12 岩礁突破戦 3
アークの主砲で敵部隊を大量に落としたものの、未だに敵の追撃は止まない。
そんな敵部隊の中から、最悪の2人の機体の姿が現れた。
戦艦の掃討主砲で、だいぶ敵機を散らすことが出来て、ここから一気に突破をかけるつもりで、アークはまた180度方向転換し、最大出力で走り出す。
「何回もこれ、されるのは……」
『あいつの得意技だからな。それよりコノエ。今回、DEEPによるオーバーブーストは、恐らく使えないぞ』
「え? 何で……!」
『何でもなにも、あんな高出力のエネルギー消費の激しいものを、連戦でそう何回も出来ないだろう。先の戦闘でも、以前よりも起動時間が短かったんじゃないか?』
「そう言われたら……」
そうなると、コート先生が言っていた、機体性能の向上を早くして貰わないと、使いどころなんて、恐らくこの先いくらでもーー
『いいか。DEEPを使わず、敵を圧倒出来るくらいになれ。アレには頼るな』
「……はい」
頼るな、か。確かに、いざとなればアレで、なんて考えていた。限定的なものなら、なおさら使いどころは慎重にならないといけないんだ。
ただ、DEEP無しであいつ等が倒せるかは疑問だ。
『言ったはずだ。戦場に戻るなら、次は殺す気でいくと! 狐のお嬢さん』
『ひゃっは~!! 二回戦だぜ、おらぁ!!』
背中の大きなブースターで、戦艦の速度に追いついてきた、黒いハコ機のオルグと、同じように背中の強力なブースターでやって来た、ラフ・ティガーを操る虎のケモナー。
こいつら2人を相手に、果たしてレイラ隊長と僕だけで勝てるのかな? いや、勝てるというか、とにかく振り切らないと。
「僕は、コノエ=イーリアだ! 黒い凶星のオルグだっけ?」
『おっと、失礼。もう会わないと思っていたから、名を名乗っていなかったのと、聞いていなかったな。私はオルグ=バージアスだ』
『おぅ、んじゃあ俺もか? グランツ=ローグだ』
2人とも名乗るものだから、その辺りは紳士的というか、何だか調子がおかしくなる。
とにかく、相手の2人はもう、この戦艦の背後まで迫っている。
「ここは、自分が役に立てる場所だから、そう簡単に落とされたくないんだよ! このっ!!」
これ以上何もしないわけにもいかないし、丁度射程距離には来たから、手に持ったレーザーライフルで相手機を撃ってみた。けど、僕みたいな新人の弾なんて、歴戦の兵士にしたら、なんてこと無いヘッポコな弾道をしているんだろう。簡単に避けられたよ。
『おいおい! この前のキレはどうした!? あぁ、そうか。DEEPによるオーバーブーストが出来ねぇのか。でもなぁ、それは関係ねぇよな? DEEPはあくまで、俺達を獣の狩りの意識に近付けてくれる、精神的なものだ。俺達の身体能力向上もある』
あぁ、そうか。機体には表示されないけれど……いや、機体に自動でオーバーブーストがかからないよう、少しずつ少しずつ、ギアを上げれば良いんだ。
『だから、コノエ。死合うぜ、おらぁ!!』
その瞬間、ラフ・ティガーが僕に向かって、中口径のマシンガンを放ってくる。
避けたら戦艦に当たる! だからーー
「撃ち払うしか……!!」
どの辺りの範囲にマシンガンの弾が放たれているか、それが少しずつ見えてくる。それなら、その辺りを一掃出来れば……。
「てぇい!!」
一か八かだっけれど、一旦獣型に変形し、半回転しながら尻尾を使い、前方を切り払ってみた。テールプラグに繋がった尻尾に、弾が当たった衝撃が走る。どうやら、成功したっぽい。
『コノエ、お前……DEEP無しで、どうやって』
「ん? いや、ちょい出しはしてるよ」
『何だそれ?!』
この尻尾の武器も、DEEPによるオーバーブーストじゃないと使えないって思っていた。だけど、気持ちの持ちようで、オーバーブーストをかけずに使うことも可能なのが分かった。
DEEPによるオーバーブーストはあくまで、機体性能を倍加させるだけだ。
『面白い部下を持ったな、レイラ少尉。さて、君との縁もここまでだ!』
『おっと!!』
そんな時、オルグが機体の肩のバズーカを放ち、レイラ隊長に攻撃をしてきた。戦艦にダメージを与えるわけにはいかないから、隊長は腕のブレードで切り払って、その攻撃が戦艦に当たる手前で爆発させていた。
