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魔術師の気持ち

酒の席で自分語りや愚痴を聞かされるのって辛いよね。

-魔術師の過去-


マリーさん、トワイライトさん、そして僕は『歌う大釜亭』の酒場にやって来ました。

トワイライトさんに迷惑をかけてしまったお詫びとして、マリーさんがおごることになったのです。

お酒の入ったトワイライトさんは、早速自分語りを始めました。

「私はさあ、北方王国と帝国の国境に近い村に生まれたんだよね」

「ほうほう」と頷いているのは、僕です。

「子どもの頃から魔法が得意で、故郷の村では『魔術の天才』『奇跡の子』と言われて期待されてたんだよね」

「なるほど」

「正直、私自身、自分のことを天才だと思ってた。将来は魔法都市で大魔術師として要職に迎えられて、何不自由ない生活ができると思ってた」

「ふむふむ」

と、ずっと聞き手に回っている僕。正直、辛い。

マリーさんも何かリアクションしてくださいよ〜!

トワイライトさんは、蜂蜜酒を一気飲みして話し続けます。

「まあ、そレはそれとして、私の村ってひどいんだよ。子どもにまともな名前がつかないの。私なんて『斜向かいのカンナ』だよ?カンナって、3番目に生まれた女の子って意味なんだ。先に生まれた子からアルファベット順に花の名前がつけられていくの。アネモネ、バジル、カンナ、デイジーってな感じで。花の名前だよ?ダサくない?」

「いえいえ、花の名前も可愛いですよ。マリーさんだって花の名前ですよね?」

と返しながらマリーさんの方を「チラリ」と見ると…。


「こっくり、こっくり…」


マリーさん、寝そうになってる…。

愚痴の相手を僕一人に任せて寝るなんて、ずるい。

「マリーさん、寝ないでください!よだれ垂れてますよ!」

「ん…、寝てないよ、聞いてるよ」

それを見たトワイライトさん、ちょっとイラッと来たようです。マリーさんに向けてきつい一言を放ちます。

「ほんと、あんたっていい性格してるよね!」

「…褒められるほどでも」

「褒めてないんだけど…。キミも、よくこんな人の彼氏やってるね」

「いえ、僕とマリーさんは、そういう関係では…」

否定しながらも、内心少し照れ臭いです。

ワインをグラスに注いで、ぐいっと飲み干すトワイライトさん。

彼女の機嫌を損ねないためにも、なんとかうまく切り抜けなければ。

「僕の故郷も、名前については同じようなものですよ。『4軒東の家の次男』とか」

「あー、そうなの?いやだよね、そういうの!」

「そうですね。こうやって旅に出ても、あまり名乗りたくないですね」

「わかる〜!私も魔術師ギルドに入った時に、名前変えちゃったもん!トワイライトって名前、魔術師っぽくて、カッコいいでしょ?」

「そうですね、いかにも魔術師って感じがします!」

「この髪の毛も、ギルドに入った後に紫に染めたんだよ!もちろん魔法で!」

「あ、なんか神秘的でいいですね、紫って…」

ワインをグラスに注いで、ちびちび飲むトワイライトさん。

「それでさあ、私、12歳の時に村を出て、北方王国の魔法都市にある魔術学校に入学したんだよね」

「ほう、そんな学校があるんですね」

「世界でも珍しい学校なんだよ!村では魔法の天才と言われていた私、当時は調子に乗っていて、学校でもトップになれると思い上がっていた」

「ダメだったんですか」

「もうね、上には上がいるって事を思い知らされたよ…。成績は中のやや上。当然、魔法都市の要職なんて夢のまた夢。結局、魔術師ギルドに入って帝都に来ることになっちゃった」

