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GALAXIES BEAST  作者: yukke
EPISODE7
103/105

20 お姉ちゃん

助けに駆けつけたのはオルグだった。まるで白馬の王子の様に見えたものの、未だに戦闘は終わらない。ガイナバも合流し、急いでその場から逃げようとするが……。

 オルグの機体に抱えられ、地面に無事着地出来たものの、シナプスはもう稼働限界だ。殆ど動かせない。DEEPに回せるエネルギーも無いから、当然切れてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 同時に襲ってきた強力な息苦しさが、僕の全身に苦痛を与えてくる。使い過ぎた。だけど、そこまでしないと……せめて一矢だけでも、なんて思いながらだったんだ。


『とにかく安全な場所へ』


「クレ、ナイ……ガイナバさん……」


『仲間……というか、ガイナバさん?! まさか、ガイナバ=モールドッチ大佐か?! 君は、彼の所にいたのか! 何処にいらっしゃる!』


 あら、しまった。うっかりガイナバさんの名前言っちゃった。いや、でも……彼も助けないと。

 というか、オルグまで言葉遣いが変わってるよ。それだけ慕われていたんだ。人徳ってやつだね。


「あの、大きな、機体の近く。はぁ、はぁ……緊急用ので、小型機体で、アルツェイトのケモナー部隊と……戦ってる」


『あの人は相変わらずだな。分かった。というか、あの巨大な機体は……大型掘削機の紅器人機か? まだ動かせたのか』


「まぁ、そういう人達なんだ……というか、クレナイも、あそこにまだ……彼女は大丈夫だろうけれど、ガイナバさんは……はぁ、はぁ」


 何とか機体を動かそうとするけれど、うんともすんとも動かない。それなら、僕が外に出てと思ったけれど、辺りの戦闘はまだ収まっていない。

 銃撃の音や破裂音、爆音、それに悲鳴。様々な音が僕の耳に響く。嫌な音だから、狐っぽいこの耳を倒して聞こえ辛くしたけれど、それでも筒抜けてくるよ。吐きそう。


「うぅ……」


『とにかく、君はもうそれ以上戦えないだろう。私に任せて、ガイナバさんの位置をーー』


『それなら心配ない。オルグ』


 その時、クレナイの機体を飛び越えるようにして、丸いずんぐりした機体がやって来て、オルグの機体の前に着地する。


 ガイナバさん、無事だったんだ。だけど、至る所に被弾の跡があって、両腕も無く、武装も壊されて落とされている。かろうじて脚だけ残ったから、急いでこっちへ逃げて来た感じか。

 なんだ、ガイナバさん……死ぬつもりじゃなかったんだ。


「良かった……」


 ちなみに、ガイナバさんの通信の先からクレナイの息遣いも聞こえてくる。と言っても、そっちも苦しそうだけど。


『なんだ? 俺が、死ぬつもりで戦っていたと思うか? いつもそのつもりだ。だから、死ぬつもりで戦う事はないさ。死に場所も無いがな』


 うん。凄いや、やっぱりガイナバさんは軍の人だ。いつもと雰囲気が違う。あぁ、でもそれは、オルグがいるからかな?


『モールドッチさん、お久しぶりです。腕はなまっていないようで……』


『あぁ。当然だ。というより、別の隊がこの辺りをウロチョロしていたが、聞いていないのか?』


『…………えぇ、まぁ。私もいまや准将ですから、そこまで細かい事は』


『なに? お前が? なるほどな……ギルムの坊っちゃんの世話を、本格的にしているのか』


『あなたがギルム様を良く思わず、あの事変で軍を抜けたのは分かりますが……っと、それどころじゃないですね。とにかく離脱しましょう。後はPNDの部隊に任せましょう』


 うん。それどころじゃないよ。

 ジ・アークは翼を片側落としたけれど、本体の推進力だけでも何とか戦闘継続出来るからね、さっきからこっちに集中砲火されているんだ。


 2人とも何食わぬ顔で避けてるけど。え、何この2人……。


『隠れ場所は?』


『夕焼けが素敵な絶景の海岸です。岩砦Bー111に格納出来ます』


『絶好だな。その辺りは流石だ』


 そう2人が話すと、急いでジ・アークから距離を取り出した……が。 


『そう、おめおめと逃がすとお思いですか!? ここまでして、ここまでの手痛い失態は! アルツェイトにとっても……!』


 ジ・アークから、ジュイルが叫んでくる。

 正直考えが浅すぎるんだ、何でこんな事を……こうなるって分からなかったの? 何で? 戦争ってやつは、そこまで人をおかしくさせるのか? 理解出来ないよ。したくもないけどね。


