ボール
僕達野球のボールはいつも校庭の奥にある道具倉庫入れに部活が始まるまでしまわれている。そして部活が始まる時間が近付いてくると皆ソワソワし始めてあちらこちらから話し声が聞こえてくる。
僕もソワソワしてきた。だから隣のボールに話しかけてみた。
「そろそろ部活が始まるね……。」
「そうだけど、どうした?」
「僕、野球のボールなのに速いスピードで投げられるの苦手なんだ。」
「そうなのか。珍しいボールだな。俺達ボールは投げられてバットに打たれるのが宿命なのに。」
「そうなんだけど……。どうに思ったら楽かな?」
「う~ん、難しいな。速く投げられる事だけが苦手なのか?」
「うん。」
「それならノック専用のカゴがあるからその中に入ることが出来ればいいんじゃないか?」
「そっか、それなら軽く投げられるだけだからきっと怖くないよね。ありがとう。」
「どういたしまして。今日だけは我慢だけどな。」
「うん。我慢する。」
「がんばれよ。」
「うん。」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴りガヤガヤと騒がしい音が道具倉庫入れまで聞こえてきた。子供達が部活の準備を始めたみたいだ。だから道具倉庫入れの鍵も開き、ボールなどが運び出された。僕はやはりキャッチボールをする場所に置かれた。
キャッチボールが始まると僕の叫び声が今日も校庭に響いている。
「ギャァー、速いよー。」
「諦めろ!」
「そんなこと言ったて……。」
「今日だけの我慢だ。」
「っうう……。」
幸いなことに僕の叫び声は人間さん達には全く聞こえていないからあまり迷惑にはなっていないはず。
部活が終わると片付けのため僕達ボールはカゴの中にポンポンと入れられ道具倉庫入れにしまわれる。
「お疲れ。今日も叫び声が良く響いてた。おっ、ノック専用のカゴに入ることが出来たようだな。」
「うん。今日のキャッチボールをしてた子は初めて部活に来た子でしまう場所を間違えてくれたから明日から怖くない。」
「良かったな。」
「うん。」
僕はノック専用のカゴに入れてもう怖い思いをしなくていいと凄く安心していた。
―数日後―
部活が終わり道具倉庫入れの中で相談に乗ってくれたボールが僕に話しかけてくれた。
「もう怖くないだろ?」
「う、ん……。」
「どうした?」
「今度は網に勢いよく当たるから顔が痛い……。」
「そうか、諦めろ!」
「うん……。諦める。宿命からは逃げられないから。」
「そうだな。」
僕は怖さからは逃げられたけど痛さからは逃げられなかった。
「トホホ……。」
読んで頂きありがとうございました。