「それはお気の毒に…」

重い話だなあ…。「マリーさん、助けてくださいよ」と目で合図を送ろうとしたら。


「すぅー、すぅー」


寝てる…。

「つんつん」と軽くつつくと「んあっ」って感じで目を覚ましたマリーさん。

「…はばかりながら、おしっこに」

席を立って外に出て行ってしまいました…。


「ほんと、くっそムカつく女だなあ!」

怒れるトワイライトさん。

再び蜂蜜酒を一気飲みしています。

「いえいえ、ああ見てても、意外と良いところがあるんですよ」

「どこが〜!」

瓶に残ったワインを口に差し込んで一気飲みするトワイライトさん。

「あまり飲みすぎない方がいいですよ!」

「大丈夫、大丈夫!あの女のおごりなんだから!」

「そういう意味ではなくて…、翌朝的な…」

彼女は空になったグラスをテーブルにドンと置き、大声で「ワインもう一本追加〜!」。


しばく沈黙が続き、それを破ったのは陽気な「お待たせしました〜」の声。

声のする方向を見ると、マリーさんがワイン瓶を持って立っていました。

「ほい、注文のワイン。私は、あっちのテーブルでゲームやってくる!少年、トワちゃんのお相手よろしくね!」

「え、ええ…」

ちょっとマリーさん、ひどくないですか…?

「誰がトワちゃんだっての!馴れ馴れしい!」

そう言われて言い返せない僕がいました…。

向こうのテーブルでは、マリーさんが男たちに混ざってゲームを始めています。


「私も混ぜて〜!」

「おう、二日酔いの姉ちゃんじゃねえか!」

「いくら賭ける?」

「銅貨5枚!」

「いや、太っ腹だねえ!」


僕のテーブルは、気まずい沈黙が続いています。

正直、僕もマリーさんのいるテーブルに行きたい…。

しかし、なんとかトワイライトさんのご機嫌を取らなければ。

「ワイン、お注ぎしますね」

「ああ、本当にキミって良い男だね。あの女には、もったいない!」

グラス一杯になったワインを、グイッと飲み込むトワイライトさん。

僕も自分でグラスに注いで飲んで、これからの戦いに備えます…。


「でさあ、帝都の魔術師ギルドに配属されたわけよ。ちょうど私がキミくらいの年齢の時だったね。今から5年くらい前」

「ふむふむ。…って、あれ?5年前って」

「そう!『魔神の妃』が帝都の宮殿に居座って、大変だった時だよ!…私も、あれ、見ちゃったんだよね。トルバドール」

「まじですか…」


マリーさんの方向をチラッと見ると…。

「銅貨20枚ゲット〜!」

「すごいぞ、二日酔いの姉ちゃん、3連勝だ!」

「なんて運のいいやつなんだ!」

なんか良い感じで勝ちまくっています。

トワイライトさんがトルバドールの話を始めたけど、いいんですか〜?


