でもやられたのかと思って見ていると、メールコン大海橋という場所が、イナンアに占拠されたという報道が入った。
あの大海峡は確か、この惑星の二大大陸、複雑な地形と山が多いアナスプ大陸と、砂漠や丘陵、熱帯雨林地域の多いリリア大陸を結ぶ、貿易の要となっている海橋だったはず。
ちょっと待て……そこを取られたってことは、補給物資とか滞るじゃないか。
おいおい、戦争をしている国にとっては、これは一大事じゃないか!
下手をすれば、戦争を続けられなくなるか、ミルディア皇国にまでやられてしまう。って、待てよ。これは、相手も同じ状況に陥るんじゃないのか?
イナンアの目的は、いったいどこだ?
「やれやれ、全く。寝首をかかれたような感じだ。ラリ国の助力があったとはいえ、壊滅的な被害を与えられるとは。ここに来て、ラリ国が手のひらを返したか。ただ、ミルディアはこれを好機と取るだろう。この橋を取り返し、全てを自国の監視下におけばーー」
「お~い!! そんな事になったら、こっちの物資の調達手段が断たれる!! 向こうの大陸の国からも、物資を調達しているんだろう!」
「あぁ。だからあそこは、両大陸の主要国家同士が手を組み、反対側で陣取りをし、軍を置いて監視をし合い、スムーズな貿易を行っていたんだ! こちらでは手に入らない物資は向こうから、向こうで手に入らない物資は、こちらからと言うように、交渉をするように物資を交換し、ギリギリのバランスを保っていたのを!!」
イナンアとラリ国がぶち壊した。
これはこれで、戦争が激化してしまうし、牽制しあっていたあの橋を奪取すれば、全面監視下に置けるだろうし、そうなるとこちらの物資はいくらでも調達が出来てしまう。行き来が自由に出来てしまうからな。なんなら、一気にこっちに攻め入られてしまう。
「そもそもさ、何でもっとしっかりと守ろうとーー」
「両大陸ともにとって、あの橋が重要な場所だと分かっているからこそ、かなり厚い防衛線を敷いていたはずだ。それを、ゲリラとラリ国の軍に壊されたんだ」
つまり、完全に予想外の戦力で、叩き潰されてしまったのか。それならーー
「取り返さないと……!!」
「その通り!」
そんな時、レイドルド中将とバーモント艦長が現れて、中将の方が声を張り上げてきた。
「我がアルツェイト国は、アナスプ大陸にて、国家繁栄をし、豊かな自然の下に生まれた資源等を、リリア大陸側の友好国に渡してきた。そこから、有用な物資を送って来られたりもするため、ここが占拠されてしまったのは、我が軍にとっても大打撃だ! よって、この橋を奪還するための部隊を派遣する!」
激を飛ばす中将に、皆が真剣な表情になった。あの岩礁の突破時よりも、更に激しい部隊戦闘が繰り広げられるのか。
僕はいったい、どうなるのかな。と思っていたけれど、バーモント艦長がこっちを見ているので、僕も派遣されることは間違いなさそうだ。死なないように頑張らないと。
「今、こちらで動けるケモナーは2人だ。残りは、この基地の防衛もある。コノエ、チャオ。アルフィングと部隊を組み、奪還作戦に参加して貰うが、チャオは良いか?」
そしてやっぱり、僕の予想通りにバーモント艦長はそう言ってきた。僕は構わないけれど、チャオの方は乗るのを嫌がりそう。
「行きます。今は、コノエだけにアルフの部隊に居させる訳にはいかないし、いつまでも基地の防衛だと、腕も鈍るからね」
驚いた事に、チャオもその作戦に参加する事を了承してきた。
チャオは機体に乗ると、あの女帝のような性格に急変するから、一緒に戦うとなると、連携等に苦労しそうだ。逆に、チャオに全部任せておいて、アルフに調整して貰えば何とかなるか? それも全部、向こうの状況次第だけどな。
「宜しくな。まっ、作戦は全部俺がやってやるから、君達はそれに従うように。そうしたら、せめて死なずには済むさ」
「分かりました」
「分かったわ」
とにかく、例の海橋はこちらの要。でもそれは、敵も同じだ。だから、アイツらも出てくる可能性はあるよな。
さて、前回とは違うところを見せないと、相手も引き締めてかかってくるだろう。
「コノエ。悪いな、私達の機体の改良が、思った以上に時間がかかって。というか、私達の機体の修理は終わっているが、改良の為の機材が一切来なかったんだ。それも全部、あの海橋が占拠されたからだった」
「んもぉ~改良は良いから、出撃させて欲しかったわ~」
「コクピットごと外されて改良されているんだ。そうもいかん」
どういう改良のされ方をしているのやらだけど、レイラ隊長のもコルクのも、改良案を見たらとんでもない事になっていたよ。
「とにかくコノエ。あんた、死なないで帰ってきてよね」
「良いか。何度も言うが、DEEPはあまり使うな。オーバーブーストの限界点を上げられているとはいえ、あれは本来の力ではーー」
そこは、恐らくコート先生との解釈違いがある。やっぱり、軍の人間として規律を重んじている。それは確かに必要な事だし、ちゃんと守らないといけないよ。だけどそればかりじゃ、守りたい時に守りたいものを守れない。
だから僕は。
「DEEPは、可能な限り、自分の力として使わせて貰うよ。もちろん、使ったら戦闘不能にならないようにするけど。その調整も、コート先生の下で練習していたから」
「あの女医は、何かを隠している。君の為にはならんぞ!」
それでもレイラ隊長は、僕にDEEPを使わせないようにしてくる。それもこれも、全部僕を心配してくれての事。分かっているの、そこもね。分かっているから、ちゃんと聞いているんだよ。
「ありがとう、レイラ隊長。僕も、怪しいとは思うけれど、今はただ、戦えるようになりたいだけだから。本当におかしいと思ったら、2度と使わないから」
何度言っても折れない僕に、レイラ隊長はため息を溢し、僕の肩に手を置いた。
「コート女医の事は、こちらで探っている。良いか、無理はするな。死ぬな。無事に帰って来い」
「分かりました。行ってきます!」
そうレイラ隊長に激を入れられ、身が引き締まるような感じになった僕は、その目に力を入れて、レイラ隊長にそう言った。
思惑と思惑が飛び交う中、コノエ達はメールコン奪還へと動き出す。
そんな中、当のメールコンを占拠したイナンアとラリ国は、揺るぎない自信を持っていた。
次回 「6 老将と黒い獅子」




