10 岩礁突破戦 1
レイラ隊長の意外な一面を見て、困惑をしているコノエだが、当の本人は気にせずにブリーフィングルームに向かった。
何故か無駄に死地を脱した僕は、レイラ隊長の後を歩き、ブリーフィングルームに入る。
「だいたい、私はまだ君の所属すら認めてはーー」
そうブツブツ言われても、戦艦の事が敵国にバレて、奪おうとしている機体がそこにあるとなると、どうしても今のうちにってなるだろうね。
一応、訓練の時にシミュレーションでの戦闘訓練はしているし、それに関しては割りと高得点だった。
高かったけれど、ゲームセンターではドーム状の筐体で、リアルなロボットゲームをやっていて良かったよ。あれとは全然違うし、よりリアルだわ、戦車のような重厚感もあるわで、怖いのは怖い。
それでも、今あの機体を動かせるのが僕だけなら、黙って奪われるより、戦って勝ち取らないとね。
「艦長。レイラ=バルクウッド、コノエ=イーリア、2名が来ました」
「うむ」
ブリーフィングルームでは、ツグミの他に、何名かのクルーが居た。コルクも既に来ていたらしく、何故かレイラ隊長を見た瞬間、ブルッと身震いをしていた。
レイラ隊長が顔をグニグニしていたから、一瞬緩んだんじゃ……あのタイミングで入っちゃったのはダメだったかも。隊長のオンオフスイッチを入れる、ルーティンでもあるんだろう。その後、コルクが顔をブンブンと横に降っていたので、見間違いだと思っているようだ。
「艦長。そろそろ、バッゲイアの領海から出るのでは?」
そして、またいつもの隊長の雰囲気に戻り、彼女は艦長にそう言った。
「うむ。その辺りだが、操舵手のジニーに説明をして貰おう」
「ういうい。ま~ずですね~この辺り、背の高い岩礁が多く、隠れるには持って来いの場所なんですよ。潮の流れもそのせいで、割りとめちゃくちゃだったりするんですよ。よって、我々はこのまま岩礁の中心を突っ込みます」
「うぇ?!」
また何だか変わった男性が、そう説明をしてきたけれど、岩礁に突っ込むと言ってきて、思わず声を上げてしまったよ。
「あ~新人の子っすよね。とりあえず宜しく~まぁ、俺の腕ならこれくらい楽勝ですよ。それに、隠れられるというのは、何も敵だけじゃないですからね~」
「その通り。我々は低空飛行にて、この岩礁の真ん中を通り抜ける。十中八九、敵が待ち構えているだろう。だが、ここを避けようとしても、我が艦の大きさでバレてしまい、奇襲を受けるだろう。それならば、敢えて突っ込み突破するだけだ」
大きさと武装の数で突破出来そうな気はするけれど、敵はもちろんそれを理解はしているだろう。それだったら、かなりの数の部隊を投入してきそうだ。
本格的な戦闘になりそう。
「レイラ、コルク、コノエの3名は、我が艦の防衛、そして敵部隊の撃破を率先して貰う。エース級が来たら、頼むぞ」
「「「はい」」」
艦長からそう指示され、僕達は同時に返事をした。
ちなみに、操舵手の人は「腕がなるぜ」って、意気揚々としていたよ。両サイドを刈り上げている茶髪で、とても軍の関係者とは思えないけれど、この艦はそういう、一癖も二癖もあるような、そんな人達が集まっているのかもな。
レイラ隊長もそうだし。
「なにか言いたそうだな?」
「あ、いえ。何でもないで~す」
危ない危ない。危うくさっきの事を思い出して、それがバレそうにーー
「コルク。今度コノエに、黒タイツとミニスカートを買って上げろ。きっと綺麗な脚に良く似合うだろう」
「や、止めて!!」
いや、バレていた。ゴゴゴゴって効果音が後ろから見えるくらいに、物凄い形相で睨まれていました。
はい、さっきのは忘れます。
◇ ◇ ◇
今日、2回目の出撃になるけれど、どうやらこちらもかなり厳しいようだ。何せ、補給が受けられなかったので、早いとこ軍事施設に行かなければならない。
よって、起動のエネルギーは問題ないが、武器使用時のエネルギーはそれほどないらしい。
だから、戦艦の火力でごり押しして突破するらしい。どうやら、思った以上の死地になりそうだ。
機体に乗り込み、最終確認している僕達に、ツグミが通信で話しかける。
