14 ただの女たらし
味方の援軍にて、死地を突破したコノエ達。一旦艦に戻り、状況を確認することになった。
岩礁を突破した僕達だけど、相手からの集中放火で、物凄いダメージを受けてしまった。あれで決めるつもりだったのだから、それはそうなんだけど、それなら何で最初からやらなかったのか、疑問が残る。
でも、よくよく考えたらあの集中放火は、艦首の掃討主砲で打ち払えたレベルだ。
つまり、そういう攻撃が必ずあると読んでいて、ある程度は潜ませて機を伺っていたのかも。となると、あの部隊の指揮をしていた奴は、相当冴えた奴だということだ。多分、黒い凶星だろうけど。
「大丈夫ですか!?」
「あ、うん。僕はとりあえず、打ち身とかすり傷くらいです」
「え?」
格納庫に戻った僕は、艦内の慌ただしい音を聞きながら、機体から降りる。だけど、自分で降りられたのは僕だけでした。
「うっ、うぅぅ……」
コルクはストレッチャーで運ばれ、レイラ隊長も艦の人に肩を借りながら降りている。
2人とも、結構な怪我をしていた。というか、コルクは大怪我じゃないか。額から血が出ているし、腕もあり得ないくらい腫れている。あれは、折れているよな。
ということは、僕が軽傷なのは、機体の損傷がそこまで酷くないーーなんて事はなかった。
「え~?! あんな状態で、何で僕は軽傷なの?」
「こっちが聞きたいですよ!」
コクピット周りも割りと被弾しているし、片腕は落とされ、頭部も半分割れて、バチバチと火花を出していた。
因みに、艦内の慌ただしさから、何処かで火災が起きているみたいで、この戦艦もまた相当被弾して、ダメージを受けている。
急いで修復しないといけないみたいで、海上軍事施設へ急いでいた。
「レイラ。大丈夫か? 全く、昔から無茶ばかりして。それはバーモント艦長もだけどな」
「うるさい、アルフィング。あそこでの艦長の判断は、間違ってはいなかった。新人2人のみで、手早く突破する必要があったからな。そうなると、あの時点で……」
「まぁ、お陰で場所が分かって、予定より早く援軍に向かえたよ」
まさかの僕達が足を引っ張ったのか。う~ん、新人だからなんて、そんな言い訳は通用しないほど、この艦にダメージを与えてしまったよ。
「コルクがあれだ。コノエの方もーー」
「あ、僕は擦り傷と打ち身だけです」
「はっ? 何でだ?!」
やっぱりそうなりますよね。レイラ隊長も、左足折れてそう。それくらいの被弾だったのに、何で僕は軽傷だったんだ? まさか、DEEPを少しだけ使っていたからか? あれは身体能力も上げるから、それで無意識に身体を庇ったのかも。
「う~ん、僕がDEEP持ちだからかな? さっきの戦闘でも、ちょっとだけDEEPを解放していたし」
「お前……」
「あっ、ごめんなさい。ただ、頼ったんじゃなくて、自分の力として、身体能力を上げる程度で留めていたんだ」
「…………ふぅ。まだまだ未知の部分が多いものだ、その危険性から、使うのは控えろと言ったのだが?」
「うっ。そうでしたか、すみません」
隊長は隊長なりに、僕の事を心配してくれて、あんなことを言ったんだ。それなら確かに、DEEPの力を過信し過ぎないようにしないとだ。
「まぁまぁ、レイラ。この子にも考えがあっての事。今はとりあえず、君は医務室に向かうんだ。艦内の事は、私が何とかしよう。必要な物資は持ってきている。突貫で応急措置をすれば、軍事基地までは無事に着けるさ」
そう言いながら、レイラ隊長の傍にいた男性がこっちにやって来た。
さっき確か、アルフィングって言っていたから、この人があのナイト・ユニットとかいう、開発中の機体に乗っていた人。若いのかと思ったら、40代くらいに見える。あんなに歯の浮く言葉を言っていたのに。
顎には無精髭で、赤茶色の短髪は乱雑になっている。あんまり清潔感があるとは思えないけれど、体格はやっぱり軍人って感じで、鍛えていそうな感じがする。
「君が、コノエ=イーリアだね。君の事は報告で聞いている」
僕の機体も、修繕の為に移動させられている。とりあえず艦内の状況を知る為、中に入ろうとしていたんだけれど、その前に話しかけられたよ。
