後編「料理」
そして、次の週末の午後。
「ここでニンニクを加えるのがポイントね。ほら、これくらい。ほんの少し」
「あっ、ニンニクなんて入ってたんですか! 気づかなかった……。そうですよね、隠れてるからこそ、隠し味。気づかなくて当たり前か……」
「うーん、この場合は隠し味というより、臭みを消すため、という感じかな? だから隠し味にすらならない分量で……」
いつものヒヨコ柄のエプロンをつけた母と、初めて見るエプロン姿の竜司。茶色のチェック模様で、彼が家から持参してきたものだ。
仲良く並んで料理している様子を、私はキッチンのテーブルから、ボーッと眺めていた。
母はキャッキャッと嬉しそうだし、竜司も楽しそうだ。親しく寄り添う二人に対して、彼の交際相手である私は、嫉妬するべきなのかもしれないが……。
不思議と、そんな気持ちは湧いてこなかった。二人の良い雰囲気を、むしろ微笑ましく見守ってしまう。
二人並んだ後ろ姿はピッタリはまった感じがあり、私の心の中でも妙にしっくりきていた。
「いっそママと竜司がくっついちゃえばいいのに」
二人には聞こえない程度の小声で、ボソッと呟く私。
それは無意識のうちに出た言葉であり、私自身、驚いてしまう。
同時に。
ようやく一つの真実を悟ったような気にもなっていた。
竜司に対する、私の本当の気持ち。以前にニックネームを決めようとして、『お父さん』と呼びたくなった理由。
「ああ、そうか。私、パパが欲しかったのか……」
幸い私と竜司は、付き合っているとはいえ、唇と唇が触れ合う程度のキスまで、という関係だから……。
今なら、まだ間に合うかな?
(「私のカレはお父さん」完)




