6 ミルディアの猛虎
ゲリラ部隊の暴れる地域から撤退をする為、出撃をした3人だったが、目の前の猛虎は戦う気でいるようで……。
カッコ悪い着地になってしまったものの、計器頼には異常を示すサインはない。それなら戦える。
と言っても、そびえ立つような風貌をする、この虎のケモナーは相当強そうだ。
大きな牙のようなナイフが口に、肩には中口径のバルカン砲。反動で持っていかれるだろうと思ってしまうほどの、大きなカノン砲がその真ん中に備え付けられている。そして、腕には逆手に付いた大きなブレードがある。
頭部のアイは、2つ目でギラリと睨み付けるようなもの。なるほど、猛虎というには相応しい風貌だよ。
『くっはははは! お前等、狐と猫って事は、あの店にいた2人か? なぁ、そうだろう!』
そして、向こうからの通信で、僕達にそう叫んでくる。相手は確実に、グランツとの呼ばれた、あの虎のケモナーで間違いない。僕と同じく『DEEP』を持っている。戦闘の性能は、更に飛躍すると見ていい。
まだ戦闘は始まってないが、どうやら一触即発みたいだ。
『あの艦長は……やっぱり。嫌な予感はしたんだ』
「すいません。更に上からの命令だったから……」
『あぁ、良い。気にするな。後で酒瓶持って、艦長に問い詰める』
それな酔わせて吐かすの? 殴って吐かすの? どっちだろう……。
『コノエ。あんたは良いから、艦の防衛をーー』
「こいつ。コルクとレイラ教官2人で、止められる?」
ちょっと意地悪だったかも知れないけれど、周りではゲリラ部隊が殺戮を繰り返している。そっちを止めないことにはどうにもならない。そして、それをこいつが邪魔するなら……。
『ははっ、良いな。お前、良い。安心しろ、ゲリラは俺にも邪魔だ。掃討するつもりだ。ただ、それとは別で、お前等とは戦いてぇ。なぁ、良いだろう?!』
『さっきからずっとそれだな。私達はここから離脱するだけだ。その上で、ゲリラも倒し、市民をーー』
『あ~イイ、イイ。そういうのはいいんだよ。軍のお堅い考えなんざぁ、どうでもいいんだよ!! 戦うのか? 戦わねぇのか? どっちよ!!』
こいつも相当いかれているな……戦争って、こんな奴を沢山生み出してしまうのか。
『…………くっ』
そんな相手の言葉に、レイラ教官がどう答えようか悩んでいるとーー
『教官! 上!』
『なにっ!?』
上から屋根伝いにやって来た、ゲリラのハコ機が飛びかかってきた。
『おぅらぁ!! 軍の奴等発見! 潰すぞ!』
そう叫びながら、刀の刃を下にして、レイラ教官の機体を突き刺そうとしている。何とかーーと思ったら、コルクの機体が飛ばしていたドローン兵器が、相手機の横にやって来ると、そこから何発かのビーム弾を撃ち出し、相手機を横に吹き飛ばした。
『ふふん! 甘いのよ~というか、この兵器私にはピッタリね~細かい操作とか得意だし~』
そう言えば、あのドローン兵器って、コルクが動かしているのか? となると、機体と一緒に動かしている事になるから、凄く操作が大変になると思うんだけど……コルクの成績なら、それも難なくこなせてしまうのか。
その後、レイラ教官が腕に付いているブレードを使って、後ろの建物の陰に隠れていた敵機も、スッパリと切り裂いていた。当然だけど、パイロットごと……。
『うひゃ~! つえ~つえ~! やってみてぇ~!』
それを虎のやつが、意気揚々としながらゲリラ部隊の数機を、まるで狩りでもするかのようにして撃破している。なんだこの状況は……僕は出る必要なんて……って考えるんじゃなかった。
相手の息づかいが、さっきよりも荒くなっているような気がする。マズいな。
『あぁ、やってみてぇ、戦ってみてぇ、殺ってみてぇぇええ!!!!』
『なにっ?!』
同時に、虎のビースト・ユニットの後ろ足の上部から、大口径のブーストユニットが出て来て、そこから爆発したかのようにブーストすると、一気にレイラ教官の機体に迫っていた。
『お前、オルグといい勝負してんだろう? 俺とも試してくれやぁ!!!!』
「間に合え……!!」
どうやってそれを起動するかは、まだ良く分かっていない。いないんだけれど、とりあえず気分を高揚させれば、勝手にスイッチが入るんじゃないかと思って、早くなる鼓動はあえて押さえず、そのまま高揚するように鼓動を早くしていくと、ディスプレイに表示された。
『DEEP確認。性能向上設定ーーオーバーブースト開始』
「いっくぞぉお!!!!」
『んぁっ?!』
同じようにして、僕も背中のブーストユニットを出し、そこからブーストさせ、一気に虎のやつの後ろから迫った。
『おぉ~? お前、まさか。俺と同じか?! DEEP持ちか!? まじかぁ!!』