「まあ、わたしゃ、吟遊詩人なんて嫌いなんだよ。あんたの彼女も、トルバドールも、気に入らない」

「………」

「トルバドールは最近、この辺りをウロついているというし、見つけたら、とっちめてやる!」

「は、はあ、そうですか」

「魔術師ギルドの本部が帝都からここに移った理由、知ってる?」

「いえ、詳しくは…」

「表向きは『5年前の戦いの被害の影響』って言われてるけど、実は『トルバドールの活躍した都市に本部を置けるか!』ってのが理由らしいよ」

「そ、そうなんですか」

「魔法都市も躍起になって、トルバドールを超える魔法剣士を生み出したって言われているし。知ってる、ブライアローズのこと」

「いや、知らないですね」

「彼すごいらしいよ。魔法を使わせても剣を使わせても一流で、しかも超絶イケメンなんだって!」

「まじですか」

「まあ、魔法都市がムキになるのも分かるんだよね…」

突然、トワイライトさんは僕の近くに寄って来て、小声で話始めました。

「あんた知ってる?これ極秘事項だから本当は話ちゃいけないんだけど…」

「ええ〜!そんな話ここでして良いんですか?」

「『魔神の妃』の防御結界知ってる?」

「まあ、うわさ程度には…」

「あれね、魔術師ギルドでは『絶対防壁』って呼ばれてるの。なんでか分かる?人間には絶対に貫通できないから、なんだよ」

「え?本当ですか?」

「『魔神』が現れてから1000年。魔術も武具も格段に進歩して、今では『魔神』だろうが『魔神の妃』だろうが、倒せるはずだと誰もが信じていた」

「は、はあ…」

「でもなあ、これが全く通用しなかったんだなあ!『絶対防壁』は、人間が何をどうやっても歯が立たなかったの!信じられる?」

「え、ええ…」


ここでマリーさんが気になって見てみると…。

「銅貨30枚ゲット!」

「すごいぞ、二日酔いの姉ちゃん、3人抜きだ!」

「勝利の女神だな、こりゃ」

「女神というには、くたびれているがな(笑)」

なんだか良い感じで馴染んでいます…。


トワイライトさんは、ノリノリで話し続けます。

「もっと信じられないことに、トルバドールの『アリアの歌う剣』は『絶対防壁』を、たった一撃で貫いて『魔神の妃』の心臓を捉えたんだよ!武器も魔法も全く通じなかった相手を、一撃だよ?そりゃないでしょ!」

「そ、そうですね…」

「極め付けは戦いが終わった後だよ。『魔神の妃』を倒したトルバドールは、宮殿の塔に立って、青い姿に変わって、ライラを奏でたの。その音は帝都全体に響き渡り、音の届く範囲にいる全ての人間の傷が癒えて、元気になっちゃった!これ、今でも口外禁止な極秘事項だけどね。私は実際にこの目で見たんだよ!」

「え?そんなことが…」

トワイライトさんは、ドンとテーブルを叩いて、怒りながらぶち撒けます。


「あいつ、一人で全部やりやがった!神様のつもりか?…おいおい、私たち魔術師や、騎士団や兵士たちは、なんのためにいたんだよ?存在自体が無駄だったのかよ?」


トワイライトさんの無念の気持ちは痛いほど分かるため、僕には何もかける言葉が見つかりませんでした。

するとそこへ…。


「トルバドールは神でもなければ、全能でもない。あなたと同じ人間だよ。感情もあれば弱点もある。彼が勝てたのは、魔術師や騎士団や兵士たちの助けがあったからだよ」


いつの間にか、マリーさんが帰ってきて、トワイライトさんの隣に立っていました。

「お、お前…」

「ま、マリーさん…」

マリーさんはトワイライトさんの肩をポンと叩きます。

「…なんてね!トルバドールがこの場にいたら、トワちゃんにこんなことを言ったんじゃないかな?」

「ふん、お前に言われても嬉しくないよ…」

トワイライトさんの表情が、急に穏やかになりました。

「マリーさんも、たまには良いこと言うんですね」

「いつも良いことしか言ってないだろ?何しろ私の子ども時代のあだ名は『名言製造器のマリーちゃん』だからね!」



-歌姫-


マリーさんのおかげで、何とか場の雰囲気を壊さずに済みました。

これでやっと3人で飲めるぞ!と思ったら。

店長さんが、こっそりと、マリーさんの後ろに忍び寄っていました。


「マリーちゃん、すまないんだけど、また舞台に出てくれないかな?客が『マリーちゃんを出せ』とうるさいんだよ…。お代は、はずむから」

「あ、いいですよ。任せてください!」


店の奥に入っていくマリーさん。

トワイライトさんはブスーっとして。

「あいつ、酒場の舞台なんか立つの?何か芸でもやるの?」

「ええと、昨日は踊りを…」

「ふーん、まあ、吟遊詩人なんて芸人みたいなものだからなあ」


しかしマリーさん、吟遊詩人やトルバドールのことをあれだけ悪く言われたというのに、全く気にしないどころか、見事なフォローでした。

彼女の器の大きさに改めて感心するばかりです。

そんなことを考えていると、後ろから囁き声が。


「少年、舞台に行ってくるから、後はよろしくね!」


声のする方向を向くと、そこにはリップを塗った、マリーさん?

胸元が開いた赤いドレスにチョーカー、髪は後ろで結んで束ねて、うなじがチラチラ見え隠れ!