『ふん。おおかた、内側から食われそうになっているのだろうな。アルツェイト特有の問題だ。それならーー』


『はい。放っておいて大丈夫でしょう。後は、自ら手痛いしっぺ返しを受けるだけです。それを恐れての、今回の行動でしょうね。PNDも……シンティア皇国も、そこまで情報を取っていなかったのでしょう。下として、見下していますから』


『だから、アレもその内に手痛いしっぺ返しを受けるだろう。全く……それが嫌になったものだから、俺は軍を抜けたのに。変わらねぇな……』


 いつものガイナバさんじゃない、憂鬱そうに喋り、そして大きくため息をついた。

 やっぱり、アルツェイトから逃げ出して正解だったっていうこと?

 だけど、そうじゃない人達も、親身になってくれた人達もいるんだ。もう、分からないよ。分からない。


 何が悪で、何が善なんだ?


 とにかく、ジ・アークもバルドザッグもこっちを標準に捉えている。どう逃げる気だろう。


 そんな事を考えていると、2人とも熟練のパートナーの様な、バッチリと息の合った連携を見せ、あっという間にジ・アークから距離を取ってしまった。オルグなんて、僕の機体抱えたままですよ。


『君はとにかく、身体が動くようになるまで休め。というか、整えるんだ。先ずは呼吸をーー』


「分かってる。そのへんはちゃんと、習ったから。ふぅ……」


『ん、そうか。それなら、後は任せろ』


 ゆっくりと深呼吸し、腹式呼吸も混ぜつつ肺に酸素をしっかりと送り込む。

 バクバクする心臓の音も静かになり、息苦しさも減っていく。これなら、後は自分でも何とか……と思ったけれど、どのみちシナプスのエネルギーが切れる間近だから、担がれるのは変わらずだよ。


 そして、助けられなかったという思いも、また少しずつ湧いてくるよ。


「……ジャン君。皆……」


『コノエ。あまり深く考えるな。今回の事には、どうにも負に落ちない事が沢山ある。流石の俺も、動かざるを得ない』


 確かにそうだ。


 シナプスを誘い出すにしても、戦争をまた起こさせようとするにしても、何でクレナイ達、ジャンク・ルックアレードを狙ったんだろう?


『それですが……軍の機密に関わるので、あの時君には伏せていた。確認するにしても、どちらも危険に晒せれる可能性があって言い出せなかったが……まさか君が、ジャンク・ルックアレードに身を寄せていたとは。ここ最近、おかしなビースト・ユニットの残骸を見つけなかったか?』


「え、あ〜はい」


 ジ・アークからの砲撃と、アルツェイトの部隊からの射撃を避けつつ、更に距離を取りながらオルグが確認してくる。

 そういえば直近で、翼の様なものが付いていたかもしれない、謎のビースト・ユニットを見つけたっけ。ただ、パイロットも乗っていなかったし、墜落や撃墜からだいぶ時間が経っていたと思っていたけれど……。


『それなんだ。原因は』


「な、なんで……?!」


『あの機体に使われていた技術は、ミルディアで極秘開発していた機体技術であり、どこから情報が流出したのか、アルツェイトでも、その技術を使用した機体実験が行われるようになった。あの機体に、パイロットの死骸はなかっただろう? その痕跡も』


「確かに。それは疑問に思っていたんだけれど……」


『実は、君達が見つけたあの機体は、2年前のミルディアとイナンアの戦いで初めて使われた、テールプラグレプリカとダミー・DEEPシステムを使ったもので、更にアルツェイトは、そこにAI技術も登用して開発したものだったんだ』