「あ、どうも。先程はありがとうございました」
助けられたのは事実だし、ちゃんとお礼は言わないと。だからその人に対して、僕はペコリと頭を下げた。
「いやいや。将来の妻を助けるのは、騎士としては当然の事さ」
「将来の妻。レイラ隊長の事ですか?」
「ん。まぁ、彼女もそうだし、君もさ」
「…………」
颯爽と肩を組まないでくれるかな。
そんな見た目で香水を付けているのか、男らしい良い匂いがしてくるんだよ。待て待て、ふざけるな。
「僕はこの身体になる前は男だったんだよ。男に告ってどうするんですか?」
「いでででで……!! あぁ、なるほど。その口か。いや、しかしーー」
僕の肩に置かれた相手の手の甲を、思い切りつねりながら言うけれど、あんまり効いていないな。やられ慣れている。
そして、これは嫌な予感がする。良し、今度は蹴る準備をしておこう。
「軽傷で降りてきた君を見て、美しいと思った。一目惚れさ。是非、俺の妻ーーにぃぃん!?」
「ご遠慮します」
肩を抱きながら、更に僕を後ろに傾けさせ、グイッと顎を持って顔を寄せてきたーー所で急所を膝で蹴り上げておいた。
同じ男だからね、痛みは分かるさ。だからこそ、だよ。
「おほほほぉ……ぉぉほ……」
そのままアルフィングはうずくまり、動かなくなった。
全くもう、この緊急時に緊張感のない人だな。
いくら軍事施設には無事に着けるとはいえ、艦内にも怪我人は出ているだろうし、火災の規模だって心配だ。
だから、僕は急いで艦内へと向かった。
◇ ◇ ◇
「おい! 居住区の方だ! まだ鎮火してない!」
「待て待て、艦長から指示だ。居住区は封鎖し、大量の消火剤で消すそうだ」
「なに?! それじゃあ、しばらくは居住区の方は使えないのか」
「まぁ、仕方ないだろう」
急いで艦内に入った僕だけれど、火災の方はどうやら何とかなるらしい。それなら、他に僕が手伝えることはないのかな。
「あの、僕が手伝えることは?」
「ん? あぁ、コノエさん!? いやいや、あなたは戦闘後ですし、怪我もある。とりあえず医務室へ!」
「あ、いや。これくらいは」
声をかけたらめちゃくちゃ心配されちゃったよ。もう血も止まっているし、痛みもないのに。
「コノエ。君はこっちだ」
ふと、そんな僕の後ろから声が聞こえた。
そこには、相変わらず眠たそうにしている、コート先生がいた。
何でこんな緊急時に眠たそうなのかな。もしかしたらあれが素で、本当は眠たいわけではないのかも。
「ふわぁ……全く。騒ぎのせいで起きてしまったじゃないか。私は夜型なんだよ……ちょくちょく起こされて、たまったものじゃない」
「え~」
素で眠たそうにしていた。信じられないけれど、夜に研究とかしているのかな? そうだとしたら、不健康過ぎる。
「コート先生、ちゃんと夜に寝てーー」
「そんな事はどうでも良い。DEEP持ちとはいえ、些細な身体の傷でも、実は致命的なダメージだったりするかもだろう? 他の2人も、命に別状はなくても、そこそこの怪我だ。君もしっかりと見る。戦い終えた戦士が、艦の事を気にするな。艦の事は、ちゃんと船員が見る。役割だ。ちゃんとしろ」
「は、はい……」
割りとしっかりとした口調で言われてしまった。それなら、僕もちゃんと言うことを聞いて、怪我を見て貰った方が良いか。
「全く。君は小さい頃から、軽めの怪我を軽視していた。雑菌等が入って悪化するかもしれないのに、洗いもせずにーー」
「えっ? 何がですか?」
コート先生はくるっと僕に背を向けると、何かを呟いた。ちょっと聞こえにくくて、何を言われたか分からなかったけれど、何か文句は言われたっぽい。それなら、ちゃんと謝りたいんだけど。
「何でもない」
コート先生はそう言って、スタスタと医務室の方へと歩いて行った。
急いで追いかける僕だけど、いったい何を言われたのか気になるじゃないか。
飛弾の激しいアークは進み、何とか無事に軍事基地へとたどり着く。そこは、思った以上の広さを持った場所だった。そして、新たなケモナーの姿もあって……。
次回 「15 新たなケモナー」