マリーさんのうなじ!胸元!見えて…見えちゃって…。


「ブッ!」

「おい、お前、鼻血出てるぞ!」

「トワちゃん、少年の看病をよろしくね!」


舞台に立ったマリーさん。

「みんな、こんばんは!マリーです!1日ぶりだね!元気にしてた?」

酒場全体が湧き上がります。

「おおおマリーちゃん!」

「待ってたよー!」

「今までどこにいたの?」

「会いたかった!」

「かわいい!」

「最高だよ!」

そして拍手喝采。パチパチパチ!


それを眺める、僕とトワイライトさん。

「ふーん、あいつ、うまく化けるものだねえ。あざとい、あざとい」

「ほ、ほうでふね」

「お前さあ、こんな感じで鼻血出してたら、身体持たないだろ」

「大丈夫、こう言う時のための『癒しの手』です」


マリーさんはリュートを抱えました。

「今日は踊りではなくて、リュートを弾き語りします!まずは若き女性魔術師サンセットの物語!」

それを聞いて、つーんとした表情のトワイライトさん。

「ふーん、若い女の魔術師ねえ」

「まるでトワイライトさんみたいですね」


「場所は帝国と北方王国の国境近くの村。

彼女の名前は『斜向かいのカンナ』。

その村では女の子に名前に花の名前をつける習慣があった。

生まれた順に、アネモネ、バジル、カンナ、デイジー。

彼女は三女だからカンナ。

だが彼女は自分の名前が気に入らなかった。

『花の名前なんてダサいわ!』

村で一番の魔法の使い手と自負する彼女は、花の名前が気に入らなかった。

もっと魔術師らしい名前が欲しいと思っていた」


んー?

これって、まさか、トワイライトさんの身の上話そのまま?

丸パクリ?

というか寝ているフリして聞いてたの?


「勝手に人の話をパクりやがって…!」

トワイライトさんがワイン瓶(中身の入ったまま)を手に取って、マリーさんに向けて投げつけようとします。

「ダメですよ、トワイライトさん!お酒を粗末にすると、マリーさん怒りますよ!怖いんですよ!」

僕は彼女を止めようとしましたが、間に合わず、瓶は宙を飛んで舞台へ。

「パシッ!」

マリーさんは瓶を見事にキャッチ。

「差し入れ、ありがとう!」

瓶の栓を「ポン」と抜くと、彼女はごくごくと飲んで、近くのテーブルに置きました。


「ほら、酒場では誰もマリーさんに敵いませんよ!」

「ぐぬぬぬ…」

必死にトワイライトさんを抑える僕。


「彼女は12歳で村を出て、北方王国の魔法都市にある魔術学校に入学した。

『天才の私なら、魔術学校をトップで卒業できるに違いない』

そんな自惚れた考えは、見事に打ち砕かれることになった。

『井の中の蛙大海を知らず』

その言葉の意味を、彼女は身をもって知ることになるのだ。

村一番の天才が、魔術学校では平凡な生徒。

魔術学校を卒業した後は、魔法都市の要職について一生を安泰に過ごす…そんな人生設計も狂い始めることになった。

卒業した彼女は魔術師ギルドに入会し、名前を魔術師らしい名前『サンセット』にあらためた。

髪の色も魔法で赤に染め直した。

程なくして帝都に配属されることになったサンセット。

それは今から5年前。

そう『魔神の妃』が帝都王宮を占拠した事件の、その年だ。

はからずしてサンセットはトルバドールと『魔神の妃』の戦いを間近で目撃することになってしまった。

その戦いについては語るべきことは多くない。

『アリアの歌う剣』の切先が『魔神の妃』を貫き、戦いは終わった。

サンセットは自分が無力であったことを嘆き悲しんだ。

しかしトルバドールは、サンセットたち魔術師が無用だったとは決して思っていない。

彼ら彼女らが帝都の要所要所で民を守り導いていなければ、トルバドールは戦えなかっただろう。

騎士たち兵士たちが宮殿で皆を守っていなければ、トルバドールは勝てなかっただろう。

トルバドールは一人の力で『魔神の妃』に勝ったのではない。

魔術師ギルドが積み重ねた魔術の歴史は無駄ではない。

サンセットの努力も無駄ではない。

皆、胸を張って良い。

我々の流した血と汗は無駄ではなかったと」


ここでリュートの演奏は終わりました。

「パチパチパチパチ」

「いい話だなあ」

「感動した!」

「サンセットって誰だよ」

「具体的に魔術師は何をしていたんだ?」

「マリーちゃんかわいい」

「結婚してくれ!」

評判は、まずまずのようです。

しかし、なんというか、マリーさん、ずっと寝たりゲームやったりしてたのに、トワイライトさんの話を最初から最後まで漏らさず聞いていたって…。

「すごい」を通り越して、なんか「こわい」のですが!