「……なっ?! それって、つまり……」


『これが実戦導入されれば、兵の犠牲なく戦争を起こせる。しかも、例のPNDの天使部隊や、シャイン中将の駆る、強力なリッヒ・ヴァイツァーをも、数の暴力で叩き落とすという戦法も使える』


 それは上の奴等からしたら、もう戦争というより、ただの盤上での遊戯に早変わりしてしまう。

 国民の犠牲なんて何とも思わず、お金と資源さえあれば、好きな様に戦争を起こせる。そして、武器やら機体のパーツ等も価値が上がるし、飛ぶように売れる。なんて事を……。


「あぁ、僕達がそれを見つけて、部品やら何やら回収しちゃったから……」


『更に売り飛ばしたからな。そこから足がついたようだ。流石に、軍を抜けて長いガイナバさんでも、ここまでは読めないでしょう。その中で、貴重なエネルギー装置だけじゃない、重要なシステムデータが保存された、МHМDも抜き取っただろう?』


『…………』


 ガイナバさんがまた黙っちゃった。というか、ちょっと待って……。


「МHМD? いや、システム面は触っていないよ。だって、もうその部分には何も無かったから」


 クレナイ曰く、それも残っていたら、軍と関係している者にでも流して、もっと稼げたって言っていたけれど、無かったんだよ。それはね。


『何だと?! ちょっと待て、となると……それは誤報か? いや、だが……既に何者かが先回りして、回収していったのか? 誰が? 何のために?』


 何てオルグがブツブツ言いながら考え事をしていると……。


『オルグ!! 警告音だ! 崖の上に何か居るぞ!』


『なっ?!』


 けたたましい警告音の後、ガイナバさんが叫び、僕達は上を見上げた。


 するとそこには、大きな二足歩行タイプのドラゴン型の機体が、その巨躯を晒していた。

 ただ、逆光で全体はよく見えない。肩にある何かが動いて、大きな砲門が見える様な……しかもこちらに向け、標準を合わせている? 何か、エネルギーも溜めていないか、アレ。やばい!


『何者だ!』


『くっ、これは……? 圧縮荷電粒子砲?! いや、それ以上のエネルギーだ!! 何だ、アレは?! こんなもの、避けられるのか? いや、無理だ。オルグ!! とにかくフルバーストで、彼女だけでも!』


 すると今度は、そのドラゴンみたいな機体から、声が聞こえてくる。


 か細い声、聞き覚えのある声が……。


『こうた……こうたは、いいね。そんなからだで。そんな機体にも乗れて。羨ましいなぁ。お姉ちゃん、羨ましいなぁ』


「…………っ!!!!」


 え? な、んで……なんで……。


 だけど、こっちが返事をする前に、向こうはその砲門からバリバリと音を響かせ、強力な電子と磁力を纏ったエネルギー砲を、僕達に向かって容赦なく撃ち放ってくる。


 僕は、シナプスの残ったエネルギーで、咄嗟にオルグを機体ごと思い切り足蹴にして、ガイナバさんの機体も尻尾で包み、オルグの方へと向かって、思い切り放り投げた。


「行って! オルグ!!」


 オルグの機体の速さなら、ガイナバさんの機体を持っていても、超高速で移動出来る。ただ、シナプスを抱えていたらだめだ。逃げ切れない。だからこうしたんだ。


 咄嗟に、こうした。覚悟したわけでもない、ただ瞬間的にこういう行動をした。


『コノエ〜〜!!!!』


 そう、オルグが叫ぶ。だけど、もう遅かった。

 だからオルグは、背中のブースターの出力を最大限に上げ、超スピードで離れて行く。


 分かってくれた。だって、クレナイもいるんだよ。流石にこれは、クレナイでも死ぬ。もちろん、僕も。


 でも、仕方ないよね。絆奈、お姉ちゃん。


 ごめんね、シナプス。こんな、終わらせ方で。


「おねえ、ちゃん……」


 それから、眩い光に包まれ、強い衝撃と一緒に僕の意識はプツリと途絶えた。

ジャンク・ルックアレードが狙われた理由。謎の機体は、その前に誰かが来ていた。様々な疑問が浮上する中で、コノエの姉まで現れ、シナプスごと砲撃してくる。


この最悪な戦いの行方は?


次回 「21 2人の男と2つの思い」

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