4 ゲリラ部隊急襲
敵エースパイロットと遭遇し、自分がそのパイロットのフィアンセと似ている事を言われたコノエは、しこりのようなものが残り、釈然としないでいた。しかしその時、ゲリラが街を襲撃してきた。
僕達は店内を飛び出し、アークへと走って行く。
途中で銃声が聞こえ、何人かの悲鳴まで聞こえる。こんなにも簡単に、また戦闘が起こってしまうなんて。それが戦争とは言え、ここも非戦闘地域だった。穏やかに生活している人が多かったのに、何で……。
「振り向くんじゃないわよ。とにかく走る」
「……っ、分かってる」
いったい誰がこんな事を。
アークに着いた時には、既にそこも慌ただしく動く人達で、騒がしくなっていた。
「声明は?!」
「出ています! イナンアです!」
「なに!? 内乱ばかりが起こっているあの国か?! 傭兵まで使って、各国にもちょっかいを出している国が……なんでまた、こんな所を……物資なんて、乏しいはずだ!」
どうやら、僕が居た地球にもあったような国が、こっちの惑星にもあるらしい。信じられないけれど、人類ってやっぱり、変わることが出来ないのか? 同じような事が、ここにまで……。
艦員が慌ただしく動きながら、得た情報を交換しあっている。
僕達はどうしたものかと思っていたら、レイラ教官が来て、僕達に手招きをしてきた。とりあえず従って、彼女の下へと向かう。
「良かった、無事だったか。通信機も持たせれば良かったが、物資補給中だったものでな。コルクを付かせて正解だったな。というか、何かあったか?」
多分、僕の顔色を見て言ったんだろう。まだちょっと、動悸がするからさ……さっきまでの事で、少し恐怖が残っちゃったよ。厄介だな、あいつ……。
「後で報告します。それより、私達はどうすれば?」
「あぁ、ブリッジへ向かう。そこで艦長からの指示を受ける。コノエも来い」
「分かっーーじゃない、分かりました」
軍にいる以上、言葉遣いも気を付けないといけない。ちょっとは休めたから、うっかりとしてしまいそうになったけれど、言い直せて良かった。
そこから廊下を歩き、ブリッジへと着いた僕達は、丁度艦長がディスプレイに動画を流していた。
『我々イナンアは、異教徒どもからの圧政に耐えてきた。しかし、物資を断ち、我々を疲弊し、心身ともに摩耗させ、苦しさから投降させようとするのは、卑劣そのものである!』
この世界の事情に関しては、そこまで詳しくないから、こいつの言ってる事は良く分からない。そもそも、どっちが先に仕掛けたんだ? それによっては、ただのいちゃもんにしかならないと思うけど。
『それでも我々の誇りは失わん。そして我々の信仰心で、この窮地を脱した。よって、ここからは我々の反撃である! 各々、覚悟しておくように。恐れおののくがいい! 立ち上がった戦士達の気迫を! 信仰厚き我等に施された慈悲の数々と、その脅威を! 汚れた目に焼き付けるがいい! 異教徒どもよ!』
動画はそこから最初に戻り、ループした。
これは何というか……宗教的な価値観の違いで、襲ってるわけか。そんな事、他の国も黙ってはいないだろうけど、なんだろう……バックに別の国がいるな、これ。
「ふ~む」
「艦長。どうしましょう?」
ご自慢の髭を撫でながら、艦長は唸っている。確かに、僕達を名指しで狙っているわけではなく、単純に自分達を潰そうとする人達全員にって感じだ。
そうなると、ここで下手に手を出すと、標的にされて余計な戦闘をしなくてはならなくなる。目的地までは、まだまだ距離がある。
「この艦の武装は、街に更なる被害を出しかねん。とはいえ、TAGも無く、ビースト・ユニットも例のを入れて3機のみ……この機に修繕にと、全て本部に送ってしまっている。その情報も得た上での、先日の襲撃だったのだろう。厄介な……」
情報が全て筒抜けてしまったのか。本来なら、敵に一切バレずに隠れられていたんだろうけれど、味方が情報を売ってしまったから、こんな事になっちゃったのか。
ブリッジのモニターには、下の街の様子が映し出されている。何か、大きな機体が街を襲い、住民を殺していっている。酷い……。
「あれは……ヒノモトの、傭兵用のTAG。自分達で改良し、ゲリラ向きにしているのか。迷彩まで付けて、いったいどこにそんな物資が……」