-二人の歌-


「あいつ…人の話を丸パクリしたくせに、最後はいい感じでまとめちゃって…」

一時はどうなることかと思いましたが、トワイライトさんの怒りはなんとか収まりました。

マリーさんはトワイライトさんが「差し入れた」ワインを再び口にして喉を潤しました。


「次は…そこの魔術師のお姉さんにも舞台に出てもらいましょう!」

突然指名されたトワイライトさんが「なにー!?」と叫びます。

マリーさんはお構いなしに、舞台を立って、観客を掻き分けてトワイライトさんの元へやってきます。


「トワちゃん、一緒に歌おう!スッキリするよ!」


手を差し伸べるマリーさん。

トワイライトさんは顔を赤くして。

「わ、私が歌なんて歌えるはずないでしょ!」

「大丈夫!私に任せて!」

と、無理やり手を握って舞台に引っ張っていきます。


余談ですが、目の前をマリーさんが通ったことで、観客はちょっとした騒ぎに…。

「マリーちゃん、いい匂い」

「こんな近くで拝めるとは」

「結婚して、まじで!」

「胸元…!」

「脇の下…!」

「うなじ…!」

中には鼻血を流して倒れる客もいました。

僕も人のこと言えませんが…。


さて舞台に上がった二人。

トワイライトさんは、恥ずかしがりながらお辞儀をして。

「初めまして、魔術師のトワイライトです。特に歌は歌えないのですが、なんか無理やり連れてこられました」

観客は特にお構いなしといった感じで、新しい歌い手を迎えます。

「おう、紫の姉ちゃん、頑張れよ」

「歌は心だ、技術じゃないぞ!」

「かわいい」

「付き合ってくれ〜!」

などという叫び声が酒場に響く中、マリーさんがリュートを弾き始めました。


「それじゃあ、次はトワイライトさんの故郷に伝わる民謡『故郷の夕暮れ』を」

トワイライトさんが小声で「え?どうすればいいの?」と聞くと、マリーさんは「大丈夫、私に合わせて」と演奏を進めます。


「想い出すは故郷の空

赤く染める夕暮れ

小麦畑も真っ赤に染まり

羊たちは眠りにつく

父さん母さんは元気だろうか

きょうだいたちは元気だろうか

遥か彼方に来た今も

私の心は故郷の空とともに

故郷の夕暮れとともに」


マリーさんのリュートと歌に合わせて、トワイライトさんも歌います。

とても初めてのデュエットとは思えないほど、息が合っています。

これがトルバドールの力なのか、マリーさんのリードなのか、二人の心が通いあった結果なのか、僕には判断がつきません。

ただ、酒場の観客への効果は絶大だったようで、皆涙を流しています。


「パチパチパチパチパチ!」

「良かったぞ、紫の姉ちゃん!」

「うまいじゃねえか!」

「マリーちゃん最高!」

「結婚してくれ〜!」

と、大絶賛。拍手喝采。


トワイライトさんも興奮した様子で観客に手を振っています。

「わ、私、こんな体験初めて!歌うって、こんなに気持ち良かったんだ!」

「ふふ、スッキリしたでしょ?トワちゃん、うまかったよ!」

マリーさんは右手をトワイライトさんに伸ばし、二人はガッシリと握手しました。


一時は本当にどうなることかと思いましたが、まさに「終わりよければすべてよし」。

マリーさんの底知れぬ力に感服しました。

いや、むしろ怖いような気もしますが。

次回はもう一人の吟遊詩人が登場。

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