18 新たな死神
甘さを捨て、ジ・アークの機体を次々と倒していくコノエは、レイラをも圧倒し、その実力を見せつけていく。しかし、戦火は広がり激化していく。
ジ・アークから出撃してきたビースト・ユニットの部隊は、僕の攻撃で放電しながら爆破し、その場で崩れ落ちる。もちろん、中のパイロットも死んでいるだろう。
うん。この手の嫌な感触はある。だけど、それ以上に怒りが勝っている。静かに燃える青い炎の様に、僕の心には冷たい怒りが広がっている。
「うん。シナプス。行こうか、この場面は打開出来る。あぁ、もっと早くこうしていれば良かったよ」
そして僕は、倒れて動けなくなったレイラの機体の両手両足を撃ち抜いて爆破させ、完全に戦えなくした。
このシステムは、まだ稼働出来る。僕にとって、今のあなたは脅威じゃない。
『うぐっ!! コノ、エ……ぁぁ、ああああ!!』
すると、レイラが苦しむようなうめき声を上げ始めた。
やっぱり、何かしらの処置でそんな風になっているんだ。そして、抗っているんだ。ただ、相当強力みたいだね、あんなにも強いレイラがこうなっているんだもん。
本当に何が目的なのか……一部分かっていても、それだけじゃないと思えてくる。
残りはジ・アークと、そしてーー
『コノエ=イーリア!!!!』
「君だね、サーリャ」
ガイナバさんを掻い潜り、遂に僕の近くまでやって来た。それまでにレイラを戦闘不能に出来たから、残る脅威となり得るのは君だけ……何だけれど、ジ・アークから嫌な感覚が漂っている。隠し玉がありそう。何だかんだで、バルドザックを倒してはいない。警戒しておかないと。
『くっ!!』
「そして、君一人の力では僕に及ばないよ」
『うるさいうるさいうるさい!! うるさいわよ!! そもそも、その機体は私のだって言っているでしょ! 勝手に改造までされて、納得なんか出来るわけないでしょう!!』
「それもそうだね。ただ、今の僕は虫の居所が悪いんだから、もうちょっと気をつけないとね」
『なっ……!!!!』
ほんとう、不用心過ぎる。それとも、絶対に倒せるって自信でもあったのかな? 相手のレーザーブレードを、シナプスの腕に装着されているレーザーダガーで受け止め、軽く振り払う。それだけで、相手の機体は下半身と上半身が生き別れになった。
機体のレベルもだけれど、パイロットとしてのレベルも違う。
だって僕は……。
「つぅ!! いった……うぅ」
ただ、完全には思い出せない。毎回酷い頭痛に襲われるんだから、たまったものじゃない。今は戦闘に集中しないとね。
燃える業火の中、苦しんで死んでいったあの子達の、その苦しみの全てとは言わないけれど、半分だけでも、苦しんで貰わないと。
「ふぅ……さて、と」
そして僕は、その場で倒れ伏したサーリャの機体に、レーザーライフルを突きつける。コクピットは外している。ただ、脱出装置を半壊させた。上手く起動させられないから、脱出もままならない。
『はぁ、はぁ……いや、いやだ。嫌だ、止めて死にたくない。助けーー』
「それ、そっくりそのまま、あの子達も言っていたと思うよ。分かる? 君達は、そんな感情になっている人達を、情け容赦なく燃やし尽くしたんだ」
『あ、あぁ……ご、ごめんな……』
「そんなので許されるの?」
『ひっ……』
あぁ。やっぱり、戦争に加担する意識が低いね。たったこれだけで。この死の恐怖の前に、戦意が削がれている。
君にとって、ビースト・ユニットに乗るって何なの? だって、君も一度死んでいるはず。死の恐怖を分かっているはず。それなのに、何で……?
彼女の反応に何かが引っかかる。
「君には、分かっているはずだよね。その恐怖がさ、死の恐怖が」
『あ、あぁ……ぁぁ……わた、し……私は……』
その時、彼女のコクピット付近に鋭利な刃物が飛び出し、彼女ごと貫いた。
「なっ?!」
そして、それは真っ直ぐに僕の機体にまで伸びてきた。
「あっ……ぶない! サーリャ!!」
ギリギリで避けられた。よく見たら、それは長い鎌の刃だった。
『あぁ、やれやれ。やはり、失敗作ですねぇ。没落王家の娘か何か知りませんが。親に売られた身としては、何としてもと思っていたのでしょう。結果、これですか? それならもう、処分しなくてはねぇ』
『がほっ……い、いや、いや……だ。お父さん……お母さ……』
『生きたままケモナーにする施術。感情の制御がままなりませんねぇ、何ともプライドの高い。もういいです、さようなら』
後ろから貫かれた彼女の機体は、バチバチと火花をたて、刃が引き抜かれたと同時に爆発しバラバラになった。
「…………」
生きたまま、ケモナー施術? そんな事が、そんなものが出来るの?