『今回は、とにかく落とされないようにして下さい。艦の上に居て、敵機を攻撃。突破する事だけを目標にします』
「あの黒いのは?」
ピッピッとタッチした部分から電子音が鳴る中で、僕はツグミにそう聞いた。あの黒い機体が出てきたら、それどころじゃなくなると思うんだ。
『黒い凶星、オルグですね。前回のゲリラの時に、猛虎が出てきて、彼は出て来なかった。いつも猛虎がいる場合は、黒い凶星もいたのですが、猛虎だけなのは、初めてでした。そこから恐らくですが、まだ機体が修復出来ていないのかと。ただし、向こうも軍艦には帰投しているでしょうし、修理も突貫で終わってる可能性はあります』
なるほど。図らずも、僕があの時腕を落としたことで、黒い凶星はしばらく出撃が出来なくなったのか。ただそれも、向こうにだって補給があるだろうから、それまでの間だけだし、あれから時間も経っている。
警戒はしておいた方が良さそうだ。
『まもなく、バッゲイアの領海から出ます。良いですか? 出た瞬間に、敵機からの攻撃があると思われますので、皆さん出撃して下さい』
「「「了解」」」
ツグミの言葉に、3人で同時に返事をした。
その後、コルクから通信が入り、僕に話しかけてきた。
『コノエ。この前の台詞、また言うつもりじゃないわよね?』
「えっ? ダメ?」
あれカッコいいと思うんだけどな~ダメなのかな? やっぱり軍の決まりごととか、そういうものに抵触しちゃうのかもな。
『ダメというか、まぁ……慎重さが失われそうというか、あれはどうかと思うぞ』
「た、隊長まで……分かりました」
そこまでキツく言われてしまったら、使えないよな。あ~あ、せっかくちょっと主人公っぽく、カッコよく出撃出来ると思ったのに。
『それでは、レイラ機。出撃OKです。どうぞ!』
『レイラ=バルクウッド。ヴォルウォ。出撃する!』
「へっ?!」
えっ、ちょっと待って! 今隊長何て言いました?! いや、なんてと言うか……言ったよね、あれを! 空耳じゃないぞ。
出撃しちゃったから、問いただせない。くそ……。
『は~い、それではコルクさんもどうぞ~』
「えっ?」
ちょっと待て、ツグミもなんか楽しそうでーー
『コルク=パニーニャ。ニャット。出撃するわよ!』
言った! コルクまで言った! 間違いない。確信犯だ~! どう言うことだよ~!! あれは、あれは……別に専門特許じゃないけれどさ、なんかさ……なんか……あ~もう。
『良いですね~これ。それじゃあ、コノエさんもどうぞ~』
コルクが出てから、ツグミも何かハマっていそうな、そんな雰囲気で話している。そうだろうね……黙って出撃するより、多分遥かに気合いの入り方が違うと思います。
「あ~もう……コノエ=イーリア。シナプス。出撃します!!」
そう言って、今度はしっかりと射出時の衝撃を堪え、空中でしっかりと制動を取ると、ヒト型に変形して、戦艦の屋根へと移動した。
その後、2人にちょっとお小言というか、文句を言うけどね。
「ちょっと2人とも、2人が率先して言っちゃってるじゃん!」
『いや、やってみないことには、可も不可も分からんからな』
『そうそう~結果的に、何だか気が引き締まるというか、戦いに身が入るし、死なないように生きて帰らなきゃって、そんな気にもなるわね』
『自身を鼓舞するにはもってこいかもだな。よし、次からも許可しよう』
「ダメって言ったじゃん……」
『ダメとは言ってないぞ』
思い返したらそうなんだよ。そうでしたね。一杯食わされたというか、なんと言うか。う~ん。
そんな事を言ってる内に、自身のコクピット内に、敵機の反応を示すアラームが鳴った。
『さて、雑談はここまでだ。来るぞ!』
レイラ隊長の言葉と同時に、艦長の声も響き渡る。
『本艦はここを突破する! 副砲、主砲一斉総射! 撃てぇえ!!』
そして、戦艦の側側と、前面の方からレーザー砲とミサイルが一斉に打ち出された。
それを掻い潜るようにして、岩礁から敵のハコ機が現れ、こっちに向かって来た。
バッゲイアから出国し、直ぐにある岩礁地帯を突破する為、コノエ達は戦闘体勢を取る。
そして、岩礁の隙間から敵機が現れ、戦いが開始される。
次回 「11 岩礁突破戦 2」