『私もそろそろ、君との戦いにはうんざりしてきたよ。コノエを口説こうとしたり、良く分からん奴だからな』
『凶暴な狼を口説くつもりはないが、あの娘には一目惚れだったからな』
『ははっ! そんな相手を殺そうとするとは、どうかしているな! 貴様は!』
『言ったはず。私は一介の兵士だ。私情など、挟めるものか!!』
2人はそう言いながら、ビームライフルを撃ち合い、後退させたり怯ませたりしている。レイラ隊長の機体にも、相手の攻撃がかすっているんだよ。大丈夫かな……。
それに、相手が紳士的なのか真面目なのか……それも本当に良く分からない奴なんだよ。
僕なんかに一目惚れして、昼食を奢って、それでも兵士の矜持を貫こうとしたりと、とても感情的な人なのかも。
『おい! お前はこっちだ!!』
「おっと!!」
ヒト型に戻り、レーザーライフルを構えていた僕に向かって、腕の大型ブレードを飛ばして来たけれど、それを僕は尻尾で掴み、潰してーーしまおうとしたけれど、固すぎて重すぎて無理だった。
「うぐっ。何このブレード! おっも!!」
『あ~たりめ~だろう? 軍艦も戦艦も真っ二つにする、斬艦刀だぜ』
それはヤバい。この前のと、何となく刃の形が違うとは思っていた。とりあえず海に捨てるしかない。
「くそっ!」
『そ~れを待ってたぜ~! 返してくれてありがーーあっ?!』
しまった! 海に落としたら、そのままラフ・ティガーが戦艦の下に潜り込んできて、僕が落としたブレードを拾おうとしてきた。つまり、そのまま下から切り付ける気だったんだ。
だけど、それは出来なかった。何故なら、その大型のブレードは、ドローン兵器に吊り上げられ、そのまま上空へと持ち上げられたからだ。
『残念ね! あんたのお得意の武器は、遥か上空よ~!!』
「コルク!?」
『なに?! 戻ってきたのか!』
そこには、戦艦下部に張り付くようにしていた、コルクのニャットが居て、いくつかのドローン兵器を飛ばしていた。
猫の機体だからか、張り付くのが上手いな……急旋回の時も、全く動いていなかったし。
『確かに、私にはトラウマがあるけどさ、それでもこの戦争を終わらせたい思いは、人一倍あるわよ! この、コルク=パニーニャを嘗めないで!』
『……それは、悪かった』
トラウマを押さえるために、一旦敵から身を隠して、奇襲も合わせて機を伺っていたわけか。
そういう機転の効かせ方も、僕なんかよりもずっと上手い。コルクの方が、良い兵士になれそうだよ。
『ちっ! だがなぁ、こっちはそろそろ追い付きーーおぉっと!!』
確かに、さっきよりも更に近付いていたよ。だから尻尾を伸ばして、テールショットガンを放ち、相手を少しだけ後退させた。
『あ~厄介だな、そりゃぁ。厄介過ぎるから、数でいかせて貰おうか! お前等、一斉にかかれ!』
『悪いが、その艦もアルツェイトが持って良いものではないのだよ。落とさせて貰う!』
そう2人が言うと、2人の背後から、一斉にビームライフルとレーザーライフル、更にはバズーカ砲の掃射が始まり、僕達に向かって降り注いできた。
『そんな!! 3名とも、避けーーいや、撃ち落として下さい!』
『主砲、副砲一斉掃射! 機銃の残弾数も気にするな、撃ち尽くせぇ!!』
そうは言っても、この数は流石に……。
『下からも撃たれてる!!』
そうコルクも叫ぶ。ダメだ。避けられない。せめて、ダメージは最小限にしないと……!
「くぅぅ!!」
『ぬぅぅぅ!! おのれ!』
『『きゃぁああ!!!!』』
一斉に降り注ぐ相手の攻撃の中、コルクの悲鳴が聞こえ、更には戦艦の中のツグミの悲鳴も聞こえ、完全に同時で被った。
それくらい、戦艦の中も衝撃があるんだ。だって、戦艦にも次々と被弾していて、破砕したり爆破していたり、翼の一部が捥がれたりしているんだ。
僕達の機体も、流石に全てを回避したり落としたりも出来ず、次々と被弾してしまって、腕が落とされたり、脚に被弾した所が破砕したりしている。
「うわぁぁあ!!!!」
このままだと、死ぬ……何とかしないと。
一斉総射による集中砲火を浴び、アークも機体も被弾し、壊されていく。
そんな時、進行方向から何かがやって来る。それは希望の援軍か、それとも……。
次回 「13 岩礁突破戦 4」