ケモナー施術は相当な負荷がかかる。だから、死んだ者にしか出来ないはず。生きた者が耐えられるわけがない。それこそ、拷問の方がまだマシなレベルだ。
もしかして、アルツェイト王家の一部では、そういう事もしていたのか? ジラーク家は拷問が得意だった。そうなると、生きたままのケモナー施術とやらを、拷問の一部として捉え、採用した?
ヤバい、吐き気がする。
そして声の主の方は、当然バルドザック。だけど、相手の機体が……。
『ふふふふ。そろそろ私の本領発揮といきましょうか』
死神の様な風貌で、骸骨の様な顔立ちの機体だ。それに、身体は二足タイプのヒト型で、シャープな形をしている。関節部が球体の様なもので繋がっているのも気になる。
ただの機体じゃない。新型だ。
『さて、どこまでやれますかねぇ。デス・ギア・ユニット』
「…………」
ギア・シリーズは、ミルディアが手掛けていたっけ。新たに総督になった、ギルムって人が手掛けていた会社が作っていたような。傭兵とかにも使われていて、エネルギーの消費が少ないのが特徴だ。
それと、アルツェイトのユニット・シリーズを掛け合わしたか。
アルツェイトのユニット機体は高火力が多く、連携用の武装も多い。つまり、高火力と省エネルギーを実現させたってわけか。
すると、目の前のバルドザックの機体が突然景色に溶け始め、その姿をくらました。
「迷彩……?! あっ、まさか2年前の!!」
死神の様な機体なら覚えがあった。
アルツェイトにいた時に、ゲリラの工場に探りを入れた時に見た。その時に回収された機体だ。
『そういえば居ましたね〜あなたとの縁は、割とありましたね。いやはや、こんな方がずっと生き残り、私の前に立ちはだかるとは……本当にーー』
うんざりしたような口調で話すバルドザックに、僕もちょっとだけイラっとするけれど、その後に放たれた殺気で、辺りを警戒していた僕の頭に、死の恐怖が、自分が殺される映像が浮かんでしまった。
『ーー虫酸が走る』
「うっ……!!!!」
そして、後ろからシナプスの右肩を貫かれ、反撃に転じようとする間もなく、左腕をビーム砲で爆破されてしまった。
「……ぁぁああ!!!!」
『どうしました? その程度ですか? あぁ、もちろん直ぐには殺さないですよぉ。その悲鳴、その苦痛に耐える声、その痛みを感じている息遣い。何もかもが、私の耳から脳髄に至るまで、甘美な響きとして伝えてくれる。もっと、響かせて下さいよぉ〜』
気持ち悪いとか、そういうレベルじゃない。こいつの、この残虐性に、加虐体質に……嫌気とかいうものじゃない、異質なものへの嫌悪感が出てくる。
「この……イカレ、殺人者。お前は、傭兵でも何でもない!」
『あっはははは。言いますね〜それで? ここからどうするのですか? 対抗手段等はーー』
それは、まだある。
「忘れているね、ケモノの特徴を!!」
そして僕は、尻尾をグルリと相手の背後に回し、その先から照準を絞ったショットガンを撃ち放つ。
『おぉ!? いけないいけない。そういえば、尾がありましたねぇ』
相手は急いで距離を取って、僕の攻撃を回避した。鎌も外されたけれど、また姿を消したよ。
『ふふ。ですが、その尾一本で何が出来るのでしょう?』
そんな声と同時に、上空から光のレーザーが飛び交った。
PNDの部隊だ。ジ・アークの部隊は片付いたって事かな? いや……ジ・アークはかなり上空にいる。何をする気なんだ?
『さてさて。それでは、ショータイムといきましょうか』
そうバルドザックが言うと、ジ・アークの全ての砲門が開き、その銃口が一斉に下を向いた。それと同時に、艦首も上下に開いていき、巨大な砲門も姿を見せる。
アレまで撃つ気? そんな事をしたら、この辺り一帯はもう……止めるしか無い。あの死神と、ジ・アークも。両腕が動かなくても、この尾だけでも!!
最凶死神が新たな機体で現れ、あっという間に状況をひっくり返していく。そしてジ・アークもまた、最悪の手段に打って出た。
次回 「19 白馬の王子?」




