11 岩礁突破戦 2
バッゲイアから出て直ぐに存在する、背の高い岩礁地帯を突破するため、アークは中央を迷いなく突き進む。そして、隠れていた敵部隊も姿を現した。
海の上を走るアークの甲板は、吹き付ける潮風で、機体のバランスを奪ってくる……かと思いきや、取り付けられているヒレのような突起物のお陰なのか、風が緩和されている。
「……風の影響がない。凄い!」
『この艦には、対風力戦翼があって、両翼が風を渦状にして掻き消し、風の影響を受けず、スムーズな航行を可能にしている。なお、宇宙では両翼の向きを変え、宇宙航行の弊害にならないようにしている』
「へぇ~」
『と言っている間に両翼から来ているぞ』
「うわっと!!」
この戦艦の説明をされた後、両側から水上移動可能な、ホバークラフトに乗ったデコ機が、両サイド下部からバズーカ砲を放ってきた。
とりあえずレーザーライフルで撃ち落としておいたが、直撃したらヤバそうなくらいの爆発をしたな。
「敵さんの努力が凄いな……」
何か、脚部が折り畳まれていて、その下にホバークラフトが合わせられている。それで水上戦闘も可能にしていたって、ここの岩礁は潮の流れが……って、ホバークラフトの方が推進力があるからか、難なく走ってきている。
これじゃあ、空中を浮いている僕達の方が有利かと思ったけれど、思い切り変わってきそうだよ。
『とりあえず下の対処だ。今のところ、空中を飛ぶやつはーーいや、来ているな』
「嫌~な事を言わないで下さいよ!」
戦艦の攻撃に合わせて、僕もライフルを撃ちまくっているけれど、今のところ1機しか落とせていない。しかも、脚を打って沈めただけ。ヤバイな……。
とにかく、空からも来ていると言うことで、戦艦の周りを確認していると、肩から後ろに突き出るようにして、飛行機の尾翼部分のようなものが伸びている機体が、こっちの方に飛んできていた。
何というか、デコ機の頭と胴体の間に、無理やり飛行機の部品を取り付けた感じなんだけど。……いや? デコ機にしてはスリムだ。その機体は四角くもなく、少しシャープな感じで、黄色のその色も目立っている。
というか、両肩から頭部を挟むようにして出ている、その飛行機の部品の先からは、銃口のようなものも見えるけれど、まさか……。
『なんだあの機体は。ビースト・ユニットか? にしては、変形しそうな部分はないが……』
その機体は、隊長も知らない機体だった。ということは、敵国の新型機って事になる。
『ちょっとちょっと~あの2社からのにしては、凄く不格好ねぇ。空を飛べるにしては、どうやって攻撃をーー』
「多分、その両肩から伸びている、銃口のようなものだ!」
僕がそう叫んだ瞬間、その機体の例の銃口から、大型のビーム弾がこっちに向かって発射された。
「うぉっ!!」
『なっ!? くそっ! 落とせ!』
そう言ってレイラ隊長は、肩の中口径ライフルから細いビーム弾を発射し、敵のビーム弾と相殺させた。その後、更に何発かビームライフルを撃ち、敵機を撃墜させていく。
僕もーーと思いたいけれど、ダメだ……人を殺してしまう。
『どうしたコノエ! そっち乗られているぞ! 撃て!』
隊長から叫ばれて、ハッと顔を上げると、さっきの機体が僕の目の前に降り立っていた。
さっきの機体がビーム弾を放った所が、そいつの機体はボルトを打ち出せるようになっていた。それで戦艦にワイヤーを打ち出して、固定してから巻き取って、こっちに乗ってきたのか。
「乗るなぁ!!」
とりあえず、腕のダガーナイフでワイヤーを切り、同時に来た敵機からの攻撃を、時計回りで身を屈んで避け、半回転した所でダガーナイフで脚を切り付け、そのまま海へと落とした。
パイロットは大丈夫だよな……脱出出来るよな? そんな感じで、1機ずつ落としていくしかない。油断なんかしていたら、こっちの命が取られる。
『コノエ。敵を殺すのに躊躇いがあるならーー』
「あるに決まっているよ! 戦争なんて、初めてなんだ! でも、死にたくはないし、この機体も渡したくない! だから、手は抜かない! 殺られるってなったら、流石の僕でも殺るしないって分かってる!」
『それなら良いんだ』
分かってる……分かっているんだよ。頭ではね。それに身体がついてくるかどうかだ。
僕は、次に向かって来た機体に向かって、レーザーライフルを撃ち放ち、また海へと落とした。背後に付いている両翼。あの片方を撃ち抜けば、制御不能で海へと落下しているし、それでしのぐしかない。
そうやって撃墜していても、敵機が減っているようには見えない。このままだと、弾切れでいつか沈む。何とか打開策を見つけないと。
『3名とも、聞こえますか? 今すぐ甲板にあるワイヤーフックに向かい、そこに機体をワイヤーで固定して下さい!』
「えっ? 何で?」
そんな時、突然ツグミがそんな事を伝えてくる。
何でそんな所に機体を繋いで、落ちないように……って、まさか。
『2人とも、急いで向かうぞ! あいつはやりかねん! 艦長も、奴の操舵技術は買っているから、許可するに決まっている!』
今は岩礁の隙間を縫うようにしているけれど、確かにこの人ギリギリの所を通過しているんだよ。そうすることで、海上の何機かは岩礁に激突して沈んでいる。そんな腕の持ち主が、僕達に艦にしがみつけと言う。
絶対にヤバい。
急いで敵機に攻撃をしながら、僕達はその場所へと向かい、甲板にあるフックにワイヤーを引っ掛け、落ちないように固定させた。
それは、恐らくブリッジのモニターに表示はされる。だから、確認しなくても分かるだろうけれどーー
『いっくぞぉ! おらぁぁ!!』
「うわぁぁあ!!」
せめてこっちが準備出来た事を言って、心の準備が終わってからにして欲しかったよ!