「何者かの支援を受けたのだろうな……そうでなければ、あそこにはもう、これ程の物資はなかったはずだ」
確かに、カーキ色に塗られた機体は、草木に溶け込み易く、身を隠しやすいだろう。更には、脚部にブースターまで付いていて、軽く浮遊まで出来るようになっていた。
四角い機体もいじられていて、更にスリムになって、崖の上等にも登り易いように、大きめのボルトを装備していて、そこからワイヤーを打ち出して、固定するような、そんな仕組みになっていそうだった。
ついでに何故か、腰に刀まで付いているけれど、何だあれは……。
「こちらにも銃口を向けられているが、コールドブースターで熱せられなくしている。レーザーやビーム系は、撃てたとしても威力は激減だ。実弾なら問題ないだろうが、そんなものではこの艦に傷は付けられん」
というか、そんな装備まであるのか、この艦は……。
要するに、強力な冷却装置で、部分的に一気に冷却させられるんだろう。中のパイロットも、寒さで凍えそうだな。
「私とコルクで出る。ただし、この艦の防衛だ。艦長、宜しいですか?」
「あぁ、分かった。許可する。2人でこの艦の防衛に回ってもらい、我々はこの地域から離脱する。軍からの指示は出ていない。我々が勝手をするわけにはいかん」
そう言われ、レイラはコルクに何かを伝え、2人で艦長室から出て行こうとする。ただ、その前に俺の方に向いてーー
「コノエはここに居ろ。いいな」
「はい」
そう言われてしまった。そうだよな、俺は足手まといというか、戦っちゃいけないような気がする。
だけど、2人が出ていった後、艦長からあり得ない言葉を言われた。
「コノエ君。君も、ボディスーツには着替えておいてくれ。どうやら、ゲリラ部隊だけを相手にするわけには、いかぬようだ。会ったのだろう? 誰かと」
「え? あっ……」
そうだった……僕達は、あいつと会っている。そして、虎のケモナーにも。ということは、近くにはミルディア皇国の部隊もいるということか。
「話してくれないか?」
「はい、あの……黒いハコ機のパイロットと、虎のケモナーがいました。僕達は接触してしまって、その……会話も」
「黒い凶星とミルディアの猛虎か!?」
「嘘だろう、そんな奴等もいるなんて……」
あ、そんな異名を付けられていたのか。何だか、微妙にカッコ悪いというか、某アニメの仮面パイロットを思い出してしまう。あいつもサングラスだったし、まさか……仮面まで? いやいや、流石にそんな……。
「良く、無事だったな」
「あ、まぁ……相手がなんか、話をしたいだけだったらしくて。僕達の正体がどこまでバレていたかは、正直分からないですが」
艦内は更にざわつき始めた。
そうなると、あの2人では分が悪いのでは、とか。あの猫の子が足を引っ張って、レイラさんまでーーとか。何かそういう悪い考えばかりの声が飛び交っていた。
「総員、戦闘態勢。いつでも戦えるように備えを。通信」
「ひゃわっ!? は、はい!」
艦長にそう言われて、艦長席から直ぐ近くに座っていた、オペレーターの子が慌て出した。
大丈夫か? この子。
目は、切り揃えられた長い前髪で隠れていて、表情は良く分からないけれど、かなり緊張していそう。慌てしまってね、イヤホンマイクのマイクがね、後ろに回ってしまったんだよ。
「あれ? あれ? マイク、マイクは?!」
横の人から肩をつつかれ、後ろにあるってジェスチャーから、やっと気付いたらしく、ペコペコと頭を下げながら、直ぐにマイクに向かって声を出した。
『総員、戦闘配備。艦はこれから、この地域を離脱します! 敵機に気が付かれた場合、戦闘になると思われます! 繰り返しますーー』
大丈夫かなと思ったけれど、アナウンスの方はしっかりとしていてビックリしたよ。ギャップが……。
とにかく、僕もボディスーツに着替えるため、更衣室の方へと向かった。あのボディスーツ、ピチピチで恥ずかしいんだけどな……。
ゲリラ部隊の襲撃により、アークに戻った2人は、早速ブリッジで状況を聞かされる。レイラ、コルクは出撃をしたが、ゲリラ部隊以外に、あの虎のケモナーも暴れていた。
彼に対抗出来るのは自分のみと、その理由も言われ、出撃するように言われたが……。
次回「5 出撃」