「黙れ!!」
そのまま腕に付いたダガーナイフで斬り付けて見たけれど、相手の方は大型のブレードだ。太刀打ち出来ない。しかも、こっちの機体の方が揺れたし……。
「くっ……!!」
『おいおいおいおい! 突っかかっておきながら、その程度かぁぁ!! おぃぃい!!!!』
「うわっ! たっ……!」
相手の方が冷静じゃないのに、なんでこんなにも追い詰められるんだ。肩のバルカン砲を連射し、更には真ん中のカノン砲まで撃ち放ってきた。
「……ぐぐ! 僕は何も、戦闘をしたくてこの力を手に入れたんじゃない!」
『それじゃあなによ? なんでその力持ってんだ?! ぁあ!?』
「それは、まだ知らないよ! 何か理由があるんだろうけれど、本人に聞けてない!」
大きな爆発の後、煙が舞う中で、ギラリとその目を光らせる相手機を見据えながら、レイラ教官とコルクの機体の状況も確認する。
2人とも、ゲリラ兵の相手をしながら、戦艦の位置を確認して、僕達からちょっと離れていた。
レイラ教官は、さっきので悟ったんだ。艦長が僕に出した指示とか、僕の役割も全部。
つまりここからは、僕は全力でこいつを止めないといけない。
『ゲリラ兵じゃつまらなかったからよぉ~丁度いいや。ゲリラ兵も、だいぶ掃討したからな』
確かに、街の戦闘の方はだいぶ静まっていて……というか、大半がレイラ教官とコルク、そしてこの虎の奴がやったんだけどな。
『この「ラフ・ティガー」と対等かどうか。見てやるよ』
そうか。その機体は、ラフ・ティガーというのか。虎っぽい名前で分かりやすい。
すると、そいつは突然その姿を歪ませ、まるで蜃気楼のようにグニャリとなっていく。
「……しまっ?!」
危なかった……直感で何か危ないと感じた僕は、すぐさまそこから飛び退いた。次の瞬間、そこに虎の奴が現れ、その場を抉るようにして、腕のブレードで斬り裂いてきた。
『気を付けろよぉ~俺のはな、狩りだ。まさに、虎が獲物を狩る時の、狩りそのものさ』
狩り……か。俺も狐だから、どちかというとそういうのに近い高揚がある。
そうか、狩り……か。
『ボサッとするな~!! つぎぃ!』
「後ろ……そこ!」
『んなっ?! っ……あっぶねぇ~!』
また相手が蜃気楼のように揺らいだから、来ると思った僕は、目を閉じて感覚を研ぎ澄ました。
そして、機体に当たる風の揺らぎ、靡く音を聞き、後ろに向かって尻尾を振り抜いた。
相手は咄嗟に身を屈んだから、当てる事は出来なかったけれど、今のは敵にとっては予想外だったんだろう。
『…………はっ! あ~いっけね、遊び過ぎた。てめぇ、その尻尾』
「うん、ちょっと仕掛けがあってね。この尻尾からは、ショットガンのようにして、ビーム弾を発射出来るんだ」
それも、出撃前のチェックで確認した。
周りにビームコートを纏わせ、巨大なブレードのようにして使うことも出来れば、いくつもの口径を出現させて、ショットガンにすることも出来た。
「獣型じゃなかったら、とっくに終わってたね」
『ふん。そっちもな』
うん、まぁ……僕の機体の目の前に、ブレードの刃が突き刺さっていたよ。その腕のやつ、射出出来たのか……というか、これだと僕の負けだ。
『あ~引き分けかねぇ。ブレード射出前には、俺のDEEPは切れてた。だから、外れた。対して、お前も限界なんだろう?』
「……まぁね」
確かに、相手機はそのまま膝を突いて、目のライトが消えている。つまり、DEEPによるオーバーブーストの制限時間を越えていたんだ。越えていても動かすなんて、なんて奴だよ……。
そして、こっちも起動時間ギリギリになっていた。急いで戦艦に戻らないと、このままだと残ったゲリラ兵にやられる。と思っていたら、コルクの機体のドローンがやって来て、そこからロープを射出し、僕の機体を回収してきた。
『は~い、貸しひとつね~』
「あ、いや。まだ動けるから、自分で戻る!」
『だ~め』
コルクに貸しなんて、ろくなことにならないよ!
そう思っていたら、ちょうどこっちも起動の限界を迎えて、機体が動かなくなってしまった。
正直今回のは、相手が本気じゃなかった。いや、多少は本気だったんだろうけれど、なんというか……ちょっと実践演習に近いような、そんな感じの戦いだった。
「遊ばれてたな……」
このDEEPによるオーバーブーストの制限時間も、使いようによっては危険な事になるし、あんまり状況を打開出来るものじゃない。改良は、出来ないのかな……。
何とか猛虎を退け、撤退することが出来たものの、まだまだ戦闘は続きそうな予感がする。
その為、コノエ達は軽く休息を取ることにしたが……。
次回「7 シャワー中には定番である」