戦艦が突然舵を切り、思い切り急旋回をかけ、岩礁の隙間の大きな所を狙い、方向転換を仕掛け、更にーー
『しゃぉらぁぁあ!!』
前方のエンジンだけ逆噴射させ、後方部だけを大きく旋回させ、何と戦艦の向きを180度変更した。
「うぎぎぎ……むちゃくちゃだよ……!!」
『しっかり捕まってろ! まだ来るぞ!』
レイラ隊長は更に叫ぶ。
同時に、戦艦の前方カタパルトの部分の下部が大きく開き、巨大なエネルギー砲台が出現した。
「あぁ……お決まりだぁ……こんな戦艦だもん、そりゃあるよね」
そして、これもまたお決まりの台詞が飛んでくる。
『チャージ、100%! 艦長、いつでも撃てます!』
ここからもお決まりだ。ただ、これが戦争であり……そして、やらなきゃやられる状況であるということ。だからーー
『よし。艦首掃討主砲、セイエレーン。撃てぇぇえ!!!!』
強力で大きなエネルギー波、その先の敵機を次々と飲み込み、爆破させていく。もちろんパイロットごと。
人が死んでいく。
それが戦争であり、それがこの機体に乗って戦う事であり、それがこの戦争に身を投じる事なんだ。
分かっていた……心のどこかでは分かっていたよ。
分かっていたはずなのに……分かっていなかった。人が死ぬということを。これが、ただ無慈悲に人の命を消す兵器なんだということを。
『コノエ。コルク。戦うことを戸惑うなら、この艦を降りろ』
「え?」
衝撃も止み、ワイヤーを外すと、レイラ隊長からそう言われた。
僕だけならまだしも、コルクまで? と思ってコルクの機体の方を見ると、呆然と突っ立っているような感じだった。
「コルク?」
思わず通信で話しかけてみたけれど、あからさまに何か動揺していた。
『わ、分かっています。わ、分かって……うぅ、うぅぅ……』
おかしい。あれだけ飄々としていたコルクが、さっきの砲撃と、大量に機体が爆破し、人が死んでいく景色を見た瞬間、何故か恐怖で声を震わせ始めていた。
『コノエは?』
「あ、えっと……分かっている。分かっていた……覚悟、していたはずなんですが。これだけ沢山の人が死ぬ所を見ると、他に方法はーー」
『無い。今ある程度敵機を撃墜させなければ、ジリ貧になり、弾も切れて数で押されて沈む。そうなったら、私達が死ぬ』
「それは、嫌です。だから、殺すのが嫌でも戦います!」
そう自分に言い聞かせるように答えた。これは本音だ。僕の中ではまだ、答えは出ない。
『そうか、分かった。だがコルク、お前は無理だ。一旦下がれ』
『そ、そんなことをしたら、あ、あなた達が……』
逆にコルクの方は、何かトラウマでも思い出したのか、変わらず声が震えていた。
『コルク。お前は街を一瞬で掃討され、それでお前も命を落としている。この光景は、ただただトラウマだ。そんな状態の奴をこのまま戦場に置き、みすみす死なせるのは、隊長としても不名誉だ。一旦退け』
『……でもーー』
『見くびるな。この状態、本来なら私一機でもなんて事はない。下がれ、コルク』
『……』
隊長の言葉に、コルクは無言で甲板から格納庫へ向かった。
今は、先の攻撃で敵がバラけ、連携が崩れている。次の攻撃に移るまで、時間がかかりそうだ。
『コノエ。悪いが、また奴の相手を頼めるか?』
「あっ……やっぱり来るかぁ。だけど、この前の今日だから、向こうもエネルギーやら弾には限界がありそうだな。分かりました」
『よし、今度は命を奪う気で行け。向こうもそのつもりだ』
「分かりました」
体勢を立て直す敵機の中に、見たことのある機体が2体見えた。
1つは真っ黒なハコ機。黒い凶星、オルグの機体。
そしてもう1つは、虎のビースト・ユニット「ラフ・ティガー」だ。
またあいつか……そんな直ぐに機体を整備出来るということは、それだけの立派な軍艦を持っていそうだ。
さて、ここからは更に激戦となりそうだよ。
なかなか減らない敵部隊を相手に、艦首の砲撃で一斉に攻撃するが、厄介な2機が後方に控えていて、体勢を整える敵部隊から飛び出してきた。
次回 「12 岩礁突破戦 3」




